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9月11日事件のもう一つのイメージ<岩田昌征>
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投稿者 木村愛二 日時 2006 年 5 月 26 日 13:36:09: CjMHiEP28ibKM
 

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コメント<批評、紹介、書評>
9月11日事件のもう一つのイメージ<岩田昌征>

<いわた・まさゆき:東京国際大学教授、千葉大学名誉教授>
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 2006年4月15日(土)、明大・研究棟2F第9会議室にて、1:00〜5:00に開かれた現代史研究会におけるKikuchi Yumiさんの9.11事件に関する実に興味深いかつ重大な内容を持つ講演を聴き、私の仮説と重なるところがあるので、ここに四年前の旧い文章を再び提出させていただきます。
*****
 21世紀の最初の年の9月11日、私はクロアチアの首都ザグレブの喫茶店で数人の建設労働者風の男たちとこんな会話を交わしていた。「ヒロシマ・ナガサキで日本人は何人殺された?」、「合わせて30万から40万人位かな。しかも一瞬にだ」、「そんなら日本人がカミカゼでニューヨークのWTCに突っ込んでも当然だ」。「?、?、?」の私に、「ホテルの部屋でテレビを見るんだな」。
その日からビンラディン、アルカイダ、タリバンというようなそれまでほとんど聞かれなかったカタカナ名詞が新聞やテレビをにぎわす。さらに、ほとんど論じられることがなかった問題、例えば、タリバン政権下でアフガン女性が教育を受ける機会を全く奪われている非道な政治が強調され始めた。アメリカ市民社会の総意を担った米軍の航空攻撃の下にタリバン政権が崩壊した後に、やっと学校や大学に行けるようになった若きアフガン女性たちの晴れやかな笑顔がテレビに映し出される。とにもかくにも女性解放が実現された。
 ハイジャックされた旅客機による自爆テロでWTCやペンタゴンが全壊し半壊し、何千人かのアメリカ市民の生命が奪われなかったならば、この価値ある解放は実現されなかったはずだ。その意味でビンラディン一派によるこの一回のテロ実践は、何万回となくなされてきた女性解放に関する言論活動をはるかにしのぐ実効性を意図せざるところで示したわけである。
 ところで、9月11日の同時多発テロルは、ビンラディンやアルカイダの意図と行動だけで実現されたのであろうか。当然そうだ。だからこそアメリカの民政官軍が一体となって、対テロ戦争に取り組んでいるのだ。これが常識で良識である。
非常識な私は、ここでちょっとした推測的仮説を出してみたい。ビンラディンたちは、かなり以前からアフリカのある国のアメリカ大使館を爆破し、アメリカ海軍の駆逐艦を爆弾ボートで大破させたりして、何十人のアメリカ市民を殺害している。アメリカ政府のほうもスーダンの製薬工場やアフガニスタンのアルカイダ施設にトマホークを何十発もぶち込んでいた。そんな危険なビンラディンの周辺に単独超大国アメリカのCIA工作員が潜入していなかったなどということがあるであろうか。9月11日の事件が起こるまでは、ビンラディン一派の捕捉に無関心であったなどとは到底考えられない。ここまでは事実判断である。
 私の仮説はここからである。同時多発テロ作戦の計画作成と実行準備にアルカイダ内部のCIA工作員も深く関与していた。ビンラディンたちが切望したとしても、アラブ人だけでは中々形に出来ない大計画も、アラブ人に扮したアメリカ人が協力すれば、容易に実行可能性ある形に仕上げることが出来る。ジェット旅客機操縦訓練学校入学に関わる諸困難も簡単にクリアーできる。(【補注】参照)
 勿論このCIA工作員は、このような市民巻き添え自爆テロ計画をその通り実行するためにその作成に協力したわけでは全くない。アメリカ本国の然るべき期間に適時通報されており、その計画の実行途上で実行者全員が生きたまま逮捕される手はずであった。逮捕して審問にかけ、そのプロセスで「実はハイジャックした旅客機を乗客と一緒にWTCやペンタゴンへ突入させる驚天動地のビンラディンの仕組んだ自爆テロ計画があって、それを未然に防いだ」と犯人たちの自白をもとに、その大成果が誇らしげに発表されるはずであった。
