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http://walumono.typepad.jp/blog/2006/08/post_274e.html から転載。
安倍晋三『美しい国へ』(文春新書,2006年),『安倍晋三対論集』(PHP研究所,2006年)を読み終える。
いくつも感想はあるのだが,ごく基本的なところだけ。
第一にそもそも中身がおそろしく軽い本である。
『美しい国へ』についてはご本人も「政策提言のための本ではない」と語っている。しかし,それにしても,政治家の語りには,世界と日本をどう見るか,どこに社会改革の課題をどう見出し,それをどのように解決していくのかという政治家としての大きな「哲学」がにじみ出るものである。それがただのひとつも感じられない。
それにもかかわらず,この人が自民党総裁の最有力候補だという現実があるのだから,そこには自民党自体の政治運営・政策立案能力の貧しさが集中的にあらわれているというしかない。そもそもこの政党には,自らの足で立つという自覚と気概がそもそもない。「財界・アメリカいいなり」政治が生んだ退廃の極致といえようか。
第二に政治を論じながら国民生活の苦難をひとつも論じないという,その政治家としての目線が異常である。そもそも経済政策についてはこれまでほとんど語ったことがないようだが,少なくとも今年の正月以降,「格差社会」の深刻化は政府・自民党にとっても隠しようのない重大問題であったはず。
今年の『経済財政白書』も『労働経済白書』も,特に若者の生活の深刻さについては何をどうしても目をそらすことができなくなっている。それにもかかわらず,安倍氏の議論には,これにどう立ち向かうかという話はどこにもあらわれない。
ことは雇用や若者の生活だけではない。再チャレンジのためのセーフティネットといった言葉はあるが,その実態は,生活保護が受けられずに餓死した人の話を自ら話題にあげながら,それを生活保護を適用するかしないかの判断の難しさの例証とするといった程度のものでしかない。餓死するほどの苦難と貧困に,ただちに手を差し向ける意志をもたない政治が語るセーフティネットとは一体なんなのか。
もっとも,それは国民の生存権を「基本的な権利・自由」ではないとする改憲案(2004年11月)をもつ政党の党首にはふさわしい。
第三に世界構造の中での日本の地位の認識だが,外交は対米従属が大前提であり,それ以外の世界についてはほとんど視野に入っていない。しかも,そこにいう外交の内容はほぼ軍事的対応に限られている。
在日米軍基地の増強,「改革要望書」によるアメリカいいなりの「構造改革」,憲法「改正」の要求,増え続ける日米共同演習など,日米関係にはその是非を根本から考えるべき問題がいくらでもあるはずである。それにもかかわらず,そもそも日米関係の現状は点検の対象にすらなっていない。つまり,すべては,これでよしということである。
驚くべきことだが,この本にはブッシュ大統領,小泉首相とともに,アメリカでCIAによるブリーフィングを受けたことが自慢話のように描かれている。それが一国の政府代表のとるべき態度だろうか。それはアメリカによって,日本がアメリカの属国あるいはアメリカ国内の一つの州と同列のものと扱われたということではないか。そのことの重大さに気付かないほどに,この人のアメリカ崇拝(従属)は深刻である。
対照的に国連に対する評価は驚くほど低く,国連はいわれるほど美しくない,国連崇拝はしないといった言葉が繰り返される。だが,ではアメリカはそれほど美しいのだろうか,あるいはアメリカはどのような理由によって崇拝の対象となっているのだろう。
中国敵視の姿勢については,東アジアとの関係もインド,オーストラリア,アメリカと組めばなんとかなるという放言につらなっていく。これについては,加藤紘一氏による「幼稚」だとのお叱りにまかせておきたい。
第四に新憲法制定(改憲)を,あたかも日本の「独立」の達成に必要なことかのように戦後史をいつわることへの格別の力のいれように驚かされる。憲法前文にある戦争反省を連合国への「詫び証文」と罵倒し,そのような押しつけ憲法を捨てて,新憲法を制定することが「占領体制」脱却への道だとされる。
まず,この2冊の本では慎重に言葉を避けていることだが,この人の歴史認識には,かつての戦争を侵略戦争だとする反省はないようである。「詫び証文」を消すいうのは,かつての戦争を侵略戦争とは認めない国づくりをするということである。
さらに安倍氏は,自民党の結党や60年の安保改定を日本の「独立」への努力と描く。ではなぜその結党にアメリカが資金援助を行ったのか。また安保改定が旧安保の基地提供にとどまらず,経済協力や軍備増強をアメリカに約束し,さらに日米共同作戦という名の自衛隊の米軍による下請あるいは組み入れという具合に,アメリカへの従属の度合いを深めているのはなぜなのか。
「闘う政治家」のキャッチフレーズのもとに,自分を自立した誇りのもてる国づくりの担い手と国民に印象づけたいようだが,その実態は,アメリカへの従属的軍事一体化の止めどなき推進となっている。雇用や社会保障など国民生活充実のためには「闘わ」ず,アメリカ様とはまかりまちがっても「闘うことなど決してない」。そして従属的軍事大国化のためにしか「闘わない」のであれば,これはもう百害あって一利なし。就任前からで申し訳ないが,早く辞めてくれ。
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