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これまでコンピュータから人間への情報は、ほとんど視覚と聴覚だけで受け渡されていた。他には、ゲームパッドなどで振動を使うものがあるくらいだ。しかし、今もっとリアルに「触覚」を使う動きがある。
Text:こばやしゆたか
ライター。新しいものや変なものを見つけて、「これ変で面白いよ〜」とかいうのが好き。ペンギンも好き……というとLinuxのことだと思う人もいるけど、そうではなくて本物のペンギンが好き。特にアデリー。
URL:Penguins Mill
「触力覚」の再現を目指す
バーチャルリアリティの分野では、古くから触覚を使ったインターフェイスが使われてきた。代表的なものは「データグローブ」だ。手袋の形をしていて、ユーザーの手の形をとらえるとともに、何かものに触ったときの感じも再現するというものだ。でも、これは手にはめるものだから、動くものを持った時に手全体が引っ張られるという「力覚」は再現できない。
触覚と力覚(あわせて「触力覚」という)を再現するものとしては、「SPIDAR」(スパイダー)が有名だ。
東京工業大学の精密工学研究所で研究されている「SPIDAR」。ボールとワイヤーによって、触力覚を再現する。
SPIDARは、四方八方からのワイヤーで空中に固定されているボールを持って操作するシステムである。ボールを動かすと、その動きがワイヤーによって検出される。そしてモーターでワイヤーを引っ張ることで、ボールに手が引っ張られる感じを再現することもできる。同様のものに、アームの先にペンが取り付けられているような構造をしたものもある。手術のシミュレータなどではそれをメスに見たて、メス先がざらざらする感じや、骨のような堅いものにあたってごりっとメスが動いてしまう感じなどを再現できるのだ。
でも、SPIDARもアームも机の上に置かれていないと使えない。携帯できる形での触力覚インターフェイスはできないだろうか。産業技術総合研究所の中村則雄氏による「GyroCube」(ジャイロキューブ)はこのような夢をかなえる技術だ。
どこかに引っ張られる気がする!
「GyroCube」の原理は(名前でわかるように)ジャイロ効果だ。動作中のハードディスクをうっかり持ったことがある人なら、ディスクの回転によって手がねじられるような感じを味わったことがあるだろう。これがジャイロ効果だ。回転しているものは、その方向その速さの動きを続けようとするため、回転軸を無理に傾けた場合、傾けた方向と直角方向に回転力が発生する。また、回転速度を加速したり減速したりすることでも回転力を発生させることができる。
最初のGyroCubeは、3つの円盤をxyzの3軸方向で回すというものだった。
最初に作られたGyroCubeは立方体である。抱えていると、いろいろな方向にねじられて引っ張られる感じがする。
それぞれの円盤の回転速度を変えれば、任意の方向への回転力が再現される。この方法ではあくまで回転力しか再現できないけど、例えば釣りゲームで、大物がかかって釣りざおがあちこちに引っ張られる感じなんていうのはこれで十分なわけだ。
そして、次の「GyroCubeSensuous」(ジャイロキューブセンサス)ではサイズをずっと小さくするとともに、なんとまっすぐな向きの力覚も再現できるようになった。
棒状になったGyroCubeSensuous。中央にあるのが偏心振動子だ。
ユーザーを引っ張ってくれる携帯電話も実現できる?!
