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JMM [Japan Mail Media] No.372 Extra-Edition
『レバノン〜揺れるモザイク社会』 第15回
「ハマース政権四面楚歌」
■ 安武塔馬 :ジャーナリスト、レバノン在住
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■ 『レバノン〜揺れるモザイク社会』 第15回
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「ハマース政権四面楚歌」
[ドナー諸国の経済制裁]
似たり寄ったりの政治経済体制をとる国家が集まる地域の中に、政治理念を全く異にする政権が突然変異的に誕生すると、その政権は周辺諸国にとっては深刻な脅威となる。
各国の支配層は革命の波及を恐れて、隣国に生まれた革命政権つぶしに躍起になる。
その手段は様々だ。
まずは経済封鎖。 次に旧政権の残党など、反体制派を匿い支援する。
反体制ゲリラに軍事教練を施し、故国に送って戦わせる。
それでも革命政権が屈しないとなると、正規軍を派遣して戦争をふっかけ、領土の一部なりとも占領する。
フランス革命が起きて、革命政権が王族や貴族を次々に処刑した時、周辺諸国の王政は震撼し、革命潰しを図った。この戦いの中から卓越した軍事指導者ナポレオンが台頭したのは周知のとおり。
ロシア革命の時には我が国もシベリアに出兵してボリシェビキ政権を潰そうとした。
イランでイスラム革命が起きると、米国と湾岸アラブ諸国はサッダーム・フセインのイラクを惜しみなく支援し、イランと戦わせた。
アラブ世界のど真ん中に誕生したユダヤ人国家イスラエルが、その後に歩んだ道のりも、その例に加えてよいかもしれない。
今、パレスチナでハマース政権が置かれた状況もぴったりと上の図式にあてはまる。
ハマースはイスラーム原理主義政党としては、アラブ世界で初めて政権政党になった。
しかも民主的な選挙を経て、完全に合法的な手段で権力を握った
(実はアルジェリアでも1990年代初めにイスラーム原理主義政党FISが選挙で大勝している。 しかし軍が介入し、選挙結果を無効にした。 この結果、原理主義は周辺諸国に波及しなかったが、アルジェリア国内は血を血で洗う内戦状態に陥った)。
それまでPLOをパレスチナ民族の唯一正統な代表と認め、ファタハが主導するパレスチナ自治政府(PA)に巨額の支援金を注ぎ込んできた西側諸国は最初は驚き、戸惑った。
やがて落ち着いてくると、「少なくともイスラエルを承認し、暴力を放棄するまでは支援は出来ない」と、一部の人道支援を除いて対PA支援を凍結し始めた。
パレスチナ人は民主的に選挙をやって、ハマースを選んだために罰せらねばならないのか?
一体米国の言う民主主義とは何なのか? 自分たちにとって好ましい結果にならないなら、民主的な選択は認めないと言うのか…ハマース政府はそう反発する。
その言い分には一理ある。
しかし世界にはパレスチナよりも支援を必要とするところはいくらでもある。
にも関わらず、日本も含めドナー諸国がPAに巨額の経済支援を行ってきたのは、あくまでも中東和平を支援するため。
ハマース政権が依然としてイスラエルの抹殺を政策目標に掲げる限り、援助を続けるわけにはいくまい。
とは言え、武装闘争継続を掲げて選挙に勝ったハマースがドナー諸国の圧力の前にあっさりと「ではイスラエルを認めましょう」と態度を翻しては、前回書いたように日本社会党の二の舞だ。
ドナー諸国もそのあたりの事情を含んで、ハマースと、ハマースを選んだ自治区住民の面子を潰さないかたちで、もう少し柔軟に対応できないものであろうか? 「今すぐ選挙公約を破棄しろ、さもなくば援助停止だ」と言われたら、ハマースも譲歩できるものまで出来なくなってしまう。
何はさておき政権政党となったハマースには国民を食わせていく責任がある。
米欧が支援をやめたらハマースはますますイランへの依存を強めるだけだ。
そうすれば、結局西側ドナー諸国にとっては戦略的な損失なのではなかろうか。
[エジプトとヨルダンの冷たい仕打ち]
ハマース政権のザッハール外相は現在緊急財政支援を求めてアラブ諸国の間を飛び回っているが、反応は芳しくない。
中でも冷たいのはイスラエルと和平条約を結んでいるエジプト、ヨルダンの両国だ。
ザッハールはアラブ連盟のムーサ事務局長に会うためカイロに入ったが、アブ・アル・ゲイト外相はじめエジプト政府要人には会ってもらえなかった。
