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JMM [Japan Mail Media]   「米国議会とイスラエルロビー」  村上博美 
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投稿者 愚民党 日時 2006 年 8 月 02 日 02:29:33: ogcGl0q1DMbpk
 

                             2006年8月1日発行
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JMM [Japan Mail Media]                  No.386 Extra Edition
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                        http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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■ From Kramer's Cafe in Washington DC Vol.43
     「米国議会とイスラエルロビー」

  □ 村上博美 :ワシントンDC在住


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 ■ From Kramer's Cafe in Washington DC Vol.43
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「米国議会とイスラエルロビー」

 ブッシュ政権は、停戦を許せばイスラム軍事組織ヒズボラが再編成されイスラエル
が将来的な攻撃にさらされると早期停戦を拒否してきた。これはイスラエルのオルメ
ト首相らが主張する、ヒズボラを撃退しテロを根絶しイスラエルを守るために爆撃は
必要であるという立場とほぼ変わらない。米国の過剰なイスラエル擁護は国際社会か
ら疑問視されているが、米国議会ではイスラエルロビーを敵に回せば政治資金ばかり
か選挙で落とされかねない切実な議員の現状が背景にある。イスラエルロビーの影響
力の大きさが実力以上にあると信じられていることで、米国国内のイスラエルに関す
る議論の幅はイスラエル国内のそれよりさらに狭いといわれている。

 イスラエルロビーとはユダヤ系アメリカ人団体や選挙資金提供者、シンクタンクな
どを含む一大勢力であり、イスラエルの国益を推進及び支持する目的の下に20世紀
の後半50年間に急激に勢力を伸ばした。ロビイングが成功したためか、米国の直接
対外援助の最大の受益国家はイスラエルであり、年間30億ドルあまりを受け取る。
また米国はイスラエルをあらゆる面で特別待遇にする。例えば軍事問題であればNA
TO加盟国と同等に扱い、自由貿易であればカナダやメキシコと同じように待遇する。
年間を通して米・イスラエルの共同戦略タスクフォースや会合などが頻繁に行われて
おり、ホワイトハウスにはイスラエルが攻撃されれば米国が駆けつけて助けるという
大統領の公約束が飾られているという。ロビイングが効を奏し世論も総じてイスラエ
ルに同情的だ。今年2月のギャロップ調査によれば、イスラエルへの共感度が199
1年湾岸戦争以来最高の59%を示し、一方パレスチナに対しての共感度は15%に
とどまった。

 秋の中間選挙を視野に入れ、強力なイスラエルロビーを味方にしたい共和党及び民
主党の議員達は、先を争ってイスラエルへの忠誠心を証明すべく反テロ(=反ヒズボ
ラ、反ハマス)を唱えている。「議員らのイスラエル支持はこれまでになく高い」と
いうのは、主要イスラエルロビー団体のAIPAC(American Israel Public
Affairs Committee)であり、上院・下院でロビイングを行っているAIPACの報
道官は「最近の議会での活動は、開いているドアを押すくらい簡単だ」という。

 そのAIPACとは1950年初頭にカナダ生まれのジャーナリストI.L.ケネン
によってユダヤ系団体から寄付金を集め設立された。50年代60年代、当時まだ未
熟なユダヤ人国家を米国が支援することは地域の安定を乱すと考えていた上院外交委
員会委員長のJ.W.フルブライトや親アラブ議員などの対立候補を支援したが、目
立った効果はなかった。1967年の6日間戦争でのイスラエル勝利がターニングポ
イントとなり、敵地に囲まれた中に民主国家が根を生やしたとユダヤ系アメリカ人は
歓喜した。有能なスタッフも確保し、何よりもこれは神聖な使命と信じた数千という
草の根活動員が実働部隊となった。彼らが議員に手紙を書いたり,寄付金を集めたり、
政治的に働きかけをしていったという。当初イスラエル問題はユダヤ系アメリカ人と
直結していたリベラル民主党の関心事であった。この情況が大きく変わるのが197
0年代後半だ。共和党であるレーガン政権はイスラエルを冷戦の戦略的同盟国とし、
ソビエト影響下のシリアやイラクへのバランスをとるためイスラエルにてこ入れした。
イスラエルは米国ユダヤ人社会が提供した寄付金と政治的支援に依存し、またイスラ
エルの存在がユダヤ系アメリカ人の団結を促し米国社会での政治的意識を高めた。中
には第2次世界大戦中のヒットラーによる虐殺を知りながら手助けが遅れたという罪
悪感から熱烈に参加する人もいたという。また、被害者文化が被害者のような気持ち
になった人をひきつけるということも理由にあるようだ。

