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http://www.bund.org/interview/20060805-1.htm
改正入管法からみえるもの
国の情報、データベース管理が外資の意のままになる
社民党・衆議院議員 保坂展人さんに聞く
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ほさか・のぶと
1955年生まれ。1996年初当選。「盗聴法」反対の先頭に立ち、「児童虐待防止法」の成立に奔走。 質問回数は第164国会で350回を超えた。 著書に『先生、涙をください!』『年金を問う』『佐世保事件からわたしたちが考えたこと』(共著)など。
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164国会で16歳以上の外国人に入国審査時の指紋採取や顔写真撮影を原則として義務付ける改正入管法が成立した。新たな入管システムの情報、データベースの構築を引き受けるのはアメリカ資本のコンサルタント会社だ。この問題を追及している保坂展人さんに話を聞いた。
指紋・顔写真による生体情報システム
――あっというまに改正入管法が成立しましたが。
★先の164国会では、共謀罪新設法案、国民投票法案、教育基本法改正案など様々な諸法案が提出され、マスコミやメディアでも随分と論議になりました。それに対し、残念ながら改正入管法(「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案」)はあまり問題にもならず、すんなり国会で通ってしまった感があります。
改正入管法とは、日本に入国する16歳以上の外国人から、強制的に指紋や顔写真などの生体情報を採るという法案です。世界でこうした制度を導入しようとしているのはアメリカに次いで日本だけです。
法務省の法案提出理由には以下のように書かれていました。「テロの未然防止のため、上陸審査時に外国人(特別永住者等を除く)に指紋等の個人識別情報の提供を義務付け、及びテロリストの入国を規制するための措置を講ずるほか、上陸審査及び退去強制の手続の一層の円滑化のための措置を講ずるとともに、構造改革特別区域法に規定されている在留資格に関する特例措置等を全国において実施するための規定の整備を行う必要がある」
つまり、外国人の上陸審査時には各人の指紋と顔の写真を採り、法務大臣が「テロリストである」と認定すれば、上陸を拒否したり、追い出すことができるようにするというわけです。これに対し、「外国人に対する人権侵害ではないか」と、私も含め弁護士会や外国人労働者を支援する労働組合の人たちから批判の声があがりました。とりわけ指紋押捺については、廃止するまでの長い運動の苦労があることから、「歴史を逆戻りさせる気か」と。
そればかりではありません。外国人の指紋と顔写真の強制収集の他に、日本人・定住外国人についても、「希望者」に対しての指紋収集およびICパスポートによる顔写真のデータベース化を行うというのです。ICパスポートについてはすでに実施されており、今年の3月20日以降に発給された旅券には、顔写真データがIC化されたチップが埋め込まれています。
――法務省の説明はどのようなものでしたか。
★法務省からわれわれ議員に渡されたのは、法案以外には2枚のポンチ絵(図参照)だけでした。1枚は「バイオメトリクスを活用した出入国審査体制の整備」(A)、もう1枚は「自動化ゲートの運用プロセス」(B)です。
A図では、来日する外国人の指紋押捺の採取にあたって、要注意人物情報(ブラックリスト)への従来のテキスト照合ではなく、バイオメトリクス(写真・指紋提供による生体情報システム)でデータベース管理することが記されています。
B図では、任意で希望する日本人と定住外国人は事前に指紋を登録すれば、機械的に指紋照合するだけで迅速に空港のゲートを通れるようになることが記されています。しかも正直に、日本人の赤いパスポートを登録する際に「ブラックリスト」の照合確認を行うとまで書いてある(笑)。
よくみるとわかりますが、A図とB図のデータベースは同じものですよね。つまり、外国人、定住外国人、日本人の指紋・顔写真情報は一体的に管理されるというわけです。日本人と定住外国人については今は「任意」ですが、大きな事件や軍事的緊張を理由にいずれ義務化されるのは間違いないでしょう。
――そこでのデータベースはどんな形で利用されるのでしょうか。
★昨年設けられた入管法61条9項では、「(法務大臣は)当該要請に係る外国の刑事事件の捜査または審判に使用する時に同意をする」となっています。たとえばアメリカからの捜査照会で「○○○○氏」の顔写真とかを寄越してくれと依頼がきたとき、これまでは任意だったものが、政治犯を除いては原則として応じなければいけなくなった。そこで今述べてきた、来日外国人、定住外国人、日本人、すべからくの指紋情報と顔写真情報が必要になってくるのです。
これだけでも大変なことなのですが、さらに入管システムの受注をめぐる新しい事実が次々と判明しました。
アクセンチュア社が入管システムを構築
入管局でコンピュータ化の作業を進めたのは、84年からです。随意契約で日立製作所がすべてコンピュータの拡張、交換、刷新などを引き受けてきました。そこでは「レガシーシステム」といって、日立しか対応できないシステムになっているので基本となるOSは日立独自のもので、他社は受注できません。そのため予算の算出根拠はメーカーのいいなりでした。メーカーがいくら出せといえばその通りに支払う。これではあまりにどんぶり勘定だと、社会保険庁のオンライン・システム(年間1千億円規模)が批判された過程で一緒に問題になったのです。
その後、レガシーシステムの改革が電子政府の推進の旗の下に全省庁的に言われていきます。入管局のレガシーだけでも、681億9974万と、700億円近いお金が投じられていますから、これを見直すのは当然のことでしょう。
ところが、法務省はなんと、アメリカのコンサルティング会社であるアクセンチュア社に「刷新可能性調査」を依頼したのです。
――アクセンチュア社とは?
