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株式日記と経済展望
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映画『シリアナ』の真実 アメリカ政府と民間の石油
企業が密接につながっているかを克明に描写している
2006年3月18日 土曜日
◆元CIA工作員ロバート・ベアが語る映画『シリアナ』の真実 大野和基
http://www.globe-walkers.com/ohno/interview/robertbaer.html
映画の登場人物はギャガンが実際に会った人々
「まさか自分が書いた本がきっかけで映画ができるとは夢にも思わなかった」
元CIAケースオフィサー(直接雇われている工作員)で中東に長期赴任していたロバート・ベアは、開口一番そう言った。ペアとは何度も会っているが、今回はコロラド州ロッキー山脈の山中にある人口550人ほどのこぢんまりした町の自宅で会った。そこでベアはいまスキー三昧の日々を送っている。
ベアが、映画監督のスティーブン・ギャガンから連絡を受けたのは、「CIAは何をしていた?」(新潮社刊)が出てまもない2002年の夏頃だった。サンタモニカのレストランに招待されたベアは、そこで中東に赴任していた頃の事を2時間ばかり話した。ギャガンはベアの話に夢中になり、すっかり魅了された。
ベアは当時、娘(映画では息子になっている)を二ースのボーディング・スクール(全寮制学校)に連れて行かなければならなかった。そこでギャガンにこんな提案をしたのだ。
「中東の石油産業に関与してかる輩は、夏になるとみんな南仏で遇ごすんだ。そこに行けば、石油産業を裏で繰っているやつにも会える。何なら紹介してあげるよ。何を訊いてもいい」
ギャガンは二つ返事でOKした。
南仏でギャガンに紹介した人のほとんどは、ベアがCIAで工作員をしているときに知り合った人物だが、中には誰も本当の名前を知らない億万長者もいた。
その人物は、関係者に“裏取引専門家”と呼ばれていたが、チャリティーに数百万ドルの寄付をする偽善者でもあった。
ギャガンは、彼から石油業界がどのように動いているかを詳しく学んだ。
実際にブラックマンデーにかかわったテロリストもいた。彼はなぜテロリストになったのか、どういうマインドを持っているのか、といった普通では知り得ないテロリストの内面を覗くこともできた。
取材旅行の間、ギャガンは、多くの人々から赤裸々な話を聞いているうちに、感化されたのかもしれない。彼は自分が深刻なヘロイン中毒である身の上話をベアにしていた。
「大金を持つとどうしてもそラなってしまうので、非常に怖がっていたよ。マリブにある彼の自宅も小さい借家のアパートらしい。今回の映画についても、映画があまりにも政治的な色が濃いこともあり、興行面を気にしてかて……収入から経費を引いて、残りは配給にかかる費用の方に回したそうだ。みんなに観てもらいたいんだよ」
映画のストーリーはもちろんフィクションだが、中に出てくる話は、事実に基づいた内容だ。
例えば、映画でナシール王子を誘拐・暗殺する話が出てくるが、それもペイルートで起こった話がもとになっている。カタール政府に反対したハマド王子は、シリアに身を隠していたが、95年と97年にクーデターを起こそうとしたことが原因で、98年と99年に誘拐されている。
ロンドンで実際に開かれた石油会議では、ベア自身がスピーチをしているが、そこで開かれたパーティーと同様のシーンも映画に出てくる。その会議にもギャガンはどういう雰囲気かをつかむために潜入した。
また、ベア役であるジョージ・クルーニーが拷問を受けて、爪をはがされるという残酷なシーンがある。実際にベアの爪をみると、はがされた形跡はないが、そのことを尋ねると、「80年代、ベイルートでアメリカ人がよくイラン人に拷問を受けたんだが、爪はがしは相手が口を開かないときの常套手段だった。私個人は経験ないが」とベアは説明した。
映画に登場する人物も、間違いなくギャガンが実際に会った人々がヒントになっている。
ジュネーブで会った豪邸を3つも持っている石油業界の人物(故人)は、ロナルド・レーガンと懇意にしていた超大物だった。武器と石油でぼろ儲けしているカーライル・グループの人にも取材を申し込んだが、予想通り拒否され、おまけにギャガンが他の人物と話している間も、ずっと監視され続けた。
シリアのダマスカスでは、ギャガンはイラン・シーア派の指導者にも面会したが、彼こそが「アメリカがイラクを沈静化化したければ、空爆ではなく、一つ一つの通りで闘っていくしかない」と言った人物だ。彼からも多くのヒントを得た。
ベアが、シリアの石油担当大臣にギャガンを会わせたときは、自分が元CIA工作員だとは言えないので、彼は石油ディーラーになりすまして会った。変装はベアにとってはお手のものだ。
