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JMM [Japan Mail Media]   「戦争の風景8:脆い停戦」  安武塔馬 
http://www.asyura2.com/0601/war83/msg/1011.html
投稿者 愚民党 日時 2006 年 8 月 23 日 00:35:46: ogcGl0q1DMbpk
 

                             2006年8月22日発行
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JMM [Japan Mail Media]                 No.389 Extra-Edition2
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                        http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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■  『レバノン:揺れるモザイク社会』 第30回
   「戦争の風景8:脆い停戦」


 ■ 安武塔馬 :ジャーナリスト、レバノン在住


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■ 『レバノン:揺れるモザイク社会』                第30回
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「戦争の風景8:脆い停戦」

婚礼と葬列

 停戦が発効して一週間。

 アル・ジャジーラやアル・アラビーヤなど、汎アラブ衛星放送も含めて、レバノン
のテレビ各局の番組編成は概ね通常の体制に戻ってきた。

 戦時中はどこも24時間体制でニュース番組を休みなく流していた。「現在○×村
が空爆されています。犠牲者△名…」という速報記事のテロップが、パソコンのデス
クトップ画面のアイコンのように画面の下部に常に張り付いていた。歌謡番組や映画
など娯楽系の番組、コメディ・タッチあるいはエロチックなコマーシャルや、アルコ
ール飲料の宣伝はブラウン管からすっかり消えていた。

 一週間が経過し、テレビの画面にはそういった日常的な番組やコマーシャルが戻っ
てきた。グルメ番組やワイドショー、メロドラマ、ファッションショーの類も復活し
た。

 ブシャッレでは自粛ムードが一転して、夏のハイシーズンの終わりに駆け込み挙式
するカップルも目立つ。新婦の搭乗車(大抵黒のベンツ、ドアのノブの部分に白い
レースを飾るから一目でそれとわかる)を先頭に、クラクションをけたたましく鳴ら
しながら何十台もの車両が我が家の眼下の道路を通り過ぎていく。

 昨日20日には妻の甥っ子が、幼児ふたりの洗礼式を来週にやるから出席してくれ
と連絡してきた。婚礼と洗礼式。どちらも、戦争のために先送りするしかなかった祝
い事である。

 とは言え、全部のテレビ局が、戦争が終わった開放感に浸りきっているわけではな
い。

 ハーラト・フレイクの本社ビルが直接攻撃に曝された後も、地下に潜って放映を続
けてきたヒズボッラーのアル・マナール・テレビは、むしろ次の戦争に向けて士気の
引き締めにかかっている。

 同局のニュース番組の半分以上は、殉教(戦死)したヒズボッラー戦闘員と、民間
人犠牲者の葬儀の中継に割かれている。戦闘が終わって一週間も経ってから葬儀とは
奇異な感じを与えるかもしれないが、戦争中の混乱の中では、ほとんどの犠牲者はま
ともな葬儀をしてもらえず、とりあえず集団墓地に放り込まれた。だから、戦火が止
んだ今になって、遺体を掘り返し、棺におさめ、党旗にくるんで、党員が村や町の中
を整然と行進しながら「名誉の殉教者」として丁重に弔いなおすのである。

 婚礼と葬列。戦争の終わりを祝い、日常を満喫しようとする人々と、戦闘で命を落
した人々の前で、戦闘の継続を誓う人々。

 このふたつのグループの間に接点を見つけるのは難しい。イスラエルが無差別に攻
撃対象を拡大したことで、一時的に生まれた国民の間の連帯感も、戦火がおさまると
急速に萎み、ふたたび世論の深い亀裂が表面に浮かび上がりつつある。

戦争の命名

 さて、ここまでこの戦争の名称を特定せずにレポートしてきたが、以前の紛争や今
後起きるであろう戦争と区別して分析するためにも、このあたりで名前をつけたい。
JMMと拙HPでは「第五次レバノン戦争」という名称を用いることにする。

 イスラエル軍がレバノンに対して継続的に大規模な空爆を行い、あるいは地上軍を
侵攻させたことはこれまでに5回ある。イスラエル側がつけた名称では順に1978
年の「リタニ川作戦」、1982年の「ガリラヤ平和作戦」、1993年の「制裁作
戦」、1996年の「怒りの葡萄作戦」、そして今回の攻撃である。そこで、今度の
戦争を「第五次レバノン戦争」と名づけることにする。