★アンダーセン・コンサルティングという監査法人がエンロン破綻でアウトになったグループの生き残りで、対テロ戦争の情報化戦略の一環としてアメリカ政府が実施している顔写真と指紋データの採取を行う出入管システム(US‐VISIT)を受注・運営している会社です。本社がバミューダにあるため、タックスヘブンに本社をおいて節税している会社とアメリカ政府は契約できないという排除法が審議されたことがあるのですが、結局巧みなロビー活動で生き延びてしまった。そんな会社が04年5月、5880万で日本政府から入管システムの「刷新可能性調査」を受注したのです。
調査結果では、「閉鎖系」である現在の仕組みを「オープン系」に変えて効率的にする、そうすれば費用を60億円圧縮(277億円を5年間で217億にする)できる、という首尾よい企画書を提出してきました。しかもそこでは、レガシーシステムの変更だけでなく、指紋照合システムの検討が必要であることも明記されていました。
「刷新可能性調査」が終わると、今度はシステム変更の設計図とも言える「出入国管理業務および外国人登録証明業務」の「最適化計画」を05年6月に約1億円で再びアクセンチュアが受注します。
情報データベースやコンピュータシステムを再構築する「最適化計画」には、「自動化ゲート・システム実証実験において、本件にて査定する最適化計画と相反するシステムでないように入管、およびIC旅券等の試行運転および自動化ゲート・システム実証実験の受託業者に対して、適宜助言を行う」と書いてあります。これを読めば誰もが「受託業者」はアクセンチュア以外の会社だと思いますよね。ところがそうじゃない。「最適化計画」が出されたわずか3ヶ月後の9月12日に、たった10万円でアクセンチュア社自らが「受託」してしまったのです。理由は「海外での運用実績があるから顧客の開発もできるし、安く受けても元が取れる」からだと。一人芝居もいいとこです。
われわれはこれまで、「監視社会」というのは役所の官僚組織のある部分が進めていると思いがちでしたが、どうもそうではないらしい。入管システムの変更を実際に牛耳っているのはITコンサルとしてのアクセンチュアであって、政府はアクセンチュアが提出した企画書にただOKを出しているだけ。そこでは1億円の契約を結ばれたかと思うと、10万円という超低価格の入札が行われている。あきらかに異常です。「官や行政機関による監視」ばかりに目を向けているととんでもないことになるぞ、とこの時に思いました。
――アクセンチュア社のことは国会では問題にならなかったのですか。
★アクセンチュア社という名前が出てきたのは、法案を採決し終わってからなんです。国会審議で改正入管法が採決されたのは3月30日ですが、アクセンチュアによる「最適化計画」が発表されたのは翌日の31日、法務省のホームページにアップされたのは4月21日です。実に巧妙ですよ。ページ数は2000枚以上あります。同じ会社が調査、計画、受託まで行っていることを知ったときにはほんとに驚きました。
法務省のホームページをよく読むと、「最適化計画」の将来プログラムの中には指紋だけではなくて静脈認証も入っています。外国人にとっては、まさにわれわれがアメリカに入国するのと同じように、被疑者扱いされるわけです。
乗客と乗務員の搭乗者リストを相手方の空港に送付する事前旅客情報システム(APIS)は、すでに一部任意で導入されていますが、改正入管法によって入国する飛行機全便の通報義務になりました。たとえばシカゴから「成田空港行きの乗客250人のクルーはこうです」と連絡が入る。日本の警察や法務省、財務省のシステムで要注意人物がいれば、技術的にはその人間のバイオ情報をさらに求めることもできるようになります。
164国会では「入国時だけ義務づける」と説明されていましたが、今後日本人がイタリアやオーストラリアに行く時にも、相互主義でバイオ情報が送られるようになるのはほぼ間違いありません。実際、法務省のホームぺージのPDFファイルには「出国時」の項目が含まれています。
こうしてみると、改正入管法は外国人を対象とするのではなくて、入管のチェック・ポイントを理由にして全国民に監視体制の突破口を開く「国民総指紋登録制度」のさきがけであることがおわかりになるでしょう。
財務省、宮内庁の情報システムも
さらに問題なのは、アクセンチュアは入管以外にも、日本の犯罪に関わる情報を総合化し、検察事務とも一体化して統合運用しようとしていることです。すでに検察総合情報管理システムも受注し、10億円が払い込まれています。他にわかっているだけでも、法務省の入管と検察と登記、宮内庁の情報化統括責任者(CIO)補佐官業務、公正取引委員会、財務省にも入っています。
