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★非米同盟がイランを救う?
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先週の記事「イランは核攻撃される?」 http://tanakanews.com/g0418iran.htm
では、アメリカがイランを攻撃する可能性が高まっていることを書いたが、その中で「アメリカの攻撃があるのかないのか、切迫感の中で揺れる時期に入った」と書いた。その後1週間たち、早速この揺れが始まっている。攻撃は避けられるのではないか、と思われる方向への揺れである。
中国がロシアや中央アジア諸国と組んでユーラシア大陸地域の安全保障や経済協力などについて話し合う国際組織「上海協力機構」に、イランが加盟する可能性が高まっている。イランは昨年から同機構にオブザーバーとして参加していたが、今年6月の総会の決定を経て正式な加盟国になる予定だと、同機構の事務局が発表した。
http://www.isn.ethz.ch/news/sw/details.cfm?ID=15537
上海協力機構( http://www.sectsco.org/ )はもともと中国が、国境を接するロシアや中央アジア諸国がソ連崩壊後、政情不安定になったことへの対策として、隣接する旧ソ連諸国の代表を1996年に上海に集めて開いた安全保障の協力会議が発端だ。同機構は、欧米間の集団安全保障組織であるNATOが条約で参加国を縛っているのに比べると、加盟国の行動を拘束する力は弱い。
しかも欧米などからの警戒を防ぐためのソフトなイメージ戦略として、経済や文化交流、環境問題などの協力も目的に掲げている。だが本質的には、軍事的な意味が大きい集団安全保障の組織である。テロ対策などの名目で、多国間の軍事演習も行っている。
そこにイランが入ることは、イランにとっては、中国やロシアが自国を守ってくれる傾向が強まることを意味する。条約的な義務ではないものの、中国やロシアなどにとっては、アメリカがイラン攻撃に動いたら、できる限り阻止する努力をする必要が出てくる。
▼あえてイランを受け入れる理由
イランが上海協力機構に加盟することは、アメリカと中国・ロシアとの対立関係を深める。
石油とガスという、アメリカを含む世界中が欲しがっている商品が売り物のロシアのプーチン政権は、アメリカとの関係が悪化してもかまわないという態度だが、逆にアメリカ市場に商品を買ってもらって発展している中国の胡錦涛政権は、対米関係をできるだけ悪化させたくないと考えている。それは、先日訪米した胡錦涛が、アメリカとの良い関係を強調しようとしたことにも見て取れる。プーチン政権は、イラクやイランに対するブッシュ政権のやり方を批判することが多いが、胡錦涛政権は、あまり批判を発していない。
中国が、アメリカとの関係を良くしたいにもかかわらず、関係悪化につながりかねないイランの上海機構への加盟を受け入れたのは、アメリカの攻撃によってイランがイラクのように国家として破壊され、長い混乱状態に陥らされると、混乱の影響が、自国の近くの中央アジア諸国や、自国内の新疆ウイグル自治区などに波及するからだ。
ブッシュ政権がアフガニスタンとイラクに対して行った「軍事攻撃による民主化」は、両国とその周辺国を不安定化させ、内戦や虐殺、民兵勢力の過激化を煽っている。アフガンの不安定化は、隣国パキスタンでイスラム原理主義と反米主義の台頭を招き、虐殺や暴動が起きている。親米のムシャラフ政権は危機に瀕し、今後もしムシャラフ大統領が暗殺されたりしたら、パキスタンは無政府状態の大混乱に陥る。パキスタンが内戦になったら、インドやバングラディシュでもイスラム勢力による蜂起や暴動、テロが頻発し、カシミールの戦争状態もひどくなる。
http://www.guardian.co.uk/worldlatest/story/0,,-5752637,00.html
もっと西の方では、イラクの分裂でクルド人の分離独立傾向が増した結果、隣国トルコが不安定化している。イラクのクルド人組織は、トルコのクルド人組織に金や武器、軍事訓練を提供し、蜂起させている。アメリカのイラク統治が失敗の度合いを深め、米軍がイラクの事態を掌握できなくなっているのを見て、クルド人組織は「今が独立のチャンスだ」と考えているようで、今後アメリカのイラク占領が失敗に近づくほど、イラクのクルド人組織が、トルコやシリア、イランのクルド人の武装蜂起を支援する傾向が強まり、トルコ、シリア、イランが不安定化すると予測される。