「イスラエル・ヒズボッラー戦争」と言った方が正確なのであろうが長ったらしいの
で簡潔に「レバノン戦争」とする。複数のアラブ諸国を巻き込んだ戦争が「中東戦
争」なのであるのに対し、レバノンだけがイスラエルの攻撃を受けた戦争は「レバノ
ン戦争」、という分類だ。

 ちなみにレバノンのメディアではLBCが「七月戦争」という名前をつけている。
しかし戦争の後半は8月に起きたからまぎらわしくなってしまった。なお、この命名
はLBCも戦争がまるまる一ヶ月続くことを勃発時点で予想できなかった結果であろ
う。

 アル・ジャジーラは「第六次戦争」。1973年の第四次中東戦争に続き、198
2年のレバノン侵攻が第五次、今回が第六次という位置づけだろう。

 イスラエルではハ・アレツやイディオト・アハロノットは「北方戦争」。全土を攻
撃されたレバノンから見れば「南方戦争」とは言えないが。

 CNNは「レバノン紛争」。「紛争」のニュアンスは、主権国家同士が宣戦布告を
した上で正規軍同士が交戦する「戦争」に対して、非正規軍が主役となる戦い、とい
う感じであろうか。その意味では「紛争」の方が正確かもしれないが、交戦の規模や
期間の長さ、レバノン全土が攻撃を受けた事実を考えると、やはり「戦争」の方が相
応しい。

ベカー降下作戦

 その「第五次レバノン戦争」は、果たしてこれで終わったのであろうか? 現在の
危うい停戦は維持されて、状況は安定していくのであろうか?

 停戦の先行きを危うくする事件が19日に起きている。

 イスラエル軍特殊部隊が、ベカー高原の真ん中に降下し、ヒズボッラー・ゲリラと
交戦したのである。

 イスラエル軍機はこの作戦に先立ち、空軍機をベカー上空に侵入させ、8時間にわ
たりバアルベック周辺で旋回飛行を行っている。後に続く降下作戦の偵察か、陽動作
戦だったのであろう。

 その後18日深夜(19日未明)に輸送用ヘリコプターがベカー高原西部のレバノ
ン山脈西麓に着陸、歴戦のエマヌエル・ラビノ大佐率いる20名程度の特殊部隊員が
降下してバアルベック西方のブダーイ村に向かった。隊員はレバノン国軍の制服を
着、レバノン国軍将校が用いる車両に分乗するなど、国軍兵士を偽装したらしい。

 しかし、ヒズボッラーもさる者。陽動作戦が始まった後にこの地域を警備していた
ゲリラが既に待ち伏せの体制を整えていたと言うからさすがだ。特殊部隊の車両はゲ
リラの検問に引っかかり、パレスチナ訛りのアラビア語で「国軍兵士だ」と名乗った
が、あっさりと見破られ、たちまち銃撃戦となった。結局、ラビノ大佐は戦死、他に
も2名の負傷者を出したイスラエル軍は空軍機の護衛を受けてヘリコプターに収容さ
れ撤退した。レバノンの国軍筋はヒズボッラーにも3名の戦死者が出た、またイスラ
エル側はこの作戦でヒズボッラー兵士数名を拉致したと報じているが、ヒズボッラー
は否定している。

 レバノン政府はもとより、国連もレバノン領内奥深くで行われたイスラエル軍の降
下作戦を「明らさまな停戦違反」と批判、ムッル国防相は「こんな攻撃が続くのであ
れば、現在進展しているレバノン国軍の南部展開を中断する」と警告した。

 ムッルの言い分は、要するにイスラエル軍はヒズボッラーを挑発して、戦闘再開の
口実をつくろうとしているのではないか、ということである。そうなった場合、空軍
の庇護もなく、戦車部隊も持たず、あまつさえ決議第1701号で拡大増派されるは
ずのUNIFIL軍の支援も後述するように期待出来ない状況で、国軍兵士は圧倒的
なイスラエルの火力の前に皆殺しにされてしまうのではないか、と懸念しているのだ。

 一方のイスラエル側は「ヒズボッラーは停戦決議に違反して依然、シリアから武器
を密輸しているので、それを阻止したまで。停戦違反をしたのはヒズボッラーの側
で、イスラエルの攻撃は自衛行動だ」と涼しい顔をしている。

