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パレスティナ】「拉致」報道に「ミサイル」報道――日本のこと(だけ)ではありません
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投稿者 Kotetu 日時 2006 年 7 月 06 日 19:52:34: yWKbgBUfNLcrc
 

パレスチナ情報センター:Staff Note
2006.07.05

「拉致」報道に「ミサイル」報道――日本のこと(だけ)ではありません

Posted by :早尾貴紀


 ちょっと前から「拉致、拉致、拉致、拉致・・・」と政府が騒ぎ立て、マスコミが騒ぎ立て。そして今度は「ミサイル、ミサイル、ミサイル・・・」と大騒ぎ。日本政府と日本のマスコミが北朝鮮に関して日々垂れ流している、著しく公正さとバランスを欠いた劣悪なプロパガンダのことではありません。あ、もちろんそれも大問題であることは確かです。しかしここは「パレスチナ情報センター」ですので、パレスチナ/イスラエルでのこと。

 6月末に起きた、ハマス系の武装組織などによる犯行と見られる、イスラエル兵一名の拉致事件は、現在も消息情報がなく、また犯行グループによるパレスチナ人政治犯の交換釈放要求もイスラエルから拒絶されたままで、解決の見通しはありません。この間、イスラエル政府・軍は、拉致された兵士が連れ去られたガザ地区のみならず、西岸地区でも広く集団懲罰的破壊活動、ならびに、ハマス系の政治家・活動家の対抗的「拉致」行動(計80名を超える!)に打って出ており、従来からの攻撃・侵攻・占領はさらに深刻化を極め、「ハマス政権転覆」の政治的意図がいっそうあらわになってきています。
 イスラエル政府広報も、イスラエル側の報道も、また大筋そのラインに乗った日本の大手メディアも、こぞって、現在パレスチナで展開されているイスラエル軍による侵攻・破壊が、この兵士拉致事件の結果であるかのような、完全に本末転倒をした筋立てで話を組み立てています。とりわけ6月上旬に相次いだイスラエル軍によるパレスチナ民間人の大量虐殺への国際的非難がわき起こっていた時期だけに、そうした国際世論を逆転させる絶好の奇貨として、拉致事件は利用されてしまいました。


 もちろんその材料を提供したのは犯行グループです。イスラエル政府・軍がそれを利用しない手はないでしょう。
 しかし、報道機関が一方の当事者と変わらないような立場で、一方的なストーリーを垂れ流すというのは、メディアの自殺と言っていい。パレスチナ/イスラエルに関するメディア状況は、それくらいにひどいところまで行っているということが、この拉致騒動のなかでいっそう明確になったと思います。
 もちろん日本の大手新聞などは、第三者的に両論並記を心掛けていることでしょうし、そのことで客観性を保てているつもりでいるでしょう。しかし、その結果つくられた報道の「型」が、「暴力の連鎖」「報復合戦」。しかも、その「発端」はつねにパレスチナ側の自爆やカッサム弾ということにされ、それがイスラエルの「報復」を誘い、「和平の枠組みの崩壊」に至る、というストーリー。
 しかし、パレスチナの武装党派が行使する武力と、イスラエル軍が行使する武力が、質的にも量的にも差がないかのように報道することが、いったいどう客観的なのか。第一に、パレスチナ側での、統制のきかないセクトが、民意を反映した自治政府の政策をむしろ阻害するという意図から行使する散発的な武力行使と、イスラエル側での、国民の総意に沿った政府の指揮下で動く国軍(IDF)が、政権の意向で行使する組織的大規模な破壊行為とが、どう同じなのか。また、戦車の一台もなく戦闘機や攻撃ヘリの一機もないパレスチナの武装セクトが、ガザ地区からヒョロヒョロと撃ってどこに落ちるか分からない手製ロケットを飛ばしたり、かろうじて一人二人が壁を越えてイスラエル側で自爆することと、イスラエルの国軍が膨大な軍事予算でもって最新鋭の戦闘機や巨大な戦車を部隊単位で揃え、何の障害もなく狙われる危険性もなくパレスチナ側に侵入し、精度も破壊力も最高水準のミサイルや砲弾を好きなときにいつでもぶっ放し、活動家とおぼしき「標的」も周囲の多数の民間人もかまわず吹き飛ばすことの、いったいどこが同じなのか。
 実行責任の所在も異なれば(一党派か政府か)、規模も比較にならないでしょう(死傷者数は数十倍もの開きがあります)。また、鶏が先か卵が先かという議論でうやむやにすべきではないことですが、パレスチナに対する占領があり、日常的な支配の暴力があるという大前提を無視して、「紛争」という扱いをするところに、メディア・記者たちのそもそもの無知・無理解があります。見えにくい毎日の占領の暴力を報じずに、ロケットが着弾したり自爆があるとそのことから報じ始める。これが、マスコミのつくりだした「暴力の連鎖」「報復合戦」「和平崩壊」の真相です。