Sensuousの心臓部はかまぼこ型の偏心振動子。これが2個、同一の軸上に並んでおり、それぞれを別々のモータで独立して回すことができるようになっている。これだけだ。2つの振動子の回し方を工夫することでいろんな方向の力を再現することができるのだ。
図左のように、振動子を逆向きにして、横から見た時に円になるようにして同じ方向に同じ速度で回せば、これはさっきのジャイロと一緒だ。その向きに回転力が働くことになる。また、振動子を重ね合わせて回転させれば、円を描く振動を感じる。
面白いのは、図右のように2つの振動子を反対向きに回した時だ。この時、図での左右方向の振動は互いに打ち消されてなくなってしまう。その結果、上下方向の振動だけが残るわけだ。
さらに工夫は続く。人間の感覚というのは、受けた力の強さに比例した力を感じ取るわけではない。上に高速に強く引っ張っておいてから、下向きにゆっくりそっと戻した場合、上下に動いた距離(力積)は一緒でも、下向きに押された感覚だけを受けるようにすることができる。Sensuousは振動子の回転速度を細かく制御することで引っ張られたり浮き上がるような錯覚状態を作り出すのだ。
この加減の仕方をどのくらいにすれば効果が上がるのか、感じ方の個人差はどのくらいあるのか、このあたりはいま研究中だそうだ。というより、Sensuousが登場してはじめて、こんなことを研究する必然が生まれたのである。
振動子が2つしかないから、1次元の回転および2次元方向の力しか発生させられない(回転軸方向への力は再現できない)。しかし、Sensuous全体の向きを検知して、用途に合わせて発生させる力の方向をリアルタイムに変えるようにすれば、実用上は差し支えないものができる。
中村氏は、Sensuousを眼の見えない人向けのインターフェイスとして考えている。このような人にナビゲーションをする場合、今まで聴覚が使われていた。人は周囲の環境音からも人や自転車などの往来を知覚しているため、聴覚によるナビゲーションではこのような外界からの大事な情報を邪魔してしまう。力覚が使えれば、手を添えて導くようなより自然な形で、直感的にわかりやすくナビゲートできるようになる。
ナビゲーションシステムとの連動。目的地の方向に引っ張ってくれる。身体の向きを変えてもOKだ。
いざSensousを発表してみると、ゲーム業界からの注目度が高いそうだ。ゲームというのはもともとバーチャルリアリティだから、こういうインターフェイスが欲しくなるのはよくわかる。また、もっと小型化して携帯電話に入れてしまうようなことも考えられる。携帯電話にはバイブレーションのために、既にかまぼこ型の偏心振動子が入っているのだ。これを2つに増やして回転制御の回路が加われば、それでGyroCubeSensuousのできあがり。このサイズでは大きな力を発生させるのは難しいけれど、ナビゲーション的な用途ならば比較的小さな力でも十分であろう。触力覚を利用することで新しいコンテンツの可能性も広がりそうだ。
触れば状況がわかる触覚スイッチ
もうひとつ、既に実用化されている触覚インターフェースを紹介しよう。アルプス電気株式会社の「ハプティックコマンダ」だ(hapticは触覚の意味)。これは車に搭載されるスイッチとして開発され、すでに一部の高級車種で使われている。
左は回転式ロータリータイプのハプティックコマンダ。軸は押し込むこともできる。右のジョイスティックタイプでは、上下左右と軸そのものの回転操作ができる。
昔と違って、現在の自動車はただ走ればいいというものではない。カーステレオやらカーナビなど、操作しなければいけない要素も増えた。しかし、運転席の空間は限られているから、そこにたくさんのスイッチを並べると操作が難しくなる。そこで、モード切り替えによって、1つのスイッチでいろいろな機能の操作をしたくなる。かといって、今どのモードになっているかを目で判断しなければいけないとすると、車の運転中にはとても危ない。そういうわけで、触覚を使おうというわけだ。
昔ながらのスイッチには、それぞれの感触がある。ボリュームのような回転スイッチに限ってもさまざまだ。重かったり軽かったり、クリック感があったりなかったり。さらにはガチャンガチャンと切り替わったり、ひねっている間だけ回っていて指を放すと戻るなんてものもある。
ハプティックコマンダはこのようなスイッチの操作感を再現する。スイッチにはアクチュエータがついていて、反力を自由に変えられるようになっている。スイッチがどの位置にある時にどのような反力を返すかを設定するわけだ。
ジョイスティックタイプの場合には、X-Y平面上で反力を設定することになる。この場合、ざらざらした感じとか、真ん中が低くなってる感じとか、シフトレバーのように動く位置が制限されている感じとか、自由に再現できるようになるわけだ。
これで、スイッチがどのモードになっているかは動かしてみればわかるということになった。まだスイッチの形状は変わらないから、動かさないでも手探りでわかるというところまではいかない。でも、そこまでいくのもそう遠い未来のことではなさそうだ。
この装置で試験管の中のベビーに虐待を加えて、それを遠隔地の赤の他人のベビーに痛みの伝達をすることができる。
戦場の戦士の痛みを再現することは出来ないだろうが、、この分野の研究は軍事費からの平和利用として多大な評価を受けていることだろう。いつの日か実現してしまうかも知れない。
バーチャル空間で、銃撃戦が楽しめることだろう。なんて恐ろしい開発だ!
本文中の釣りゲームで終わるはずがない。