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縦並び社会:第4部・海外の現場から/2 「青ポスト」国に完敗
街のあちこちに、投かん口をベニヤ板で覆った青い郵便ポストがある。98年に民間参入を認め、郵政民営化の「お手本」とされたニュージーランドの首都ウェリントン。
02年5月、小泉純一郎首相は市内の首相公邸わきにある民間会社の青いポストを見学した。「民間の方が立派だな」。日本の報道陣の前で、郵便事業の規制緩和による民間参入を持ち上げた。
しかし、実はポストを設置した会社は前の年に国内郵便事業から撤退していた。かつて国営だった郵便会社「ニュージーランドポスト」の返り討ちに遭ったからだ。ポスト社のシェアは今、9割を超える。国内部門担当のバーナウ氏は「わが社と同等には競争できない」と胸を張る。
郵政民営化法が成立した昨年10月の国会で、竹中平蔵郵政民営化担当相(当時)は「ニュージーランドポストは民営化して着実に経営を続けている」と答弁した。だが、同社は国が全株を持つ国有のまま今も民営化されていない。バーナウ氏は「全国一律サービスを維持するには国有の方が都合がいい」と言う。同社の幹部は明かす。「現状が誤って海外で伝えられるのはよくあることだ」
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ニュージーランドは84年以降、経済低迷の打開策として「小さな政府」を目指し航空や鉄道、通信の国有事業を民間に売却した。日本の郵便貯金にあたる「ポストバンク」は豪州の銀行へ。銀行の大半は外資に買収された。景気刺激のため所得税の最高税率も半分の33%に下げ、富裕層を優遇した。
その結果、93年度に財政は黒字に転換し、経済成長率も6%台に上昇する。しかし、84年以降の10年で、貧困層の割合が4・3%から10・8%に激増するなど貧富の差の拡大が問題になり、99年には与党が総選挙で敗北。政権が交代し、政府はこれ以上の民営化の中止を宣言する。
外資系銀行は、口座手数料値上げや支店の閉鎖を進め、低所得者や地方の人は口座を開くことさえ難しくなっていた。政府は7820万NZドル(約40億円)を投入して、ポスト社の子会社として02年に郵貯銀行「キウイ銀行」を設立。過去のように郵便局を窓口にして営業を再開した。手数料は外資系の約半額になった。
ウェリントンの目抜き通りにある支店には、昼休みに利用客の長い列ができている。
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改革の「傷」は医療現場にも深く残る。
医療予算の削減で公立病院の統廃合が進められ、半分にまで減った。ほぼ無料だった医学生の学費も一部自己負担になる。ニュージーランド医師会のボズウェル会長は「卒業してローンを返済できないために20%が給与の高い米英豪に流出している」と嘆く。
医師不足は深刻化し、公立病院では大量の患者が手術待ちを強いられた。約18万人が待機リストに載る。外科医師会によると、年に約50人が手術を待ちきれずに亡くなるという。
最大の都市オークランドの公立病院では、人工内耳手術を待つ患者が60人に上り、1年以上過ぎた子どももいる。ブラウン医師は「生後6〜9カ月で手術をしないと生涯、言語障害が残ってしまう」と訴える。
公立病院が減る一方、私立病院は増えた。高い医療費を払えば待ち時間なしで手術を受けられる。だが、それは民間医療保険に加入できる高所得者層だけだ。
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この国の「官から民」への改革は成功か、失敗か。連立与党の「緑の党」のブラッドフォード国会議員は「弱者に悪影響がないように配慮すべきだった」と語る。
一方、改革を進めたボルジャー元首相は取材にこう答えた。「当時は正しい判断だった。日本がわが国に学ぶことがあると考えてくれたのは大きな誇りだ」=つづく
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■小さな政府
内閣府の05年度年次経済財政報告によると、国と地方を合わせた支出規模は、国内総生産(GDP)比約37%で、米国の約36%と変わらず、ユーロ圏平均の約49%や経済協力開発機構(OECD)平均の約41%を下回る。日本は市場規制の強さを示すOECDの指標も平均以下で、国際的にはすでに小さな政府と言える。
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ファクス03・3212・0635、Eメールt.shakaibu@mbx.mainichi.co.jp〒100−8051毎日新聞社会部「縦並び社会」係。
毎日新聞 2006年6月13日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/tatenarabi/news/20060613ddm002040074000c.html
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