 もちろん、ほとんどが荒野に落ちるとはいえ、ときおりロケットが届くイスラエル側のスデロット市の住民にとっては、現実的な脅威であることは確かです。自爆攻撃も、巻き込まれる可能性は交通事故をはるかに下回るとはいえ、その可能性がゼロではない以上、心理的圧迫もあるでしょう(自爆の多発した02〜03年の時期は僕もエルサレムに住み、目の前で爆発を目撃したこともありますので、身体的に理解しているつもりです)。これらが民間人を標的とした無差別の攻撃である以上、当事者や政権がそれを「テロ」と非難する権利もあるでしょう。
 しかし、メディアが、一方のイスラエル軍の大量破壊行動を「正規の軍事作戦」として正統性を与えるかのような扱いをしつつ、パレスチナの党派の暴力のみを「テロ」と名指す。しかも、イスラエル側は、パレスチナの一党派の暴走を自治政府の管理責任に帰し、「報復」と称する攻撃を加え、あまつさえ住民全体に被害の及ぶ集団懲罰的大量破壊さえも行なうが、マスコミの「暴力の連鎖」報道は、結果的に「正規軍」の武力行使にのみ正当性を与えます。これがどれだけの誤解と偏見を世間に植え付けているかを想像すると、マスコミの責任は甚大です。

 こうした報道の問題、というか、マスコミが政治的プロパガンダに荷担をしている構図が、今度の拉致事件報道で如実に表れました。拉致を正当化するわけではありませんが、イスラエルの軍事拠点に対する攻撃で、「兵士」を拉致し「捕虜」にしたわけですから、ロケットや自爆とは異なり、当事者らにとっても「テロ」と呼ぶ根拠がありません。にもかかわらず、メディアの報道は相変わらずだったばかりか、6月に数十人の大量死者を出したイスラエル軍の民間人空爆を、一挙に帳消しにするかのような筋立てです。
 しかも、拉致されている当人には申し訳ないけれども、政治犯としてイスラエルに囚われているパレスチナ人は9000人に達します。そこには400人の未成年と100人の女性が含まれています。そのほとんどは、家族らからすれば、「拉致」されたも同然です。きちんとした取り調べや明確な刑期もないことも少なくない。解放される見通しのない拉致と変わりがありません。もしたった一人の兵士の拉致が、イスラエル軍にパレスチナ侵攻の権利・正当性を与えるのであれば、9000人の拉致(厳密には兵士に相当する武装活動家もいれば、投石をしただけの子どももいれば、まったくの冤罪の市民もいるでしょう)は、パレスチナ側にどのような「暴力の正当化の論理」を与えてしまうのでしょうか。
 もちろんだからといって何をしてもいいとは言えません。けれども、イスラエル政府の論理とそれを是認する偏向報道は、結果として暴力を正当化する論理を再生産するのです。イスラエルとメディアが暴力を煽動していると言っていい。

 そして昨日(7月4日)起きた、ガザからアシュケロン市中心部へ、初めて一発だけ到達したロケット攻撃。イスラエルのメディアは一斉に大騒ぎをしました。
 これまではガザ地区から最も近いスデロット市(せいぜ5〜6km)にまでしか届きませんでした。その倍は離れているアシュケロン市(ガザから12km)も狙われたことがしばしばありましたが、これまではそこまで到達せず手前の荒野に落ちていました。それが昨日は初めて市内に着弾したのです。建物の無人の駐車場に落ちたため、幸い死傷者は出ませんでしたが、もちろん落ちた時間・場所次第では、どうなっていたかは分かりません。
 実状としては、「たまたま届いた」ということだと思われますが、今後飛距離と精度を増してくれば、確かにこれまでと比べれば、警戒度が一段上がることは必然でしょう。

 しかし、です。これもまた不謹慎な言い方になるかもしれませんが、たかだか一発が着弾しただけのことです。それがイスラエルでは、毎日のように「誤爆」だ「巻き添え」だと言ってガザ地区で殺されている、無実のパレスチナ人の政策的虐殺を「帳消し」にするかのような論調で報じられているのです。
 今日5日の現地報道(ハアレツなど)ではこういうフレーズが目につきます。
「オルメルト首相は、このアシュケロンへの着弾が、対パレスチナ政策で前代未聞の大規模な帰結をもたらすだろうと述べた。」
「このアシュケロン攻撃で、軍事作戦目標は、人質兵士の解放から、ハマス政権壊滅へと完全に切り替わると見られる。」
「弾頭に生物・化学兵器が取り付けられるようになれば、パニックになるだろう。そして、今度はガザからではなく西岸からも飛ばされるだろう(テルアヴィヴにより近い)。」
「この攻撃が意味するのは、もはやイスラエルは、レバノン・シリア・イランも含めた、ミサイル包囲網のなかに置かれているということだ。」
などなど。

 200発とも言われるイスラエル自らが保有する核ミサイルのことも顧みず、自らの持つ圧倒的軍事力とそれが具体的に日々生み出しているパレスチナの人間や施設への被害も顧みず、自らがもたらしている政情不安や想像を絶するパレスチナ人への心理的圧迫をも顧みず、一発の着弾をもって、あたかも自分たちこそが被抑圧者であり被害者であると、堂々と振る舞える権利を手にしたかのような、ヒステリックな論調です。
 兵士拉致事件に続いて、今度はロケット着弾。比較をすることさえも愚かしいほどの圧倒的不均衡を、蟻の一穴から一挙に大逆転させる暴論が、メディアではまかり通っています。

 もちろんここでは、イスラエルのことを書いています。
 しかし、「拉致」のことも含め、そして今日の北朝鮮のミサイル実験のことも重なり、日本の状況、とくに日本の政府プロパガンダと報道の状況とに、重ねて読まれた方も少なくないと思います。僕も実際にそれを感じています。まさに「アメリカの側」に軍事勢力的に組み込まれてしまっているイスラエルと日本が、世界のリアリティからはるかに取り残されつつあることを、「拉致」と「ミサイル」(の報道)によって痛感させられています。なんとかして、メディアの偏向をたださなければと考えています。

http://palestine-heiwa.org/note2/200607051709.print

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