http://www.chron.com/disp/story.mpl/world/3780302.html
中国とロシアにとって、これまでは中東と自国の間に、トルコ、イラン、パキスタン、中央アジアという緩衝地帯があったが、ブッシュ政権が「強制民主化」を強行した結果、それらの緩衝地帯が次々と不安定化し、戦禍が自国に接近している。そう考えると、イラク戦争のときにはアメリカを強く止めなかった中国やロシアが、より自国に近い場所にあるイランでの戦争に際しては、より積極的な戦争抑止策に踏み込まざるを得ない事情が理解できる。
▼上海協力機構は「非米同盟」
上海協力機構は今年、イランだけでなく、インドとパキスタン、モンゴルも、オブザーバーから正式加盟国に昇格する。同機構は、中国の国境管理のための組織から、中国、ロシア、インドというユーラシア大陸の3大国が核となり、大陸内の安全保障について話し合う組織へと発展することになる。すでに述べたように、アメリカのイラン攻撃でアフガンやパキスタンが不安定になることは、インドにも悪影響を与える。イランでの戦争を防ぐ必要がある点で、中国、ロシア、インドの利害は一致している。
中印露は、いずれもアメリカの行為に迷惑しているが、アメリカを敵視してるわけではない。その意味で、中印露が結束しそうな上海協力機構は「反米」ではなく「非米」の同盟体であり「非米同盟」である。世界的に見ると「多極化」の動きである。私は2004年夏に文春新書から「非米同盟」という本を出したが、同書で分析した世界の方向性は、2年後の今、より強く感じられるようになっている。
(私は2−3年前に、非米同盟の発生や、多極化に向かう世界的な動きを感じ「他の国際政治の専門家の人々も、この動きに気づくだろうから、先を越されぬ前に、早く本を出そう」と考えて本を書いた。だが実際には、逆に私は気づくのが早すぎたようで、私の多極化分析はその後長いこと、他の人々にピンときてもらえなかった)
上海協力機構が「非米同盟」であることは、アフガニスタンの加盟を断ったことからも感じられる。アフガニスタンにはアメリカを中心としたNATO軍が駐留しており、カルザイ政権は半ばアメリカの傀儡として作られている。カルザイ政権のアフガニスタンは昨年、インド、パキスタン、イランと一緒に加盟申請したが、断られた。
▼外堀から埋める戦略
中露印は今後、上海協力機構やその他の国際的な場で、結束してアメリカの軍事行動を止めようとする動きを強めると予測される。とはいえ、これでアメリカのイラン攻撃の可能性が消えたかと言えば、そうではない。中国とロシアは国連安保理会で拒否権を持った常任理事国だが、ブッシュ政権は、国連で反対されても単独でイランを攻撃すると言っている。
しかも、アメリカに自国の商品を買ってもらえなくなると困る中国とインドは、アメリカと正面切って対立することを望んでいない。アメリカは、3月にブッシュ大統領がインドを訪問した際、インドにアメリカの核技術を移転する協定を結んだりして、インドを懐柔する作戦も採っており、インドとしては簡単に反米に傾くわけにはいかない。
それでは、中国やインドは、どのようにアメリカの破壊行為を止めるのか。
最近の動きから私が感じるのは「外堀から埋めていく戦略が採られているのではないか」ということだ。「外堀」とは、世界各地の親米国や、アメリカにとって重要な国々のことで、堀を埋め立てる材料は札束、つまり経済である。
たとえばオーストラリアは、アジア太平洋地域では日本と並んで親米色の強い国だが、このところ台湾問題などで中国の肩を持つ態度をとっている。もはや、豪州は「中国包囲網」の一部ではない。豪州が転向した理由は、中国が豪州の鉄鉱石やウラニウムなどを良く買ってくれて、豪州への資本投資も増え、お得意様になっているからだ。
最近、台湾と外交関係を持つ数少ない国の一つで、中国が外交関係を自国側に切り替えさせようと画策している南太平洋のソロモン諸島で、台湾側と中国側の両方が、選挙に際して政治資金を大量に投入したため、選挙後に政情が不安定化し、中華街が破壊されたりして、近くの大国である豪州が介入せざるを得なくなったが、その際に豪州政府は台湾政府を批判し、台湾側から反論されている。
