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http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060713/mng_____tokuho__000.shtmlより転載。
2006.07.13
『嘉手納』抱える沖縄市議会
苦悩する基地の街
米軍嘉手納基地を抱え、米軍再編に揺れる沖縄県沖縄市議会。今月五日、ミサイル防衛(MD)構想に基づき配備が予定される最新鋭地対空誘導弾パトリオットミサイルに抗議する決議を予定していたが、同じ日に北朝鮮がテポドンミサイルを発射したため紛糾、急きょ“お流れ”になった。基地の街の人々の揺れる気持ちを追った。
(浅井正智、吉原康和)
「一言で言えば、状況が変わったということ。この時代にミサイルを本気で撃ってくると思ってもみなかったが発射された現実を避けては通れなくなった」
沖縄市議会の「基地に関する調査特別委員会」(基地特)の小浜守勝委員長は、十二日、最新鋭地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)配備の抗議決議案と意見書案を先の定例市議会で採択しなかった理由をこう明かす。
採択予定は最終日となる今月五日だった。少なくとも「前日までは採択するつもりでいた」(小浜氏)。
沖縄市では今年四月、東門(とうもん)美津子・元社民党衆院議員が市長に当選したことで、革新系が少数与党(計十人)を形成。保守系の野党(計十七人)が過半数を制するという“ねじれ”た議会構成だ。
しかしPAC3配備反対では保革双方の意見は一致していた。「配備は基地機能の強化にほかならず、しかも米軍は地元に対する説明責任も果たしていないと考えた」(小浜氏)ためだ。委員長自身も野党に属する。
しかしその連携を一気に吹き飛ばしたのが、採択予定日の未明から早朝にかけ北朝鮮がミサイルを発射したというニュースだった。
PAC3配備をめぐっては、嘉手納(かでな)町と北谷(ちゃたん)町、読谷(よみたん)村の各議会が抗議決議と意見書を採択しているが、いずれも北朝鮮のミサイルが発射される前だ。
動揺したのは保守系議員たちだった。
「政府が安全保障会議を開催する中、決議をすれば、国に対し明確に反対の意思表示をすることになる。いかがなものかという声が上がった」(小浜氏)
当初、決議案の賛成者として名前を連ねていた保守系議員が脱落。与党議員たちはなおも五日中の採択を目指したが、野党議員が本会議をボイコットしたため、そのまま流会になった。
■「議論のレベル地方を超えた」
小浜氏は「これまでは現実を見ないで議論していた面もある」と苦渋をにじませる。そして「ミサイル発射を目の当たりにしたとき、PAC3配備が市民の生命、財産を守るものという考え方もあり得るのではないか」と胸の内を明かす。
二〇〇二年に設置された基地特は、米兵によるわいせつ事件などが起こるたび米軍に抗議を繰り返してきた。採択された抗議決議は二十三件に上る。「かつて与野党で足並みがそろわなかったことは一度もない」と双方の議員が認める。今回それが初めて破られた。
「この件は事件事故とは質が違う。一地方議会が議論するレベルを超えてしまった」
こう話す小浜氏に対し、与党議員の表情は硬い。
内間秀太郎議員(無所属)は「PAC3の配備は、日ごろの基地被害よりももっと大きな被害ではないのか。小さな危険には文句を言い、大きな危険に文句を言わないのはおかしい。PAC3で国を守ってもらうという発想を甘受し、放置しておけば、いずれ通常の基地被害にもものが言えなくなってしまう」と疑問を投げ掛ける。
共産党の池原秀明議員は、「PAC3が国民の生命を守るなどとんでもない話。配備されればかえって攻撃の的になる危険が増す」とし、野党の保守系市議の“変節”をこう嘆いた。