実際、CIAに裏切られ、FBIから取り調べを受けた
映画の中で1回だけ、ベア本人が出てくる場面がある。「パスポートを出せ。すべてのパスポートだ」とクルーニーを尋問するところだ。
「あの撮影はメリーランド州ボルティモアで行われたが、たった数秒間の台詞を言うのに、何時間もかかった。しかも最低賃金でね」
ベアもCIA工作員のときには、いくつもパスポートを持っていたが、すべてアメリカ政府発行する偽名のパスポートだった。本名のパスポートはない。中には外国政府が発行したように見せかけた外国のパスポートもある。それもアメリカ政府が作ったというから興昧深い。
ベアは95年、CIAからの命令でサダム・フセインを暗殺しようと試みるが、途中でCIAに裏切られ、FBIから取り調べを受けたことがある。映画の中では、クルーニーが、ナシール王子暗殺の指令を受けるが、計画中にCIAから裏切られるシーンがある。「どうして私が取調べを受けているのか」とスタン・ゴフ役のウィリアム・ハートに問い質すところだ。
また、情報筋がホワイトハウスに誤った情報を提供したために、それが原因で間違った方向に動く事件もある。例えば99年、誤報が原因で石油関連企業であるハリバートン社が不利な立場に置かれるケースがあったが、当時CEOであったチェイニーがその代償を払った。映画に出てくる法律事務所のディーン・ホワイティング代表に入ってきた情報もその類だ。王子を悪党にして潰せば、王子が中国に渡そうとしていた探油権がアメリカに戻ってくる―狙われた王子は何が起こっているのか、まったく知らないままだ。
さらに映画の終盤で、CIAがミサイルで車を爆破するシーンがある。これは、2002年の11月、CIAがプレデターという無人機からミサイルを発射して、アルカイダの車を爆破した事件をもとにしている。そこで1人のアメリカ人が犠牲になっているが、彼がアルカイダのメンバーなのかどうかはわからない。
事故に見せかけて消す方法は、CIAや他の諜報機関が使う常套手段だ。実際に謀殺かどうかは結論が出されていないが、ダイアナ妃が死んだのも確かに事故だった…-。ベアはこともなげに言う。
「モロッコで王が事故にあったが、あれも事故に見せかけているだけで、実際は計画的な殺害だ。CIA工作員ならピンとくるし、いろんな方法を教えられる。妻を殺したかったら、電気ショック事故に見せかけるとかね」
現実の世界でも全体を把握している人はいない
この映画を観ると、誰もが混乱してしまう。日本人の私だけでなく、アメリカ人でもそうだった.ベアにインタビューした後、彼の友人たちと一緒に映画を鑑賞したが、観た後、ベアはみんなから質問攻めにあった。
「この映画は、意図的観客を混乱させるように作られている。映画の出演者も他の人が何をしているか、わかっていない。普通の映画なら観客はわかるだろうが、観客もわかりづらい。ギャガンが、できるだけ事実を忠実に再現しようとしたから、こうなっただけなんだ」
たとえば、ペルシャ湾には南と北に有名な油田がある。映画では、これを一つにする話とカザフスタンの油田の話が同時に出てくる。そこに民間の法律事務所の調査がからんできて、事態はますます混乱してくるようにみえるが、現実の世界でも全体を把握している人はほとんどいないと、ベアは言う。
商社に勤めるマット・デイモンも、アナリストとしてのナシール王子へのアドバイスと金儲けのこと以外には関心がない。だから、他で何が起こっているかまったくわからない。
中東で武器商人の暗殺を遂行したクルー二ーも、暗殺には成功するが、武器の1つをテロリストに渡してしまう。ちなみにこのシーンの続きに出てくる、ちょっとした暴動シーンは実際に起きているものを撮影したそうだ。
「こういうことも、すべてが偶然の結果なんだ。普通のハリウッド映画では考えられないほど、プロットが複雑なんだよ」
いくらフィクションとはいえ、あまりにも現実をリアルに描いているため、ノンフィクションと勘違いする人もいるほどだ。クルーニーは映画の中で、最後に死んでしまうが、プレミア試写のときに会った人から、「でもベア氏、あなたはまだ生きていますね。なぜ?」と言われたほどである。
アメリカ政府と民間の石油企業とのつながり
私は、元CIA長官のウルージーにもインタビューしたことがあるが、彼も、この映画にアドバイスしているという。
2001年9月11日に起きた、同時多発テロ事件がすべてを変えたとウルージーは話していたが、ベアも同じ意見だ。
「石油企業のユノカルは、タリバンとも関係があるので、アメリカ政府仁情報を流していた。しかし、ビン・ラディンがその日にテロ事件を起こすことはわからなかったよ」
石油企業とアメリカ政府との関係は非常に密接で、政府はCIAからよりも石油企業からの情報頼るほどだ。民間の企業がこういう諜報活動にかかわっているのは、別に驚きではないという。
