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『戦争報道の犯罪―大本営化するメディア』を読んで(JANJAN)
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投稿者 gataro 日時 2006 年 5 月 28 日 22:57:51: KbIx4LOvH6Ccw
 

http://www.janjan.jp/book_review/0605/0605230855/1.php?PHPSESSID=5d57ee1a60d2d510b14c00c92213a71f から転載。

『戦争報道の犯罪―大本営化するメディア』を読んで
2006/05/28


 一読して、本書より強い印象を受けた。小泉政権5年間は、日本国、日本の大多数の人間にとって、私は、決して喜ぶべき時代ではなく、小泉首相登場以前に比し、遥かに日本のマスコミは権力に対する監視という役割を忘れたと痛感した。顕著な一例を上げれば、05年8月の郵政民営化法案の参議院否決を受けて。敢えて行われた衆議院解散の後、「小泉劇場」に踊るマスコミがあった。

 また、本書は多くの例証を挙げ確実な筆致で、戦争と排外主義に向かう現在日本社会のムードを、メディアが先導している様を明白にした。更に、極右政治家とNHKの結託、及び、民報TVや朝日、読売等々大新聞の堕落も顕著である点や、自衛隊による報道管制、イラク人質家族へのメディアスクラム等も白日に曝した。

 イラク開戦前後のアメリカの状況等々の分析と批判等も適切・明瞭になされている。世界各地の多くの人々との適切な情報交換、行動力、情報収集力、分析力、加えてジャーナリストとしてのモラルに裏づけられた著者の労作である本書を、現在、大分岐点に生きる日本人の可能な限り、多くの人々に読んでいただきたいと切望する。

0・0 崩壊するジャーナリズム

 第2節標題<安倍普三氏の飯塚秘書を匿名にする大新聞>で、今年1月17日衆院で行われたヒューザー小嶋社長の証人喚問のTV中継で、彼の口から安倍氏と飯塚氏の名前が飛び出した件に触れており、続報が無く、総体的に大本営報道的であり、報道管制が行われていることを指摘する。現実に、小嶋氏の逮捕がごく最近で全く遅れた。現在と次期政権が負う痛手を避ける為、約5ヶ月間小泉政権が司法に掣肘を加え続けたとも疑われる。この他<ネット新聞で記者クラブ解体に期待><「保守」の矛盾>や著者に対する週刊誌虚偽記事等の記述で、現在ジャーナリズムの崩壊の進行状況がよく判った。

T 戦争を煽る日本のメディア

 1・1 権力監視機能を果たせないメディア企業;本章の第1節表題<ファシスト小泉首相とメディア>で、小泉政権の下、日本が1930年代と違う新たな「ファシズム国家」になった事やその状況分析、<批判的な海外のメディア>での敗戦直後の報道界等に加えて、昨年7月の日高六郎氏の言と、著者の闘う決意表明等は記憶に焼きついた。

 1・2 敗戦60年目の権力とメディア;<敗戦後60年の八・一五>記述の大部分は肯定し得る。しかし、小泉氏の靖国参拝をパフォーマンスとした点、私は、米国が企画・設計した極東戦略における駒として操られたと考える。<海外メディアが見た八・一五>や前長崎市長の「原爆容認」発言関連の問題、ウトロに関連する記述等も重要であり、また、他にも触れたい事項が多々あったが割愛する。

 1・3瀕死の日本ジャーナリズム;<参戦煽る日本のメディア>日本政府要人達の大嘘をメディアは無批判。逆に国民を欺瞞。政府が経済も支援しつつ、ブッシュ政権と相乗・暴走・事故死等々、私の心配の種でもある。本章は頁数も多く、メディアの権力との癒着や歴史認識の甘さ等内容豊富。特に、著者の将来有為の大学院ゼミ生4名の「小泉首相による靖国神社参拝と日本ジャーナリズム」と題する学会発表で、日本メディア本来の機能が麻痺した現状の明確化は貴重。

U 戦争時代のメディア状況

 2・1 NHKへの政治家の介入と番組改ざん;<明らかになった政治家の介入>、<利用し合うNHKと自民党>や<萎縮する朝日>等々で安倍、中川昭一両氏、他の自民党政治家や海老沢会長等NHK幹部が本来の職責を大きく逸脱し、歴史改ざん等で、国民を裏切っている状況、及び言論の自殺行為の実態を如実に把握し得た。本章で俎上に上った、京大中西輝政教授は、私も長く所属した日本国際政治学会員である。学問に生きるものは相互批判・理論の研鑽は必須である筈である。従って、敢えて言おう―教授は、理論的構築を行うのに最も重要な基本的な部分でも、学問的弱点を持った学者であると私は思っている。

 2・2 イラク派兵と広告;<戦争国家の新聞広告><派兵煽る大学広告><新聞広告の倫理>等で、市民有志が04年2月27日、小泉首相を、刑法93条私戦予備罪で東京地裁に刑事告発をした事実や同志社大学の広告に自衛隊のイラク派遣全面肯定の主張が掲載等諸々に纏わる事情がよく判った。同大は日本新聞協会の広告掲載基準とも明確に逸脱する。リベラルな、同大の校風は何処に行ったのか?私は同大出身、徳富蘆花の『思い出の記』及び、伏字の『謀反論』を太平洋戦争開始前中学初年級、戦後に無伏字の本を読んだ。前者でジャーナリズムの魂に、後者で絶対平和主義の信念にうたれた。

 2・3 日本政府の報道管制;<報道機関に誓約書を書かせていた自衛隊><検閲のようなメディア規制><自殺行為に当たる「暫定立ち入り証」>や<メディアをなめきった自衛隊>等表題で明瞭。権力に屈したメディアと人間性横溢の箕輪登氏の対比の妙あり。

 2・4 イラクでの拘束事件で取材陣が殺到;<香田さんの家族を襲った集団取材><誤報により殺害された可能性も><報道の警備費まで請求><香田さんの志を受け継ごうとする若者たち>等の表題で内容明瞭。心傷む記述が多いが、本章、最終頁の香田さんの遺志を継ぐ世代の記事は心強い。今、メディアは負の存在価値有るのみや?

