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JMM [Japan Mail Media]   「戦争の風景5:停戦は発効するか?」  安武塔馬 
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投稿者 愚民党 日時 2006 年 8 月 15 日 00:06:07: ogcGl0q1DMbpk
 

                             2006年8月14日発行
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JMM [Japan Mail Media]                  No.388 Extra-Edition
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                        http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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■  『レバノン:揺れるモザイク社会』 第27回
   「戦争の風景5:停戦は発効するか?」


 ■ 安武塔馬 :ジャーナリスト、レバノン在住


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■ 『レバノン:揺れるモザイク社会』                第27回
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「戦争の風景5:停戦は発効するか?」

激戦続く

 ベイルート時間で12日未明に国連安保理が決議第1701号を全会一致で採択した後、
同日夕方にまずナスラッラー・ヒズボッラー議長がアル・マナール・テレビで演説を
行い、条件付きながら決議への支持を表明、セニオラ政府の決定を妨害しないことを
宣言した。その数時間後にはヒズボッラーの閣僚も参加して閣議が開催され、やはり
全員一致で決議受け入れを決めた。

 12日はユダヤ教の安息日だったのでイスラエルは閣議を開催せず、翌13日の午
後になって棄権1名を除く全閣僚の支持を得て、決議の受け入れを決めた。これより
先、13日朝にはアナン国連事務総長がレバノンのセニオラ首相、イスラエルのオル
メルト首相の両首脳と電話で協議した上で、停戦発効は14日の午前8時(日本時間
で午後2時)と発表している。この原稿を書いているのは13日午後11時半。すべ
て順調に進めばあと8時間半で、ようやく停戦が発効し、悪夢のような1ヶ月がとり
あえずいったん終息するはずだ。

 しかし、いまこの時点でも戦場では開戦以来最大規模の激戦が続いている。安息日
を理由に閣議承認を遅らせたイスラエルは、決議成立直後に軍用ヘリコプター50機
を用いて空挺部隊の兵士をレバノン南部の各地に上陸させるなど、それまでの3倍に
あたる3万人の兵力を一気に戦場に投入。安息日にはお構いなしで土壇場の戦果拡大
を図った。

 停戦決議が採択されてからのイスラエルのこの大規模な作戦発動には、期限までに
少しでも現場の状況を有利にしておこうという計算とともに、軍部と政府が面子を回
復するという狙いがあったに違いない。しかし、土壇場のこの賭けは完全に裏目に出
た。

 ヒズボッラーのゲリラは侵攻してくるイスラエル軍を随所で迎え撃ち、戦車40両
とヘリコプター1機を破壊、イスラエル軍は1日の犠牲者数としては開戦以来最多の
24名を失った。翌13日にもイスラエル軍は6名の戦死者を出している。

 それだけではない。12日も、13日にもヒズボッラーは200発を超えるミサイ
ルを発射し、ミサイル攻撃能力も健在であることを示した。

 邦字紙も含め一部メディアでは、「イスラエル軍は国境から30キロメートルの距
離にあるリタニ河畔まで到達した」と、イスラエル軍の進撃ぶりを伝えているが、こ
れにはトリックがある。リタニ川が国境からそれほど離れているのは地中海岸の話。
地図で見れば一目瞭然だが、イスラエル領は東部ではフーラ渓谷に沿って、細長くレ
バノン領に食い込んでいる。この食い込んだ地域から進撃すれば、リタニ川の上流に
数キロメートルで到達出来る。イスラエル軍が現在到達したというのは実はこの地域
のワーディ・ホジェイリやガンドゥーリーヤなどの話であり、イスラエル国境から大
して離れていない。しかも、イスラエルが制圧したはずの国境沿いの村々でも依然激
しい戦闘は続いている。リタニ川以南をイスラエルが支配下に置いたというには程遠
い状況だ。

 イスラエル側は12日だけでもヒズボッラーのゲリラ40名以上を殺害したと発表
している(ヒズボッラーの公式発表ははるかに少なく、開戦以来の犠牲者はわずか6
1名)。また南部とベカー高原、ダーヒヤ(ベイルート南郊外)をはじめ、レバノン
各地への激しい空爆も続け、13日にはダーヒヤの一角ルウェイス地区で集合住宅ニ
棟を爆破。16名を殺害した。依然として40名以上が瓦礫の下になっている模様だ。
14日に入ってからでさえベカー高原の村ブリタールを空爆、死傷者併せて40名と
報じられている。

決議受け入れの真意

 停戦決議を受け入れておきながら、作戦を拡大し続けるイスラエルの行動は一見矛
盾しているように見える。しかし、イスラエルにとって停戦受け入れは当面の戦術で
あって、決議が要求する内容を実施するかどうかはまた別の問題なのだと考えれば納
得が行く。

