★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK25 > 740.html ★阿修羅♪ |
Tweet |
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060828/mng_____tokuho__000.shtml から転載。
テロ攻撃で石油タンクが爆発−。有事の際の住民や地方自治体の協力を定めた「国民保護法」に基づく実動訓練が25日、北海道苫小牧市の国内最大の石油備蓄基地で行われた。昨年の福井県に続く試みで、今後も茨城県や鳥取県で予定されているが、「戦争の準備に住民を動員する」と反対する声も根強い。一体どんな法律で、何が問題なのか。現地で訓練の背景を探ってみた。 (橋本誠)
苫小牧市街地から東へ十五キロ。勇払原野の人家のない道を走り抜けると、緑の中に巨大なタンク群が姿を現す。一つ一つがジャンボ機がすっぽり入る大きさ。日本の石油消費量の十五日分を蓄える国内最大の基地だ。
午前十時。ここで全国二例目の国民保護訓練が始まった。爆発音に続いて、白煙が発生。けたたましくサイレンを鳴らして消防車両が到着、一斉放水を始める。シラカバの森から吹いてくる風は涼しいが、日差しはまだ夏。その青空に、白い水流が弧を描いていく。
一見、普通の防災訓練にしか見えない。しかし、目を凝らすと、消防隊員の銀色、救急隊員のオレンジ色に交じって、迷彩服を着た自衛隊員の姿が目立つ。大量の泡消火剤を噴射する「大容量泡放射砲」を運んできたトレーラーは「北の脅威」に備えてきた陸上自衛隊第七師団だ。上空では陸自のヘリコプターが現場を撮影。航空、海上自衛隊も参加し、全面的にバックアップしている。
「鎮火」後、いよいよ国民保護法が前面に出てきた。大型テントで警察、消防、自衛隊、自治体関係者が顔を合わせ、小町晴行・道危機対策局長が「国籍不明のテログループの犯行声明がインターネット上に掲載された」と報告。苫小牧署は市内の石油コンビナートの二カ所で爆発物が発見されたと告げる。
衛星回線など通信の確保に主眼が置かれ、現地対策本部(苫小牧市)と道庁内の対策本部(札幌市)、首相官邸(東京)でテレビ会議を実施。官邸の担当者が現地に「テログループは市内に潜伏しているとのことだが、市外に逃げた可能性は」などと確認する場面が目立つ。回線は事前にスタッフが入念にチェックしていたが、画面に映るのはシナリオを読んでいる相手の顔だけ。実際の災害現場なら表情から緊迫感も伝わるが、この日はいまひとつ効果が感じられなかった。
国民保護訓練が続く一方で、消火訓練の担当者が草むらに座って弁当を食べる姿も。見学に招かれた港湾地区の防災担当者(44)は「整然としていて安心した」。しかし、近隣の消防本部の職員(57)は「テロは狙われたら終わりさ。タンクは連鎖的に燃えないようになっているが、風向きや石油が漏れ出したときのことを考えると絶対とは言えない。複数のタンクが燃えれば、空からの消火になるが北海道で消防のヘリがあるのは札幌だけ」。日々火災に接している消防士の表情に、不安の色が浮かんだ。
■もう一度やる必要ある
備蓄基地は保安上の理由で立ち入りが制限されているため、住民は参加しなかったが、苫小牧市は同日、国民保護訓練と同時刻に防災訓練を実施。サイレンを聞いた二十町内会の住民約七百人が公園に集まり、陸自の車両などで避難した。小町危機対策局長は「市町村の国民保護計画ができた段階で、もう一度やる必要がある」と話したが、既に住民参加の道筋は敷かれているように見えた。
