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イランとアメリカのハルマゲドン 【田中宇の国際ニュース解説】
http://www.asyura2.com/0601/war78/msg/598.html
投稿者 愚民党 日時 2006 年 2 月 22 日 00:29:53: ogcGl0q1DMbpk
 

田中宇の国際ニュース解説 2006年2月21日 http://tanakanews.com/


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★イランとアメリカのハルマゲドン
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この記事は「イランとアメリカの危険な関係」の続きです。
http://tanakanews.com/g0214iran.htm

 1年半ほど前に「キリストの再臨とアメリカの政治」という記事を書いた
http://tanakanews.com/e0721secondcoming.htm )。「聖書には、イスラ
エルと反キリスト勢力との最終戦争(ハルマゲドン)が起きるとき、ローマ時
代に昇天したキリストが再び地上に降臨し、至福の時代をもたらしてくれると
いう預言が書かれているが、この預言を早く実現するため、イスラエルの拡大
や、中東での最終戦争を誘発しているキリスト教原理主義の勢力が、アメリカ
政界で強い力を持ち、ブッシュ政権を動かしている」という主旨の分析だった。

 その後、イラクの泥沼化によって中東全域で反米感情が高まり、中東各地で
欧米(キリスト教世界)への敵意を持つイスラム原理主義勢力が勃興し「イス
ラエルを潰せ」という呼びかけが強まり、ブッシュ政権はイラクに次いでイラ
ンにも戦争を仕掛けようとしている。中東はまさにハルマゲドンに近づいてい
る観がある。

 そんな中で最近、さらに興味深い構図があることが分かってきた。それは
「最終戦争」の構図の中でアメリカの敵となっているイランにも、アメリカと
そっくりな、鏡に映したような「この世の終わりに、大混乱の中で救世主が再
臨する」「再臨を早めるため、世の中の混乱をむしろ誘発した方が良い」と考
えるイスラム教の勢力があることである。しかもイスラム教では、「マフディ」
(Mahdi)と呼ばれるこの救世主の再臨は、イエス・キリストの再臨の前に起
きることになっている。

 昨夏からイランの大統領をしているマフムード・アハマディネジャドは、マ
フディの出現を誘発すべきだと考える一派の人間だという指摘がある。アメリ
カとイランは、両方で救世主の出現を早めようと相互に好戦的なことを言い合
う構図になっている。

▼再来するキリストとマフディ

 イスラム教の聖典コーラン(クルアーン)には、先行宗教であるキリスト教
とユダヤ教の旧約・新約の聖書の主要な内容が、そっくり盛り込まれている。
キリストやモーゼ、アブラハムなども、イスラム教創始者のムハンマド(マホ
メット)と並んで、神の言葉を人間に伝える「預言者」であるとされている。
ムハンマドが最後の預言者で、彼の後にはもう預言者は現れないことになって
いる。

 好戦的なパレスチナ占領地のイスラエル人は、以前私に「ムハンマドは預言
者なんかじゃない。彼は、新興宗教を作るために他宗教の教典をコピーしただ
けだ。最後の預言者だというのも、後出しジャンケンと同じでインチキだ」と
言っていた。「ムハンマドは、キリスト教徒やユダヤ教徒に改宗を迫りやすい
ように、先行宗教の教義を取り込んだのだ」と言う人もいた。
http://tanakanews.com/b0122jerusalem.htm

 宗教の話なので理由を合理論で分析することは控えるが、とにかくコーラン
にはキリスト教の教義が取り込まれている。十字架にかけられて昇天したキリ
ストは天上ですごしており、いずれ来るこの世の終わりに地上に再臨し、その
後人類は「最後の審判」を経て至福の時代を迎えるという終末論の未来像も載
っている。コーランでキリストは「イエス」の変化型である「イッサ」(Isa)
と言う名前で出てくる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Isa

 コーランの終末論には、キリスト教にない話も載っている。それがマフディ
の出現で、彼はキリストが再臨する前に世界が大混乱するときに現れ、悪者
(「ダジャル」dajjal と呼ばれるニセの救世主)と戦って勝ち、この勝利の
後、キリストが天から再臨することになっている。

 マフディは救世主だが預言者ではなく、ムハンマドの子孫である人間という
ことになっている(こう定義することで、ムハンマドが「最後の預言者」であ
るという教義に反しないようにしている)。ここまでは、スンニ派とシーア派
で同じだが、ここから先の解釈は両派で大きく違ってくる。スンニ派では、マ
フディはムハンマドの子孫として将来メディナに生まれる普通の人間である。
だがシーア派ではマフディは、西暦873年に「お隠れ」になった「最後のイ
マーム」が再臨するものだとされる。
(イランの75%、イラクの60%がシーア派)
http://en.wikipedia.org/wiki/Mahdi

