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□ノーサプライズな新三役 秘密主義はしっかり踏襲 [東京新聞]
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060926/mng_____tokuho__000.shtml
ノーサプライズな新三役
秘密主義は しっかり踏襲
安倍政権をバックアップする自民党の新三役が決まった。「バクチを嫌う」安倍晋三氏の姿勢を象徴するように、顔ぶれは総裁選を支えた「ノーサプライズ」のお三方。まだ閣僚人事が残るとはいえ、国民をびっくりさせて楽しませ、その勢いで支持率を上げていった小泉首相の手法とは対照的だ。あえて独自の手法で船出する「安倍丸」の未来は−。
■宣言通り実行
「ノーサプライズ人事」。二十五日に決まった自民党三役の顔ぶれをひと言で評すれば、こうなるのかもしれない。安倍氏自身も総裁に就任した二十日、「サプライズを狙うつもりはない」と明言していた。まずは言葉どおりの手法で人事を実行してみせた形だ。
中川秀直氏の幹事長起用は、総裁選の最中から確実視されていた。自民党には、総裁と幹事長は別の派閥から出す「総・幹分離」の慣例があったが、小泉首相が安倍氏を幹事長に抜擢（ばってき）した時に過去のものとなっていただけに、中川秀氏の幹事長起用に驚きの声はまったく出ていない。
中川秀氏は、党内最大派閥森派出身で、当選九回。森喜朗前首相の側近中の側近として知られ、森内閣の官房長官を務めた。二〇〇〇年に女性スキャンダルで官房長官を辞任したが、小泉政権で国対委員長、政調会長を歴任して復権し、党の実力者になった。森派の後輩だった安倍氏の後見人的な存在だ。
総務会長になった丹羽雄哉氏は厚生相などを歴任した当選十回。丹羽・古賀派の共同代表を務める。同じ宮沢派の流れをくむ谷垣派から谷垣禎一財務相、旧河野派から麻生太郎外相が総裁選に立候補したにもかかわらず、派内を安倍氏支持でまとめた手腕が評価された。いわば分かりやすい「論功行賞」だ。
中川昭一政調会長は、小泉内閣で経済産業相、農林水産相を歴任。当選八回。安倍氏とは、もともと親しい間柄だ。無類の酒好きで、歯に衣（きぬ）を着せぬ発言でも知られる。教育問題や歴史認識、安全保障政策では安倍氏と考え方も近く、今年も八月十五日に靖国神社に参拝するなど、「タカ派」の印象も持たれる。北朝鮮による拉致被害者の救出を目指す「拉致議連」の会長を務めたこともある。
三氏とも着実に実績を積み重ねてきたベテランの二世議員で、至って妥当な形で登用されたといえる。
では、「サプライズ人事」を駆使して政権浮揚を図ってきた小泉首相の三役人事＝表＝と、安倍氏の人事はどう違うのか。
■党内抵抗なし
まず、小泉首相の〇一年、〇二年の三役人事の目玉は「山崎拓幹事長」だった。山崎氏は当時、小泉首相の盟友だったが、小派閥の会長だったせいもあり、党内からは幹事長就任に猛烈なブーイングが起きた。これを無視して強行したのが、「小泉流人事」の第一弾だった。
これと比べれば、今回の「安倍人事」に党内から表だった「抵抗」の声は出ていない。
さらに三役の出身派閥を見ても、小泉政権の最初の三役のうち山崎、麻生両氏が小派閥出身だったのから様変わりし、中川秀氏は最大派閥の森派、丹羽氏が第三派閥、中川昭氏が第五派閥とおおむねバランスの取れた格好になっている。
登用されなかった第二派閥津島派に不満がくすぶる程度だろう。
小泉サプライズ人事の真骨頂が〇三年の安倍幹事長、〇四年の武部勤幹事長の起用だった。誰も予想できない人選で、世の中をアッと言わせた。これが小泉人気の源泉となった。
しかし安倍氏はもともと小泉流人事をまねる気もなかった。ただし、直前まで人事を漏らさない秘密主義はしっかり踏襲した。
■分わきまえる
安倍流人事を識者はどう見ているのか。