国民保護法は二〇〇四年六月、自民、民主、公明などの賛成多数で成立。想定される武力攻撃事態を(1)着上陸侵攻(2)ゲリラや特殊部隊の攻撃(3)弾道ミサイル(4)航空機攻撃−に分類し、核・生物・化学(NBC)兵器による攻撃への対応策も定めた。こうした外国の侵略である「有事」に加え、石油コンビナートや原子力事業所の爆破、サリン散布などの大規模テロにも、「緊急対処事態」として適用できることにしたのが最大の特徴だ。
国民は平時にも避難訓練への参加を求められる。苫小牧市民の多くは「出光興産の火災(二〇〇三年)のときは、この辺りもにおいがすごかった。訓練しないと、分からないところがある」(設計事務所経営の五十七歳男性)「国民保護訓練にも、ぜひ参加したい。何回も繰り返さないと、身に付きませんから」(市の避難訓練に参加した五十一歳主婦)と理解を示す。
■法の趣旨を理解してない
しかし、「戦争不参加(無防備)宣言をめざそう苫小牧市民の会」の斎藤けい子さん(59)は「国民保護法の訓練と理解している人がほとんどいない。明らかに戦争に市民を動員する準備に入っているのに」と危機感を募らせる。
「北海道平和運動フォーラム」の住友肇代表も「現実味のない想定で住民を巻き込み、日常的に戦争を植えつけようとしている。テロ攻撃があるとすれば、米国の先制攻撃に反撃したイラクのようなケースだけ。憲法に基づき、戦争を起こさない外交をすることが必要」と主張する。
国民保護法について、山口大の纐纈(こうけつ)厚教授(現代政治論)は「『武力攻撃災害』という言葉を使っているが、人間の英知で止められるはずのテロや戦争と台風や地震の自然災害を線引きできなくする発想は問題だ。昔で言う『銃後』に国民が組み込まれることになり戦争を前提にした国民動員法といえる」と批判する。
■被爆したら家に目張りを
都道府県の国民保護計画は〇五年度に策定され、市町村も〇六年度中に作ることを義務付けられている。
纐纈教授は「都道府県などの計画は形式的に作るだけで、サンプルに沿って右向け右。『こんなことやって何になるんだ』と不満を持っている地方自治体の職員もいるが、国の専管事項だから、上からのトップダウンだ。北朝鮮のミサイル問題などで訓練を必要とする世論ができあがり、首長レベルでは抵抗できない。政府の思惑通り」とみる。
長崎県では、被爆者五団体が県に計画の撤回を求めている。母親ときょうだい四人を亡くした県被爆者手帳友愛会の中島正徳副会長は、核攻撃時に「風下を避け、手袋、帽子、雨がっぱ等」を着て避難するよう求める国の基本指針に「話にならない。『外で被爆したら、家に戻って目張りを』ともされているが、核兵器に遭ったら家なんかなくなる」と被害認識の甘さに憤る。「広島・長崎の原爆の数十倍も威力がある(現代の)核兵器が使われたら、国民を保護する方法はない。核兵器の使用禁止を国連にアピールすべきだ」と核戦争を前提とした計画に反発する。
立法過程では、避難のための土地や家屋の使用に都道府県知事の強制権を認めるといった過剰な私権制限も問題になった。宮崎大の小沼新教授(国際政治)は「自衛隊と米軍にとって一番じゃまなのが国民。保護ではなく、遠ざけるのが狙いだ」と語ったうえで、こう危惧(きぐ)する。
「ゆくゆくは地震や台風の防災訓練も国民保護訓練の中に入る。そのうち出欠を取りはじめ、来ない人からは罰金を取るようになる。最終的には、戦前の隣組のような形になるでしょう。住民基本台帳ネットワークや(街頭の)防犯カメラもそうだが、国民を直接管理できるシステムが出来上がっているのが怖い。ここ二、三年で急速に進んでしまった」
<デスクメモ>
昨年、福井県での訓練には住民も参加した。ためらった人もいたらしいが、地域の人に「防災訓練」と誘われ、断れなかったという。「武力攻撃災害」という奇妙な造語の怖さはここにある。「バケツリレー」「隣組」といった言葉が頭をよぎる。いつしか「戦争」が日常になっていく。誰が書いた脚本か。 (充)
▲このページのTOPへ HOME > 政治・選挙・NHK25掲示板