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(回答先: 北朝鮮の崩壊近しwww 投稿者 アメリカ言いなりでヤコブ病 日時 2006 年 10 月 25 日 02:32:35)
東京大学農学部公開セミナー
第29回
どこまで食糧増産は可能か?
(講演要旨集)
「『緑の革命』から学ぶもの」
農業・資源経済学専攻教授岩本純明
「耕地創生に向けて」
生物・環境工学専攻教授宮崎毅
「遺伝子組換え作物の可能性」
生産・環境生物学専攻教授大杉立
パネルディスカッション「食糧増産と農学の役割」
日時2005 年11 月26 日(土)13:30 〜 16:30
場所東京大学農学部弥生講堂一条ホール
主催東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部
共催(財)農学会
「緑の革命」から学ぶもの
農業・資源経済学専攻教授岩本純明
1. 略
マルサスが強調したように、経済発展とともに人口は急増しました。彼が『人口論』を刊行した頃( 1800年)の世界人口は9 億人でしたが、200 年後の2000 年には58 億人と6 倍以上に増えています。しかしながら少なくとも現在までのところ、マルサスの悲観的命題はそのままの形では実現していません。食料生産の水準も高い水準で増
加し続けたからです。肥料・農薬などをふんだんに利用する先進国の農業生産
力がこの間大きく発展したことは容易に予想されますが、食料事情の厳しかっ
た途上国でも、1960 年頃から穀物生産は大きな伸びを示しました。この背後
にある技術革新が、今日のテーマである「緑の革命」です。
2.「緑の革命」ー成果と要因ー
(1)1960年以降の穀物生産
図2(P.6)によると、世界の人口は1961 年(30 億人)から200 年(61 億
人)へと2 倍に増えました(年率1.7 %)。一方穀物生産量は、1961 年の約9
億トンから2000 年には20 億トンへ(年率2.1 %)と人口増加率を上回る伸
びを示しました。とりあえずは、マルサス的状況を回避できたのです。その結
果、1 人当り穀物生産量は1961 年の285 キログラムから2000 年の339 キログ
ラム(ピークは1985 年の377 キログラム)へと増大しました。またこの生産
量の増大が、主として単収(単位面積当りの収穫量)の伸びによってもたらさ
れたことが明らかです。この40 年間に単収は2 倍以上に上昇しているのです。
こうした単収上昇の背後には、この間に急進展した農業技術の革新があったの
です。
ところで注目すべき点は、1960 年代以降の穀物生産量の伸びが、先進国よ
りも途上国において、より顕著であったということです。図3(P.7)によると、
1961 年から2000 年にかけて、途上国の穀物生産は3 倍増を果たし、人口増加
率(2.3 倍)を大きく上回ったのです。その結果、人口1 人当り穀物生産量は、
189 キログラムの低水準から250 キログラムへと増加し、途上国の食料事情は
大幅に改善されました。
( 2)「緑の革命」の技術要素
途上国の穀物生産量の増大、とりわけ単収水準の大幅な引き上げは、まさに
「奇跡」ともいうべきものでした。この間の農業技術発展を「緑の革命」と呼
ぶのも肯けるところです。
「緑の革命」は、以下の技術要素から成り立っていました。すなわち、@高
収量品種(High Yielding Varieties, Modern Varieties)、A化学肥料増投、B農薬によ
る病害虫防除、C灌漑施設の整備(水のコントロール)、の4 要素です。以下、
具体的に説明しておきましょう。
「緑の革命」を先導したのが、小麦と稲の高収量品種の開発・普及でした。
小麦はメキシコシティに設置された「国際トウモロコシ・小麦改良センター
(CIMMYT)」で開発されました。日本の「農林10 号」とメキシコの在来種を
交配させ、草丈が低く肥料によく反応する高収量品種(メキシコ矮性小麦)が
開発されました。この高収量小麦は、まずはメキシコで急速に普及し、食料不