▼イマームの「お隠れ」

 シーア派の「イマーム」とは、全イスラム教徒を束ねる歴代の指導者で、ム
ハンマドの子孫というだけでなく、神の意志を一般信者に伝える「聖人」的な
存在だったが、最後(第12代)のイマームがなくなった後、イマームの系統
は絶えた。

(歴代イマームが12人いたと考える「12イマーム派」がシーア派の中の多
数派だが、ほかにイマームは7人しかいなかったと考える「イスマイル派」、
5人だったとみなす「ザイード派」など、シーア派の内部はさらに複雑に分岐
している)

 シーア派では最後のイマームは死んでおらず、普通の人には見えない姿で存
在し続けていると考えられ、この世の終わりに再び現れると考えられている。
キリストのように昇天したと考えると、次に現れるときに「預言者」扱いにな
り「ムハンマドの後には預言者はいない」というイスラム教の根幹の教義に反
してしまうので、シーア派では「最後のイマームはお隠れになっている」とい
う、微妙な考え方を採っている。

 オリジナルな教えを重視するスンニ派は、シーア派が「聖人」「お隠れ」と
いった神秘的な教義を勝手に加えていることを嫌い、原理主義のスンニ派の中
には「シーア派は異端だから殺せ」と主張する勢力がある。

 シーア派信者の多くは、古代から大文明があったペルシャ・メソポタミア地
方におり、シーア派の神秘的、密教的な性格は、彼らがイスラム教に帰依する
前にこの地域に存在していた古代文明の神秘宗教(ミトラ教、ゾロアスター教
など)の影響を受けている。この神秘宗教は、日本仏教の密教や、古代のギリ
シャやインドの宗教と共通性がある。
http://tanakanews.com/d0124iraq.htm

▼イラク戦争と「この世の終わり」の類似

 仏教にも、将来の出現が予定されている救世主として弥勒菩薩(みろくぼさ
つ)がいるが、弥勒が現れるのは非常に遠い将来であり、もうすぐ現れるもの
ではない。それに比べると、マフディはもっと現世に近い存在で、19世紀に
中東がイギリスなどの植民地にされ、人々に対する抑圧が高まったときに「自
分はマフディだ」と主張する宗教指導者が相次いで出現した。イランではイス
ラム教から派生した新興宗教としてバハーイ教がおこり、その指導者が、自分
はマフディだと宣言した。1881年にはスーダンでも、イギリス統治に反対
する運動の指導者がマフディを自称した。

 それから120年あまりがすぎ、911事件後、中東は再び米英から侵攻や
圧力を受け、人々は抑圧感を強めている。そんな中でイランでは、マフディの
出現が近いと信じる人が増えている。

 8世紀に生きたシーア派の6代目イマーム(Jafar al-Sadiq)は、マフディ
が出現するときの状況について「バグダッドやクーファ(イラクの都市)の空
が炎に包まれ、家々が破壊され、多くの人々が死に、絶え間ない恐怖に襲われ
る」などと予言している。イラク戦争では、まさにこの描写のとおりの状況が
起きている。シーア派の信者にとって、イマームの言葉は神様の言葉であり、
絶対の真実だから、イランやイラクの信者たちが「もうすぐマフディが出現す
る」と確信するのは無理もない。
http://en.wikipedia.org/wiki/Mahdi

 米軍の侵攻後、イラクのシーア派を代表する反米的な民兵軍団に成長したサ
ドル師の「マフディ軍」の名前も、救世主マフディにあやかっている。

 イランの首都テヘランの南にある聖都コムには、最後のイマームがお隠れに
なる前に建てたとされるジャムカラン・モスクというのがあり、最後のイマー
ムがマフディとして再来するときには、このモスクに現れると人々に信じられ
ている。古くから、お隠れになっているイマームを通じて神様に願掛けをした
い人々は、このモスクの井戸に、願い事を書いた手紙を投げ入れてきた。3年
ほど前から、このモスクに参拝に訪れる人々の数は増え続けており、マフディ
出現への人々の期待感を象徴している。
http://www.csmonitor.com/2005/1221/p01s04-wome.html