一方、21日に予定していたヨルダン訪問は、前日になってヨルダン側から一方的にキャンセルされた。
どたキャンの理由は「ハマース活動家がシリアからヨルダン国内に武器を密輸入し、テロ攻撃を準備していた」というもの。
先代フセイン国王の治世には、ヨルダン王室とハマースの関係は良かった。
フセインは西岸地区とエルサレムの領有権をめぐって長らくPLOと対立していたから、PLOを牽制するためにもハマースとの関係は必要だった。
1997年にハマースのマシュアル政治局長がアンマンでモサドの工作員による暗殺未遂に遭った時、フセインはマシュアルの命を救ったばかりか、捕らえた工作員とハマース創設者アハマド・ヤシーン師の交換をイスラエルに掛け合い、見事ヤシーン師を釈放させたほどである。
しかし1999年にフセインが死ぬと、あとを継いだアブダッラー国王は一転してハマースに厳しい姿勢をみせる。同年中にマシュアルらハマース幹部4名がカタールに追放され、以降ヨルダンにおけるハマースの活動は厳しく制限された。
それにしても、今回ヨルダン側が摘発したというハマースのテロ計画には、首を傾げたくなる部分が多い。
ハマースはこれまで攻撃対象をイスラエル、場所もイスラエルとパレスチナ自治区に制限しており、イスラエルの最大の支援国たる米国でさえも攻撃対象には含めてこなかった。
この点、「異教徒なら殺してもいい」というアル・カーイダとは根本的に発想が異なる。
そのハマースが、しかも政権政党になった直後で、対イスラエル攻撃さえ自重している時に、ヨルダンで破壊活動を行うとはちょっと考えにくい。
ハマースが非難するように、もしヨルダンの主張がハマースとの関係を断ち切るためのでっち上げならば、「人が困っている時に、そこまでするか?」という感じで、パレスチナ人ならハマース支持者ならずともヨルダンへの感情を悪化させるに違いない。
[イスラエルの暗殺作戦とテルアビブ自爆攻撃]
イスラエルがとるハマース政権締め付けの手段は政治・経済・軍事面の三本立てだ。
政治面ではPA閣僚との接触を全面的に禁止。
経済面では、PAへ還付すべき税金を差し押さえている。
自治区への物資搬入のほとんどはイスラエル経由なので、イスラエルが一旦関税を徴収した後、PAに還付するシステムになっているが、その還付を止めたのである。
イスラエルで働くパレスチナ人労働者から源泉徴集した税金も渡さない。
なお、米国は世界の民間銀行に対しPAとの取引を停止するように圧力を加えており、カタールなどが拠出したPAへの緊急支援資金もPAに届かない状態だ。
軍事的には相変わらず西岸・ガザ両地区でゲリラ掃討作戦を継続し、活動家殺害を続けている。
相変わらずの暴力の連鎖で、自治区からもイスラエルにミサイルなどで報復するゲリラも出てくるし、イランの影響力の強いイスラーム聖戦は17日、テルアビブで自爆攻撃を久々に実行、民間人9名を殺害した。
アッバースPA議長は「卑劣なテロ行為」と最大限の表現で攻撃を非難した。
しかし武装闘争継続を公約に政権を奪取したハマースはジハードの攻撃を非難するわけにはいかない。
「イスラエルの度重なる攻撃に対する正当防衛である」とスポークスマンが発言し、ますます国際的な立場が厳しくなった。
[養鶏場を守る狼:PLOとの暗闘]
このように、イランやシリア(ザッハールのアンマン訪問がキャンセルされた翌々日に、ヨルダンにあてつけるかのように国賓待遇でザッハールを迎えた)、カタールなど少数の例外を除き、各国から総スカンをくらうハマース政権だが、目下最大の敵は「意地悪な上司」アッバースPA議長かもしれない。
今月20日にシヤーム内相は、各派の武装ゲリラを糾合して治安部隊を新設することを決定、その司令官にジャマール・アブ・サムハダーナと言う人物を任命した。
アブ・サムハダーナは元は自治警察の警官だったが、アル・アクサ・インティファーダを取り締まれという命令に反抗してクビになった。そして「人民抵抗委員会」という名の新たなゲリラ組織をつくり、たびたびイスラエルの標的を繰り返してきた。
当然ながらイスラエルには睨まれており、これまで二度暗殺未遂に遭ったが間一髪のところで生き延びた。
そんな人物をPA公認の治安部隊のトップにすると言うのだから、イスラエルが「これでハマース政府の本性が明らかになった。養鶏場を狼に守らせるつもりか」と警戒・反発するのも無理はない。
しかしハマースの真の狙いは対イスラエル攻撃ではなく別のところにある。