 自軍の被害が増大し、国内でも政府や軍の戦争指導に対する疑問と批判の声が上が
り始める状況では、当面の交戦状態の停止は望ましい。それに、決議が国境地帯に居
るヒズボッラー・ゲリラの撤退と武装解除を求めている点は、惨憺たる戦況の割には
有利な内容だ。13日の記者会見でリブニ外相は「もし履行されるのであれば、イス
ラエル・レバノン両国間のゲームのルールが根本的に変わる。イスラエルにとっては
良い決議だ」と評価しているが、そのとおりであろう。

 イスラエルは1ヶ月にわたる軍事作戦で、拉致兵士を解放出来なかったし、ヒズ
ボッラーのミサイル攻撃能力を潰すことも出来なかった。しかし、決議第1701号が実
施されればヒズボッラーのゲリラは国境地帯から数十キロメートル引き離され、替
わって拡大UNIFIL部隊とレバノン国軍が展開することになる。イスラエルの戦
争目標の主要な部分は達成出来ることになる。

 ただしイスラエルは、レバノン国軍は勿論のこと、従来の7倍の1万5千人規模に
増強されたUNIFIL部隊が国境を守り、ヒズボッラーの動きを封じてくれるとは
ゆめ信じていない。国防を外国軍に委ねるほどイスラエルの安全保障意識は甘くはな
い。

 だから、イスラエル軍は決議を受け入れてもすんなりと決議どおりにブルーライン
の南側に撤退することはないだろう。そしてイスラエル軍がレバノン領内にとどまる
限り、ヒズボッラーはそれを南部にとどまり武装解除を拒む口実にするはずだ。

 決議の要求を実施するつもりはないが、当面はそうした方が有利だから決議を受け
入れるという姿勢は、実はヒズボッラーの側もまったく一緒だ。

 ヒズボッラーとしては戦局が有利に推移している現時点で停戦すれば、大きな政治
的勝利になる。だから戦火が止むのは歓迎する。一刻も早い停戦を渇望する国民の声
にも耳を傾けないわけにはいかない。

 しかし、決議が求めるようにすんなり武装解除するわけにはいかない。せっかくこ
こまでイスラエルの猛攻から持ちこたえた拠点を廃棄するわけにもいかない。それが
成立するのは、シリアやイランも巻き込んだ地域レベルでの余程大きな政治決定が下
された場合だけだろう。

 停戦決議の履行方法を協議するため、13日に開催される筈だったレバノン緊急閣
議はヒズボッラーの要請で延期された。イスラエル軍の攻撃が続く中、武装解除問題
を協議することに対してヒズボッラーが難色を示したからだと報じられている。やは
りヒズボッラーは戦術的に決議を受け入れただけで、自らに不利な内容を履行するつ
もりはなさそうだ。

 問題は、今回の決議がこれ以上の流血と破壊を防ぐために、停戦を最優先している
ところにある。双方が受け入れやすいように、決議の内容にはどうとでも解釈できる
グレーゾーンがいっぱい残された。イスラエルもヒズボッラーも、25年間にも及ぶ
お互いの存続を賭けた闘争が、安保理決議ひとつで終焉し、平和がやってくるなどと
いう幻想はまったく抱いていないのだ。

 仮に停戦が成立したとしても、政治的解決が無い限り、いずれは再び決着をつけな
いといけない時がやってくる……両者ともにそういう前提で動いているのだ。

停戦発効の可能性

 従って、今後の展開を大胆に予測すると、次のようになる。

 まず、当面停戦は発効し、砲火は収まる。しかし、レバノン南部の国境地帯にはヒ
ズボッラー・ゲリラとイスラエル軍の双方が展開を続けるから、一触即発のにらみ合
いが続く。ちょっとした衝突が原因で、再び大規模な交戦が勃発する可能性は大いに
ある。

 しかし、もし停戦が数日間でも続いた場合、イスラエル国内で今度の戦争指揮にお
ける政府と軍指導部の迷走の責任を問う声が左右両派から高まり、政局になるのでは
ないか。場合によってはオルメルト首相やハルーツ参謀総長の更迭といった事態も起
こるかもしれない。

 そうなれば、しばらくは当面交戦状態には陥らず、レバノン国軍やUNIFIL部
隊の展開が進み、停戦が固定化してくれるかもしれない。

 約束の14日午前8時まで、残すところ7時間。明朝に目覚めたら砲火が収まって
くれていることを祈りながら、今夜はもう眠ることにする。

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安武塔馬(やすたけとうま)
レバノン在住。日本NGOのパレスチナ現地駐在員、テルアビブとベイルートで日本
大使館専門調査員を歴任。現在は中東情報ウェブサイト「ベイルート通信」編集人と
してレバノン、パレスチナ情勢を中心に日本語で情報を発信。
<http://www.geocities.jp/beirutreport/> 著作に『間近で見たオスロ合意』『アラ
ファトのパレスチナ』(上記ウェブサイトで公開中)がある。
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【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部(2005年8月1日現在)
【WEB】   <http://ryumurakami.jmm.co.jp/>
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