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名前も家も捨てた 正式政府発足イラクの闇 バグダッド大教授80人犠牲 ネオコンは、狙いを達した 【東京新聞】
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投稿者 愚民党 日時 2006 年 6 月 09 日 15:06:50: ogcGl0q1DMbpk
 

名前も家も捨てた
正式政府発足イラクの闇


 先月二十日、イラクに正式政府が発足した。国連が策定した国家再建の最終段階だが、歓喜の声は聞こえない。むしろ民族、宗派間の抗争が激化し、民族浄化の様相すら呈している。首都の死体安置所に運び込まれた遺体は、今年に入り六千を超えた。治安崩壊のみならず、汚職は蔓延(まんえん)、国家分裂の溝は一段と深まっている。「ザルカウィ容疑者殺害」では照らし切れない闇が覆っている。 (田原拓治)

■宗派わかる名襲撃され『死』

 イラクはどうなっているのか。現地からの電子メールにはこう記されていた。

 「首都の登記所には、毎日、改名を望む人たちの長い列ができている。名前で各自の宗派が分かり、それが死につながるからだ」

 スンニ派の「オスマン」はシーア派の「フセイン」へ、逆なら「アリ」が「オマル」といった具合だ。

 二月下旬、中部サマラのアスカリ寺院(シーア派聖廟(せいびょう))が爆破され、その後、十日間で約五百人が宗派テロの犠牲になった。余波は首都バグダッドにも伝わった。シーア派住民の多いカラダ地区の一人は「シーア派は開戦後、スンニ派の攻撃に三年間耐えてきた。今度はわれわれの力を見せつけてやる」と語ったという。

 その結果、首都の中央死体安置所には一日、四十ほどの身元不明遺体が運び込まれている。大半はスンニ派だ。遺体には電気ドリルの穴があるという。拷問のあとだ。英ガーディアン紙によると、安置所は保健省の管轄。同省はシーア派の有力一派ムクタダ・サドル派が握っており、遺体確認に来るスンニ派住民はここでも「テロリストの仲間か」と嫌がらせを受ける。

 逆襲もある。首都南部のドーラ地区はスンニ派抵抗勢力が強い。ここでは路上に放置された遺体に誰も触れない。メールは「遺体はシーア派で、それらを片づけようとするとシンパとみなされ、抵抗勢力に襲われるからだ」と続いた。

 妻がシーア派、夫がスンニ派というカップルも首都では珍しくなかった。それが「かつてはシーア派と仲の良かった人も、いまは反シーアで闘う。報復のためだ」(スンニ派の別の住民のメール)に変わった。

 首都で、シーア派のイラク・イスラム革命最高評議会(SCIRI)が握る内務省の警官、特殊部隊がスンニ派狩りをし、スンニ派抵抗勢力が報復してきた。

 これが住民レベルまで下りてきた。改名もそのためだ。移民難民省によると、住居を捨てた避難民は約十万人。親族や友人宅に身を寄せた人々は含まれていない。シーア派聖地ナジャフには、首都からの避難民のテント村が広がった。

 五月中旬には首都南東で拷問あとのあるパレスチナ人二人の遺体が見つかった。シーア派組織が犯行を声明したが、パレスチナ難民は従来、イスラム、アラブの大義から不可侵だった。

■バグダッド大教授80人犠牲

 さらに宗派抗争か否か、不透明な虐殺がある。大学教授など知識人や医師を狙った殺人だ。民間団体「B・ラッセル・トリビューナル」によると、すでに三百人から千人が殺された。

 米国の占領政策に批判的だった人物が多いとされ、バグダッド大学だけで八十人の教授が犠牲になっている。カナダに避難した物理学者イマド・カドゥーリ氏は「新しい世代を教育する者がいない。国家再建の夢はついえた」(衛星放送アルジャジーラ)と語った。

 二十日に発足した正式政府の眼前には、治安回復や汚職一掃、国家分裂の回避や経済再建と課題は山積みだ。しかし、どの課題にも明るい展望はみえない。

 シーア派のマリキ首相は「民兵を解体せねば、内戦は避けられない」と述べたが、住民は自警団を組織するか、シーア、スンニそれぞれの民兵(警官を含む)に頼る傾向を深めている。

