★阿修羅♪ > 社会問題3 > 757.html ★阿修羅♪ |
Tweet |
同じ?違う?世界と日本:いじめ事情
http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/afro-ocea/news/20061130ddm007030002000c.html
いじめを原因とした自殺が子供たちの間で相次ぎ、日本の親たちをとまどわせている。隣国の韓国や米国も似た悩みを抱え、対策に追われている。一方でいじめと無縁のアフリカ諸国では深刻な社会問題にはなっていない。いじめをめぐる各国の事情を報告する。
◆英国
◇「撲滅週間」効果なく
英国では20日から全国で民間が主導して「いじめ撲滅週間」のキャンペーンが行われた。いじめが深刻化しているうえに、親や教師の目が届きにくいネットでのいじめも急増しており、キャンペーンの効果は疑問視されている。
「撲滅週間」に合わせてジョンソン教育相は信頼の厚い最上級生を「指導者」に選抜し、教師と共同していじめを阻止する「良き指導者計画」を発表した。約1億円の予算も計上する。各地の集会でも「傍観者にならずにいじめの阻止を」との声が上がった。
英中部レスターシャー州で今年、1万6000人の小中高生を対象にした調査では「1回以上いじめられた」が14%に達した。毎年行われるキャンペーンでも事態は改善していない。
英北西部ランカシャー州で昨年11月に自殺した当時13歳の少年へのいじめの詳細が今年、法廷で明らかになった。少年は友人から2年間にわたって殴られたり卵を投げつけられた。耳を半分ちぎられたこともあった。「いじめをやめなければ自殺する」と訴え、母も学校にかけあった。しかし結局は「なんで僕なの」と繰り返して、自宅のベッドにスカーフを巻きつけて首をつった。いじめが原因の自殺は英国では少ない。
悲惨ないじめはネットでも起きている。英南部ハンプシャー州の少女(13)は今年4月、友人のホームページに顔写真が張られ、「これがふしだらな女だ」と書かれた。書き込み欄には「くそ!死ね!」と数十件のメッセージがあった。少女は英メディアに「悪夢のようだ。私が死ねばいいだけかも」と答えた。
大手小売業者の調査では、回答者の1割が「ネットでいじめを受けた」と述べた。ネットワークの支援組織「いじめチャリティー」には毎日4人の子供がメールで「死にたい」と打ち明けている。同チャリティーのカーネル理事は「いじめっ子を罰しないこれまでの英国流は限界だ」と述べた。【ロンドン藤好陽太郎】
◆韓国
◇転校でも逃げられず
韓国ではいじめが日本に続いて問題化したため、当初は日本語のまま「イジメ」と呼ばれた。
90年代中盤に「激しい」「つまはじき」を意味する2語を合成・短縮した「ワンタ」という造語が広まったが、卑俗な印象があり、新たに「集団つまはじき」との言葉も使われ始めた。
ソウルで、いじめ被害を教師に訴えても応じてもらえなかった女子中学生が、教室の窓から投身自殺を図ったが木にひっかかって助かった例などが今年になって報じられている。
学校長の自殺もある。04年、慶尚南道の中3男子が、本気か演技かは不明だが数人で同級生をいじめる場面をビデオ撮影してインターネットの掲示板に掲載。本人と学校に抗議が殺到し、思い詰めた校長が自殺した。
ネット普及率が高い韓国では、クラス親ぼくのホームページがいじめに利用されたり、被害者が転校すると加害者らがネットで転校先に連絡し、「いじめのリレー」をする例がある。
一方で、いじめを受けた女子中学生の両親が加害者の実名をネットに流し、ネット愛好者らも支援して加害者らの写真や個人情報を公開。これに対抗して加害者の友人らが被害生徒の異性関係を暴露する騒ぎも起きた。
「子供を学校にやるのが怖い」との父母の声は珍しくない。日本の学園暴力漫画をまねたとされる「一陣会」という組織が中・高校、小学校にまで広がりつつあるとされる。グループのいじめを受け始めると転校先にも組織網があって救われない。海外移住した親子もいると報じられている。
70余りの市民・社会団体と青少年団体で組織する学校暴力対策国民協議会によると、小中高校生の少なくとも1割以上がいじめに苦しんでいる。ここ数年の各種実態調査はそれを裏付けており、「被害者は3割、加害者は5割」との調査もある。