結局、テロリストを探せということだけを追及していくと、顔や指紋だけでは足りなくなる。家族関係、財産、勤務先などあらゆる情報が欲しくなる。個人にかかわる情報を行政は膨大に持っています。教育・成績情報、医療情報、債務情報などの金融情報、犯罪歴情報、出入国情報、課税及び納税情報などをデータ統合していく。それらを「○○○○」と端末を押すだけで一気に呼び出せるようにしたいわけです。全役所的にこれを行えば、個人はまる裸になってしまう。
私はこれらの事実を知るにつれて、5年以内に世界最先端のIT国家となることを目指すという「e‐Japan」(電子政府化)戦略の中に、とんでもないことが込められていたのだと思うに至りました。
そもそも「電子政府化」は、年次改革要望書のなかにある「電子政府化要綱」に基づくものであり、「e‐Japan重点計画2002」の前提となった、「電子政府化で日本は先進23カ国中、17位と低い地位にある」という調査は、アクセンチュア社のデータによるものです。国の根幹に関わる統治機能の神経網をすべて電子化するだけでなく、一部の外資に独占的に管理させる。この点こそ一番検証しなければいけない問題です。
各省庁は受注先の企業に対して、「契約書では守秘義務を課している」と言っていますが、とても信用できるものではありません。政府内の個人や企業に関わるデータベースに何者かが侵入し、犯罪、入管、登記の情報や取引き情報、課税状況などを――あくまで仮の話ですけど――裏のシステムで秘匿するとします。こうして「神の目」を持つことができあらゆる情報を取り寄せることができれば、東京市場で以後10年間、日本中の株式市場の富をバキュームのように吸い取ることも可能でしょう。
どんな事件が起きたのか。どんな発明(特許)があったのか。どのような課税が行われているのか。これらをすべて把握することができれば、資本はいくらでも市場を操作することができます。そもそもテレビ局に参画するのにも外資規制があるというのに、官公庁では逆の、「外資を規制してはいけない」という規制があることがおかしいんです。WTO政府調達に関する協定を根拠にして、外資を排除しないという規制があり、これが生きています。
軍需産業と情報産業は表裏の関係
――他の国への影響はないですか。
★はじめに述べたように、現在のところ、入国する16歳以上の外国人に生体情報を義務づけるのはアメリカと日本だけです。何回もテロがおきているインドネシアでさえも導入していません。いずれ、JAPAN‐VISITをモデルにしてアジア各国にも普及させたい、というのがアメリカの狙いでしょう。
アクセンチュアとしても、たとえ10万円で受注しても日本で成功してアジア各国にマーケットが広がっていけば十分儲かる。「ITゼネコン」という言葉がありますが、私はこうした動きを「グローバルITゼネコン」と呼んでます。どこまでも際限なくITの職種が伸びていき、仕事はふくらむばかりであると。
ただ私が思うには、アクセンチュアがたまたま目立っただけのことで、実際にはアクセンチュアが勝手に進めているというよりは、対テロ戦争のなかの軍需産業と情報産業が表裏の関係で存在しているということでしょうね。
面白いことに、こうした情報は極秘にされているわけではなくて、インターネット上にポロポロ転がっていることです。収集をしようと思えばできる。ただそれを、収集したり活用している人たちは主にIT関係の仕事をしている人達です。IT関係に携わっていない人間はどんどん情報にうとくなり、懐疑心も失せていってしまう。そこが怖い。
確かに共謀罪も重大問題ですが、たとえ治安維持法並に運用されたとしても、実際に国民が悪影響をこうむるようになるのは少し先です。それに対し、改正入管法は来年から適用されるわけですからもっと危機感をもったほうがいい。
いずれにしても、奇妙なのは「愛国心」だとか時代錯誤的な徳目を盛んに言っている人たちが、一方で外資に宮内庁の金の動きまで管理を任せようとしていることです。日本の国のすべての情報、データベース構築が外資の意のままになっているのを平気でみているわけにはいきません。
小泉改革の5年間で社会はどんどんおかしな方向に向かっています。これ以上おかしくさせないためにも、多くの国民が、市民が事態をきちんとつかんで声をあげていくことが必要だと思います。
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(2006年8月5日発行 『SENKI』 1220号4面から)
http://www.bund.org/interview/20060805-1.htm
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