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□対ヒズボラ戦の失敗が米の中東政策に与える余波/アル・アハラーム紙 [News from the Middle East]
http://www.el.tufs.ac.jp/prmeis/newsdata/News2006823_3330.html
2006-08-22 米特派員報告:対ヒズブッラー戦の失敗が米の中東政策に与える余波(アル・アハラーム紙)
■ レバノンでのイスラエルの失敗がブッシュ政権を困惑
■ パレスチナ・トラック再生への呼びかけ
2006年08月22日付アル・アハラーム紙(エジプト)HP特派員報告
【ワシントン報告:ハーリド・ダーウード】
レバノンにおける米の対ヒズブッラー戦の失敗は、早速にさまざまな波紋を広げている。
イスラエルのペレツ国防相が4ヶ月前の国防相就任以来、ヒズブッラーのロケット攻撃能力について正確な情報を与えられていなかったと公の場で軍指導部に対する不平を口にしたかと思えば、米高官らもまた最近になって、イスラエルがヒズブッラー掃討という任務を迅速かつ容易に成し遂げることが出来ると言うから戦闘開始から3週間もの間、停戦要求に対して頑なな姿勢を取ってきたのに騙された、と騒ぎ始めている。
ブッシュ大統領は国連部隊に伴われたレバノン国軍が展開すれば、ヒズブッラーは南レバノンで以前ほどの影響力を持ち得なくなると主張して、ヒズブッラーは戦争に負けたのだとイスラエル以上に言い張っている。しかし米の軍事専門家やコメンテイターらは、二人の兵士の解放に始まりヒズブッラーの戦闘能力への甚大な損傷に終わる、開戦当初に主張していた目標のうちほんのわずかしか達成できなかったという事実に加え、アラブ世界における軍事的抑止力としてのイメージを損なったという意味で、イスラエルこそが真の敗者だという考えで一致している。イスラエル国防相にも近いさる米の観測筋は、ヒズブッラーが被った被害はその能力の15パーセントにも満たないと推定する。
さらに米高官らの動揺を増したのが、イスラエルの攻撃が止んだその日から、彼らの支持基盤である家や町を破壊された民衆を援助するためにヒズブッラーが取った行動の効率と能力の高さだった。同じころ米国務省の官僚たちは、レバノン再建への貢献を国際社会が示す場となるはずの国際会議を準備する連絡さえまだ始めていなかった。同様にこの世界唯一の超大国がレバノン支援のために公表し、いまだ一ドルたりともベイルートには届いていない5000万ドルという金額は、米国製のイスラエル軍戦闘機やロケット砲によって破壊された南レバノン再建のためにヒズブッラーに即刻届けられたと各方面から報じられている1億5000万ドルと比べれば、いかにも僅かで、物笑いの種のようにも見える。
ブッシュ大統領が結成にこだわり、ヒズブッラーの攻撃を防ぐため、軍事力の行使を含む広範な権限を持つようにデザインした国際部隊にせよ、シリアからの新たな武器供与を防ぐという口実によるレバノン・シリア国境および港湾への厳しい監視体制にせよ、いずれも大きな困難に直面し続けており、南レバノンへの国際部隊展開は遅延されている。これには特にフランスが、国際部隊の権限や交戦規定が不明確で、多くの諸国がヒズブッラーとの戦闘あるいは強制的な武装解除のために自国兵士を送る準備ができていないといった言い訳によって、突然、大部隊を参加させるという考えから後退したという状況が影響している。
ロンドンに本部を置くNGO「コンフリクト・フォーラム」を通じて過去2年間、米・英の元外交官らとヒズブッラーおよびハマース間の直接対話を推進してきたマーク・ペリー氏は、ヒズブッラーの組織構造からしても、南レバノンという支配地域への溶け込み方からしても、ヒズブッラーを武装解除させることは実際問題として不可能だとして、「ヒズブッラーは南レバノンの町村に力ずくで勢力を押し付けているわけではなく、脆弱で宗派的構成によるレバノン国家が同様のサービスを提供できない中で、社会活動やレバノン国内のシーア派の利益への尊重を通じて真の忠誠を獲得している」と語る。
ペリー氏の推定によればヒズブッラーの構成員はおよそ10万人で、そのうち戦闘員はほんのわずかであり、残りは基本的にレバノン国内の少数派であるシーア派をケアする広範なネットワークを形成している。一方、年間予算はおよそ1億ドルと推定され、その全てではないが大半がイランからもたらされている。ヒズブッラーとイランとの密接な関係については疑う余地がないものの、米の他の専門家や高官ら同様、ペリー氏もイラン政府は今回のような事態を後押ししたわけでも望んでいたわけでもなく、イラン政府もヒズブッラー指導部もイスラエルが迅速に戦線を拡大し、広範な軍事作戦を仕掛けてきたことに不意をつかれたと見ている。