足国であったメキシコに大幅な食糧増産をもたらしました(小麦生産量は3
倍)。その後、このメキシコ矮性小麦は世界各地の現地品種と交配され、イン
ドやパキスタンの食料自給達成の原動力となったのです。メキシコ矮性小麦の
開発に貢献したボーローグ博士(Norman E. Borlaug)には、1970 年にノーベル
平和賞が授与されました。
稲でも画期的な品種が開発されました。フィリピンに設置された「国際稲研
究所(IRRI)」で、草丈が低く倒伏しにくい品種IR8(miracle rice)が1966 年
に育成されました。この品種は、試験圃場では1ヘクタール当り雨期に約6ト
ン、乾期では約9 トン(籾重)の収量が期待できるといわれました。当時の熱
帯アジアの平均籾収量は1ヘクタール当り1〜 1.5 トンと低水準にありました
から、新品種の収量がいかに高いものであったかがわかります。
IR8 は倒伏抵抗性を備えていたため、肥料を増頭するとそれが高単収に直結
しました。また感光性(日長が12 時間以下にならないと開花しない)の強い
在来品種と異なり、日長の長短を問わず一定の期間が過ぎると開花する性質を
もっていました。生育期間も在来種(180 日程度)よりも短く、125 〜 135 日
と短縮されました。非感光性と生育期間の短縮は、水稲作付の自由度を高め土
地利用率の向上をもたらしました(二期作・三期作)。単収の増大に土地利用
率の向上が結びついて、飛躍的な増収が実現したのです。
「緑の革命」による穀物生産の増加は、途上国、とりわけアジア諸国の食料
事情の改善に大きく貢献しました。インド・インドネシア・フィリピンなどで
は、念願の食料自給を達成することができたのです。また「緑の革命」の技術
は、労働集約的な要素をもっていましたから、その普及は追加的な労働投入を
要請することになり、農村過剰人口を吸収し所得分配の改善にも貢献したので
す。
以下略
3.第2の「緑の革命」は可能か?
「緑の革命」によって、マルサスの命題をこれまでは回避できてきました。
しかし今後はどうでしょうか。将来の食料需給をめぐっては、国際機関による
推計値が公表されています。予測しやすいのは需要の方なので、まずそれを見
ておきましょう。
食料需要の増加率は、人口増加率と1 人当り食料需要増加率の和で求められ
ます。
アメリカのある研究機関(IFPRI)は、世界の人口が1995 年から2020 年にか
けて、年率1.13%(先進国0.15%、途上国1.35%、アフリカ2.15%)で増加する
と予測しています。一方、1 人当り食料需要量は、所得上昇に伴う畜産物消費
の増加によって、その飼料となる穀物消費が飛躍的に増えることになります。
その結果世界の穀物需要は、1995 年の18 億トンから、2020 年には25 億へと増
加すると予測されます。またこの需要増加の85%が途上国で発生するとみられ
ています。
このように増加する穀物需要を満たすには、1995 年から2020 年にかけてさ
らに40%(年率1.32%)の穀物増産が必要になります。第2 の「緑の革命」が期
待される理由がここにあります。
以下略
耕地創生に向けて
生物・環境工学専攻 教 授 宮 崎 毅
1.略
2.世界の農耕地面積はどれくらいあるか
地球の広さはおよそ500 億ha である。そのうち149 億ha が陸地、残りは
海洋である。耕地15 億ha と牧草地35 億ha を足した約50 億ha が世界の農
私は、学生時代に農業土木学という分野を学び、その後、土壌物理学とい
う専門分野で研究をしてきた農学者です。農業土木学は、耕地を創生し、
それを整備する工学であり、土壌物理学はその基礎となる土壌の科学です。
長年この分野を担当してきて、最近、やっと両者が結びつくようになって
来ました。今回は、その話を中心にまとめてみたいと思います。
用地である。日本の水田やアメリカのスプリンクラーに見られるような灌漑農
業を実施しているのは約2.7 億ha に過ぎない。これらを砂漠面積36 億ha、
森林面積33 億ha と比較すると、人間が地球をどう扱っているかを大づかみに
することができる。
