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パレスチナ情報センター:Staff Note
2006.06.23
イスラエルからファタハへ武器供与――その銃弾に込められた悪意
Posted by :早尾貴紀
イスラエルの右派英字紙『エルサレム・ポスト』が報じたところによると、イスラエル政府がファタハの武装部隊に対して3000丁のM-16ライフル銃と300万発の弾丸を供与した(6月15日に引き渡し完了)。これは、厳密に言えば、「イスラエルの承認によって、ヨルダンから行なわれた」ということだが、実際にはイスラエルの承認が決定的であり、事実上イスラエル政府がファタハに対して武器供与をすべきと判断した、ということろにポイントがある。
常識的に考えて、こうしたニュースは人を当惑させるものであり、政権党にあるわけではない一党派にすぎないファタハの武装部門に対して武器供与をするという行為は、パレスチナ内部の「反政府活動」(つまりハマス内閣の打倒)を支援しているとしか解釈しようがない。そして実際そういう性格のものであると見て間違いはないと思われる。
この行為に対して、武器の受け渡しを行なった当事者が正当化する論拠は、「オスロ合意」だ。オスロ合意によって発足したパレスチナ自治政府警察は、軽武装(ライフル装備)をすることが認められており、イスラエル政府による(ヨルダンとエジプトを介在させた間接的)武器供与はこれが初めてのことではない、と。したがって、とりたてて騒ぐことではないはずだ、ということらしい。
加えて、オスロ合意はあくまでファタハが主導するPLOと結んだのであり、PLOに参加していないハマスに対しては武器供与をする関係にはない、とも言いうる。
だが、この論拠は成り立たないだろう。
こうした武器供与は、ハマスが政権獲得をしてからはもちろん初めてのこととなる。そしてハマス内閣が成立した以上は、パレスチナの治安警察権は形式上はハマスがその指揮を執ることとなる。しかし、ファタハを率いるアッバース大統領側が治安警察権の譲渡を拒否し、武装部門をそのまま継続的にファタハの指揮下でその任に当たらせようとしていることから、独自に警察任務を全うしようとしたハマス側の武装部門と衝突が生じているのだ。
背後にアッバース大統領がいるとはいえ、政権を離れたファタハの軍事部門(=旧治安警察隊)は、ファタハの指揮下にあるかぎりは「私設軍隊」にしかならない。そしていまや政府の治安機関に対して武装闘争をしているその私設軍に対して武器供与をするということはつまり、イスラエルが「反政府活動」を支援している、ということを意味する。ハマス側が、「パレスチナに内戦を引き起こそうとしている」と非難するのも当然と言える。
もう一点、そうした懸念を増長させるものとして、オルメルト・イスラエル首相による事実公表がある。外遊先で、あえてマスコミに対してこの事実を発表したのだ。もちろんハマス側は不信感をもつであろうし、また世間的にはファタハがイスラエルのパートナーであるかのように映る。ファタハ側は、イスラエルとの協力関係が表面化することについてはアンビヴァレントで、自分たちの代表性が強まると同時に、しかし状況次第では「民族の裏切り者」というレッテルを貼られかねない。
あえて世界の注目を浴びる形でこのことを公表したオルメルト首相に、「内戦誘発」という「悪意」を指摘するのはたやすいし、むしろあかさまにそれを意図していると見ていい。だが、あまりに露骨すぎるために、武器を供与されたファタハの内部にさえ、オルメルト自身による暴露行為には反発する声もある。
また、イスラエルが内戦を誘発するために、かつて(オスロ以前)はハマスを「支援」していたことは再度強調されるべきであろう。ファタハによる世俗的抵抗運動が広い支持を集めつつあったときに、それに競合する宗教勢力としてのハマスに肩入れをすることで、統一的な運動となることを阻止、運動の分断を画策した。(スタッフノート ハマスに対するイスラエル/アメリカのダブル・スタンダード 参照。)
そのことを考えれば、今度のファタハへの肩入れは、イスラエルの利害からは一貫したものとして位置づけることができる。もちろんこれは、 ガザ空爆の真意 (スタッフノート)にも関連している。
日本政府も含めた国際社会は、こうした武器供与が、和平推進に反する行為ではないかと、また法的に見て問題がないかどうかと、疑念なり懸念なりを強く出していくべきではないだろうか。
http://palestine-heiwa.org/note2/200606230346.print