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北海道新聞 社説 バックナンバー
共謀罪法案*そもそも必要だったか(6月12日)
犯罪の謀議に加わり、同意するだけで罪になる「共謀罪」を新設する組織犯罪処罰法の改正案について、与党が今国会での成立を断念し、継続審議が確実になった。
この法案は、テロやマフィアなど国境を越える組織犯罪集団による重大な犯罪を防ぐことを目的とした国際組織犯罪防止条約の国内法である。
国会審議でさまざまの問題が明らかになり、国民の不安が高まった。与党は再修正案にも野党が応じないのをみて、民主党案を丸のみする奇策に出たが、実現しなかった。
これほど、ぼろぼろになった法案は廃案にするのが筋だが、新しい立法が不要だとの見解もでてきた。そもそも立法が必要かどうか、原点に戻って検討するべきだ。
最近、野党議員が条約の法制化にあたって国連が二○○四年に作った立法ガイドを翻訳公表した。それによると「国内の法的な伝統、原則と一致するようにしなければならない」とある。
「適切な法的な概念を持たない国」では、共謀罪制度を導入せずに、組織犯罪に対して効果的な措置を講ずる選択肢が許されている、という。
日本には、殺人などの予備罪や爆発物使用共謀罪、実行犯以外の共謀者も摘発できる共謀共同正犯という判例理論などがある。これらで処罰すれば、共謀罪を設けなくても良いという見解が専門家から示されている。
政府は、国連の立法ガイドを十分に吟味、検討しないまま、昨年十月に法案を再提出し、新規立法を自明のように推進してきたのではないか。各国が国内法で処罰対象とする重大犯罪の詳しい内容も明らかにしていない。
また、条約交渉の初期に日本政府は「すべての重大犯罪の共謀や準備行為を犯罪とすることは日本の法的原則と相いれない」と反対していた。適用範囲が限定されたことを理由に賛成に転じたが、適用範囲をめぐる交渉記録も重要部分の大半を公開していない。
「共謀罪がある米国や英国などの要求に結局は抗しきれなかったのでは」とみる刑事訴訟法の専門家もいる。
これでは、条約を口実に国民に十分に説明しないまま、治安強化の法律を作ってしまおうとしているのではないかと疑われても仕方がない。
米国では、連邦法に基づく起訴件数の三割が共謀罪というほど幅広く適用されている。乱用の懸念も強い。イラク戦争直前に反戦活動家が共謀罪で逮捕され後に無罪となったが、反戦運動に圧力を加えた、と批判された。
政府は、次の国会で海外の事情についてできるだけ明らかにすべきだ。そのうえで、市民生活に不安や懸念を与えない方法で国際社会と調和する方法を議論すれば、新たな立法が本当に必要かおのずと分かるのではないか。
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