3.略
4.どこでなぜ減少しているのか。
世界では、農耕地の総面積はそれほどの変化が見られず、おおよそ15 億ha
を維持しているが、総人口が着実に増加しているので、当然、1 人当り耕地面
積は減少することになる。穀物作付面積で見ると、1950 年に5.9 億ha、1981
年に7.3 億ha でピークとなり、2001 年には6.7 億ha に減少した。一人当た
り穀物作付面積も、人口増加と穀物作付面積減少とにより、図のように急速に
減少している。穀物の収量不足を補うには単位面積あたりの収量を増加させることが考えられるが、近年の技術開発の結果を投入してもそれほど大きな増加は期待でき
ないようである。穀物作付面積の減少傾向を総合すると、中国、韓国、台湾、インド、インドネシア、バングラディシュ、パキスタン、エジプト、メキシコで減少または減少の可能性が指摘されている。
これらの穀物作付面積減少の理由として、ジャパン・シンドロームが挙げられている。それは、@ 所得の上昇に伴う穀物消費量の拡大、A 穀物を作付ける耕地面積の減少、B 穀物生産量の減少、という経済発展に伴う症状であるという(レスター・ブラウン2005)。
5.何をすればよいのか、何をしてはいけないのか。
限られた地球の面積を利用して、人類が持続的に生き続けるためには、エコ
ロジカル・フットプリント論者言うところの環境収容力を越えない方策と同時
に、環境収容力の質的向上の方策も必要であろう。ところが、人類は地球を、
とりわけ生産可能地を劣化させる原因を作り出している。UNEP(United
Nations Environment Programme) 代表のISRIC(International Soil
Reference and Information Center)の調査報告によれば、最近20 年間に、人
間の行為によって20 億ha の土地の土壌が劣化したという。
土壌劣化の主な項目内容を見ると、土壌侵食(風食4.3 億ha、水食4.7 億
ha)、土壌の酸性化(酸性雨の影響も)、土壌の塩類化、土壌の湛水化(ウォー
1 人当たりの穀物作付面積
(1950-2004 年、2050 年予測)
ターロギング)、土壌汚染(重金属、農薬、ダイオキシンなど)、土壌からの溶
脱や有機物損失、土壌圧縮、土壌の目詰まり、などがある。土壌侵食は、特に
アジア地域(3.11 億ha)とアフリカ地域(2.79 億ha)で多く発生している。これ
らの土壌侵食は、主として過耕起、過放牧が原因とされる。アメリカ中西部の
小麦過耕作による風食が「ダストボール」と呼ばれて恐れられたことは、スタ
インベックの小説「怒りの葡萄」の中でも克明に描かれている。
過耕作や過放牧は、環境を劣化させ、土壌を劣化させるが、増加する人口と
それを支える食糧の増産のためには「必要悪」といわざるを得ない。過耕作や
過放牧を止めたり制限したりすることには、大きな困難が伴うだろう。
略
インドネシア、カリマンタン州(ボルネオ島)では熱帯雨林の森林火災が続
いている。著しい森林火災のあと、熱帯の土壌は真っ白な色に変わり、10 年た
ってももとの色に戻らない。この白い土は撥水性(水をはじく性質)があり、
撥水性は土壌劣化の1 種である。そして、熱帯雨林の森林火災は今も減ってい
ない。現地専門家は「伐採後の枝葉を現地に放置することで、乾燥した木質部
が残り、火災が起こりやすくなるため」と指摘しているが、これも人為的な影
響の元に起きていることを思い知らされる。
以上見てきた事例は、してはいけないことを人類が積み重ねてきたことの実
例となっているが、それでは何をすればよいのだろうか。結論から言えば、ま
ず、劣化した環境を修復すること、次に、環境と調和した農業を行うこと、と
いう単純な答えに行き着かざるを得ない。人口の増加、耕地の減少は、食の安
全と安心を脅かしている。食を生産する耕地、牧草地、林地では環境が犠牲に
なり、土壌劣化が起きている。エコロジカル・フットプリントは、地球1 個分
では足りないことを主張している。人類は、まず劣化させた環境や土壌を修復
する責任があるのではないだろうか?