http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2006/04/21/2003303801
米議会のタカ派議員らは豪州に「中国にウランを売ったら、軍事転用されてしまうので止めろ」と要求したが、無視されている。豪州としては「アメリカだってインドに軍事転用されることを黙認して核技術を譲渡しているではないか」と反論できる。豪州は、アメリカがインドと核協定を結んだのを見るや、インドにウランを売り込んでいる。
胡錦涛主席は、訪米の直後にはサウジアラビアに行き、アブドラ国王と会談し、石油の商談をまとめるとともに、中国とサウジアラビアが協力し、混乱する中東問題の解決に努力することで合意している。サウジアラビアは伝統的に親米国だが、911以降濡れ衣的に悪者扱いされて迷惑しており、すでに潜在的に非米同盟に入っていると言ってもよい存在である。サウジが中国に石油を売り、中国はサウジの建設プロジェクトを受注したり、日用品から軍用品までを売ったりする互助関係ができている。
http://www.timesonline.co.uk/article/0,,3-2149424,00.html
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▼アメリカがイラクに忙殺しているすきに・・・
アフリカでは、産油国のナイジェリアが最近、中国への接近を強めている。
ナイジェリアは民族的に南北に分かれ、北側が南側を支配しているが、油田は南部にある。しばらく前から南部の人々は「石油収入をもっと南部によこせ」と言って蜂起して油田を占拠し、産油量が急減した。ナイジェリア政府は、アメリカに助けを求めたが、イラク戦争に忙殺されるブッシュ政権は、十分な対応せず、武器の供給も少なかった。
http://www.newsday.com/news/nationworld/world/ny-ge234713853apr23,0,339293.story?track=rss
そこに入ってきたのが中国で、ナイジェリア軍は中国から、ゲリラが隠れる南部の湿地帯を動き回れる軍用ボートを買い、急場をしのいだ。中国はここでも、石油を買って、武器やプロジェクトを受注する関係を築き、相手国を非米同盟の側に引きつけている。
http://news.ft.com/cms/s/ef8dbc30-a7c6-11da-85bc-0000779e2340.html
同様のことは、中南米でも起きている。反米的なチャベス大統領が率いるベネズエラは最近、アメリカに石油を売るのを止めて、代わりに中国とインドに売ることを画策している。中国は、他の中南米諸国とも経済関係を強化しており、この5年間で中南米諸国との貿易額は4倍になった。
http://www.libertyforum.org/showflat.php?Cat=&Board=news_news&Number=294575890
軍事面でも、中南米では、ナイジェリアと似た現象が起きている。ここ数年、中南米諸国は、アメリカの単独覇権的な態度に反発を強め、その反動でアメリカは、ブラジル、ペルー、ボリビアなど中南米の11カ国に対し、以前はさかんだったアメリカでの各国軍幹部に対する訓練の供与を止めてしまった。ここで登場するのが中国で、中南米各国はアメリカの代わりに中国に軍幹部を派遣して訓練を受けさせる体制を作りつつある。
http://washingtontimes.com/functions/print.php?StoryID=20060315-124307-7370r
長らく中南米を属領的な「裏庭」と見なしてきたアメリカは、中国と中南米との関係強化を無視できなくなり、さる4月上旬には、中国とアメリカの政府の中南米担当者が北京で会い、中南米政策に関するすり合わせ会議がはじめて開かれた。アメリカは、中国の影響拡大を警戒しているものの、関係は経済が中心であり、しかも軍事的な関係も、アメリカが中南米を見捨てた分を中国が拾っている状態なので、これらの材料でアメリカが正面切って中国を敵視する
ことはできず、すり合わせの会議を開くという現実的な対応となっている。
http://fairuse.100webcustomers.com/nws/latimes24.htm
▼米英単独覇権に風穴を開ける「中国式」
