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記者の目:旧田中派支配を壊した小泉さんの5年半=牧太郎(社会部)
◇気がつけば米国支配−−CM調で世論に先手
小泉さん、ご苦労さまでした。在任5年5カ月、悪意に満ちた批判にも耐え、頑張ってくれました……と書き出して、このセリフ、どこかで聞いたことがある、と気づいた。
そうだ、竹中平蔵総務相が政権交代とともに参院議員を辞職すると表明した15日、小泉さんは「改革について語る時、竹中氏なくして語ることは出来ない。悪意に満ちた批判にも耐え、頑張ってくれた」とテレビカメラに向かって話した。この「悪意に満ちた批判」というセリフを僕は無意識に使ってしまっている。
巧みな世論操作にまた乗せられた。小泉改革は善で批判は「悪意に満ちたもの」と決め付け、竹中さんが受けるべき批判を「悪意に満ちた」とさげすむ。
「大臣でなければ意味がない。議員を辞める」はあまりに身勝手。それなら民間人のまま大臣になれば良かった。有権者を愚弄(ぐろう)している、という批判が出て当然だが、小泉さんは先手を打って「批判=悪意」という図式を作り上げた。ひ弱なメディアは鋭く切り込めない。先手必勝。彼はけんか上手だ。
小泉さんに「悪意」と言われないため、まず善意に満ちた報道を紹介しよう。米紙ウォールストリート・ジャーナルは「国際社会での影響力低下を嘆き、凋落(ちょうらく)の一途をたどっていた経済大国は小泉によって、驚くべき復活を遂げた」と書いた。事実、日本人の64%が小泉政権を評価している(毎日新聞世論調査9月1〜3日)。
首相の退陣は(1)花道退陣型(佐藤さんの沖縄返還など。「これをやったら辞める」との密約あり)(2)病気退陣型(小渕さんなど)(3)病理発覚型(リクルート疑惑の竹下さんなど)(4)党内基盤崩壊型(三木さんなど)とおおむね四つに分類できるが、小泉さんは中曽根さんと同じく極めて珍しい「余力たっぷり型」である。
長期政権の秘密はテレビである。毎日、自分に都合の良いことだけを手短に話す。<大衆の注意を喚起→感情に売り込み→スローガンに煮詰め→言い続ける>。過去の指導者は派閥力学を背景にした調整力で政権を奪取したが、彼は「自民党をぶっ壊す!」というコピーと「変人・純一郎+妻・(田中)真紀子」というキャラで政権をもぎ取った。彼は日本に初めて登場したCM政治家だった。
そのCMはけんか作法だ。彼の祖父・又次郎さんは横須賀のとび職「小泉組」の若頭領。全身に九門竜の入れ墨をしていた。おじいさんのDNAか。「こころに入れ墨をした」と小泉さん。大衆がこれほど「総理大臣」に熱中したのは就任直後の田中角栄以来である。
政治家のCMだから謀略も隠されている。「抵抗勢力」という言葉で自由な言論を封じ込める。「官から民へ」というスローガン。「民にふさわしいものを民に」なら分かるが、一部の人だけが得をする「無理な規制緩和」を断行。市場原理主義が善、と彼は妄信した。他人のすきに乗じた拝金主義者が今、日本にウジャウジャいる。小泉CMは良くも悪くも文化を変えた。
しかし、自己陶酔型の政治家は現状を正確にとらえることが苦手だ。拝金万能主義の陰で「働く貧困層」が生まれた。一世帯で複数の人が働いても、生活保護世帯の給付水準に達しない層が生まれ、地方に崩壊寸前の過疎集落が急増した。確かに景気は上向いた。が、これはゼロ金利で家計に入るはずの所得が金融・大企業へ移転したからだ。バブル崩壊後、その理不尽な移転は304兆円にも達した。
ワシントン・ポストは「日本の被生活保護者の半数が65歳以上。米国では高齢者の被生活保護者は10%。景気回復は一握りの人だけ。高齢者にしわ寄せが来た」と分析する。
「自民党をぶっ壊す!」というスローガンは「自民党旧田中派支配をぶっ壊す」という意味である。既得権にあぐらをかく族議員を追放する。これは一定の成果を上げた。道路公団が民営化されたが、道路族議員の「国土開発幹線自動車道建設会議」が整備路線を決定するというカラクリも残った。が、それでも旧田中派支配は崩壊した。評価したい。
しかし、気になるのは「米国支配」だ。初めての所信表明演説(01年5月7日)で彼は「中国、韓国、ロシア等の近隣諸国との友好関係を維持発展させる」と述べた。これが最大の公約と僕は考えたが、現実の小泉外交は日米同盟一本やり。イラクが大量破壊兵器を持っているというブッシュ米大統領の言い分に乗って自衛隊イラク派遣を決断した。その延長にある沖縄の基地返還に伴う米軍再編。自衛隊と米軍は一体化するだろう。日本の主権はのみ込まれ、ますます属国化するのではないか。
小泉改革の目玉・郵政民営化は米国が毎年日本に突き付ける政策要求の一つだった。旧田中派支配は去って、米国支配が始まる。そんな危惧(きぐ)を残した5年5カ月。テレビCMの達人・小泉さん、ご苦労さまでした。
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毎日新聞 2006年9月22日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/kishanome/news/20060922ddm004070053000c.html
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