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(回答先: Re: テスト 投稿者 きすぐれ真一 日時 2006 年 11 月 17 日 22:44:59)
http://sun.ap.teacup.com/souun/39.html
「エントロピー経済学」 農業問題
「生命の本質はエネルギーではなく、エントロピー過程である」という、生命体の捉え方に初めてエントロピーを導入したのは物理学者シュレディンガーですが、レーゲンとシュレディンガーの両者を批判しながら結びつけ、地球までを含む入れ子構造の定常開放系の理論にまでエントロピー論を展開させたのが、槌田敦氏です。今回は氏の論文から紹介します。
【砂漠化の原因は、穀物の過剰生産と自由貿易】
なぜ、熱帯と温帯の農地が荒廃することになったのであろうか。それは、アメリカ、カナダ、ヨーロッパなど先進農業国において、石油を使用する科学技術農業により穀物を大量に生産したからである。思慮のない人々は、これにより人類は飢餓から救われたと考えた。
しかし、穀物の過剰生産により、穀物価格は低迷した。アメリカでは農民はさらに生産量をあげようとして、農地を酷使し、結果としてさらに生産性が落ち、貧しい農民は価格競争から脱落して離農し、富んだ農民は別の農地を開拓した。まさに、ゴールドラッシュの農業版で、いかにアメリカの土地が広くても、農地はなくなってしまうにとになる。
そこで、欧米各国は、余剰穀物を補助金付きの自由貿易で世界各地に安価に売り、国内価格との差額に補助金を支払うことにした。その理由は、欧米各国にとって穀物は戦略物資であり、農民の失業対策は重要政策だからである。
世界の小麦輸出量は1億トン、約7億人分で、1996年の輸出上位6カ国は、アメリカ(31.7%)、カナダ(16.8)、オーストラリア〈14.8)、フランス(14.8)、ドイツ(4.3)、イギリス(3.7)であった。この6カ国の合計は小麦輸出総量の86.1%となる。この外、大麦、とうもろこし、大豆でもこれらの国々が圧倒的な輸出をしている。
このため途上国の農業は価格競争にさらされて、農地は酷使され、栄養不足と塩化で生産性が低下する。結局、これらの農地を放棄し、森林を新しく焼畑にしてその栄養を利用することになる。しかし、これも酷使して、これらの農地は次々と放棄されていく。放棄された農地は栄養不足と塩化のため森林に戻ることはなく、土は風により飛ばされ、雨で流されて砂漠化する。
【自由貿易の欠陥(1)、失業の輸出】
この穀物の自由貿易の結果、貧しい国の農民は失業し、都市に流れ、スラムの住民となった。失業対策としての先進農業国の穀物輸出は、発展途上国への失業の輸出であった。
国際経済学でいう自由貿易とは、資本と商品のみの自由往来で、労働力には国境障壁を残している。したがって、大規模な失業問題が生ずるのである。
これまで、管理貿易は幼稚産業の保護を掲げてきたが、それよりも国境障壁による失業輸出問題が強調されねばならない。途上国の農民を失業させると、農地の管理ができなくなり、砂漠化を進行させることになる。途上国の失業を減らして豊かな国際社会をつくるには、管理貿易に戻す必要がある。
【自由貿易の欠陥(2)、貧しい国から富を収奪する巧みな機構】
自由貿易が途上国を砂漠化するもうひとつの原因は、それが、貧しい国の富を収奪し、自動的に豊かな国へ移す機構だからである。国際経済学の教科書には、貿易の重要な担い手としての貿易商についての記述がまったくないが、ここに貿易問題の本質があった。
農業国と漁業国があったとする。漁業国ではたとえば穀物1升と魚の干物2束とが等価であるとする。一方、農業国では逆に穀物2升と干物1束とが等価であるとする。
農業国出身の商人がいたとして、穀物1升をもって漁業国に行き、干物2束に変えて帰国し、これを穀物に交換すれば4升になる。一方、漁業国出身の商人が自国で穀物1升を干物2束に変えて出国し、農業国でこれを穀物4升に変えて帰国するとする。どちらの商人も儲けは同じである。
これらの貿易で、漁業国から農業国へ流出する干物はどちらも2束でこれも同じである。ところが、農業国から漁業国へ流出する穀物の量は、農業国の商人が運べば1升なのに、漁業国の商人が運べば4升である。自由貿易は非対称であった。