ひとつは野放し状態の武装ゲリラを何らかのかたちで管理統制すること。
もうひとつは、ファタハとアッバースPA議長が握る既存のPA治安部隊とは別に、独自に動かせる部
隊をつくることだ。
議長が側近を新設治安ポストに任命し、内務省から治安権限を奪い取ろうとしたことを前回報告したが、今回のハマースの決定はそれへの対抗策と見てよいだろう。
果たしてアッバース議長は翌日にPLO執行委員会を招集、「ハマース内閣には治安部隊を新設する権限は無い」と決定を無効にしてしまった。アッバースはハマース政権成立後、初めて議長の拒否権を行使したのである。
これに対しダマスカスに居たマシュアル・ハマース政治局長は「アッバース議長はイスラエルと謀ってハマース政権を潰すつもりだ」と批判。
ガザの大学では両派の支持者が武装衝突を起こし、負傷者が出る事態に発展した。
翌日にはアッバースはザッハール外相の訪問を拒んだヨルダンを敢えて訪問し、ハマースによるヨルダンへの武器密輸に懸念を表した。ヨルダン側の言い分を認めたわけで、「意地悪な上司」の面目躍如といったところか。
国際世界が注視する中、権力配分をめぐるハマース政府とファタハの対立は次第に危険な水域に近づきつつある。
冒頭に掲げたフランスやロシア、イランの例ではいずれも革命政権がしぶとく生き延びたが、果たしてハマース政権も生き延びれるのであろうか。
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安武塔馬(やすたけとうま)
レバノン在住。日本NGOのパレスチナ現地駐在員、テルアビブとベイルートで日本大使館専門調査員を歴任。現在は中東情報ウェブサイト「ベイルート通信」編集人としてレバノン、パレスチナ情勢を中心に日本語で情報を発信。
<http://www.geocities.jp/beirutreport/> 著作に『間近で見たオスロ合意』『アラファトのパレスチナ』(上記ウェブサイトで公開中)がある。
ナリスト、レバノン在住
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■ 『レバノン〜揺れるモザイク社会』 第15回
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「ハマース政権四面楚歌」
[ドナー諸国の経済制裁]
似たり寄ったりの政治経済体制をとる国家が集まる地域の中に、政治理念を全く異にする政権が突然変異的に誕生すると、その政権は周辺諸国にとっては深刻な脅威となる。
各国の支配層は革命の波及を恐れて、隣国に生まれた革命政権つぶしに躍起になる。
その手段は様々だ。
まずは経済封鎖。 次に旧政権の残党など、反体制派を匿い支援する。
反体制ゲリラに軍事教練を施し、故国に送って戦わせる。
それでも革命政権が屈しないとなると、正規軍を派遣して戦争をふっかけ、領土の一部なりとも占領する。
フランス革命が起きて、革命政権が王族や貴族を次々に処刑した時、周辺諸国の王政は震撼し、革命潰しを図った。この戦いの中から卓越した軍事指導者ナポレオンが台頭したのは周知のとおり。
ロシア革命の時には我が国もシベリアに出兵してボリシェビキ政権を潰そうとした。
イランでイスラム革命が起きると、米国と湾岸アラブ諸国はサッダーム・フセインのイラクを惜しみなく支援し、イランと戦わせた。
アラブ世界のど真ん中に誕生したユダヤ人国家イスラエルが、その後に歩んだ道のりも、その例に加えてよいかもしれない。
今、パレスチナでハマース政権が置かれた状況もぴったりと上の図式にあてはまる。
ハマースはイスラーム原理主義政党としては、アラブ世界で初めて政権政党になった。
しかも民主的な選挙を経て、完全に合法的な手段で権力を握った
(実はアルジェリアでも1990年代初めにイスラーム原理主義政党FISが選挙で大勝している。 しかし軍が介入し、選挙結果を無効にした。 この結果、原理主義は周辺諸国に波及しなかったが、アルジェリア国内は血を血で洗う内戦状態に陥った)。
それまでPLOをパレスチナ民族の唯一正統な代表と認め、ファタハが主導するパレスチナ自治政府(PA)に巨額の支援金を注ぎ込んできた西側諸国は最初は驚き、戸惑った。
やがて落ち着いてくると、「少なくともイスラエルを承認し、暴力を放棄するまでは支援は出来ない」と、一部の人道支援を除いて対PA支援を凍結し始めた。
パレスチナ人は民主的に選挙をやって、ハマースを選んだために罰せらねばならないのか?
