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http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20060707/mng_____kakushin000.shtmlより転載。
ロンドン同時テロ1年
イスラム社会 広がる不満
犠牲者52人を出したロンドン同時テロから、7日で1年を迎える。自国民による欧州初の自爆テロに、ブレア政権はさまざまな再発防止策を講じてきた。人権軽視の強硬策でテロを封じ込めようとする姿勢は、国内に潜むイスラム過激派を刺激しかねない危うさをはらんでいる。 (ロンドン・池田千晶、岡安大助)
■突然の発砲
六月半ば。ロンドン東部の教会で、イスラム教徒の兄弟が記者会見に臨んだ。包帯で腕をつった兄ムハンマド・アブドル・カハルさん(23)は「何の警告もなく、警官が発砲した。胸から血が流れ、死ぬかと思った」。弟アブル・コヤイアさん(20)も「二階のガラスを割って入ってきた警官に殴られ、一階まで引きずり降ろされた」と怒りを込めた。
ロンドン警視庁は同月二日未明、「爆弾が隠されている」との情報に基づいて家宅捜索。二人を逮捕したが、テロを示唆する物は見つからなかった。弾が急所をはずれカハルさんは軽傷で済んだものの、昨年七月の二度目のテロ後、警官に誤って射殺されたブラジル人男性の悲劇が繰り返されるところだった。
一週間後、警察は二人を釈放し謝罪した。しかし、自爆犯とみられる不審者を射殺しても構わないという指令は撤回していない。
ブレア政権は事件後、容疑者の九十日間拘束やテロ称賛の違法化といった対策を発表。「人権軽視」と批判されながらも、下院の反対で拘束期間が二十八日間に短縮されただけで、今春、新しい反テロ法が施行されている。
■大半無関係
この一年間にテロ容疑で逮捕された人は数百人に上り、ほとんどが無関係だった。
英国内のイスラム社会は約百六十万人。貧富の差や就職差別など、多民族国家の現実に不満を募らせた移民の子どもら一万人以上が過激派の集会に出入り、テロ予備軍は少なくとも数百人に上るといわれる。
世論調査によると、テロの動機として「こうした若者がイラク戦争をきっかけに怒りを爆発させた」と市民の六割以上が考えているが、ブレア政権は一貫して因果関係を認めていない。政府の姿勢に疑問を抱く遺族や負傷者からは、テロの真相究明のため独立機関の設置を求める声まで上がっている。
英ブラッドフォード大学のポール・ロジャース教授は「政府が自らの外交政策を省みず、一方で欧州人権条約から逸脱するような強硬捜査を続けているのは問題。イスラム社会の反発を招き、テロ予備軍を増やすだけだ」と警告している。
■教訓生きず
同時テロは、ロンドンの災害対策にも課題を突きつけた。事件後の調査で、通信の断絶や負傷者の救護体制のお粗末ぶりが明らかになり、通勤通学の足として地下鉄やバスに頼る市民に二重の衝撃を与えた。
消防や病院関係者らの話を基にしたロンドン市議会の報告書で、一番の問題とされたのは地下鉄構内に入った救急隊員と地上職員との連絡が途絶したことだ。地下でも通信可能なデジタル無線システムがなく、災害時に通話が集中してつながりにくくなる携帯電話に頼っていた結果だった。
また災害時の救護計画がないため、応急手当て用の医療器具すらほとんどの駅に配備されておらず、近隣病院への連絡体制も整っていなかった。
近くで爆発のあったキングズクロス駅では、一九八七年に死者三十一人を出した大火災が起きている。報告書をまとめたバーンズ議員は「教訓が生かされていない」と厳しく批判している。
■英同時テロ以降の動き
2005年
7月7日 ロンドン同時テロ事件
21日 2度目のテロ事件
22日 テロ捜査の警官が無関係のブラジル人男性を射殺
8月5日 ブレア首相が急進的なイスラム聖職者の国外追放方針を表明
11日 イスラム聖職者ら10人を拘束したと発表
10月12日 英国の要望で、欧州連合が電話などの通信記録保存規則を決定
2006年
3月29日 指紋などを使うIDカード法成立
4月13日 新たな反テロ法施行
6月2日 家宅捜索でイスラム兄弟の兄が、警官に撃たれる
17日 無謀なテロ捜査に抗議しイスラム教徒約2000人がデモ
28日 テロ容疑者6人を長期間監視下に置いたのは欧州人権条約違反と英高等法院が判決。内務省が控訴
(メモ)ロンドン同時テロ 昨年7月7日午前8時50分ごろ、中心部を走る地下鉄3カ所でほぼ同時に爆弾が爆発、約1時間後にバスも爆破され、乗客52人が犠牲となり700人以上が負傷した。自爆テロ犯4人は英国籍のイスラム教徒。2週間後の21日にも同様のテロ未遂事件が起き、実行犯4人を含む15人が逮捕された。
2006.07.07