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成澤宗男の「世界を読む」:イラク・レジスタンス勢力の知られざる強さ 2006/02/16
http://www.janjan.jp/column/0602/0602149233/1.php
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ブッシュ大統領の一般教書演説を傍聴しようとした平和運動家のシンディー・シーハンが1月31日、議会で逮捕された。理由は、彼女が「2245人が死んだ。あと何人死ぬのか」と書かれたTシャツを着ていたことが「抗議者」と見なされたためらしい。
だが、兵士だった息子をイラクで失ったこの母親を排除できても、彼女の問いかけに大統領をはじめとする閣僚の誰がまともに答えられるだろうか。すでに2月13日現在で、米軍発表によるとこの数字は2267人に拡大している。
約3年前にウソで始まったこの戦争の不当性は置くとしても、人類史上最強の国家である米国が、今に至ってもレジスタンス勢力を鎮圧できないのみか、ジリジリと死者を出し続けているのは軍事的に驚くべき事態に他ならない。
その割にはまとまった解説が乏しいが、私たちが目撃しているのはスーパーパワーがそのけた外れの破壊力をもってしても、限定された地域にもかかわらず自己の意思を果たせないでいるという、本来ならありえない光景なのだ。
このレジスタンス勢力の現状については、昨年12月に発表された「ワシントン中東政策協会」の報告書が参考になる
(Iraqi insurgency strong and could get stronger)
そこでは、「数千人の反乱勢力が戦死し、何万人ものイラク人が獄につながれても……攻撃の発生や死傷者のデータは、武装勢力はこれまで同様に強固であり、敵を殺傷する能力を有している」と指摘。
さらに「武装勢力は必要とするあらゆる武器と爆発物、資金的援助、そして訓練された人材をも入手し、それらは無期限に現在の活動レベルを維持できるだけの十分な量に達している」として、口を開けば「われわれは勝利しつつある」といった楽観論をふりまいているブッシュ大統領と対極の見方を示している。
これとは別に、より専門的な視点から考察を試みているのが、軍事問題専用のサイト「SPACEWAR」に掲載された論文だ。
(Outside View: Looking At Iraq's Insurgency)
そこでは、レジスタンス勢力の攻撃が首都バグダッドとアンバル州など同国西部のスンニ派地域3州に偏在し、全人口の42%を占めるこれらの地域だけで武力衝突の85%が発生している事情を説明しながら、同勢力を「攻撃し、うち破るのは極度に困難である」と警告する。
その第一の理由が、独特の組織形態である。「彼らの広範囲に及ぶ活動には、単一指導部や強固な階級組織は存在」せず、打撃を受ければ全体に影響が及ぶような軍事的中枢部を有しない。したがって、米軍が遭遇するのが「支部組織や地域単位の作戦、あるいは小部隊」であって、これらを撃退したとしても「全体の勢力を弱めることはできても打ち負かすことはできない」構造になっている。
第二が、住民の支持。スンニ派地域は前のフセイン大統領と支配政党・バース党の基盤であり、人口の多数派を形成する南部のシーア派、及び北部のクルド族と違って抜きん出て反米感情が強く、当然レジスタンス側が「紛れ込んだり逃亡したりする上で絶好の地域」を提供している。
そして最後が、ローテク兵器の有効活用だ。最先端のハイテクを惜しげもなく投入している米軍が被る犠牲の七割から八割近くが、待ち伏せ攻撃で使われるライフルなど小火器や携帯ロケット弾と、IED(即席爆破装置)と呼ばれる道路などに仕掛けられた爆弾といったローテク兵器によるものであるのは皮肉と言うしかない。
レジスタンス側は「正面からの攻撃を避け」、「相手の弱い部分に攻撃を集中する」といゲリラ戦の基本に忠実にそって攻撃を仕掛けている。
ただそうは言っても、ローテク兵器だけで米軍に立ち向かう場合、絶対欠かせない要素がある。それは情報戦の優位であり、相手の動きを掌握して攻撃箇所と時間を選ばなければならないが、これに関して米『ナイト・ライダー』紙に興味深い報道がある
(Rebels fightU.S. to Iraq standoff)
米海兵隊が入手したレジスタンス側の地図には、「いつパトロール隊が基地を出るか、隊が車輌から外に出るのかそれとも出ないのか、数は何人か」といった情報が書き込まれていたという。どういう手段で米軍の動きを掌握しているのか不明だが、海兵隊側も苦戦の理由の筆頭に「敵側の進歩する情報戦の精緻さ」をあげている。
レジスタンス勢力は諸説はあるが、旧バース党を始めスンニ派諸勢力や宗教色の薄い武装集団など20から40ほどの雑多な集団で構成されているが、本質的には自国を侵略・軍事占領した米軍への共通の怒りで結ばれている。
占領が長引けば長引くほど、そして米軍が攻撃を繰り返せば繰り返すほど、そうした怒りは燃え上がり、戦闘志願者は減ることはない。戦術レベルのみならず、戦略的にも米軍のレジスタンス壊滅という目的は困難だろう。
(成澤宗男)
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