 そうしてAIPACは資金を拡大し1980年代に政治的影響力を増大していった。
例えば、親アラブでイスラエルに批判的だった共和党のイリノイ州ポール・フィンド
レイ下院議員、カリフォルニア州のピート・マックロスキー下院議員,イリノイ州の
チャールズ・パーシー上院議員らはAIPACの落選運動のターゲットとなり選挙で
勝てなくなった。フィンドレイ議員の“罪”は定期的にパレスチナ指導者のアラファ
トに会っていたことで、1982年にそれまで11期も務めたベテランは政界から姿
を消した。また1984年パーシー氏も、イスラエル支援者が対立候補に180万ド
ルの政治資金を直接寄付したり反パーシー広告を打ったことが致命的になった。つま
り、イスラエルを批判すると政治生命が終わるということがここで示されたのだ。そ
れ以来議員達のイスラエル問題について批判的発言は自然に抑えられるようになった。

 現在AIPACは200人のロビイスト・研究者等のスタッフを抱え、年間の予算
は4700万ドル、草の根活動員は5年前の2倍の10万人となり、毎年リクルート
活動は全米300の大学で行われているという。AIPACが強力な影響力を行使で
きる源泉となっているのは、議会でのロビイング活動もさることながら、巨大な草の
根ネットワークの存在、そしてAIPACのアドバイスを仰ぐ数千の資金があること
だ。

 AIPACのロビイング活動は具体的には、時間のない議員や議員スタッフが全て
の分野に精通しているわけではないため、AIPACが詳しい分野について“ブリー
フィング”したり、テロリズム、イスラム軍事主義や核不拡散問題などについてセミ
ナーを開催したりする。その際にはわざわざイスラエルから専門家を呼び寄せるなど
AIPAC寄りの主張を盛り込むことも忘れない。それだけでなくリサーチ・ペーパ
ーを提供したり、海外援助予算法案なども含む外交関連の法案起草の段階で議員らか
らアドバイスを求められることもしばしばだ。また,AIPACは相互理解を深める
ために毎年幾人かの議員とスタッフをイスラエル旅行に招待している。今年3月のA
IPACの年次総会ではチェイニー副大統領やジョン・ボルトン国連大使がスピーチ
を行い、150人の上下院議員や数十人の政権高官も参加するなど政界の強い結びつ
きも示した。それと同時に草の根活動員は巨大なネットワークを駆使して両議院の各
選挙区の議員へのフォローアップや選挙資金の寄付をくまなく行っている。