またペリー氏はイスラエル国防省内の独自の筋からの情報として、イスラエル国防省が現在、7月12日に兵士二名を拉致された師団の指揮官が十分な防御をせずにレバノン国境に近づいたとしてその責任問題が調査されている、と語った。ヒズブッラーのナスルッラー党首がかねてからイスラエルの刑務所に収監されているレバノン人捕虜との交換のためにイスラエル兵を拉致すると公言していた以上、ヒズブッラーの戦闘員にとってこれは無視できない好機だったはずだ。「この戦争の帰結は、イスラエルとアメリカの諜報活動記録に新たな失敗が付け加えられたということだ。両国はともにヒズブッラーの軍事力についての十分な情報を欠いていたというだけでなく、ヒズブッラーの存在と彼らが大衆層に広げている勢力に関する事実を無視し、彼らを殲滅したり、解消したりできると思い込んでいたことが証明された」とペリー氏は事態を総括した。
米国務省やホワイトハウスで数々の要職を務めたジェイムズ・ドビンズ元大使も、特にこの戦争の後となっては、ヒズブッラーを完全に武装解除することは実際的に不可能だとの意見で一致する。「起こりうることはせいぜい国際部隊に伴われたレバノン国軍が南部に展開し、ヒズブッラーの動向に見て見ぬふりをしたり、イスラエルにも発見できなかった兵器の隠し倉庫を捜索したりはしないということだ」と述べるドビンズ氏は、ヒズブッラーに新たな武器が渡らないよう、レバノンの港湾やレバノン・シリア国境を封鎖する可能性についても、両国の国境線が長く入り組んでいることから疑問視し、代わりにブッシュ大統領が拒否している別の試みを提唱する。それは、シリア政府と直接対話に乗り出し、現体制の打倒を目指すことをやめるというものである。
イスラエルと米は明らかにイランと対決する計画や、核問題での対立が激化した場合にイスラエルの治安を脅かすためヒズブッラーの利用にイランが出てくるという可能性についての検討を行っていたはずだと見るドビンズ氏は、「おそらく両国はヒズブッラーが兵士2名を拉致したことを、イランの勢力を弱体化させ、イランが圧力をかけるために利用できる重要なカードの一つを禁じ手とする好機と捉えたのだろうが、結果としてイスラエルはそれを実現できなかった」と付け加えた。
米国防省の高官らはイスラエルとヒズブッラーの戦闘を、米がイランあるいはシリアとの対戦を決定した場合を想定したモデルケースとしてモニタリングしていたことを否定しない。このことからも、この戦争の結果はペンタゴンの戦略家たちに想定の見直しを迫ることになり、またこれによってイランと対決するよう圧力をかけているブッシュ政権内の有力政治家たちに激しく反対していることが本紙情報筋によって確認されている複数の軍高官らの影響力が増したことは疑いがない。国防省に近い米の観測筋は、現時点でイランとの戦争を望んでいるのは少数のネオコン政治家だけだと本紙に語った。
いっぽう、ニューヨーカー誌への寄稿で名声を広めたシーモア・ハーシュ記者は自身の情報源から得た話として、米政権が国防省に対し、イランへの戦争計画を準備するよう求めたとの記事を書いたが、米高官らはこれを激しく否定した。またハーシュ記者は先週も、米とイスラエルの両政府は今年始めに会合を開き、イランとの広範囲な対決の一環としてヒズブッラーへの攻撃計画を検討していたと報じた。
他方、ブッシュ大統領が完全にイスラエル寄りの姿勢をとり、アラブ側からの要求を無視しているという批判をかわすためであることが明白な試みとして、米国務省の高官らがここ数日、パレスチナ・イスラエル交渉を活性化させる可能性について噂を流している。その交渉はもちろんアッバース大統領との協力を通して行われるのであって、米政府がテロ組織とみなしているハマース主導のパレスチナ政府を通してではない。しかし最近のイスラエルによるレバノン攻撃の余波を受けて、米の有力コメンテイターやリーダーたちの間から、中東地域で紛争が続く真に根本的な原因に対処するようブッシュ政権に求める声が上がっている。その象徴が、イスラエルがパレスチナの土地に対して続けている占領であり、パレスチナ国家建設への拒絶なのである。ブッシュ大統領が中東での紛争の原因をヒズブッラーやハマースのようなテロ組織の存在であるとの考えに固執していることは周知の事実であるため、パレスチナ・トラックの再開に向けた次の一手はせいぜいのところ一般的な関係の規定と現状の確認程度と予想される。これが今のところ米の現政権が得意とする唯一の事柄であり、さらにこの予想を裏打ちするものとして、イスラエルが現在、レバノン攻撃の失敗という結果に直面し、オルメルト政権の安定が脅かされていて、パレスチナ・トラックに関するいかなる新たなイニシアチブも取れそうにないという事情がある。
ドビンズ氏は本紙に対し、アメリカ人はイスラエル政府が脆弱であると認識していると同様、パレスチナ大統領の能力も信頼していないことから、この交渉回路で真の前進が実現される可能性は極めて低いと思われる、と語った。
URL: http://www.tufs.ac.jp/common/prmeis/data/ahram/060822ahram_ky.mht
(翻訳者:山本薫)