マーケティングコンサルタントの西川りゅうじん氏は「政策を実行するため、仕事のできる人材で党の要を固めたという感じだ。小泉氏によってやり尽くされたサプライズは、二番せんじでもはや通用しないと考えているのだろう。スタンドプレーやうけ狙いはせず、分をわきまえることで支持を得ようとするのが、小泉流とは違うところ」とみる。
確かにサプライズは世間の耳目を引く。しかし同時に危うさもはらむ。小泉内閣発足時に外相に抜擢された田中真紀子氏がその代表例だ。「田中氏は更迭された後は小泉批判の急先鋒（きゅうせんぽう）になった。サプライズにはマイナス面がつきまとう」（西川氏）ことも織り込み済みのようだ。
そういえば、大相撲秋場所で優勝した横綱朝青龍関に内閣総理大臣杯を授与した安倍氏は、派手なパフォーマンスもせず、「分をわきまえて」いたように見えた。
振り返れば〇一年の夏場所千秋楽、就任間もない小泉首相がけがをおして優勝を飾った横綱貴乃花関に、「痛みに耐えてよく頑張った。感動した。おめでとう」と絶叫調で賛辞を贈り、支持率アップにつながった。
これに対して先日の安倍氏。賞状を淡々と読み上げただけで、「小泉さんのようなアドリブを」と期待した国技館の観客に見事な肩すかしを食わせた。
西川氏はこの振る舞いにも、安倍氏の「戦略」を見てとる。「何もしなくても観客は自分のことを知っているので、あえてひけらかさない。つまり安倍氏は、小泉首相と逆のことをやった方が好感を持たれると戦略的に分かっている」というわけだ。
政治評論家の小林吉弥氏は「気心の知れた人で固めた人事で、予想された範囲内」と評する。
サプライズを避けたのは、「バクチのできない安倍氏の性格」でもあるが、それ以上に「新政権の勝負どころである発足後三カ月間でスタートダッシュをきめるには、臨時国会で継続審議になっている教育基本法改正案を是が非でも成立させること。そのためには手堅い人事をせざるを得なかった」と小林氏はみる。
ただスタートダッシュに成功したとしても問題は来年の参院選だ。「軽量とまでは言えないが、この自民党の布陣では迫力で小沢民主党に見劣りしてしまう。この人事は小沢一郎氏をニンマリさせたのではないか。『この布陣で選挙に勝てるのか』という声が噴出する可能性がある」（小林氏）
漫画家のやくみつる氏は「神輿（みこし）に担がれている人（安倍氏）が上で暴れたら、担ぎ手が混乱するか、担がれている人自身が落っこちるだけ。あの年齢（五十二歳）では暴走できない」とサプライズなしの安倍流人事に同情するが、政治評論家の屋山太郎氏は「この党三役人事を見ると先が思いやられる」と厳しい評価を下す。
「政治家としての安倍氏の特色は主義主張に厳しいことだ。それがこの人事に表れていない」
中川秀新幹事長は靖国神社問題ではＡ級戦犯分祀（ぶんし）を唱え、安倍氏が慎重な人権擁護法案に対しても成立に積極的な姿勢を示している。
■“小姑”に配慮
屋山氏は「考え方が近い麻生太郎氏ではなく、およそ主義主張が相いれない中川氏を幹事長に起用したのは、党内の“小姑（こじゅうと）”たちに配慮した結果だろう。主義主張よりも仲間内を選んだ安倍氏の情のもろさは大欠点だ」と指摘したうえで、安倍新政権の前途を危ぶむ。
「小泉首相は力仕事を任せるために武部氏を幹事長にすえる度胸があった。これに対し安倍氏は非情になりきれない。幹事長に哲学の違う人を起用して、本当にやりたい政治ができるのか」
＜デスクメモ＞ 政治の季節で、永田町関連の記事をまとめることが多くなったが、ふと気が付いたことがある。「巨悪を暴く」「政界疑獄事件」なんて原稿に、ひさしくお目にかからなくなった。なければないで結構なことだが、ひょっとして日々厳しくなるメディア規制の効果ではないのか。うかうかとしてはいられない。（充）
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