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http://www.bund.org/editorial/20060605-1.htm
破綻したイラク占領
ゆらぐアメリカの一極支配
アメリカ・ブッシュ政権の支持率が急落している。
5月12日付ウォールストリートジャーナルは、ブッシュ大統領の支持率が過去最低の29%に下落、不支持は71%と報じた。これまで大統領選後一年あまりで支持率30%を切ったのは、ウォーターゲート事件が発覚して辞職したニクソン大統領しかいない。
CBSの世論調査でも、ブッシュ政権のイラク政策に対する支持率は29%、米軍の撤退を望む声は70%近くにのぼっている。
イラク新政権の欺瞞
5月20日イラク国民議会は、シーア派のヌーリ・マリキ氏を新首相に指名し、フセイン政権崩壊後初の正式政権が発足した。
ブッシュ大統領は、「平和を望む多くのイラク人にとって新たな時代の始まりになる」「転換点だ。テロリストは自由と正統な政府と戦うことになっている。米軍は補足的な役割になるだろう」と強調した。
しかし総選挙後5ヶ月を要したにもかかわらず、最重要ポストである内相と国防相を選出できないまま見切り発車したのが新政権の実態だ。イラク現地では、実情を無視した性急な組閣に対し、「組閣しているのはマリキなのか、米国なのか」との批判があがっている。
強引な新政権発足の背後には、11月の米連邦議会中間選挙を前にイラク統治の成功を演出したいブッシュ政権の強い圧力があった。「補足的な役割」になるはずの米軍は、今後数十億ドルの巨費を投じ、14の永続的基地と約100カ所の基地を建設する。イラクの民主化と安定のためにではなく、イラクの石油資源を支配するために米軍は居座り続けようとしているのだ。
しかもイラクの治安状況は悪化するばかりだ。既に米軍人の死者は2500人近くにまで増加している。新政権が発足した5月20日、首都バグダッドではシーア派住民を狙った爆弾テロで19人が死亡、58人が負傷した。
イラク支配が破綻しているだけではない。イランの核開発問題でも、ブッシュ政権は窮地に追い込まれている。
5月8日には、核開発問題でブッシュ政権と対決姿勢を強めているイランのアフマディネジャド大統領が、「ブッシュ米大統領への書簡」を公開した。「慈悲と憐れみ深くあまねき神の御名において、アメリカ合衆国大統領ジョージ・ブッシュ殿」と題されたこの書簡の中では、ラテンアメリカ、アフリカ、そしてパレスチナなどにおける貧困や人権抑圧を指摘。「『テロとの戦争』をスローガンとし、統一された国際社会、すなわちキリストと地上の有徳の人々の統治する社会を確立すると言いながら、もろもろの国を攻撃されるがままにして良いのでしょうか」と問いかけている。
ブッシュ政権は、この書簡を無視黙殺しているが、5月10日、インドネシアで開催された「イスラム開発協力会議」では、インドネシアのユドヨノ大統領がイランの核エネルギー開発は平和目的のものであると言明して、イランを擁護する姿勢を明確にしている。
ブッシュ政権は国際社会でますます孤立しつつあるのだ。
盗聴は憲法違反
イラク戦争の是非とともに、今アメリカ国内で大問題となっているのが、「テロとの戦い」を大義名分にブッシュ政権下で推し進められてきた非合法の国民監視体制だ。
昨年12月、米国家安全保障局(NSA)が、令状なしに電話を盗聴していることをニューヨーク・タイムズが報道。今年5月に入り、USAトゥデーが、NSAが同時多発テロ以後国内電話の通話データを記録し、データベース化していたと暴露した。
ブッシュ大統領は、USAトゥデーの報道に対し、「われわれは罪なきアメリカ人の個人情報を無差別に収集したりはしない」と弁解したが、既にサンフランシスコのプライバシー擁護団体が訴訟を起こしている。
この訴訟のなかで、ベライゾン、ベルサウス、AT&Tなどの大手通信会社が、犯罪やテロ関連の容疑者だけでなく、何億人もの顧客の通信データをNSAに提出していることが判明した。プライバシー擁護団体EPICのマーク・ローテンバーグ氏は、「米国民の多くが、NSAが法を犯していると感じ始めている。同時多発テロによってさまざまなことが変わったと認識しているが、憲法を無効にすることに同意した覚えはない」と批判。
『ニューズウィーク』誌の世論調査では、53%のアメリカ国民がNSAの通信記録収集を「プライバシーの侵害」「行き過ぎ」だとして危惧を抱いている。
「テロとの戦い」の名の下で、先進国で加速化する人権侵害状況に警鐘を鳴らすため、5月23日、国際人権擁護団体、アムネスティ・インターナショナルは「2006年版年次報告」を発表した。報告ではアメリカやイギリス、その同盟国において深刻な人権侵害が起きていると厳しく批判。「05年は、アメリカの『対テロ戦』を名目とした違法な拷問や無制限拘束、国境を越えた秘密移動などに、数多くの同盟国が手を貸していることが明らかになった年だった」と警告している。
共謀罪は社会を窒息させる
日本も例外ではない。国会では、「共謀罪」新設を核とする組織的犯罪処罰法改正案を巡り、与野党が激しい攻防を繰り広げている。
そもそも共謀罪は、どんな行為を処罰しようとしているのか? 与党が提出している修正案では、「団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者は、その共謀をした者のいずれかにより共謀に係る犯罪の実行に資する行為が行われた場合において、当該各号に定める刑に処する」とある。
