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若者よ高慢たれ―「毎日新聞」特集ワールド この国はどこへ行こうとしているのか
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投稿者 天木ファン 日時 2006 年 4 月 14 日 21:21:26: 2nLReFHhGZ7P6
 

特集ワールド:この国はどこへ行こうとしているのか 新谷のり子さん
 <団塊の世代から>

 ◇若者よ高慢たれ−−大人の価値観を壊す力 今、どうもない気がする。

 フランス政府の新雇用策を撤回に追い込んだ大規模な学生デモは、時のドゴール政権を追いつめた5月革命(1968年)の再来といわれた。その光景に、ある世代はひとつのメロディーを思い起こすという。♪フランシーヌの場合は〜。その歌声の主、新谷のり子さん(59)は、東京・中野の住宅街にある事務所にいらした。ピアニストと音合わせの真っ最中。2日後に新宿区が主催する「平和のつどい」への出演を控えていた。

 「今の若い人たちにあのころのことを話しても、ちんぷんかんぷん。時代が変わったんだと痛烈に感じます。残像をずっと引きずりながら生きてきたものですから」

 新谷さんのデビュー曲となった「フランシーヌの場合」は、東大・安田講堂をめぐる学生と機動隊の攻防戦が繰り広げられた69年、80万枚を超える大ヒットとなった。全共闘の時代を象徴する歌の一つに刻まれた。

 「ソルボンヌ大学がバリケード封鎖されたり、現象は似ているけれど、時代背景が全然違いますよね」。当時、ベトナム反戦運動が世界で盛り上がり、若い世代が影響を受けた。「今はイラク戦争があっても、ベトナム反戦みたいにはならない。あのころは、大人がつくった価値観に対して、ぶっ壊すんだという文化や言葉、アートが力をもっていた。そういう広がりが今、どうもないような気がする」

 あの歌は、新聞記事がきっかけで生まれた。私は地下の書庫から、色あせた69年3月の朝日新聞の縮刷版を引っ張り出した。その記事は夕刊2面の片隅にあった。わずか11行のベタ記事。

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 【パリ三十日発=AFP】三十日朝、拡大パリ会談の会場から二百メートルほど離れた路上で、三十歳の女性がシンナーをかぶって焼身自殺した。フランシーヌ・ルコントさんというこの女性はベトナム戦争やナイジェリア内戦に心をいため、自殺したときもビアフラの飢餓の切抜きを持っていた。

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 同じ69年3月30日の日曜日。都内のクラブで歌う名もなき歌手だった新谷さんは、雨が降りしきる中、初めて三里塚の成田空港建設反対集会に参加していた。親しかった作曲家にその興奮を話し、数日後、見せられた譜面が「フランシーヌの場合」だった。「命がけで訴えたフランシーヌの思いを伝えたい。私の歌が見つかった」と思った。レコードデビューしたところ、たちまちヒットし、全共闘の集会とテレビ局を往復する日々が始まった。

 「かつての若者の一人として思うんです。当時の大人から見たら、私はどれぐらい高慢で、人を傷つけていたかって。でも、若者の怒りはどんな時代でも尊くて、そこから何かが生まれる。無関心が一番いけない。だから、やっぱり、若者は高慢でいい。それ、私の持論なんです。大人がつくり上げてきたものに対して、おかしいと声を上げるのは絶対必要だと思うから」

     *

 37年間の歌手生活のほとんどは、国内外で平和や人権をテーマに、地道なコンサート活動を続けてきた。そこに2001年の9・11米同時多発テロが起きた。直後、群馬県館林市の小学校での「母と子どもの音楽会」に招かれたが、人前に立つのが怖くなって舞台を降りた。大人が殺し合いをしている現実を前に、「子どもたちに何をどう伝えたらいいのかがわからなくなって」。テロの感想を聞こうと、うつむいて手を挙げていた小学1年の男の子にマイクを向けた。

 「その子はしばらく考え込み、ひとこと、『大人はみんな疲れてる』。そうだよね。自分でも疲れてるなと思うことがある。肉体的な疲れじゃなくて、時代に対する不安感とか危機感、無力感みたいなこと。それを子どもに見抜かれていた。大人も、ぶざまでもそのままをぶつける以外にないと思い知りました」

     *

 本名は「あらや・のりこ」と読む。デビュー当時、大先輩の淡谷のり子さんと読みが1字違いでは恐れ多いと、芸名は「しんたに」に。歌手生活20年を記念した本を出版する際、対談したのがきっかけで、90年には夢の共演も実現した。その思い出は「宝物」という。

 「ものすごく尊敬しています。戦時下、戦意を鼓舞する歌をうたうのか、そうではないのかと二者択一を迫られた時、淡谷先生は『私は愛の歌しかうたいません』と言った。モンペをはけ、お化粧はいけないと言われ、非国民呼ばわりされ、特高に囲まれても、ドレス姿でうたい続けた。そんな時代が再び訪れたら、自分はどうなの? 以前はステージでそんな話もしましたけれど、最近のこの国の変わりようを思うと、安易に口にできないのではないかとひしひし感じています」

     *

 「まったく、神様の考えることはよくわからない」と新谷さん。生涯、シングルで通すと思っていたら、4年前、九つ年上の「企業戦士」と出会い、半年で結婚。湘南海岸近くの鎌倉で暮らす。

 「二人で暮らすようになって、視野が広がりましたね。一緒にニュースを見ていても、相棒から『社会党的なものの見方しかできないのか』って言われます。あのころ、インプットされたものが、抜けきらない。一番いけないのは、ヘルメットの色で人を選別してしまうこと」

 今の若者が星座や血液型で人の相性や性格をくくるのに似ているという。一方で、世間も新谷さんを色眼鏡で見る。

 「支配されるのは嫌だと破壊していたつもりが、実はがんじがらめで、ねばならないということに支配されていた。そういうところから自由になりたい。格闘しながら、なかなかできない。一生かかるかも」。どこまでも真っすぐで不器用な人だ。

 フランス全土で抗議行動への参加者が300万人に達したと報じられた3月29日の夜、新谷さんは新宿文化センターのステージに立っていた。もちろん、あの歌もうたった。原曲ではフランス語のナレーションが入るが、新谷さんは日本語でメッセージを添えた。「いただいた命だよ。生きて、生きて……」【大槻英二】

http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20060414dde012040036000c.html

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