以下略
遺伝子組換え作物の可能性
生産・環境生物学専攻 教 授 大 杉 立
1.略
2.遺伝子組換え作物の栽培状況
まず、現在の世界における遺伝子組換え作物の生産状況について概観する。
遺伝子組換え作物は1996年から栽培が開始された。当時の栽培面積は170万ha
であったが、その後急速に増大して2004年には8100万haに達し、9年間で約50
倍に増大した(図1;p.21)。2004年には17カ国で栽培され、そのうち、5万ha
以上の栽培面積を持っている国は14カ国(アメリカ、カナダ、オーストラリア、
ルーマニア、スペインの先進国5カ国とアルゼンチン、ブラジル、中国、パラグ
アイ、インド、南アフリカ、ウルグアイ、メキシコ、フィリピンの開発途上国9
ヵ国)である。また、栽培に関わっている825万の農家の約90%は開発途上国の
農家である。栽培面積でみると、遺伝子組換え作物の約1/3は開発途上国で栽
培されており、国の数では先進国の約2倍、2003年から2004年の1年間の面積増
加(720万ha)は先進国(610万ha)を上回っている。特に、中国(32%)、イ
ンド(400%)、アルゼンチン(17%)、ブラジル(66%)及び南アフリカ25%)
の5カ国の増加が大きく、遺伝子組換え作物の今後の栽培の動向に大きく影響
すると見られる(James、2005)。
2004 年に栽培されている主要な遺伝子組換え作物は除草剤耐性作物、害虫
抵抗性作物及び除草剤/害虫複合抵抗性作物である(表1;p.22)。このうち、
除草剤耐性ダイズが60%と最も多く、害虫抵抗性トウモロコシが14%、同ワ
タが6%と続いている。また、作物としては、ダイズ、トウモロコシ、ワタ、
ナタネ(カノーラ)に集中している。各作物の全栽培面積に占める遺伝子組
換え作物の割合は、ダイズでは56%、ワタでは28%、ナタネ(カノーラ)で
は19%、トウモロコシでは14%である。これらの遺伝子組換え作物は食用、
飼料、油、繊維等に利用されている。
3.作物の生産性に関わる遺伝子組換え作物
作物の生産性は作物自身の潜在的生産能力(ポテンシャル)の高さと高・低
温、乾燥、塩類、雑草等の環境ストレスに対する抵抗力で決定される。実際の
栽培現場では、様々な環境ストレスによって作物のポテンシャルは十分には発
揮出来ず、それを補うために水管理、農薬等による栽培管理が行われている。
今後の生産性向上のためには、(1)作物のポテンシャルの向上と(2)環境
ストレス(病気、害虫、雑草などの生物的ストレスと高・低温、乾燥などの非
生物的ストレス)に対する耐性の向上が重要である(図2;p.22)。
上述したように、現在栽培されている遺伝子組換え作物は雑草害も含めた環
境ストレスに対する耐性を付与したものがその大半となっている。これらは、
農薬(殺虫剤、除草剤)低減や不耕起栽培を可能にして環境保全型農業の推進
に貢献するとともに生産者の労力・コスト軽減にも役立っている。
また、この他の環境ストレスに耐性を示す遺伝子や作物のポテンシャル向上
に関わる遺伝子の研究も行われており、遺伝子組換え作物としての開発も進ん
でいる。ここで現在開発中のものも含めていくつかの遺伝子組換え作物を紹
介する。
以下略
ファイルタイプ: PDF/Adobe Acrobat - HTMLバージョン
www.a.u-tokyo.ac.jp/seminar/29-yousisyu.pdf より抜粋転載