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私が田中宇氏の国際ニュース解説を紹介しているのは彼の主張に全面的に賛成してのものではありません。
ここに紹介する論者と同じような疑問を抱いています。また田中氏にたいして様々な批判的論評が存在する事も承知しております。
しかし、私には田中氏へ抱く疑問を解明する材料も持ちあわせていない事と、田中氏の解説に内包されている斬新な視点を私は評価している事を以って、紹介をしているわけです。
今回、パレスチナ問題についての優れた視点に立った批評に接した為にそれを紹介したいのです。
http://palestine-heiwa.org/note2/200607240414.htm
「撤退」というレトリック――イスラエルの「一方的措置」と終りなき占領
Posted by :早尾貴紀
「田中宇の国際ニュース解説」 に、 「イスラエルの逆上」 と題する解説記事が掲載されました。現在イスラエルがガザ地区とレバノンで展開している戦争について、批判的に分析している記事です。
そのなかには、背景整理については有用なところもありましたが、しかし、彼の基本とする見方・分析のところに根本的な誤りがあります。この点は、イスラエルの政策を見極める上でひじょうに重要なポイントであり、大手メディアでも昨年夏の「ガザ撤退」以降間違ったイメージを伝えつづけているところです。田中氏の国際ニュース解説は読者数も多いと思われますので、簡潔にその点を指摘しておきます。
以下記事からの引用。
イスラエルは、なぜ戦争を拡大しようとするのか。私の見るところでは、今のイスラエルの内部は一枚岩ではない。占領地撤退を進めたい「現実派」と、あくまでもパレスチナ・アラブ側との戦いを好む「右派」とが対立し、暗闘している。今回の戦争は、イスラエル内部の暗闘の中で、右派がクーデター的に起こしたものである。
オルメルト首相は現実派の頭目で、今回の戦争が始まる前日まで、パレスチナ占領地からの入植地の撤退を予定通り行うべきだと表明し続けていた(オルメルトは、今年中にヨルダン川西岸地域からの入植地撤退を行うことを予定していた)。
占領地からの撤退は、イスラエル周辺の国々との関係の安定化と抱き合わせになった戦略で、イスラエルは占領地から撤退し、パレスチナ人が自前の政府を持つことを容認する代わりに、周辺の国々はイスラエルに対する敵視をやめることで、中東を安定化させる構想である。
端的に、イスラエルは占領地から「撤退」などする意図などありませんし、その点では右派と現実派の対立もありません。イスラエル社会や政界が「一枚岩」ではないのはもちろんですが、その差異は「撤退か否か」にあるのではないのです。
イスラエルが「撤退」という名前の政策でやろうとしていることは、ごく一部の不効率な入植地を整理して、大半の入植地の撤去を行なわずに(!)、それらを恒久的な領土として併合する(!)、それによって一方的に国境画定をする、というものです。それはシャロン(以前)からオルメルトへと一貫して引き継がれているものです。
もちろんそのようなことを堂々と行なえば、国際社会から非難を浴びるのは避けられません。だからこそシャロンやオルメルトは、「撤退」という言葉を巧みに使って、問題の本質を隠蔽しているわけです。イスラエルのメディアが「撤退」という表現で議論するのは、ある種当然としても、日本など海外のメディアがそれを踏襲するということは、いわゆる紛争当事者の一方の立場にメディアが乗っているに等しく、公平性・客観性に欠けている姿勢だと言うべきでしょう。
イスラエル軍が昨年からガザ地区でやっていることも、現在レバノンに対してやっていることも、もちろんこうした政策と深く連関しているものであって、決して「現実派対右派」ないし「撤退派対反撤退派」という対立構図で捉えられるものではありません。そうした整理で見えてくることもあるかもしれませんが、現在のパレスチナ/イスラエルを考える上では、むしろ歪曲・隠蔽するもののほうが大きいでしょう。
イスラエルは、田中氏の言うところの「現実派」も「右派」もパレスチナに「自前の政府」など認めはしませんし、「敵視をなくそう」ともしていません。むしろ「交渉相手はいない」というスローガンに象徴される「一方的措置(いわゆるユニラテラリズム/一国主義)」を原則とすることで、シオニズム各派は共通していると言うべきでしょう。
