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私は特に最後の方の記述に注目しました。
以下、http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060711/mng_____tokuho__000.shtmlより転載。
安保理常任理事国 『拒否権』の使われ方は
「拒否権を持つ国におもねらない」。弾道ミサイル発射に踏み切った北朝鮮への制裁決議案を国連安全保障理事会に提出した麻生太郎外相は、こう強調した。十日に予定された採決は延期されたが、日本政府は強気だ。だが、立ちはだかったのが中国とロシア。拒否権をちらつかせ、再考を迫る。「拒否権」は常任理事国にとって“伝家の宝刀”。その使われ方は−。
「日本が譲ることはない。断固、制裁を含む決議案でやる」。麻生外相は北朝鮮への制裁決議案を国連安保理に提出した八日、講演で強気な発言に終始した。
日本政府の行動は早かった。五日にミサイルが発射されてから、決議案提出まで三日でこぎつけた。十日現在で、共同提出した米、英、仏にデンマーク、ギリシャ、スロバキア、ペルーが加わり八カ国となった。採択には九カ国以上の賛成が必要だが、常任理事国が一国でも拒否権を行使すれば廃案になる。
決議案の骨子は、安保理は国連憲章七章に基づいて行動(経済制裁や軍事行動が可能)、ミサイル開発や実験などの即時中止を北朝鮮に強制、北朝鮮からのミサイルや関連物資・技術などの調達禁止などを盛り込んだ。
決議案に対し、難色を示したのが中国とロシア。決議案などに異を唱えられる最大の理由が、常任理事国だけが持つ拒否権だ。
その使われ方には、時代によって違いがあると説明するのは、国連の動向に詳しい愛知大学の河辺一郎教授(国連問題)だ。過去拒否権を最も行使したのは旧ソ連だが「ほとんどは一九五〇年代までで、大部分は米国寄りと見なされた国の国連加盟に反対する形式的なものだった」。
国際未来科学研究所の浜田和幸代表も「拒否権を最も多く発動したのは旧ソ連。米ソが軍事的にも政治的にも国連を主戦場として戦っていた時代には、米国一辺倒の決議案に、数では少数派(東側)のソ連が対抗するという意味で拒否権は効果があった」と言う。
八〇年代はイスラエル、南アフリカ問題で、米国が拒否権を行使するようになる。国立国会図書館の調べでは、国連創設以来の一九四六年から二〇〇四年まで、五カ国で計二百五十七回行使されている。実際、旧ソ連は一九四六年からの二十年間に百六回、逆に米国は七六年からの二十年間で五十八回行使している。
中国の拒否権行使は少なく、台湾絡みが多い。九七年のグアテマラ軍事監視要員派遣決議、九九年のマケドニアへの国連平和維持活動(PKO)延長決議で拒否権を発動したが、これは両国が当時は台湾支持派だったからだという。
河辺氏は「米ソ対立の構図は五〇年代までの話で、アフリカ諸国が独立し、国連に加盟して以降は、国連の場での対立軸は『発展途上国対先進国に移った』」と指摘する。
駆け引きの道具として使われることもある。二〇〇三年に対イラク武力行使容認決議案を米英が出した際、フランスが反対、拒否権をちらつかせた。結局、多数派を取れないと分かった米英側が取り下げた。立命館大学の松井芳郎教授(国際法)は「フランスにしてみれば、拒否権行使で国際世論を敵に回すことをせず、目的を達したのだからしてやったりだった。こうした使い方を『ポケットに入れた拒否権』などと呼ぶこともある」と話す。
安保理は拒否権の歴史でもあるが、最近はその行使が減っているという。亜細亜大学の秋月弘子教授(国際法)は「冷戦が終わって、あまり使われなくなったのは意見の不一致が減ったからだ」とみる。
浜田氏は「今は、共通の敵がテロリズムやマネーロンダリング(資金洗浄)などの経済問題になり、協調して解決した方が効果的になった」と指摘。今月、ロシアが初めてサミット(G8)の議長国をつとめるように、国連以外での話し合いの場が増えていることも、その一因だという。
河辺氏は一番の理由を挙げる。「日米の経済力に逆らえなくなったから。日米二国で、国連の収入の四割を占める。さらに、日本が進めた国連改革で予算に関しては原則全会一致で決めることになり、日米は実質的に予算の拒否権を得ることになった」
常任理事国である中ロも「中国は日米連合体に真っ正面から立ち向かうことは難しいし、ロシアも日米の経済力には逆らえない」(河辺氏)のが今の国連の状況。「ただし、今回は採決してしまうと北朝鮮への軍事力行使への垣根を下げることになる。その危険性を感じている中ロは当然賛成はしたくない」という難しい立場に立たされている。
常任理事国側はなるべくなら行使したくないとも考えているようだ。秋月氏は「理事国の大部分が賛成する事案だからこそ拒否権が必要となるのであって、行使した国は国際的に孤立するという大きなリスクを背負う。だから根回しなどで解決し、拒否権は行使しないで済ませようという思惑が働く」という。そのため採決を棄権や欠席する方法がよく採られる。
一方、拒否権を持たない国は、水面下の多数派工作で対抗する。常任理事国も切り崩しに奔走する。今回の日中もそうだ。
また安保理には拒否権を行使せずに済むよう「非公式協議」という事前協議の“装置”があると松井氏は言う。「非公式協議は議事録に残らないので、相当に生臭い内容となるらしい。イラクがクウェートに侵攻したときには、武力行使を決議しようとする米国が、反対する国に『経済援助を打ち切る』と露骨な脅しをかけたと聞いている」
秋月氏はこんな“知恵”も披露する。「コンセンサス方式という方法もある。どの国がどういう立場をとったのか、明確にしたくないときに使われる方法で、あらかじめ非公式の協議で根回しした提案を議長が提出し、投票を省略して、特に反対がなければ決議とする。この方式で採択された決議は投票で採択された決議と同じ効力を持つとされる」
こうなると拒否権はかつての威力がないようにみえる。浜田氏は「拒否権の存在自体が、古い時代の残滓(ざんし)。国連の現実が、国際政治の現状に合わなくなっている今、“伝家の宝刀”の力も大きく変わってきた」と指摘する。
だが河辺氏は制裁決議を提出した日本の対応に疑問を呈する。「経済制裁は軍事力行使の一歩手前で、『憲章第七章』では同じ文脈で扱われている。そのことが国内でほとんど議論されていない」と疑問視、さらに「ミサイル発射は確かに問題だが、この程度で経済制裁が決議されたことはない。南アが周辺諸国を侵略し、万単位の人が殺された時でも、米は経済制裁に拒否権を行使し、日本も一貫して反対した」。
その上でこう批判する。「拒否権行使は、国際社会で孤立するという見方もあるが、それは日本国内で、そう見られているだけ。今、世界の中で少数派は米英日。少数派の金持ちが、多数派の貧乏人を黙らせている状態。こういう決議案が、賛否分かれずに通ってしまうことの方が問題だ」
<デスクメモ> 19・468%(約三百九十五億円)。昨年の国連予算の日本の分担だ。金額は米国を除く常任理事四カ国の合計を上回るという。「もう金を出さない」との一言が日本が持つ“拒否権”だろう。「制裁決議案を採決の場に持ち込めたことが外交的勝利」との見方も。無理して常任理事国になる必要はないのでは。 (鈴)
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