 しかし、この弁明には説得力が乏しい。そもそも、ブダーイはバアルベックより西
方、つまりシリア国境からはバアルベックよりも遠い場所にある。武器密輸の阻止で
あればレバノン・シリア国境付近を狙うはずだ。ブダーイ周辺に拉致されたイスラエ
ル軍兵士が監禁されているのでは、という観測もあるが、これも憶測の域を出ない。

 一方、ブダーイはヒズボッラーの最高議決機関シューラ委員会の重鎮で、ヒズボッ
ラー創設メンバーのムハンマド・ヤズベク師の出身地で、同師の事務所もある。また
イスラエル軍は8月2日にもヤズベク拉致を狙ってバアルベックの病院襲撃作戦を行
っているし、停戦後もオルメルト首相はクネセットで「今後もヒズボッラー幹部の追
跡は止めない」と断言している。さらに、停戦後も依然としてナスラッラー議長以下
ヒズボッラーの首脳は概ね地下に潜伏しているのに対し、ヤズベクだけは18日、ゲ
リラの葬儀に参列して、演説を行っている。

 こう言った事実を並べてみると、19日のイスラエル軍降下作戦の真の狙いはヤズ
ベクの暗殺か拉致にあったとみるべきではなかろうか。

難航する派兵交渉

 いつ崩壊してもおかしくない危なっかしい停戦を維持するためには強力なUNIF
IL部隊の南部展開が不可欠であるが、拡大UNIFILの中核を担うと期待されて
いたフランスが躊躇しているため、増派部隊編成交渉は難航している。

 レバノンの旧宗主国であり、2005年にレバノンからシリアを追い出す上で米国
以上に大きな役割を果たしたフランスは、今度の戦争でも米国と張り合い、一貫して
即時停戦のために尽力するなど、レバノンの庇護者として振る舞った。その中で、自
国軍の派遣方針を打ち出さざるを得なかったのであろうが、本音はどうであろうか。

 フランスは1982年のイスラエル軍レバノン侵攻(「ガリラヤ平和作戦」)とP
LOのベイルート退去後、米、伊両国とともに多国籍軍に海兵隊を派遣し、レバノン
の平和維持にあたった実績がある。しかしこの時は米国・イスラエル寄りのジュマイ
エル政権(当時)と、シリアの支援を受けたPSPやイスーラム聖戦(当時の名称。
現在のヒズボッラーの前身と考えられている。なおパレスチナのイスラーム聖戦とは
無関係)の内戦に巻き込まれ、イスラーム聖戦が敢行した自爆攻撃で兵員58名を殺
害され、なす術も無く撤退に追い込まれた。

 こんな歴史があるから、ヒズボッラーが武装を拒否するレバノン南部に兵員を送る
ことを躊躇するのも無理はない。

 これまでのところ、千名単位の派兵意志を表明している国はいくつかあるが、その
うちインドネシアとマレーシアについては、イスラエルを承認さえしていないためイ
スラエルのボイコットにあっている。またイスラエル、レバノン両国と良好な関係に
あるトルコの場合、レバノン国内のアルメニア人勢力が断固拒絶の立場を示す(アル
メニア系レバノン人は、第一次世界大戦中にトルコで起きたアルメニア人虐殺事件の
際の難民の子孫)など、各国、各勢力の利害関係がなかなか折り合わない。

 レバノン国軍の南部展開が一部始まった以外は、ヒズボッラーの武装解除も、イス
ラエル軍の全面撤退も、そしてUNIFIL部隊の増派展開も、何も実現せずに行き詰って
いる…これが停戦発効後一週間の現状だ。

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安武塔馬(やすたけとうま)
レバノン在住。日本NGOのパレスチナ現地駐在員、テルアビブとベイルートで日本
大使館専門調査員を歴任。現在は中東情報ウェブサイト「ベイルート通信」編集人と
してレバノン、パレスチナ情勢を中心に日本語で情報を発信。
<http://www.geocities.jp/beirutreport/> 著作に『間近で見たオスロ合意』『アラ
ファトのパレスチナ』(上記ウェブサイトで公開中)がある。
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JMM [Japan Mail Media]                 No.389 Extra-Edition2
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【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部(2005年8月1日現在)
【WEB】   <http://ryumurakami.jmm.co.jp/>
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