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温故知新 −ビル・トッテン−
米国の圧政抜け出す動き
2006/06/01の紙面より
中南米の国、ボリビアのモラレス大統領はメーデーの五月一日、同国の天然ガス事業を国営化すると宣言した。同国内で現地生産をしている外資企業に対しては新しい条件での契約を促し、合意しない場合は六カ月以内に撤退を求めるという。
中南米の反米国
一八二五年スペインから独立以来、革命や反革命が続いたボリビアは中南米で最も貧しい国である。社会主義運動党のエボ・モラレスは先住民として初めて大統領となった。ボリビアの国民一人当たりのGDPは二千七百ドルで、人口の六割近くを占める先住民の多くは一日一ドル以下で暮らしている。先住民を代表するモラレスが大統領に立候補したとき、米国は当選すれば経済援助を打ち切ると、有権者を脅した。
中南米で反米といえばベネズエラのチャベス大統領がいる。ロシアから武器を購入するなど米国を刺激し、また米国が自国の農産物市場を開放しない限り進めるべきではないと米州自由貿易圏(FTAA)を批判している。中南米最大の石油輸出国であるベネズエラは米国にも石油を輸出しているが、今後はそれを減らす方針だと発言している。
もう一つの反米国はキューバで、日本の優勝に終わったワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では、当初、米国政府は経済制裁をするキューバに参加は認めないとしていた。これに対してキューバは、WBCを通じて獲得した収益金のすべてをハリケーン「カトリーナ」の被災地に寄付するという公約を掲げて、キューバ政府に金銭が渡らないことを前提に大会参加が可能になった。そして米国の経済制裁を受ける貧しい国が、準優勝して金持ち米国の貧しい人を助けるという皮肉な結果となったのだ。
盲従する政府与党
米国の裏庭と呼ばれる中南米で、米国の圧政から抜け出す動きが高まっている。このカストロ、チャベス、モラレスが先ごろキューバで会談し、エネルギーをはじめさまざまな分野で相互に協力する、米国のFTAAに対抗する「ボリバル代替統合構想」(ALBA)に調印した。
一九八〇年代後半から中南米は米国による民営化と市場開放が進み、その結果貧困の解決どころか多国籍企業だけが肥え太るという状況が続いてきた。米企業のベクテル社はイラク戦争の後、巨額のインフラ再建工事を受注したが、当時ボリビアでも水道民営化プロジェクトを推進し、それによって民営化後、ボリビアでは一カ月の平均年収が約六十七ドルしかない地区で家庭用水道料金が二十ドルにも値上がりし、人々の抗議行動によって水道事業は再び公共事業に戻された経緯もある。
六月四日に予定されるペルー大統領選決選投票でも、チャベス大統領たちと親交がありエネルギー価格高騰のため天然ガス・石油の国有化を公約に掲げているウマラ氏が当選すれば、中南米の米国離れはさらに進むだろう。
日本のテレビだけをみていると世界は米国を中心に回っていて、また政府与党は米国の言うことを聞いていれば安泰とばかりに盲従している。しかしイタリアでもイラク戦争を一貫して支持し、イラクに派兵してきたベルルスコーニ首相が辞任し、旧イタリア共産党出身のナポリターノ氏が大統領に選出されるなどヨーロッパにも反米は広がっている。米国内でさえ、先月ニューヨークではイラクからの米軍即時撤退を求める三十万人規模のデモが行われ、ブッシュの支持率は低迷している。このような世界の動きを、日本のメディアは報道していないのだろうか。
選挙で現政権落選
ボリビアで私が思い出したのは、戦後、米軍統治下の沖縄からボリビアへ強制的に移民された沖縄の人々のことである。一九五〇年代から六〇年代にかけて、嘉手納空軍基地建設のために強制立ち退きとなった人たちを米軍指揮官は強制または勧誘によりボリビアに移民させた。移民といってもそれはアマゾン川上流のジャングル地区に置き去りにするにも等しいものだった。
戦後六十年経った今、在日米軍再編のために日本に三兆円もの費用を出させようとしている米国と、国民を欺きながらもそれに従おうとする日本の与党政府。しかし敗戦国の指導者を、宗主国から国民のほうへ向かせるにはボリビアのように国民が結束して選挙で現政権を落選させるしかない。それが可能であることを中南米の国々は示してくれている。(アシスト代表取締役)