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米画家作『第五福竜丸』に、米詩人が文添え
米国の水爆実験の犠牲になった1954年の第五福竜丸事件。米国の社会派画家ベン・シャーン(1898−1969年)が描いた雄大な物語を伝えようと、日本在住の米国人詩人アーサー・ビナードさん(39)が日本語の文を添えた絵本が出版される。今、米国人によって第五福竜丸事件の絵本をつくる意味をビナードさんに聞いた。
「しばらくして 空から こんどは 白いものが ふってきた。 どこを見ても まるで 冬の ふぶきだ」
西の空に水爆がさく裂した後、操業しながら空を見上げる第五福竜丸の乗組員たち。そんなベン・シャーンの絵にビナードさんが寄せた一節だ。
絵本にはベン・シャーンが第五福竜丸事件をテーマに、五七年から手がけた「ラッキードラゴン・シリーズ」の連作からタブロー画やドローイングなど約三十点を収録した。木造船の第五福竜丸はその後、廃船となり、七六年から東京都江東区の夢の島公園で展示・保存されている。
ビナードさんは子どものころ、父親の本棚にあったベン・シャーンの画集を見て、その絵が好きになったという。九〇年に来日し、日本語で書いた詩集が中原中也賞に選ばれ、講談社エッセイ賞も受賞した。「核実験は今も行われており、その意味で第五福竜丸事件は過去の話ではなく、現在進行形のもの。それにベン・シャーンの絵はまったく古びていません」と話す。「抑制の効いた線で、登場人物が立ち上がってくる。絵と綱引きして、時にはけんかするような思いにもなりました」と創作上の苦しみも明かす。
絵本は核に汚染された海が、黒く漂うシーンで幕を閉じる。世界に対する警鐘だ。
「波も うちよせて おぼえている。 ひとびとも わすれやしない」
× × ×
冷戦終結後も、世界唯一の超大国として、イラクなど各国に軍隊を派遣している米国。そんな現状について、ビナードさんは「母国が大好きだから手厳しいことも言うんですよ」と前置きし、次のように嘆く。「アメリカはこの六十年間、軍拡路線をひた走りに走ってきた。戦争で金もうけする軍需産業が政府を牛耳り、僕の愛している『アメリカ共和国』が『帝国』に成り下がった。でもおごる帝国は久しからず。そのうち帝国は滅びるのです」
近く退任する小泉純一郎首相は、ブッシュ米大統領と強い信頼関係で結ばれ、協調路線を貫いてきた。ビナードさんの目には「米国の属国」と映る。「今の日本はペンタゴン(米国防総省)の子会社になりつつあります。下請け業者としてではなく、独立国家として世界に役割を果たすべきだと思います。第五福竜丸事件がその進むべき方向を示しています」。小泉首相らの靖国神社参拝についても「政教分離の点から問題がある。米国でもキリスト教原理主義者が政治を大いにゆがめている面がある」。日米両国で指導者の行き過ぎをチェックするはずの、議会の機能が低下していることに懸念を示す。
広島、長崎そして第五福竜丸。核の悲劇を繰り返さないためにも、世界の人々が連帯していくことが大切だと力説する。「米国はたくさんの核兵器を保有していますが、朝鮮戦争でもベトナム戦争でも使えなかった。使えば世界の市民が許さない。イラクでは劣化ウラン弾の影響で、イラクの人だけでなく、大勢の米軍兵士も被ばくしている。核の被害は人種を選ばず国境を越えて広がる。それを知れば、誰だって核兵器をなくそうという気になる。なくす以外に、生き残る道はない」
絵本は「ここが家だ−ベン・シャーンの第五福竜丸」(集英社)。来月下旬発売予定。予定価格千六百八十円。
文・山田雄一郎/写真・坂本亜由理
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<メモ>
【第五福竜丸事件】 1954年3月1日未明、中部太平洋マーシャル諸島のビキニ環礁で、静岡県・焼津港のマグロはえ縄漁船「第五福竜丸」が米国の水爆実験で被災。放射能を含んだ死の灰を浴び23人の乗組員全員が被ばく。半年後に久保山愛吉さん=当時(40)=が死亡した。事件は日本の原水爆禁止運動のきっかけになった。
【ベン・シャーン】 1898年、リトアニアで木彫り職人の子として生まれる。幼くして米国へ移住。石版工として働きながらデザインを学ぶ。1957年から58年にかけて雑誌で、物理学者ラルフ・ラップの第五福竜丸に関するルポに挿絵をつけ、タブロー画の「ラッキードラゴン・シリーズ」に発展する。日本のグラフィック・デザイナーやイラストレーターにも影響を与えた。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/thatu/20060821/mng_____thatu___000.shtml