▼終末観をふりまくアハマディネジャド

 昨年8月に就任したイランのアハマディネジャド大統領は、マフディの再来
を強く意識した政策や言動を展開している。政権ができた1カ月後、マフディ
の再来をテーマにしたセミナーが政府肝いりで開かれ、講演したアハマディネ
ジャドは「物質主義(物欲重視)やリベラル主義(脱宗教による個人重視)に
基づいた経済発展を目指す政策はもうやめる。代わりに、マフディが間もなく
再来するという期待感を基盤とした思考に基づき、国内政策や外交をやってい
く」「マフディが再来する条件を整えることこそが、政府の任務である」と述
べている。
http://www.iranian.com/Kazemzadeh/2005/November/Israel2/index.html

 アハマディネジャドは、テヘラン市長時代からマフディの再来を意識した都
市環境の整備を提案していた。大統領に就任した後、マフディが出現する場所
と信じられているジャムカランモスクを修繕するために政府予算を計上したり、
任命した閣僚たちに対し、大統領に対してだけでなく、マフディに対して忠誠
を誓う文書にも署名させ、誓約文の束は最後のイマームに届くよう、ジャムカ
ランモスクの井戸に投げ込まれたと報じられている。

 これらの話からは、アハマディネジャドは迷信を信じ込んでいるだけの人で、
大変な愚人が権力者になってしまったとも考えられる。しかし、彼が昨年9月
17日にニューヨークの国連総会で演説した内容を見ると、イスラム教、キリ
スト教、ユダヤ教に共通した「この世の終わり」の宗教観を扇動することで、
大規模な世界戦略を展開していることが見えてくる。

 この演説は、核問題やパレスチナ、イラクなどの問題以外に、宗教的な話が
ちりばめられている。現状の世界について「(人間が経験できる領域のみの知
識を重視し、それ以外を無視する現代的な)不可知論が下火になり、代わりに
(人が知ることのできない範囲の知識までを含めた)宗教的な神の知識が重視
され始めている」と述べ、キリスト教やユダヤ教までを含めた全世界(彼は多
神教を無視している)が、宗教的になり、至福の時代(マフディやキリストが
再来した後の世界)を待ち望んでいる、と述べている。そして最後に「神よ
『約束の人』を早く出現させてください」と述べて終わっている。
http://www.globalsecurity.org/wmd/library/news/iran/2005/iran-050918-irna02.htm

 この演説が興味深いのは、イスラム教徒だけでなく、キリスト教徒やユダヤ
教徒までを視野に入れて「現代西欧のリベラルな思想を捨てて、一神教の宗教
知識に戻ろう」と呼びかけて、イスラム教、キリスト教、ユダヤ教に共通する
救世主待望論に結びつけていることである。イスラム教は、キリスト教とユダ
ヤ教の教義を取り込んで創設されているので、こうした主張はイスラム教的に
は無理なく発せられている。

▼鏡像的な関係

 先代のイラン大統領だったハタミも、3つの一神教の間の対話を提唱してい
たが、ハタミの目的は、対話によってイランが欧米から敵視される状態を終わ
らせることにあった。アハマディネジャドは全く逆である。イスラム教もキリ
スト教も「大戦争が起きた後に救世主が来て、至福の時代になる」と預言して
いるのを利用して、ブッシュ政権がイスラム世界に対して仕掛けてきた喧嘩
(戦争)を積極的に買い、大戦争を起こすことで、救世主の出現を誘発するの
がアハマディネジャドの企てである。

 ブッシュ政権に強い影響力を持っているとされるアメリカのキリスト教原理
主義には、キリストの出現を誘発するために中東で戦争を起こす、という考え
方があるが、アハマディネジャドもそれと同じ考え方である。ただし、アメリ
カとイランでは、善悪が逆転している。お互いに「自分の方が善であり、相手
が倒すべき悪だ」と考えており、鏡像的な敵対関係にある。
http://www.antiwar.com/utley/?articleid=8376

 アメリカとイランの権力者のどちらかが「戦争はしたくない」と考えている
のなら、イランをめぐる危機は、戦争までならずに回避される可能性があるが、
互いが「戦争こそ必要」と思っているため、アメリカがイランを空爆し、イラ
ンが復讐して長い戦争が始まるというシナリオは、ほとんど不可避であると感
じられる。

 アハマディネジャドは、20歳代に宗教系の学生運動家だったころから、マ
フディの再来を誘発することを目的にイランに作られた秘密組織「ホッジャテ
ィエ」(Hojjatieh)のメンバーだったのではないかと、欧米の分析家は考え
ている。イスラム革命で政権をとったホメイニ師は、扇動性を危険視してホッ
ジャティエを1983年に禁止したが、その後ホッジャティエは秘密結社とな
り、その秘密会員が政府や宗教界などで力を持つようになり、アハマディネジ
ャドの当選によって、ホッジャティエの秘密会員が政府各省のトップに近い地
位に就く状況となっているという指摘もある。
http://www.atimes.com/atimes/Middle_East/GI09Ak01.html

