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発祥の地で開催、世界宗教者平和会議=丹野恒一(大阪学芸部)
◇日本の存在、最後まで希薄−−「現実苦」直視、行動せよ
9・11米同時多発テロ以降、最大規模の宗教者会議−−。こう位置付けられた第8回世界宗教者平和会議(WCRP)世界大会が8月下旬、京都市で開かれた。期間中、海外の参加者が「ヒロシマ、ナガサキの被爆を経験した日本の宗教者は、平和を追求するうえで特別な役割を果たす」と発言するのを何度も聞いた。しかし、私にはホスト国へのリップサービスにしか聞こえなかった。海外の宗教者が「今、そこにある対立、暴力」に向き合おうとしているのに対し、日本の多くの宗教者は過去の平和の誓いさえ忘れてしまったように感じたからだ。
大会前、日本のある関係者が私にこう耳打ちをした。「正直言って、議論への積極的な関与は難しい」。耳を疑う私に、「命の危険と隣り合わせの国から来る宗教指導者が多い中で、平和に慣れきってしまった日本人が議論をリードするのは無理だ」と、彼は説明した。会議が始まる前から既に腰が引けていたのだ。
開会式には、ホスト国として天台宗の渡辺恵進・座主をはじめ伝統教団や新宗教のトップが数多く出席した。しかし、彼らはまるで「ゲスト」のようで、実際の会議では一部が議事進行の補佐役を務めた程度。WCRP国際委員会が地域紛争の解決に向けて、イラクや中東の宗教指導者らによる秘密会合を果敢に仕掛けたのとはあまりにも対照的だった。
「出席者の身に危険が及びかねない」「率直な議論のため」と、約65の会議・会合のうち50以上が非公開だった影響もあるが、日本の存在感は最後まで希薄なまま。天台宗の杉谷義純・元宗務総長が「仏の慈悲だの神の恵みだの言うが、結局は実践者として何をするのかが問われた」と語り、眞田芳憲・中央大教授(イスラム法)が「日本の宗教者は内向きで、海外の問題を解決するのは難しい」と話すのを聞くと、もどかしさが募った。
海外の参加者は「危険な自国を離れ、安心して対話できる場がまず重要だ。その意味で日本は最高の国」としばしば口にした。確かに、今大会は当初、04年に米国開催の予定だったが、同時多発テロ後の世界情勢を勘案して「対立の当事国での開催は無理」と、日本開催に切り替わった経緯はある。しかし、日本の宗教者の及び腰を目の当たりにすると、「単なる場所貸しに過ぎないのか」とますます落胆は大きくなった。
そもそもWCRPは、過去に国策を無批判に支持して戦争に加担した日本の宗教界が深い反省に立ち、主導的な役割を果たして設立された団体だったはずだ。1970年に同じ京都市で開催された第1回大会は「人類の奇跡」と呼ばれた。ベトナム戦争が議題になり、日本の宗教者は閉幕後、「平和使節団」を派遣して戦火の地で難民救済に着手した歴史もある。
運営面、資金面で立正佼成会を中心とする新宗教教団が深く関与しているため、伝統教団が距離を置いている側面は否定できないし、WCRPだけが平和追求の場でもない。宗教をあくまで精神世界ととらえ、現実の政治と切り離せない和平交渉に宗教者がかかわることを敬遠する考えがあるのも事実だ。ただ、それが「行動しないこと」の言い訳に使われるのなら、私は言いたい。「その時々に人々の現実の『苦』に向き合ってこその宗教ではないのか」と。
ウィリアム・ベンドレイ・WCRP事務総長は「宗教は、暴力や憎悪を扇動する急進主義者、政治家、メディアにハイジャックされ、悪用されている。宗教が素晴らしいからこそ、逆に人々は混乱してしまう」と繰り返した。宗教が対立をあおっているのではなく、求心力が強すぎることによる“副作用”だとの指摘である。裏返せば、その求心力の強さが紛争解決の大きな力にもなり得るが、日本の大半の宗教には今、そのような求心力はない。
批判の矛先はもちろん宗教指導者だけに向けられるべきではない。
宗派間の対立が激化するイラクのシーア、スンニ両派の指導者に同席を求め、取材した際、「インタビューを受ける前にまず聞きたい。日本人にとって宗教とは何なのか」と予想外の質問を受け、答えに窮した。限られた時間内のやりとりでは彼らの真意をつかみかねたが、日本人一般の宗教心の希薄さを見透かされた気がした。
原爆の日やお盆があり、日本人が最も平和に関心を持ち、宗教心が高まる8月。その月に宗教都市・京都で開催された今回の世界大会は、皮肉にも日本の宗教の「現実」を露呈する場になった。誕生の地に帰ってきた今大会が、日本の宗教界にとって平和構築への努力を再開するきっかけになればと願う。
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毎日新聞 2006年9月15日 東京朝刊
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