 新規のイラク軍や治安部隊は二十万人を数えるが、大半は給与目当てで百十五部隊のうち、ゲリラと戦闘できる機能と気概がある部隊は一つのみといわれる。

 汚職も各派の群雄割拠の結果、蔓延している。アラブ紙ザマン・イラク版には「事業の落札は価格や質では決まらない。例えば青年スポーツ省はSCIRIが握っている。そのメンバー以外は落札できない」という業者の指摘が載った。

 同紙によると、石油輸出ターミナルのある南部バスラでは、施設防衛の治安部隊も巻き込み、民兵組織がアラブ首長国連邦に向けて石油を横流ししている。

 それが経済再建をむしばむ。パイプラインの防衛隊にも抵抗勢力が潜入(二月に一部摘発)し、昨年の破壊活動は九十九件。それに横流しが加わり、戦前の日量二百五十万バレルの原油輸出量が、昨年末ではわずか百十万バレルに低迷している。

 民族、宗派の溝も広がっている。クルド人主流の北部アルビルでは四月下旬、市がクルド人の保証人なしにアラブ人が市に入ることを禁じた。シーア派主流の南部では、複数の州がイラン政府と独自に貿易や旅行者関係の合意を結んだ。

 一方、スンニ派抵抗勢力はどうか。残虐行為や外国人義勇兵の存在などで、不評のアルカイダ系組織を他の抵抗組織が一月に攻撃。ザマン紙によると、敗北したアルカイダ系は先月、殺害が八日に伝えられたヨルダン人のザルカウィ容疑者に代え、イラク人のアブドゥルハーディ・イラキ氏を新司令官にすえた。

 さらにイスラム軍など大組織に寡占化が進み、残虐な斬首(ざんしゅ)ビデオの放映禁止や相互非難の自重が徹底された。北西部アンバル州では貨物車両の通行許可証の発行といった一定の自治活動や組織の文書、ビデオの販売もなされているという。

 ザルカウィ批判や失脚説は昨年来、アルカイダ内外で流れており、同容疑者の殺害が「テロとの戦い」の画期とは考えにくい。

■米軍は各派に翻弄される

 ただ、抵抗の方向性はイランの核開発問題による同国と欧米の緊張を交え、微妙に揺れ始めている。従来の反米一辺倒から、シーア派との抗争激化で、あるメンバーは「シーア派の背後にはイランがおり、われわれも米軍と反イランの戦闘に立ち上がる」と話している(メール情報)という。

 逆にシーア派各派は米国と齟齬(そご)をみせ始めた。三月下旬に米軍が首都のシーア派・ムスタファ寺院を急襲し、三十七人を殺害した事件では各派が協調し、米軍を非難。昨年十一月の西部ハディーサでの米海兵隊による住民虐殺では、マリキ首相が「恐ろしい犯罪」と断罪、真相究明を迫った。

 昨年四月の移行政府設立以来、主役はイラクの各派に移り、米軍は各派の動きに翻弄(ほんろう)されている。米政府も泥沼からの撤退路を探っており、それが四日の額賀防衛庁長官とラムズフェルド国防長官の会談で、米側が陸自の駐留継続を求めなかった背景にはある。

 親イスラエルで、イラク戦争を主導した米国の、イスラエルの脅威だった旧政権の排除で、その狙いを達した。イスラエル紙イディオト・アハロノトによると、北部クルド地区には同国の民間企業による秘密訓練基地も設けられた。

 ブッシュ政権が掲げる「テロとの戦い」の進展はどうか。米国が「テロ国家」と名指しするイランはイラク第一の貿易相手国で、近く電力供給を始めるという。タリバンが攻勢に転じたアフガニスタンでは、イラクの経験から導入された自爆テロや道路脇の爆弾が猛威を振るっている。

<デスクメモ>
 宗派対立と報復の応酬に、市民の声は「少なくとも以前の自動車爆弾は宗派で人を分けなかった」(バグダッド・バーニング)。爆弾の無差別殺りくをも上回る最悪な事態というのだ。自分の幼少時、泥沼化するベトナム戦争をなぜ世論で止められないのか不思議だった。無関心が平和の敵だといまは分かる。 (学)


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060609/mng_____tokuho__000.shtml

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