したがって、自国の商人ではなく、他国の商人が貿易すれば、自国の資産を失うことになる。自由貿易とは、貿易商による資産収奪の機構だったのである。
一般に、貿易商は豊かな国の国民である。現実には圧倒的にアメリカ人である。一方、貧しい国には貿易商はほとんどいない。したがって、貿易商のいない途上国は一方的に資産を取り上げられ、貿易商のたくさんいるアメリカはますます豊かになっていく。
自由貿易により貿易商の出身国の国家財政も豊かになる。それは、大儲けした貿易商に事業税または所得税をかけるからである。
このようにして、自由貿易の結果、途上国はますます貧しくなり、環境破壊に対処する能力を失うことになる。
【関税は、貿易の利益を正当に分配する方法】
貿易商のいない国が、貿易の利益の分け前を正当に得るには、貿易商に関税を課すことである。関税は、所得税や事業税と同じ種類の税金なのである。関税額を高くすると、貿易が減って関税の総収入は少なくなる。そにで、各国は関税の総額を最大にするように関税額を決めればよい。
ところが、WT0は、自由貿易だけでなく、関税を限りなくゼロにすることを要求している。その結果、貿易をすれば貿易商の出身国は確実に豊かになっていく。その結果、貧しい途上国は、失業を押し付けられるだけでなく、富を失い、砂漠化するのである。
貿易障壁と関税をどのように決めるかは、国家の基本的権利である。その決定権はその国の国民に属する。WT0の介入は許されるベきではない。
さらに、途上国を襲う悲劇には、累積債務もあって、これにより砂漠化がますます加速されている。
【学問が必要】
石油文明は、現在、重大な局面を迎えている。人間社会を環境と調和させるには、熱物理学を基礎に的確な判断基準(学問)を確立する必要がある。この学問をエントロピー経済学という。
活動を維持する物質系は、すべてエンジンの法則により活動していて(図1)、入力、出力、物質循環という3つの条件が必要である。
図1. 活動を維持する条件
ここで、小さいエントロピーの入力と大きいエントロピーの出力の差がこの物質系の活動の原因である。また物質循環によって系の状態は復元され、また同じことをするという方法で活動は維持されている。生命や生態系はもちろん、このエンジンの法則に従っている。
【環境破壊とは何か】
地球環境もやはりエンジンである(図2)。太陽光を地表で常温で入力し、対流圏上空から宇宙へ低温で放熱して回る自然の循環がある。
図2. 地球エンジン
ここで自然の循環とは、大気と水と栄養を作業物質とする物質循環である。
@大気の循環
大気が、地表で太陽熱を得て上昇気流(低気圧)となり、上空で宇宙に放熱して下降気流(高気圧)となる。この途中で風が吹く。これにより地表の熱エントロピーは宇宙に処分される。
A水の循環
水が、地表で太陽熱を得て蒸発し、大気の流れに乗って上昇し、大気の減圧で冷却されて雲となり、雨となって地表に戻る。雲となるとき熱を大気にわたす。大気循環はこの熱も宇宙に放熱する。水の循環は熱エントロピーを地表から大気上空へ運ぶことで大気の循環を補完している。
B栄養の循環
栄養の地域循環。土に存在する栄養(肥料分)は、植物に吸収されて光合成され、これを動物が食べる。植物や動物の死骸は微生物に分解されて栄養は土に戻る。その土からふたたび植物が育つ。この物質循環は地球上の物エントロピーを熱エントロピーに変換する重要な機構である。
栄養の広域循環。栄養は水に溶け、重力で流れ落ちて、最終的に深海に溜まる。しかし、深海水の湧昇でふたたび海面に現れ、海洋生態系となり、動物がこれを引き上げて陸上生態系が成立する。この栄養はふたたび水に溶けて流出し、海に戻る。
環境破壊とは、これらの自然の循環を破壊・劣化させることである。
文明活動は大気を汚した。その結果、太陽光は汚れた対流圏大気に吸収され、大気の循環は劣化している。これは都市気象として知られているが、地球規模で焼畑の煙が熱帯を覆い、熱帯の大気循環を壊している。これが異常気象のひとつの原因と考えられる。
また、この文明は、森林の伐採、小麦やトウモロコシなどの乾燥農地、都市や道路で、水の蒸発を失わせ、降雨量を減らして、水循環を壊している。