一体米国の言う民主主義とは何なのか? 自分たちにとって好ましい結果にならないなら、民主的な選択は認めないと言うのか…ハマース政府はそう反発する。
その言い分には一理ある。
しかし世界にはパレスチナよりも支援を必要とするところはいくらでもある。
にも関わらず、日本も含めドナー諸国がPAに巨額の経済支援を行ってきたのは、あくまでも中東和平を支援するため。
ハマース政権が依然としてイスラエルの抹殺を政策目標に掲げる限り、援助を続けるわけにはいくまい。
とは言え、武装闘争継続を掲げて選挙に勝ったハマースがドナー諸国の圧力の前にあっさりと「ではイスラエルを認めましょう」と態度を翻しては、前回書いたように日本社会党の二の舞だ。
ドナー諸国もそのあたりの事情を含んで、ハマースと、ハマースを選んだ自治区住民の面子を潰さないかたちで、もう少し柔軟に対応できないものであろうか? 「今すぐ選挙公約を破棄しろ、さもなくば援助停止だ」と言われたら、ハマースも譲歩できるものまで出来なくなってしまう。
何はさておき政権政党となったハマースには国民を食わせていく責任がある。
米欧が支援をやめたらハマースはますますイランへの依存を強めるだけだ。
そうすれば、結局西側ドナー諸国にとっては戦略的な損失なのではなかろうか。
[エジプトとヨルダンの冷たい仕打ち]
ハマース政権のザッハール外相は現在緊急財政支援を求めてアラブ諸国の間を飛び回っているが、反応は芳しくない。
中でも冷たいのはイスラエルと和平条約を結んでいるエジプト、ヨルダンの両国だ。
ザッハールはアラブ連盟のムーサ事務局長に会うためカイロに入ったが、アブ・アル・ゲイト外相はじめエジプト政府要人には会ってもらえなかった。
一方、21日に予定していたヨルダン訪問は、前日になってヨルダン側から一方的にキャンセルされた。
どたキャンの理由は「ハマース活動家がシリアからヨルダン国内に武器を密輸入し、テロ攻撃を準備していた」というもの。
先代フセイン国王の治世には、ヨルダン王室とハマースの関係は良かった。
フセインは西岸地区とエルサレムの領有権をめぐって長らくPLOと対立していたから、PLOを牽制するためにもハマースとの関係は必要だった。
1997年にハマースのマシュアル政治局長がアンマンでモサドの工作員による暗殺未遂に遭った時、フセインはマシュアルの命を救ったばかりか、捕らえた工作員とハマース創設者アハマド・ヤシーン師の交換をイスラエルに掛け合い、見事ヤシーン師を釈放させたほどである。
しかし1999年にフセインが死ぬと、あとを継いだアブダッラー国王は一転してハマースに厳しい姿勢をみせる。同年中にマシュアルらハマース幹部4名がカタールに追放され、以降ヨルダンにおけるハマースの活動は厳しく制限された。
それにしても、今回ヨルダン側が摘発したというハマースのテロ計画には、首を傾げたくなる部分が多い。
ハマースはこれまで攻撃対象をイスラエル、場所もイスラエルとパレスチナ自治区に制限しており、イスラエルの最大の支援国たる米国でさえも攻撃対象には含めてこなかった。
この点、「異教徒なら殺してもいい」というアル・カーイダとは根本的に発想が異なる。
そのハマースが、しかも政権政党になった直後で、対イスラエル攻撃さえ自重している時に、ヨルダンで破壊活動を行うとはちょっと考えにくい。
ハマースが非難するように、もしヨルダンの主張がハマースとの関係を断ち切るためのでっち上げならば、「人が困っている時に、そこまでするか?」という感じで、パレスチナ人ならハマース支持者ならずともヨルダンへの感情を悪化させるに違いない。
[イスラエルの暗殺作戦とテルアビブ自爆攻撃]
イスラエルがとるハマース政権締め付けの手段は政治・経済・軍事面の三本立てだ。
政治面ではPA閣僚との接触を全面的に禁止。
経済面では、PAへ還付すべき税金を差し押さえている。
自治区への物資搬入のほとんどはイスラエル経由なので、イスラエルが一旦関税を徴収した後、PAに還付するシステムになっているが、その還付を止めたのである。
イスラエルで働くパレスチナ人労働者から源泉徴集した税金も渡さない。