近代刑法の祖・ベッカリーアは、『犯罪と刑罰』のなかで、「犯罪の尺度は犯罪によって社会に与えた損害の程度による」「法律はたんなる意思を罰することはできない」と明確に述べている。共謀罪が成立すれば、犯罪の謀議、「たんなる意思」そのものが処罰の対象となる。
さらに、「団体」とは何を指すのかも問題だ。与党修正案では、「共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織(指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体をいう)により反復して行われるものをいう」と規定されている。
「団体」規定を拡大解釈すれば、あらゆるNGOやNPO、サークルやボランティア活動にまで適用可能だ。こうした批判に対して自民党は、「共謀罪をめぐる最近の一部マスコミの指摘について」と題する反論を発表している。
そこでは「アメリカでは現実に組織犯罪ではなく反戦活動家に適用されたり、マフィアでもないものに適用されたり、濫用されている。日本も濫用を防ぐためには、適用範囲を『暴力団』『テロ組織』とだけはっきり書いて、それ以外の団体には一切使わないようにしなければならない」と、与党案を批判する意見を紹介。その上で対象となる団体は、「共同の目的が重大な犯罪等を実行することにある団体」に限定していると述べている。
しかし共謀罪が適用される犯罪は、殺人や強盗といった重大犯罪だけではない。日常的に起こりうる619もの犯罪が共謀罪の対象になっているのだ。「重大な犯罪等を実行する」団体にしか共謀罪を適用しないというのは、まったく説得力を持たないのだ。
例えば、政府や企業に対する住民の座り込みや抗議行動が「威力業務妨害」だと見なされたらどうなるのか? 実際に、マンションの建設に反対する住民運動や、健康や環境に悪影響を与える商品の不買運動が、企業側から「組織的威力業務妨害だ、止めなければ訴える」と脅されるケースが出ているのである。
共謀罪が成立したら、反対運動や不買運動を始めなくても、相談しに集まっただけで罪になる。しかも、「実行に着手する前に自首した者は、その刑を減刑し、又は免除する」と明記して密告、スパイを奨励している。
あらゆる市民の自主的な活動を萎縮させ、社会の絆を切断するのが共謀罪だ。
現実に人々が生きている社会が自由で活力あるものにならない限り、国家が発展することもあり得ないことは歴史が証明している。市民社会を窒息させる共謀罪は、日本の民主主義を根底から破壊する。
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「自由と寛容」が失われていく
移民問題で揺れるアメリカ社会
世界最大の経済大国アメリカでは、毎年人口の約1%にあたる300万人が増えている。出生率も高いが、人口増の半分は移民によるものだ。
1990年代以降、アメリカ経済の好況と相まって大量の不法移民が流入。メキシコ国境との隣接地域を中心に最低でも1200万人の不法移民が存在している。
これまでアメリカが積極的に移民を受け入れてきたのは、「移民の国」として建国し「自由と寛容」を尊重してきた歴史と共に、移民による安価な労働力がアメリカ経済を支える大きな原動力の一つだったからだ。多くの移民労働者が建設、修理、清掃作業など3K労働の担い手となり、低賃金で雇用されてきた。
同時に、移民がもたらした新たな購買力が住宅需要や消費需要の増大を生み出し、90年代以降の景気拡大を生み出した。しかし、アメリカ経済に陰りが見え始めた今、移民問題を発端に、アメリカ社会の「自由と寛容」が急速に失われているのだ。
昨年12月アメリカ議会下院では、移民の締め出しに的を絞った「移民改革法案」が可決された。メキシコからの不法入国を防ぐために、メキシコ国境沿いに700マイル(約1100q)のフェンスを設置し、不法移民は重罪、雇用主に対しても最高2万5000ドルの罰金を課すことなどが盛り込まれた。
この法案の内容が余りにも強硬だったため、3月27日上院司法委員会は新たな法案を提出。不法移民の取り締まりを強化する一方で、外国からの出稼ぎ労働者に対し2年から6年程度の労働許可を与える「ゲストワーカープログラム」を導入。既に国内に滞在している不法移民には、将来の市民権獲得資格を付与するという内容だ。
上院での審議が開始された3月以降、全米では何十万人もの移民がデモを開始。3月25日ロサンゼルスで50万人規模、5月1日には全米で110万人規模のデモが行われた。
これに対し、ブッシュ大統領は、5月15日メキシコ国境付近に6000名の州兵を派兵し取り締まりを強化すると発表。メキシコのフォクス大統領は、国境間に「武装状態」をつくりかねないと懸念を表明している。
アメリカが抱える深刻な移民問題は、「対岸の火事」ではない。国連経済社会局人口部が2000年に発表したレポート「補充移民(Replacement Migration)」では、日本の人口問題についてシミュレーションが行われた。それによれば、少子高齢化の進む日本の労働力人口は、2050年に5710万人まで減少する。もし現状の労働人口を維持したいなら、2050年までに3350万人、年平均61万人もの移民受け入れが必要になるとしている。
このレポートの副題は「移民は人口減少と高齢化を救えるか?」だ。日本でも移民受け入れ問題は早晩国をゆるがす大問題となっていくだろう。
(2006年6月5日発行 『SENKI』 1214号1面から)
http://www.bund.org/editorial/20060605-1.htm