それにしても、我々の知らない世界のオンパレードだが、果たしてギャガンがこの映画で描きたかったこと、伝えたかったことは何だったのか。12月9日の「NFR((ナショナル・パブリック・ラジオ)」のインタビューに次のように答えている。
「最初の1時間は、とにかく現実にどっプり浸かっている感覚を観客に与えるのが目的だ。現実がどのように動いているのか、生きているというのはどういうことなのか、その世界に観客を投げ込むのです。後半は、前半で起きていることが、ヒューマニティという共通点通してつながっていくのです。アフガニスタンの洞窟に住んでいる男が、ワールド・トレードセンターを崩壊させることができるという現実を伝えたかった。世界が非常に緊密につながっていて、“糸をちょっと引っ張るだけ”で世界を震撼させることがあるということを劇的に伝えたかった」
自爆テロ行為はもちろん許せないが、青年がそういう行為を取るにいたる環境がある。映画に出てくるワシームだ。採油権が中国に渡ったためにコネツクコネックス社で働いていた彼が突然解雇され、路頭に迷うが、そのときに心の支えになったのがイスラム神学校だった。そこで過激な思想を受け入れるようになっていく過程が映画ではよく描写されている。
ベアは最後にタイトルにまつわる面白い話をしてくれた。
「この映画は、二つの石油会杜の合併と同時に、暗殺や策略、テロなど複数の話が並行して進むので複雑だ。しかし、映画のタイトルに使われている“シリアナ”という言葉は、あるシンクタンクが石油の利権をめぐって作った中東再建のための架空の国名なんだが、実際、石油に関して言えば、中東の国境はあいまいでもある。その一方で、そんな夢は妄想でしかないことも意味している。この映画は、妄想の実現のために、いかにアメリカ政府と民間の石油企業が密接につながっているかを克明に描写しているんだ。その内容があまりに事実に近いので、ワシントンのプレミアのとき、招待されたAEI(アメリカン・エンタープライズ・インスティチュート)というブッシュ政権にもっとも近いシンクタンクの人たちは、映画の途中で出て行ったほどだ。映画が現実に近すぎて、観るに耐えられなかったのだろう」
確かに、今までのハリウッド映画とは違い、複雑なプロットの映画だが、中東の石油事情を知る入り口としては最適だし、頭を使うのが好きな人にはもってこいだろう。
(私のコメント)
昨日は今話題の「シリアナ」を見てきましたが、ドキュメンタリータッチの映画でハリウッド的な派手さは無い映画でした。この映画は見る人が見ないと面白さは分からないのですが、多くの映画ファンにとっては途中で寝てしまうような退屈な映画に見えるようだ。私も途中で何度かウトウトした。
しかし映画の中の台詞を見れば意味深なものが多くて関係者が見れば冷や汗ものの映画なのだろう。映画を見ればアメリカという国そのものが石油産業で作られたものであり、飯のタネである石油がアメリカ国内では枯渇しつつある現状では、アメリカの石油産業は中東と中央アジアに進出せざるを得ない。
そのきっかけになったのが9・11ですが、アメリカ軍はテロ退治の大義名分をかざしてイラクに直接支配に乗り出しましたが、そこはアメリカにとっての墓場になるだろう。「シリアナ」こそはアメリカの墓場なのだ。映画の中では中東からヨーロッパまでのパイプライン計画が出てくるが、パイプラインはテロリストにとっては格好の目標だ。
石油産業の黒幕にとってはアメリカ政府も一機関に過ぎず、大統領といえども彼らには逆らえずにイラクに侵攻しましたが、ハイテクを誇るアメリカ軍は小銃しか持たないテロリストに苦戦している。映画でアメリカに都合の悪い中東の王子を、はるか上空からピンポイントで精密誘導ミサイルで爆殺する場面がありますが、これで世界の独裁者は安心して眠れるところが無くなった。
だからアメリカにとっては中東は独裁国家であってくれたほうが支配しやすいはずですが、アメリカは中東を民主化するとして直接支配に乗り出した。アメリカは世界を騙して中東を支配しようとしたのに、一番騙されたのがアメリカになるという皮肉は「策士、策におぼれる」のたとえのように跳ね返ってくる。
映画の初めの部分でも中国が中東に乗り出している事が描かれていますが、アメリカとは違って友好的に進出しているから厄介な相手だろう。その意味でもアメリカと中国とは石油をめぐって中東で熾烈な奪い合いが行なわれるだろう。そして中国が中東の石油を支配するようになればアメリカは戦わずして中国に敗れる事になる。
地政学的に見ればアメリカが中東で勝つことはありえないことなのですが、世界中で石油の9割が中東にある以上、アメリカは石油を求めて中東に行かざるを得ないのですが、長期戦になって負ける事ははっきりしている。ワシントンのシンクタンクの頭の良い研究者も質が低下してきたのだろう。
ついに狂い始めたアメリカの軍需石油産業のラムズフェルド