なお、米国は世界の民間銀行に対しPAとの取引を停止するように圧力を加えており、カタールなどが拠出したPAへの緊急支援資金もPAに届かない状態だ。
軍事的には相変わらず西岸・ガザ両地区でゲリラ掃討作戦を継続し、活動家殺害を続けている。
相変わらずの暴力の連鎖で、自治区からもイスラエルにミサイルなどで報復するゲリラも出てくるし、イランの影響力の強いイスラーム聖戦は17日、テルアビブで自爆攻撃を久々に実行、民間人9名を殺害した。
アッバースPA議長は「卑劣なテロ行為」と最大限の表現で攻撃を非難した。
しかし武装闘争継続を公約に政権を奪取したハマースはジハードの攻撃を非難するわけにはいかない。
「イスラエルの度重なる攻撃に対する正当防衛である」とスポークスマンが発言し、ますます国際的な立場が厳しくなった。
[養鶏場を守る狼:PLOとの暗闘]
このように、イランやシリア(ザッハールのアンマン訪問がキャンセルされた翌々日に、ヨルダンにあてつけるかのように国賓待遇でザッハールを迎えた)、カタールなど少数の例外を除き、各国から総スカンをくらうハマース政権だが、目下最大の敵は「意地悪な上司」アッバースPA議長かもしれない。
今月20日にシヤーム内相は、各派の武装ゲリラを糾合して治安部隊を新設することを決定、その司令官にジャマール・アブ・サムハダーナと言う人物を任命した。
アブ・サムハダーナは元は自治警察の警官だったが、アル・アクサ・インティファーダを取り締まれという命令に反抗してクビになった。そして「人民抵抗委員会」という名の新たなゲリラ組織をつくり、たびたびイスラエルの標的を繰り返してきた。
当然ながらイスラエルには睨まれており、これまで二度暗殺未遂に遭ったが間一髪のところで生き延びた。
そんな人物をPA公認の治安部隊のトップにすると言うのだから、イスラエルが「これでハマース政府の本性が明らかになった。養鶏場を狼に守らせるつもりか」と警戒・反発するのも無理はない。
しかしハマースの真の狙いは対イスラエル攻撃ではなく別のところにある。
ひとつは野放し状態の武装ゲリラを何らかのかたちで管理統制すること。
もうひとつは、ファタハとアッバースPA議長が握る既存のPA治安部隊とは別に、独自に動かせる部
隊をつくることだ。
議長が側近を新設治安ポストに任命し、内務省から治安権限を奪い取ろうとしたことを前回報告したが、今回のハマースの決定はそれへの対抗策と見てよいだろう。
果たしてアッバース議長は翌日にPLO執行委員会を招集、「ハマース内閣には治安部隊を新設する権限は無い」と決定を無効にしてしまった。アッバースはハマース政権成立後、初めて議長の拒否権を行使したのである。
これに対しダマスカスに居たマシュアル・ハマース政治局長は「アッバース議長はイスラエルと謀ってハマース政権を潰すつもりだ」と批判。
ガザの大学では両派の支持者が武装衝突を起こし、負傷者が出る事態に発展した。
翌日にはアッバースはザッハール外相の訪問を拒んだヨルダンを敢えて訪問し、ハマースによるヨルダンへの武器密輸に懸念を表した。ヨルダン側の言い分を認めたわけで、「意地悪な上司」の面目躍如といったところか。
国際世界が注視する中、権力配分をめぐるハマース政府とファタハの対立は次第に危険な水域に近づきつつある。
冒頭に掲げたフランスやロシア、イランの例ではいずれも革命政権がしぶとく生き延びたが、果たしてハマース政権も生き延びれるのであろうか。
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安武塔馬(やすたけとうま)
レバノン在住。日本NGOのパレスチナ現地駐在員、テルアビブとベイルートで日本大使館専門調査員を歴任。現在は中東情報ウェブサイト「ベイルート通信」編集人としてレバノン、パレスチナ情勢を中心に日本語で情報を発信。
<http://www.geocities.jp/beirutreport/> 著作に『間近で見たオスロ合意』『アラファトのパレスチナ』(上記ウェブサイトで公開中)がある。