 ただしAIPACは政治活動団体ではないので、AIPACから直接選挙資金の寄
付は行わない。政治的寄付を行う何千という人々が念入りにAIPACの情報を見て
寄付先を決めるといわれている。というのも、AIPACのウェブサイトではAIP
ACが考える重要なイシューについての各議員の投票記録を事細かに提供しているか
らだ。親イスラエル資金は個人・団体など1990年から合わせて5680万ドルが
政治家や党委員会などへ流れたという。ちなみに親アラブ資金は同じ期間に30万ド
ル弱が流れたにすぎない。2000年から2004年にかけての選挙では、AIPA
Cの役員50人が各選挙平均7万2千ドルの寄付を行ったとされ,ジョン・ケリーと
ブッシュ大統領への選挙寄付金のトップは両方AIPACの役員だと言われている。
これらの役員はAIPAC以外の団体、中にはもっと過激な行動をとる親イスラエル
団体を兼務したりしている。例えば強硬路線をとるある団体は,2002年にイスラ
エルのシャロン大統領がヨルダン川西岸を占拠する軍事行動を起こした際、パレスチ
ナの犠牲者に関する報道を制限するようデモやボイコット運動や手紙作戦を展開し、
また中立なラジオ放送で知られる National Public Radioの33都市の局の周りでデ
モを行ったりした。

 伝統的にはユダヤ票は民主党で、現在でも主流は民主党支持である。それゆえ民主
党の政策に最も影響力を与えるのがユダヤ人社会といわれている。ユダヤ系有権者は
国内問題の多くや社会問題について民主党に同調する。しかし、近年共和党もイスラ
エル支持を明言する議員が増え、キリスト教福音派はかつて反ユダヤともささやかれ
たが,今では共和党内でイスラエルとの結びつきを強める指導的勢力となっている。
そのためか、大統領選挙で特に1992年から2004年にかけて民主党からユダヤ
票を10%ほど引き剥がすことに成功している。ある出口調査によれば、1992年
大統領選挙では父ブッシュ大統領が獲得したユダヤ票が11%であったのに対し、2
004年の大統領選挙で現ブッシュ大統領は約25%を獲得したという。近年ユダヤ
系有権者は党に偏らず独立的な投票行動の傾向があり、共和党はチャンスと見ている。
NPOのCenter for Responsive Politicsのレポートによれば、共和党もユダヤ系政
治団体やユダヤ系アメリカ人の寄付金を相当額受け取っており、今回の選挙サイクル
では、ユダヤ系の団体や個人から共和党は全体の42%の資金を受け取っているとい
う。もしそれが本当ならそのNPOが調査をはじめた1990年以来最高の比率だと
いう。620万人といわれるユダヤ票を獲得するため、民主党・共和党共に親イスラ
エル政策をこれ見よがしに打ち出す議員は多い。

 つまり現在の議会の情況は、共和党のラフッド議員が言うように「イスラエルが議
会下院を制している」といっても過言ではない。「下院はイスラエルに著しく傾斜し
ており、それ以外のことは全て反対する。まるで津波にのまれるようだ」という。先
週可決された決議案にも、もちろん一大ロビイングが展開された。

 7月25日火曜日、議会上院はイスラエル支持決議案を可決し、ヒズボラ、ハマス、
シリア、そしてイランを非難しブッシュ大統領に「引き続きイスラエルを全面的に支
持するよう」要求。その中には停戦の言葉はなく、両党の指導者を含む61名の上院
議員が連名で法案提出した。27日木曜日には議会下院が別に「イスラエルに対し無
差別で非難すべき軍事攻撃を行った」ハマスとヒズボラを非難する決議案を可決。こ
の中でイスラエルの自衛の権利を支持している。レバノン系移民の4人の議員が一般
市民へのターゲットに制約をと、文体への修正を求めたが拒絶された。最終的には
「イスラエルの一般市民の被害を最小にするこれまでの努力」を認めたにとどまった。
下院共和党の反応はオハイオ州選出のボーナー議員の言葉に象徴されるように「イス
ラエルがヒズボラのテロリストに攻撃されたのだ。一般市民の犠牲者がでるのはしょ
うがない。大体、テロリストとイスラエル政府を同等に置くことが間違っている」と
いうもの。ある民主党議員も決議案の文面に一般市民の犠牲者に対し「自制を求める」
ことを明記するのはイスラエルに平手打ちを食わせるのと同じであり、どんなに国際
社会がイスラエルを非難しても米国だけはイスラエルの肩を持たなくてはならないと
いう。ユダヤ票と金を多く獲得する多数の民主党議員らは共和党議員と共にブッシュ
大統領にイスラエルに行動を自粛させないよう圧力をかけている。