「彼らは、米軍基地縮小に県民の圧倒的多数が賛成する中、議員としてそういう声をないがしろにはできない。しかし実態としては現状維持であり基地容認であることが、今回の件で一層明確になった」
米軍再編の一環として嘉手納基地への配備が取りざたされているPAC3とはそもそも何か。
PAC3は、米陸軍が開発し、湾岸戦争の時に注目されたPAC2の改良型で、地上から発射して弾道ミサイルの着弾直前に撃墜する高精度で知られる。米軍は年内にも嘉手納基地に配備する予定だ。
一方、額賀福志郎防衛庁長官は、北朝鮮のミサイル発射後、今月六日の衆院安全保障委員会で、航空自衛隊のパトリオット配備についても「二〇〇七年度から〇六年度末に前倒ししてきちんとしたい」と強調した。
こうした配備計画の狙いについて、軍事評論家の稲垣治氏は「対北朝鮮だけでなく、対中国戦略の一環でもあり、南方五百キロの範囲もカバーできる。実際にミサイルが撃ち込まれなくても、配備することによって相手をけん制する抑止力の効果が期待されている」と指摘する。
軍事ジャーナリストの神浦元彰氏は「国内にある米軍基地の中でも、米軍は嘉手納基地を最も重要な基地と見ており、その基地を守るのがPAC3という位置付けだ」と明かす。
その上で、その軍事的効果について「PAC3は、マッハ5−10で垂直に落ちてくる弾道ミサイルを、真上に向けて発射して瞬時に打ち落とす。射程は三十キロで、守れる範囲は直径五−十キロ。鉄砲の弾を当てるぐらいの難しさで、実際には役に立たない。迎撃したとしても、弾頭に化学兵器を積んでいたら、落下してきて周辺住民にも被害が及ぶ。PAC3は基地の施設や滑走路を守るのが目的で、そもそも住民を守るものではない」と解説する。
北朝鮮のミサイル発射を機に米軍と自衛隊の連携、配備強化の機運も高まるが、地元の識者はこれをどうみているのか。
「PAC3の配備計画と北朝鮮のミサイル発射問題は直結している。本来なら、ミサイルが発射されたこの時期だからこそ、正面から堂々と議論すべきだ。PAC3配備に抗議する決議案の提出を見送ったのは、議員がPAC3の問題の重要性が分かっていないことを示すものだ」と批判するのは、「普天間基地爆音訴訟弁護団」団長の新垣勉弁護士だ。
新垣氏は「PAC3の配備問題は、重大な装備の変更であり、関係する市町村や県民の意見をまず聞くべきだ。その前提として、基地防衛がより鮮明になったことで、攻撃目標とされる危険性が増幅され、県民の安全が考慮外になっていることを認識すべきだ」と力を込める。
さらに、米軍再編と並んで進められる自衛隊の“ミサイル防衛構想”に「北朝鮮のミサイル発射を利用し、従来の日本の自衛権の解釈を拡大しようとする最近の動きは、自衛隊の性格を実態として軍隊に変えるもので、危険だ」と危ぐを隠さない。
■「伝統的な平和思想に反する」
沖縄国際大学の石原昌家氏(平和学)は「北朝鮮のミサイル発射は、沖縄の基地反対運動にとって、タイミングの悪い中で起きた」と抗議決議提出日とミサイル発射が重なった不運をなげきながらこう訴える。
「一八七九(明治十二)年に琉球藩を沖縄県にする『琉球処分』の際、明治政府が軍隊を配備しようとしたところ、当時の藩の役人が隣国の中国に疑惑を持たれるとして抵抗を示した。このことは沖縄の軍備に対する伝統的な平和思想の原点。にもかかわらず、抗議決議をしなかったのは沖縄の平和思想に反する。あってはならないことだ」
<デスクメモ>
三年前、憲政記念館で米防衛産業が国会議員向けに開いた最新ミサイル展示会を取材した。PAC3の模型を愛でるように眺める当時の石破防衛庁長官を撮ろうとすると周辺からドスを利かせた声で制止された。日本のMD配備には最大五兆円かかるとか。“北の脅威”の陰で、誰かがニンマリ笑っている。 (蒲)
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