中南米やアフリカの国家指導者は数年前まで、アメリカが立案し、IMFなどの国際機関が実施する経済発展プログラムに頼って国家運営をしていた。だがその結果起きたことは、民営化の失敗による財政破綻と、外国からの借金で首が回らなくなる窮地だった。
しかもアメリカはここ数年、発展途上国が安定を重視して独裁体制を敷いていることを非難し「民主化しないと援助しない」という態度を強めている。途上国の多くは、植民地時代に欧州列強が支配しやすいように分断的な国境線を引いた結果、不安定な多民族国家となっている。各国の指導者は、民主化の理想を理解しながらも、それを実現すると国内が不安定になるので、やむなく独裁制を採っている。多くの途上国にとって、アメリカの民主化要求は、無理な
注文である。
かつて発展途上国にとって希望の星だったアメリカは今や、途上国に詐欺的な民営化戦略を採らせて失敗させ、その後は無理難題の民主化要求を押しつけてくる国となり、途上国はアメリカが立案する発展モデルを敬遠するようになった。そして、その空白を埋めるように、途上国の指導層から注目され始めているのが中国式の発展モデルである。
中国式のモデルは、トウ小平が1970年代末に開始し、その後の30年間に中国を急発展させたもので、政治改革を後回しにして旧来の体制を維持しつつ、経済は国家管理を続けながら、少しずつ自由化していく方式である。
理論的に考えると、中国で成功したやり方が中南米やアフリカで成功するのか、という疑問が出てくるが、世界の途上国の指導者としては、独裁体制を維持しつつ、急速な民営化も避けながら、中国のような経済発展ができるのなら、それに越したことはない。アメリカ式モデルしか存在しなかったころは、その方式に従わない国は世界から落第生の烙印を押されたが、今後は「わが国は中国式ですから」と釈明できる。
http://news.ft.com/cms/s/ad142990-c407-11da-bc52-0000779e2340.html
▼資源国を有利にする中国外交
中国式は、特に資源の豊かな途上国を有利にする。これらの国々は、資源を開発するための技術や資金が必要だが、これまでは取引相手がアメリカか、アメリカとぐるになった先進諸国しか存在せず、彼らに逆らえば、制裁されて技術供与を止められ、資源があっても掘り出せず、貧しい状態に置かれていた。
ところが今や、新しい資源の需要国として中国が登場している。中国は、途上国に対して民主化を要求しないし、急速な民営化も求めない。途上国にとって中国とつき合うことは、アメリカの独占体制を打ち破れる武器となっている。
たとえば石油産業に中国の資本を入れた産油国ナイジェリアなどは、原油高騰で貯めた金で、先進国から借りた金を全部返し、言いなりにならずにすむ状況を達成した。
http://news.independent.co.uk/world/africa/article359442.ece
中南米では左翼政権が次々と誕生しており、その点でも「中国式」への親和性が高くなっている。天然ガスの産出国であるボリビアのモラレス新大統領は、今年1月に中国を訪問した際、中国にガスを売る代わりに中国からの投資を受け入れる商談をする一方で「中国はボリビアにとって、政治的、イデオロギー的、そして現実的な面で、同盟国である」とぶち上げた。
http://www.washtimes.com/world/20060110-122729-4662r.htm
中国は、ロシアやインドも誘って、世界中でこの手の外交攻勢を展開している。その動きは、アメリカが単独覇権体制を使って世界で勝手な破壊行為を続けることを、しだいに難しくしている。この動きが、アメリカのイラン攻撃を食い止めるところまで行くのかどうかは、まだ分からない。ブッシュはイラン攻撃を強行する懸念は十分ある。
しかし、中国やロシア、ベネズエラなどの非米諸国の動きによって、アヘン戦争以来の英米による単独覇権体制が崩れ始め、世界が多極化していることは確かである。アメリカの覇権を支えるドルの基軸性も、潜在的に低下している。
先週、スウェーデンの中央銀行がドルを売ってユーロを買う動きをしていると表明し、ドルが急落した。ロシアの外相は「ドルの覇権は終わりつつある」と述べた。IMFまでが、ドルは急落しかねないと警告を発した。アメリカの単独覇権体制は、いつ崩壊してもおかしくない状態になっている。
http://news.ft.com/cms/s/926a7118-cf05-11da-925d-0000779e2340.html