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先ごろ閉幕した中国の全国人民代表大会で、前年比14.7%増となる2807億元(4兆700億円)の2006年国防予算が承認された。これで国防費は18年連続の二けた成長だ。しかしこの額は国防費の一部でしかなく、実態はその2、3倍とされる。厚い秘密のベールに包まれている中国の国防支出の謎とは。 (浅井正智)
■大阪府予算と同じ財政規模
「中国の国防支出は世界的な比較でも低い水準にある」
全人代の姜恩柱報道官は、国防予算を説明した今月四日の記者会見で、〇五年の主要国の国防費を示しながらこう言い切った。
米国の四千十七億ドルを筆頭に、英国四百八十八億ドル、日本四百五十三億ドル、フランス三百六十五億ドルが続く。これに比べ中国は三百二億ドル。この数字から「中国には軍備を強力に発展させる意図も能力もない」(姜報道官)ことが分かると言いたいようだ。四兆円あまりという〇六年の国防費は、大阪府の予算規模とほぼ等しい。
しかし中国は核保有国であり、米国が構築を進めるミサイル防衛システム(MD)の無力化を狙った宇宙開発も進める。ロシアから調達した第四世代の戦闘機スホイ27、30は三百機を超える。米国防総省の〇四年報告は、スホイ導入など最新兵器購入のために四年間で百二十億ドルが投じられたと記している。これだけの大盤振る舞いが、大阪府の財政と同規模の額で支えられているとは信じ難い。
拓殖大学の茅原郁生教授(中国軍事)は、「国防費とは、軍事費のほか国防工業投資、国防科学研究費、民兵などの準軍隊関連費を含む国家防衛の総経費を指すが、中国が公表する国防費は、中央政府が支出する正規軍の維持、管理的な経費に限定された狭い意味の国防費だ」と指摘する。
在日中国大使館のホームページによると、国防費は「人員生活費」「活動維持費」「装備費」から構成されている。人員生活費は将兵や職員の賃金や食事、衣服に、活動維持費は部隊の訓練、工事施設の建設や修理保守などに使われる。装備費は兵器と装備の購入や保守に充てられる。
その装備費も「実態を反映していない」と茅原氏は強調する。「戦車や軍艦、戦闘機など正面装備(主要武器)の支出が計上されておらず、後方装備のみが扱われている」からだ。核兵器や弾道ミサイルはもちろん、外国から兵器を輸入する費用も入っていない。
中国軍事研究者の平松茂雄氏は、「国防支出は単に現有兵器・装備の再生産だけではなく、先端的な新兵器・装備の研究開発にも向けられる。しかし発表される国防費の中にはそのために必要な金も盛り込まれていない」と話す。
では、本当の国防支出はどこに隠れているのか。
中国の予算は「国防費」のほか「経済建設費」「社会文教費」「行政管理費」などの費目からなる。正面装備の購入が経済建設費、研究開発が社会文教費の名目で支出されているのは専門家の一致した見方だ。さらに治安維持を担う人民武装警察の管理費は、行政管理費に計上されている。
■宇宙開発除外 国防相も肯定
〇三年十月、初の有人宇宙飛行に成功したように、中国の宇宙開発には目覚ましいものがある。宇宙ロケットの技術は弾道ミサイル戦力の強化と不可分であり、中国の宇宙開発は強い軍事的色彩を帯びるが、それに要する経費も公表国防費からはうかがい知ることはできない。そのことは、ほかならぬ曹剛川国防相自身が認めている。
昨年十月に訪中したラムズフェルド米国防長官が曹国防相との会談で、「中国は国防費を実際より少なく公表している」と透明性の欠如に懸念を示したのに対し、曹国防相は「疑いのない数字だ」と反論したが、有人宇宙船などの「特定の開発費用は含まれていない」と明かしたのである。
公表国防費からこぼれ落ちているものはまだある。台湾有事を想定し、人民解放軍が近年進めている後方支援への民間動員だ。
中国が民間動員の有用性に気づいたのは、英国とアルゼンチンが戦った八二年のフォークランド紛争で英国軍がこれを多用したことがきっかけとなった。英国軍は民間船舶を徴発して兵器や作戦物資を輸送し、軍の上陸作戦にも使用した。平松氏は「台湾有事を想定したとき、解放軍に欠けている上陸能力、補給能力を補うものとして民間動員に目を付けた」と話す。
民間動員はこれにとどまらず、有事の際に民間人に陣地をつくらせたり、民間が所有するパソコンを徴発して軍事用として使うなど社会のあらゆる面に浸透しつつあり、必要な訓練も定期的に行われている。ところが徴発や訓練などにかかるコストは、地方政府が負担しているとみられ、公表国防費のどこを見ても出てこない。
国防費が見かけ上少ないのは、「兵器がいまなお市場原理の働かない統制価格によって抑えられている」(平松氏)ことも一因と考えられる。
〓小平時代の経済改革によって、多くの品目が統制価格から自由価格に切り替えられた。しかし「重要産業である軍事産業は国有のままであり、国家による管理は緩められていない。かつて日本のコメが政府の二重価格政策で安く消費者に提供されていたように、今の中国では軍が特権的な条件で兵器を調達している」(同氏)とみられている。
一体、実質国防費はどのくらいになるのか。
米国防総省は〇五年の中国国防支出を公表額の三倍にも達する九百億ドルとはじき出した。一方、台湾紙・中国時報は〇四年の国防支出を六百五十億−七百六十億ドルと推定している。茅原氏は「米軍はトランスフォーメーション(再編)を進めるためにも中国の脅威を強調する必要があり、米政府の出した額は、多分に政策的な狙いを含んだ数字」とし、台湾紙の推定を妥当な線とみる。
中国が初めて国防政策を公式に明らかにした九五年の白書「中国の軍備管理と軍縮」は、「国防支出は、常に国家の安全を確保するために必要なだけの低水準で推移している」とし、国防費の増額は「物価上昇に対応するもの」と主張している。この主張は十年来、全く変わっていない。「低水準」の軍拡によって十年間に公表国防費だけでも四倍以上に膨れ上がっているわけだ。実態は隠されているものの、公表国防費も中国の軍事力強化を示すバロメーターであることに違いはない。
温家宝首相は全人代の政府活動報告の中で、今年の経済成長率の目標を8%前後に定めた。それをゆうに超える14・7%という公表国防費の伸びは「やはり中国が国防費を聖域と見ている証拠だ」と茅原氏は指摘し、こう中国の姿勢をただす。
「中国脅威論を払拭(ふっしょく)したいのなら、国防支出の実態を明らかにすることで国際社会の疑念を晴らしていくべきだ」
(〓は登におおざと)
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060320/mng_____tokuho__000.shtml