例えば昨年の「ガザ撤退」。実際のところ、ガザ地区内の入植地とイスラエル軍基地を一方的に引き上げただけの話で、何一つとして和平協定もなく、当時から「何か気に食わないことがあれば数分で再侵攻が可能な状態だ」と言われていました。イスラエルは「占領地を手放した」として、あたかも「譲歩」をしたかのようにアピールをしていましたし、またしても日本の大手メディアはそれに乗せられていましたが、実のところ、ガザ地区の国境・海岸線・航空管制はイスラエルの陸・海・空軍によってがんじがらめに封鎖されたままで、巨大な「ガザ監獄」が「監獄」のままであることは、何も変わってはいませんでした。ただ内側にもいた看守がちょっと外側出て外からの監視を強化したというだけのことで。
これを「撤退」とか「占領の終結」と呼ぶことが誤りであり、何らかの政治的意図が込められたプロパガンダと見るべきなのは明白です。その「意図」というのが、西岸地区の入植地の併合を、「撤退」というニュアンスで塗り込めることなわけです。今後西岸地区で「撤退」が進められるとしても、それがどのようなものになるのかは、ガザの先例からすでに見えています。大半の入植地と、豊かな農地・水源が西岸地区から切り離され、その残りの部分は「巨大な監獄」にされるのです。これを「撤退」という美名で国際社会から覆い隠すこと。
「パレスチナには信頼できる交渉相手はいない」と叫びながら一方的措置を正当化していくことは、シャロン政権がアラファト政権に対してやってきたことであり、いまもそれが踏襲されています。イスラエルは、ハマス/ハニーヤ首相とファタハ/アッバース大統領をたくみに分断し、片方でハマスが(イスラエルを承認したとしても)領土問題についてはグリーンラインを一センチたりとも譲歩する可能性のないため、ハマス政権を「テロリスト集団」と名指して排除しつつ、もう片方では、ときおりファタハ/アッバースに色目を使うことで(例えば 武器供与 )、従順な「しもべ」としての自治政府を取り戻し、手なずけることをもくろんでいます。
レバノンで行なっていることも、これと同種のパターンと見るべきです。現下のレバノン政府とヒズブッラーとの関係は微妙なものを含んでいます。ヒズブッラー排除という点では、ある意味イスラエル政府とレバノン政府は利害が共通している部分もあります。またこれだけの軍事力を見せつけられてはなおのこと、レバノン政府は、今後イスラエルに対しては「従順」になるしか残された道はないでしょう。
このように見てくれば、イスラエル政府・軍の行なっていることは、力の論理による一方的措置の正当化、という点でむしろ一貫しています。その意味では、占領政策に関しては、「現実派(撤退派)対右派(反撤退派)」などという対立構図は存在していません。占領・支配を継続することは各派に共通していて、ありうる違いとしては、国境線を名目上は画定させて大部分の入植地をイスラエルの領土に併合し、残りの部分は厳密な監視下に置き、そこに従順な代理政権を置くことか、あるいは、全土を恒久的に軍事占領を継続させる形でコントロールすることか。あるのは「占領の仕方」の違いであって、「撤退」(=「占領の終結」)など微塵もありません。
大手メディアでも田中氏のニュース解説でも見られた、イスラエルのシャロン/オルメルト路線を「撤退」で語ることは、誤りであるどころか、「併合」を「撤退」と言い換えて糊塗するシオニズム側の宣伝をむしろ受け入れることになってしまい、いっそう誤解を煽るものであるということは、いまのメディアの状況を鑑みて、何度でも強調されるべきことだと思います。
【追記】
この文章は、「撤退」という認識をめぐる背骨の部分だけに絞って論じましたが、P-navi info では、その他の部分の記述についてもさらに疑問が呈されています。 「田中宇さんの勇み足? イスラエル右派のクーデター説」 合わせてご一読ください。
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「拉致」報道に「ミサイル」報道――日本のこと(だけ)ではありません
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