V 戦時下のアメリカとメディア

 3・1 米国からイラク侵略戦争を見る;<アメリカで迎えたイラク侵略の開始>で03年3月9日〜4月13日の米国滞在で、開始からバグダット占拠迄の米国民の動静と、主要マスメディアを読んだ著者の体験は貴重であり、米ジャーナリズムの死滅・腐敗に関する言及は説得力ありと思う。<米国は「カルト」の国><米メディアの戦争犯罪><アルジャジーラ・テレビ特派員を殺害><米軍の記者殺害を調査><ジュネーブ協定違反と非難><独立ジャーナリストの活躍><封殺される良心的記者>等の各節標題を見ても、著者の「イラクの民主化の前に、米国の民主主義の衰退をどうするべきかを考えよ!」等のメッセージが伝わる。ジャーナリストの持つべき健全な懐疑論は米国で死滅寸前(日本も同様)と私は思う。

 3・2 「デモクラシー・ナウ!」を訪ねて;<活発な独立系メディア><ジャーナリストの殺害について><米国が世界中の右翼勢力を支える><独立したジャーナリストとして>等で、米国で非常に困難な中にも、独立系のジャーナリストの活躍が紹介された。特にエミリー・グッドマン記者が、反戦記者としての、万人が真似出来ない活躍振りに心を打たれた。

 3・3 ニュ−ヨークタイムズ記者 クリス・ヘッジスさんに聞く;<二冊の本の紹介から><恥ずべき米国の戦争報道><戦争の要素としてのナショナリズム><軍によって殺害されるジャーナリスト><戦争はドラッグだ>等の標題で内容がよく判るであろう。最前者に付き触れる。ヘッジス氏の著書の最も主要なメッセージ‐「戦争は空虚・虚構であり、政治家による大衆と兵士への裏切り」。

 3・4 イラク占領で自壊する米国;<二年半ぶりに訪れた米国><中東分析の責任者が政権批判><ブッシュ氏を教えた霍見教授><フォックス・ニュースと米国ネオコン><日本メディアは米国以下>の標題のみでも想像されよう。霍見教授のブッシュ氏の学生時代・現在の本人と、その背後にいるネオコン更には小泉氏に対する批判は適切で痛烈と思う。また、フォックス・ニュース等の逸脱と、それを上回る昨年夏以降の日本メディアの、犯罪行為ともいい得る行為を終了させなくては、日本のみならず、世界の前途は極めて暗いと思う。

 終わりに私独自の思いを述べたい。私の専門は理工学系(別途、早稲田第二法学部卒)だが、早高2年(1974年)より早大理工の5年間、早大寮で起居を共にした友人達の多くがジャーナリストになった。また、父の若い時の出会いにより、戦後の朝日新聞再建を責任者の1人として担ったK氏と、1980年初頭に亡くなるまでお付合いが有り、お宅にしばしば伺った。氏の現役時代、東京本社にも何回かお邪魔し、1956年頃と記憶するが、5年程前に読んだ『ものの見方について』の著者、笠氏にもお会いした(氏はK氏より少し若年であり、太り気味だが、精悍な感じで、以後10年程でご他界とは当時は想像も出来なかった)。往時に比し、現在、本書指摘の如く、極少数を除き多くが記者本来の使命感を欠如し、社会の木鐸たる気概無し、と断じ得る。

 今回、感想文作成に当たり、関連書籍を何冊か参考とした。春原昭彦著『日本新聞通史』―特筆すべき事が多い中でも、昭和初年軍部の台頭への新聞の抵抗、反ベトナム戦報道等々は銘記すべきである。M・クロネンウエッター著・渡武達訳『ジャーナリズムの倫理』―フリーランサー、1988年の書。専門的研究書でなく、メディア教育の優れた教科書である。現日本ジャーナリスト諸氏はこの書物をも味読の要ありと考える。駒村圭吾著『ジャーナリズムの法理』―非常に豊富な内容の書籍である。敢えて「現代社会の危機は<私的領域における善の喪失>にある。ジャーナリズムの批判精神、及び表現の自由の公共的使用にとって、最も深刻な危機を呼ぶ」なる著者の洞察を挙げる。

 さらに、2001年7月20日発行のこの書籍の最後に、ネット新聞等未来のジャーナリストの可能性に関して、未完ながら触れている。その他門奈直樹著『現代の戦争報道』や鎌田慧著『反骨のジャーナリスト』もこれを機会に読み興味を抱いた。今回は良いチャンスを得たと感謝している。

(中村孔治)

     ◇

『戦争報道の犯罪 大本営発表化するメディア』

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