多くの学校はいじめの予防教育に熱心でなく、実態を隠す傾向が強いとの批判は少なくない。【ソウル中島哲夫】
◆米国
◇進む「防止法」制定
米司法省の「学校犯罪安全指標」によると、12〜18歳の生徒が「過去6カ月間」でいじめを受けたケースは1999年の約5%から01年には8%に増え、03年は7%だった。だが正確な実態は不明で、幼稚園児から高校生まで「年間に1度でもいじめに遭った」ケースは15〜20%に上るとの研究もある。
米政府がいじめを深刻な問題ととらえたのは死者13人を出した99年のコロンバイン高校(コロラド州)銃乱射事件がきっかけ。銃を乱射し自殺した生徒への陰湿ないじめがあったとされる。事件後の調査で、犯罪行為にかかわった生徒の71%が校内でいじめに遭っていたと判明した。
いじめが原因と見られる生徒の自殺が相次いでいる。02年1月にコネティカット州で12歳の少年が、03年10月にバーモント州で13歳の少年が中学校で激しいいじめに遭った末に自殺。05年6月にはフロリダ州で高校生が2年間いじめに遭い、首をつった。
こうした事態を受け、各州で「いじめ防止法」の制定が進む。現在10州が施行し、12州が制定を検討。特別法を制定していない州の多くも、州法などで悪質ないじめを軽犯罪法違反と認定している。「防止法」の多くは、実態報告と教員の訓練などの対策を義務付けている。具体的な対策として▽生徒に匿名での報告を求め、調査のうえ教育委員会に報告書を提出し介入(コネティカット州)▽いじめた生徒の停学や退学処分を検討(オレゴン州)−−などがある。【ワシントン吉田弘之】
◆エジプト
◇「イスラムの教え」諭す
エジプトでも「いじめ」は存在し、報告されるケースの多くは暴力を伴う。
6年前、カイロの小学生、アフマド君(仮名、当時10歳)は口中にひげそりの刃を隠し、いきなり級友に投げつけるなど、凶暴性が度を越していた。彼を恐れた級友は次第に無視するようになり、アフマド君は孤立。いじめっ子がいじめられっ子に変わった。
担任や校長はアフマド君が暴力を振るうたびにむち打ちなどの体罰を加えたが、泣き叫ばず黙って体罰を受け止めた。その後アフマド君は1人の教師に心を開き、軍属の父親による体罰や継母からの冷たい扱いを打ち明けた。父親は教師と話し合いを持ち、息子への体罰をやめると誓った。やがてアフマド君の暴力も、級友によるいじめも影を潜めたという。
カイロの小学校でカウンセラーを務めるアブドルラティフさん(35)は「1年に1、2件、深刻なケースが報告されるが、親に話を持ち込むことはほとんどない」と言う。いじめ側との直接面談で解決を目指し、「イスラムで弱い者いじめはハラーム(禁止)」と、宗教的に説諭する。だがいじめる児童は学校の外で新たな標的を探すため、根本的な解決につながっていない。【カイロ高橋宗男】
◆深刻化していない…アフリカ諸国は、なぜ
◇学校への依存が高くない/年齢を超えて遊び学ぶ友がいる
サハラ砂漠以南のアフリカの国々にも子供同士のいじめはあるが、深刻な社会問題になっていない。「学校依存」の度合いが少なく、親せきや地域全体で子育てする習慣が残っているためだ。
ケニア人女性と結婚し、ナイロビで3人の子供を育てる上野直人さん(43)は「年齢の違う子ども同士が遊ぶのが普通で、年上が年下を注意する。大人がよその子を注意するのも普通で、こうしたことがいじめを防いでいるようだ」と言う。
子供のうち2人について上野さんは「アフリカ人と容姿は異なるが、いじめられたことはない。少しでも違うと差別される日本に住む気にはなれない」と語った。
国際協力機構(JICA)の南アフリカ事務所で働くコンゴ民主共和国出身のオリビエ・ディエンビーさん(28)は、12歳で南部のルブンバシから首都キンシャサの小学校へ転校した際に「田舎者」といじめられた。
だがディエンビーさんは「学校は朝7時半から正午すぎまで。午後は自宅近くで親せきの子供や別の学校の子供と遊んでいた。学校は授業を受ける場だと割り切っていたので、いじめは苦にならなかった」と振り返る。
経済的事情などで進級が遅れるのも一般的で、クラスに異なる年齢の子どもが在籍するのは普通だ。ディエンビーさんは「日本の子供は同年齢以外との付き合いが少ないうえ学校外の生活圏が狭く、一度いじめられると逃げ場がないのでは」と顔を曇らせた。【ヨハネスブルク白戸圭一】
毎日新聞 2006年11月30日 東京朝刊