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http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/kishanome/news/20060607ddm004070081000c.html
記者の目:民営化が進む図書館=賀川智子(静岡支局)
図書館でボランティアの話に聴き入る子供たち=静岡市立西奈図書館で、賀川写す ◇利用者軽視の公費削減−−地域との議論尽くせ
「民にできることは民に」という小泉純一郎首相の号令のもと、全国の図書館で民営化が進んでいる。
住民1人当たりの図書貸し出し点数が年5・3冊、政令指定市の中で2位という静岡市でも、来年度から民営化が予定されている。
だが、誰にでも無料で情報と知識を提供してきた図書館の役割を考えた時、そこに経営と競争の原理を持ち込んでどんな「構造改革」になるというのか。
私には、利用者を軽視して公共経費を削減するという本質しか見えてこない。
5月19日、静岡市立中央図書館長の諮問機関である「図書館協議会」が民営化について3回目の会合を開いた。学識者や市民を代表する委員たちは「なぜ市の直営でできないのか、理由が不明確」「初めに民営化ありきという前提だったのでは」とこれまでと同じ質問を繰り返した。
館長の答弁は「直営に問題があるわけではないが、今は経費削減しつつサービス維持という大きな課題がありまして」などと説明になっていない。業を煮やした委員たちは多数決を採り「民営化試行凍結の答申を出す」と決議した。諮問機関の答申は重いはずだ。ところが今度は市教育委員会の次長が「答申ではなく、意見か申し入れの形でお願いしたい」と言いだし、会合は紛糾、中断した。
図書館の民営化は、03年に地方自治法が改正され、公共施設の運営を民間に開放する「指定管理者制度」が導入されて可能になった。同制度は公園やスポーツ施設、福祉施設などに適用され、図書館も対象になる。3月現在、図書館を民営化したのは全国で8自治体。静岡市では5月に小嶋善吉市長が「行財政改革の一環として市の直営施設を例外なく民営化したい。市の図書館は量的質的に高いが、維持コストもかかっている」と表明した。
だが、民営化された図書館では何が起きているか。北九州市では5館が民間委託され、年間5900万円の経費が浮いた。
しかし、利用者からは「以前あった初版本が廃棄された」「地域関連の専門書が減った」といった声が相次いだ。
04年に全国初の民営化図書館となった山梨県山中湖村の「山中湖情報創造館」では、NPO職員7人の平均年収は180万円。
館長は無給。
生活費が足りず、ファミリーレストランでアルバイトする人もいる。
東京都江東区の男性(51)は4年前にカウンター業務が民間委託された図書館を利用する。 無愛想だった職員の対応は若い女性の笑顔に変わったが、資料を問い合わせると奧の部屋に引っ込んだままになってしまう。
「岩波新書を知らない職員もおり、知人が嘆いていた」とも話した。
指定管理者となった企業さえ、今の制度には疑問を持つ。
図書館流通センター(東京都文京区)の石井昭会長は「図書館法に無料貸し出しの原則がある ため創意工夫の範囲は限られ、入館者が増えれば赤字になる。
全くうまみのない事業」という。
喜んでいるのは支出が削減できた自治体と、「改革」の例が増えた小泉政権だけなのだ。
日本の図書館は戦後、米国を範として再出発した。
私は米バージニア州の大学に留学した経験がある。
図書館は24時間開いており、館員は私と一緒に資料を探し、授業で使うウォーターゲート事件を特報したワシントン・ポスト紙を書庫から引っ張り出してくれた。
社会の中で図書館の位置づけは高く、館員は誇りを持っていた。
それに比べ、日本の図書館は教育委員会の末端組織でしかない。
民営化が試行されそうな静岡市立西奈(にしな)図書館のボランティア団体「西奈おはなしはらっぱの会」は、主婦が中心となって子供への読み聞かせを続けている。
清(せい)尚子代表は約10年前に5歳の長女と図書館に行き、会に参加した。長女は本好きになり、自分自身も本を介して地域とのつながりができた。
会では子供向けの紙芝居も作る。
出版社への著作権の使用許可申請は館員が無償で助けてくれる。
小学校の授業に合わせた資料を館内の目立つ場所に置いてくれるのも地元を知る館員だ。
清さんは「図書館は地域との信頼関係の上に発展してきた」と話し、民営化された後も会が存続できるか不安を抱いている。
図書館ネットワークの中枢である国立国会図書館のホールには「真理がわれらを自由にする」との言葉が掲げてある。
国民が求める情報をいつも無償で入手できること。
それが民主主義を根底で支えているのだという理念なのだろう。
目先の採算だけで民営化を急いではならないと思う。