 こうした状態は、アメリカで秘密結社的な色彩の強い「ネオコン」が、
1970年代から政府内に入り込み始め、ブッシュ政権で一気に権力を握り、
自滅的なイラク侵攻を実施したことと似ている(ネオコンにはユダヤ人が多く、
キリスト教原理主義とは親密だが別物ではある)。
http://tanakanews.com/d1214neocon.htm

 ネオコンは「政治的真実や奥義は、権威や権力の中枢にいる高貴な人々だけ
が知っていればよい。大衆が真実や奥義を知ると、ろくなことはない。指導者
は、自分の弟子だけに真実や奥義を伝え、他の人々には適当なウソ(高貴なウ
ソ)を言っておけばよい」という古代ギリシャ以来のプラトン主義の考え方を
継承するとされる、シカゴ大学の政治哲学者レオ・シュトラウスの弟子たちで
ある。
http://www.atimes.com/atimes/Middle_East/FF02Ak03.html
http://www.nyyrc.com/Record/reading/strauss.html

 密教的な知の徒弟制度は、古代ギリシャと関係が深いペルシャで形成された
シーア派の中にも息づいている。シーア派の真髄はコーランを「行間読み」し
て(スンニ派から見るとこじつけ的に)拡大解釈した先の奥義にある。秘密の
結社や教義に関係している点で、ネオコンとアハマディネジャドは意外に近い
存在である。
http://tanakanews.com/d0124iraq.htm

▼国際政治の隠された「奥義」

 ネオコンとアハマディネジャドは、奥義の面でも共通点が感じられる。ネオ
コンは「世界を民主化する」と言いながら、イラク戦争を自滅的な失敗に変質
させたり、民主化の結果イスラム原理主義を跋扈させたり、中東や欧州の人々
を怒らせて反米にしたりして、隠された真の目的として何か別のことが存在し
そうな感じがする。私は、真の目的は「資本の論理に基づく世界の多極化」で
はないかと推測している。
http://tanakanews.com/f0906multipolar.htm

 ネオコンと同様に、アハマディネジャドやホッジャティエの面々も、本当に
救世主マフディの出現を心底信じて扇動政治をやっているのではなく、真の目
的は別に存在するのではないかと疑われる。考えられる真の目的は「イスラム
世界の統合」である。

 ブッシュ政権がイスラム世界を怒らせる言動を繰り返し、アハマディネジャ
ドが反米・反イスラエルの言動を繰り返すうちに、中東諸国では親米やリベラ
ル主義の勢力が衰退し、イスラム主義や反米の勢力が強くなり、イランと親密
な関係を持つようになっている。中東諸国の諸勢力は、シーア派・スンニ派の
対立を超え、反米(反欧米)で結束している。今後、アメリカがイランに戦争
を仕掛けて泥沼化すると、この傾向がさらに進み、これまでずっと欧米によっ
て分断されてきたイスラム世界の結束が強まると予想される。

 その大戦争の途中で、マフディやキリストが本当に出現するのかもしれない
が、私は一神教徒ではないので救世主の出現を信じない。どちらにしても、最
終的にこの大戦争は欧米の中東支配を終わらせ、アメリカは衰退し敬遠される
結果、アジアや中南米なども自律的な覇権地域になり、世界は多極化していく
公算が大きい。

 アメリカが自滅的、隠れ多極主義的な「世界民主化」を展開しているうちに、
イランにアハマディネジャド政権ができ、中東を統合し世界の多極化に貢献す
るような動きを始めている。これは偶然の結果なのか、それとも欧米の中枢と、
イランの最高権力者であるハメネイ師の間で、何かやり取りがあったのか。

 そのあたりは、国際政治の「奥義」そのものなので、中枢から遠い市井の徒
である私には、事実かどうか確認できない。だが、全体として「世界中で反米
が扇動され、アメリカは自滅し、世界が多極化していく」という動きが、あち
こちでシンクロナイズし始めている感じは、だんだん強まってきている。


この記事はウェブサイトにも載せました。
http://tanakanews.com/g0221iran.htm


★韓国語版
http://www.ganland.com/tanaka/

★音声訳
http://studio-m.or.tv/index.html

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