すでに述べたように、先進農業国が穀物を過剰に生産し、これを途上国に輸出して、途上国の栄養循環を壊している。この砂漠化がもっとも大きい環境破壊である。
【人間社会もエンジンである】
人間社会も、絶え間なく活動を続けている。つまり、人間社会もエンジンである。この社会の活動を維持するには、資源が必要で、廃物と廃熱を放出している。社会の循環とは、動物の血液循環に例えられる物流である。
社会の循環が、次図のように、自然の循環とつながり、社会の循環を含めた自然の循環となる(図3)とき、社会の持続性は保証される。廃物を適切に処理して自然の循環に返すと、自然の循環はこの廃物の物エントロピーを処理して熱エントロピーに変えて宇宙に廃棄してくれて、また資源を提供してくれることになる。
図3. 自然の循環と社会の循環をつなぐ
この図で、自然の循環にとって、人間の廃物は太陽光と同じ入力である。この入力のないまま、出力としての資源を収奪されれば、自然の循環はやせ細ることになる。人間の廃物を処分場に捨てたことは、社会の循環を自然の循環と切り離す行為であって、失敗であった。
また、資源循環、すなわち「廃棄物のリサイクル」が最近強調されている。しかし、需要のない廃棄物の再利用は無意味である。廃棄物と資源の循環をいうなら、図3に示したように、自然の循環を通して考えるべきである。
【商業により環境を回復した日本文明】
このような自然の循環と社会の循環が、資源と廃物によってしっかりと循環していたのは近代日本であった。現在でも日本は森林率が66%であって、有数の森林国である。
しかし、400年前の近世日本は、はげ山ばかりの土地であった。当時、洪水がさかんに農村を襲った。その原因は、草刈り、柴刈りで山の栄養を収奪したからである。
この荒れ果てた日本は、江戸幕府成立後400年で森林の国に戻った。その原因は商業の発達にある。全国から米が大坂に集められ、各地の都市へ分配された。そして、米や綿を作る肥料商業が発達した。漁村で雑魚の干物である干鰯(ほしか)が生産され、商人がこの干鰯と都市で生産される人糞尿を農村へ運んだ。これらの肥料で豊かになった農地から野生動物は栄養を得て、糞を山野にばらまき、山を豊かにした。
このようにして日本では肥料の物流により山野の栄養循環が回復した。
【これからの日本商業の方向】
現在、日本は、穀物を輸出しない唯一の先進国である。これからも白人諸国とは違う貿易を積極的におこなうことが望ましい。すなわち、江戸商人のしたことを学び、まずは石油を用いて化学肥料や農機具を生産し、これを途上国に安価で売る。その方法には江戸時代におこなわれた『掛け売り』が参考になる。
そして、大型加工船により世界の海でオキアミなどを採集し、乾かして有機肥料(現代版干鰯)を作り、世界各地に輸出する。オキアミは、深海の栄養豊富な海水の湧昇によって生育している。自然界では、これはクジラなど動物のえさとなって、結局は海水より重い糞になり、そのまま深海に沈んでいく。
ここで、人間が採集して陸地にオキアミを引き上げれば、この栄養は陸地生態系を豊かにする。これは、川に溶けて海洋表面に戻るが、そこでふたたび海洋生態系となり、いずれ糞になって深海に沈むことになる。したがって、人間によるオキアミの採集は、陸地生態系と海洋生態系をともに豊かにして、新しい栄養循環が作られることになる。
日本商人は途上国で農場経営を始めてもよい。そしてその農地で栽培した農産物や木材など比較優位の物品を、先進国に持ち帰り、売ることになる。具体的には、砂漠に存在する川に注目する。ここでまず、川筋で水を石油動力で汲み上げ、肥料を与えて相当の広さをもつ森林と農地を作る。そうすると、この森林に鳥など野生動物が棲息して、森林や農地から栄養を得て育ち、その周辺に糞をして、種を撒き散らし、周辺に森林が広がって、オアシスとなり、雨が降るようになる。
石油は、人類の得た最良の動力資源であり、当分の間枯渇しない。したがって、石油文明はこれからも続く。その石油の使用を前提にして、それが環境を豊かにするように生産と物流を制御し、人間社会というエンジンを運転しなければならない。これをなし得た場合、この文明を自然の豊かな『後期石油文明』と呼ぶことにしよう。
以下略
石油文明の次は何か
名城大学経済学部 槌田 敦
(2000年12月作成) より一部転載
全文は環境問題を考える
をご覧下さい。