どこで逮捕する予定だったのであろうか。彼らの個別のアジトや隠れ家でか。それとも実行当日空港へいく途中か。それとも空港内のチェックポイントにおいてか。ノーである。それでは全員を一斉に逮捕するのは難しい。
全員がそれぞれ受け持ちの航空機に乗り込んでハイジャック行動を開始した瞬間に、ナイフしか持ち込めない彼らに向かってFBIの麻酔弾が一斉に発射されて、まんまと19人全員が生け捕りに去れる予定であった。
 ところが、最後の瞬間にこのようなシナリオが狂ってしまった。待ち構えているはずのFBIの猛者達がいなかった。ワシントンのどこかでCIAからFBIへの情報伝達と作戦引継ぎが出来ていなかった。油断というか、手抜かりというか。起こるはずのないWTC・ペンタゴンへの突入が本当に起こってしまった。不意打ちに激昂し声を張り上げるワシントンだけでなく、狼狽し沈黙するワシントンもあった。
 こうなると気の毒なのは、この任務に忠実で有能なアメリカ人工作員である。最大最高の大手柄が吹っ飛んだだけでなく、自らもアメリカ空軍の精密誘導爆弾の標的にされざるを得ないからである。彼が無線で連絡を取った瞬間に、彼に向かって誘導弾が飛んでいったはずだ。
 狼狽するワシントンにしてみれば、自分たちの単純な油断や手抜かりで善良なニューヨーク市民やペンタゴン軍人を何千人も殺してしまったわけであるから、絶対に外部に漏れてはならない。ビンラディンやアルカイダならば、生きて捕まえても、大型爆弾で殺しても、それはどちらでも良い。しかしながら、真相と秘密を知るこのアメリカ人工作員は、アメリカ空軍の空爆下で絶対に死んでもらわねばならない。生きて現れて、アメリカ市民社会に真相をしゃべられたならば、アメリカ連邦国家の権威は完全に吹っ飛んでしまう。CIAとFBIの連絡ミスなんてこの際どうでもよい。これは文明と野蛮の新型戦争なのである、と。こうならざるを得ない。
 歴史を見ると、これよりも何万倍も大きな油断があったことが知られる。1941年6月22日のヒトラーによる対ソ・バルバロッサ作戦発動だ。正確な情報が各地の情報員からモスクワに届いていながら、スターリンはそれを無視して、緒戦で数百万のソ連軍民の生命をヒトラーに献上してしまった。60年前のモスクワの超大油断に比べれば、今回のワシントンの油断は小さいものだ。しかしながら、この小さな油断の結果、空爆下で殺されることになったアフガン民衆は、自分たちの死をどう考えればよいのであろうか。アフガン女性解放途上の尊い自己犠牲であると観念できるアフガン民衆はいない。
【補注】
ニコラ・カヴァヤなる人物がいる。旧ユーゴスラヴィア連邦軍のパイロット、フランス外人部隊隊員、セルビア愛国者、テロリスト、CIA情報員であった男で、今日、ベオグラードで年金生活をしている。ベオグラードの新市街に聳え立つ旧共産主義者同盟本部の高層ビルがNATO空爆によって大損害を受け、その完全解体が議論されていた去年の11月、ニコラ・カヴァヤが実に興味深い話をした。20数年も昔のこと、訪米中のチトー大統領暗殺計画がばれて獄中にあったカヴァヤは、多額の保釈金を積んで釈放されると、ボーイング747をハイジャックして、大西洋を横切り、新ベオグラードの中央委員会ビルへの突入を企てた。機中の同志が日和って、突入は断念せざるを得ず、アイルランドに亡命を求めた。亡命は認められず、アメリカに引き渡されて、彼は、テロリズム、暗殺準備、そしてハイジャックの罪で23年間をアメリカの獄中で過ごすことになった。9月11日との相違は、乗客を解放してから、シカゴのオハレ国際空港を飛び立ったところのみである。すなわち、CIAは、ジェット旅客機による高層ビル突入計画の前例を具体的に知っていたことになる。
(週刊誌『ヴレーメ』2001年11月29日、ベオグラード、17ページ)
〔初出:陰暦月間・ミて・詩と批評 2003年3月24日(日)第33号〕
(2006.04.21UP)

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