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2006年06月24日16時15分
http://www.asahi.com/national/update/0624/OSK200606240037.html
奈良県田原本町の母子3人が死亡した火事で、殺人、放火容疑で逮捕された高校1年の長男(16)は、動機について「親に成績のことでしかられた」と供述している。長男は全国有数の進学校に通い、両親の職業である医師を目指していた。期待、競争、プレッシャー……。厳しい受験競争の渦中にいるわが子が壁にぶつかった時、親はどう向き合っているのだろうか。
神戸市内の公務員男性(47)は、中学2年の長男を京都有数の進学校の私学に2時間かけて通わせている。奈良の事件は「とてもひとごととは思えない」と言う。
奈良の少年の父親と同じく、息子を医師にしたい。少年の通う学校と同じく、息子の学校も中間、期末試験の成績は保護者会で親に渡される。息子は嫌がり、保護者会の前になると「また怒るんでしょ」と言う。「怒らないよ」と答えるが、成績が悪いとついしかってしまう。
手を抜くとすぐに成績の順位が下がる。「日付が変わっても机に向かい、目いっぱいがんばる姿を見ると、本当にしんどそうやなと思う」と打ち明ける。
「子どもを追い込んではいけない」「医学部進学を押しつけるのはよくない」。頭ではわかっている。それだけに事件は衝撃だった。「正直、戸惑っている」と言う。
「今は娘を見守りたい」。奈良市内の高3の長女の母親(49)は思う。
娘は中高一貫校に通う。高1から成績上位者で編成する「特設クラス」に入れようと、発破をかけてきた。成績が落ちると小言を言った。「何してんの。家庭教師つけようか」。娘は、特設クラスに入れなかった。
それから、娘の様子が変わった。通知票を見せなくなり、帰宅が夜遅くなった。夜中に突然家を飛び出した。悩んだ末、小言を控えた。不満に耳を傾けることを心がけた。生活態度は、次第に改まっていったという。
関西大手の進学塾役員は「子どもに過度の期待は禁物」と説く。逮捕された少年の学校は、中1から志望大学・学部を定める生徒が少なくない。中学入学後、すでに大学受験に向けた勉強は始まっているとされる。
「なぜ。お父さんはもっとできたのに」「お前はもっと頑張れる」。進学校の生徒から塾に寄せられる相談は、家族と比較されることや、親の期待に対する悩みが多いという。
昨春、少年と同じ高校を卒業した息子を持つ母親は「東大、京大などの医学部を目指す人が多く、大学受験へのプレッシャーを感じていたようだった」と振り返る。
息子は周囲から刺激を受け、国立大医学部を志望したが、自信をなくし、「成績は見せたくない。入試が怖い」と悩んだ時もあった。
そんなときは、そっとしておいた。「優秀な生徒が多い。成績が落ちても受験には影響ない」と自分に言い聞かせた。
息子は志望校に入れなかった。「でも、本人も納得のうえで新しい目標に向かって大学生活を送っている。それで満足している」
中高一貫の私学進学校にいると大なり小なり、成績のことで父子あるいは母子間で奈良の事件と同様の葛藤に見舞われる。
個人的なことで恐縮だが、小生の娘婿は神奈川県のカソリック系中高一貫校出身で、現在某市立大学の教員をやっている。小生の娘と大学院生時代に同棲を始めた頃、彼らの今後のことを相談するため娘婿の父親と会ったことがある。その時彼の話したことを奈良の事件があって思い出した。
娘婿の父は自分の息子のことをその時こう語った。
中学生時代にはあいつに本当に困りました。学年でビリから2番目だったんですよ、成績が。一番ビリの生徒は不登校だったので、実際はあいつが学年で一番ビリだったんです。パソコンが好きで勉強をしないでゲームをつくり、近所の大人にもゲームつくりを指導して小遣い稼ぎしていたんです。
あまり腹が立ったんでパソコンをベランダのコンクリートにぶつけて壊してやったんです。そうしたらあいつどうしたと思います。接着剤を使って傷だらけのパソコンをもう一度組み立てたんです。せっかく中高一貫校に入れて有名大学をめざしていたのにがっくりきました。
その後あいつもさすがにこれではいかんと思ったのか、少しは勉強して成績も上がり志望校にも合格しました。今は研究者をめざしていますが、この事件のおかげですっかり親子関係は断絶状態。本当に辛かったです。
次は小生自身の息子の話。
今、小生の次男はさる大学の大学院に籍をおいて研究者をめざしている。こやつも中高一貫のカソリック系私学の出身である。娘婿ほどではないにしろこやつも勉強が大嫌いだった。高校2年生頃から、つまらん宿題が多すぎるといって反抗的になり、教師が叱っても課題を出さなくなり、保護者召還で注意を受けた。
本人に注意をすると、「だいたい私学に行かせた親が悪い。おれは公立の中学校に行きたかったんだ。親のエゴで友だちと切り離しやがって」こう言って大暴れの乱暴狼藉に及んだ。この時期我が家の家具や壁は相当に傷んだものだ。殆ど不登校状態になったときもあったが辛うじて出席時間を満たして卒業はしてくれた。進学も第一志望に現役で合格した。やれやれだ。
進学校に行かせると奈良放火事件が「他人事に思えぬ」苦労がつきまとう。息子が京都に下宿するため家を出たときは、本当にほっとしたものだ。