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2006年4月3日(月)「しんぶん赤旗」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2006-04-03/2006040306_01_0.html
(写真)アブディス村の分離壁際を歩く女性
イスラエル政府が占領地ヨルダン川西岸に建設中の分離壁。「テロリストの侵入阻止」を理由にしたこの壁がいま、パレスチナ人社会を引き裂いています。生命の危険とともに、将来の「国境」に一方的に決定される可能性も高まっています。 (エルサレム=小泉大介 写真も)
このほど、二年数カ月ぶりに東エルサレムの東隣、ヨルダン川西岸のアブディス村を訪れました。
前回の訪問時には、東エルサレムとの境界に高さ二メートル程度の仮設壁がありましたが、隙間を抜けたり壁を乗り越えて多くのパレスチナ人が行き来していました。
高さは約8メートル
いまはそこには、高さ約八メートルの本格的な壁が立ちはだかり、周辺はひっそりと静まり返っています。
分離壁にほど近いアブディスのアルクッズ大学。東エルサレムから通学し化学を学ぶ女子学生のアマルさん(22)はいいます。
「壁の建設前は、通学にかかる時間は十分程度でした。現在は十倍もの距離の遠回りを強いられています。イスラエル軍の検問所も通過しなければならないので少なくとも一時間はかかります。私たちはイスラエルの若者と仲良く暮らしたいと思っているのに、なぜこんな仕打ちを受けなければならないのでしょう」
アブディス村と南北で接する西岸のサワヒラ、アザリア村の人口は、あわせて約八万人。パレスチナ人口二十万以上の東エルサレムとは仕事や教育、医療などすべての面で切っても切れない密接な関係にありました。
三村には病院も診療所もなく、医療面での唯一の頼りが東エルサレムのマカセド総合病院です。分離壁はこれらの村の住民の命にかかわる分野で危機的な状況をもたらしています。
患者を運べず
「分離壁建設後の二年間、脳梗塞(こうそく)や心臓発作など、一刻を争う患者で搬送に時間がかかったために命を落とした人は少なくありません。産気づいた女性が分娩室にたどり着く前に出産するなどの事態も起きています」
マカセド総合病院のカレド・クレイ医師が語ります。
壁の建設前は二百五十床が足りないくらいだったのに、現在は三分の一以上が空いている状況だといいます。
「分離壁によってパレスチナ人の生活は破局的となっています。イスラエルは治安対策といいますが、このような状況ではパレスチナ人の憎しみを増すだけです。イスラエルの政治的な目的による壁建設がもたらしている影響は重大です」(同医師)
パレスチナ人の生活を根底から脅かす分離壁―国際司法裁判所は二〇〇四年七月、西岸とイスラエル境界から東側に深く入り込み、大規模入植地を併合するように建設されているこの壁を「違法であり撤去するように」と勧告しました。
三月八日、国連からパレスチナに派遣されているドゥガルド特別調査官は、「分離壁は家族を引き離し、人々を病院や学校、仕事場からも切り離すという重大な人道問題を引き起こしている」と警告しました。
しかしイスラエル政府は建設を止めず、早期に総延長約七百キロの壁を完成させる方針を変えていません。
三月二十八日のイスラエル総選挙で第一党となったカディマの指導者、オルメルト首相代行は、パレスチナ評議会選挙で圧勝した武装抵抗組織ハマスが主導する新政府とは現状では交渉しないとし、壁をつくり一方的な国境の画定をおこなう方針を表明しています。
仕事奪われて
「アブディス、アザリア、サワヒラの三村に住みエルサレムで仕事に従事していた一万数千人の住民が、分離壁建設で次々と仕事を奪われています」
アブディスに住み、東エルサレムで土産物屋を営む男性、ネマン・バデルさん(54)はいいました。
「イスラエル政府はハマスと交渉しないといっていますが、パレスチナ人から和平の希望を奪い、強硬派のハマスを政権の座に付かせる政治状況をつくったのは、ほかでもないイスラエル自身ではないですか」
分離壁
「テロリストの侵入阻止」を名目にイスラエル閣議がヨルダン川西岸に分離壁を建設することを承認したのは二〇〇一年七月。翌年六月には第一期建設工事が始まり、〇三年には総距離約七百キロにおよぶ計画全体が閣議決定されました。費用は一キロあたり約三百万ドル(約三億五千三百万円)といわれます。今回、イスラエルの選挙で勝利したカディマも分離壁建設続行を主張しています。