 これは秋の中間選挙をにらんだ議員らのイスラエル支持が過激化していることを示
している。例えばユダヤ系民主党候補と厳しい戦いを迫られているフロリダ州共和党
のクレイ・シャー議員は「今回のテロ行動の直接的責任はシリアとイランが負うべき
だ」と独自案を提示。共和党メルマン議員はあるイスラエルロビー団体の会合で「我
々は皆イスラエル人(と同じ)だ」と発言した。

 そのような情況の中で、先日イラク首相のマリキ氏が訪米し即時停戦とイスラエル
の攻撃による殺戮と破壊を止めさせるべきだとブッシュ大統領に述べたということか
ら、民主党の議員を中心に蜂の巣をつついたように非難が続出。何人かはマリキ首相
のスピーチをボイコットする騒ぎになった。彼らの主張は「ヒズボラの侵略に言及せ
ずイスラエルの自衛の権利を認識しないという態度は中東の安定と現危機の解決に
(マリキ氏が主導する)イラクが建設的な役割を果たせるのか疑問を抱く」であり、
特にニューヨーク州選出のチャック・シューマー上院議員は「もし(テロを容認する)
イラクのために米国人の血と金が使われたというなら、何をしにここにきたのだ?
(中略)テロ戦争においてどちらの側につくのだ? 米国民の前ではっきりさせてほ
しい」と辛らつなものだった。民主党議員らはマリキ首相のスピーチの文面にヒズボ
ラ非難を入れろと迫る事態となった。

 イスラエル擁護を早くしかも強力に前面に押し出す候補者にとっては、政治的にも
金銭的にも報酬がまっている。が、こういった政治的計算に基づいた行動が現在の危
機の平和的解決方法を見出せなくしていると、幾人かの議員は眉をひそめる。またこ
ういった政治的支持がイスラエルにとっては危険だと指摘する。なぜなら米国が擁護
する限り何でも可能だと知っているイスラエルは、この有り余る支持を勘違いしてイ
スラエル指導部は後戻りできないところまでいってしまう可能性があるからだ。しか
しこういう意見は少数派である。また、一般市民の犠牲者が増えることは、中東に
あって敵に囲まれながらも民主国家であるレバノンをさらに脆弱にさせてしまう、と
いう声もある。少数の議員はもし議会が国際社会の意見の前に平和的な解決方法を探
らなければ、米国とイスラエルが対価を支払うときがくると懸念する。これまでタブ
ーであったイスラエルロビーへの批判も徐々に出てきている。ハーバード大学とシカ
ゴ大学の教授が連名で3月に発表した論文の中で、教授らはイスラエルロビーによる
「ブッシュ政権のイスラエル支持と中東に民主主義を広げる行動はアラブやイスラム
社会の論争に火をつけ、米国を危険に陥れた」と批判している。カーター政権の元大
統領補佐官ズビグニュー・ブレジンスキー氏も言葉を選びながら「もし米国が中東問
題で対処方法を間違えば国際社会での主導的地位を失うだろう」と発言した。しかし
果たして、ブッシュ政権と議会は強力に張り巡らされたイスラエルロビーの呪縛を解
き放ち、グローバルな指導力を示すことができるのだろうか。

参考:LA Times、Washington Post他。

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村上博美:ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院講師
上智大学理工学部卒。経営学修士。国際関係論修士。ワシントンDCの戦略国際問題
研究所、経済戦略研究所の研究員を経て2004年より現職。政策海外ネットワーク
メンバー。http://pranj.org
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JMM [Japan Mail Media]                 No.386 Extra Edition
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【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部(2005年8月1日現在)
【WEB】   <http://ryumurakami.jmm.co.jp/>
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