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「愛国心は破落戸の奥の手」(サミュエル・ジョンソン)再論
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投稿者 木村愛二 日時 2006 年 6 月 06 日 21:15:30: CjMHiEP28ibKM
 

「愛国心は破落戸の奥の手」(サミュエル・ジョンソン)再論

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http://www.jca.apc.org/~altmedka/akuukan-01-10-30.html
『亜空間通信』30号(2001/10/04)
【愛国心は破落戸の奥の手[1975, Samuel Johnson]なのに今なおU.S.A.!!??】

アメリカ独立革命とフランス革命の直前、イギリスの文豪サミュエル・ジョンソンが、"Patoriotism is the last refuge of a scoundrel"「愛国心は破落戸の奥の手」と喝破しているのだが、民主主義とか共和主義とか社会主義とか共産主義とか称した勢力も、自らの権力を維持するために、手っ取り早い手段として愛国心とか民族主義とかを利用し尽くした。

 かくて再び、アメリカ帝国主義の「チャッチャッチャ、チャチャッチャ」が鳴り響き、我が家の近くの武蔵野市中央通りをも、時を得顔(窓越しに聞く音だけで顔は見えないけど、だろう)の右翼の宣伝車が軍歌を鳴らして通り抜けるのである。
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『マスコミ大戦争/読売vs TBS』
(木村愛二、汐文社、1992.11.2. p.31-35.)
第5章:「ならずもの」の「本音」を追及しない大手メディア
[中略]
「『愛国心はならずものの奥の手』と18世紀イギリスの文豪サミュエル・ジョ ンソンは喝破した。『ならずもの』は首相級の政治家を意味していた。現代ニッポンの国会は、なぜ『国際貢献』の本音に触れもしないのか」

 さて、この短い文章には私の長年の思いがこもっているし、近代政治とジャーナリズムの関係を論ずる上でも、貴重な今日的教訓を含んでいると思うので、いささか説 明を加えたい。

"Patoriotism is the last refuge of a scoundrel"

(「refuge」の訳語は「隠れ家」が普通のようだが、私は当時、「逃げ場」を選んだ*)
[*2001.10.03.追記:その後、「last refuge」を成句として「奥の手」と訳す方が実情に合っていると考えるに至った]

 この有名な警句を私が最初に知ったのは、高校時代であり、大学受験用の名文集によってだった。敗戦時に国民学校(今の小学校)三年生だった私は、幼児から人並に軍国主義教育を受けたのちに、それとは反対の、いわゆるアメリカ民主主義の戦後を経験したわけだから、いまだに「愛国心」とか「新しい愛国心」とかいった言葉を間くと、心の聖域の乱れ箱をかきまわされる思いがする。

「ならずもの」とはなにか、 だれが、どういう文脈で語ったものだったのか、という疑間は、以後ずっと心の底に わだかまっていた。それなのに、やっと原文に接することができたのは三十年以上ものちの、つい最近のことである。

 引用句辞典という便利なものがあり、それでこの警句を発した人物と出典が簡単に分った。

 辞典の頁数を見る限りでは、イギリスでシェークスピアと並んで多く引用されているらしい文豪サミユエル・ジョンソン(Samuel Johnson, 1709-1784)の言葉であって、『Boswell's Life of Johnson』(平凡社の世界百科事典では『サミュエル・ジョンソン伝』という題名紹介になっているが、翻訳は発見できない)の第一巻第XXX頁に出ているという。

 国会図書館のカード索引で原書を探し当てるのも簡単だった。借り出してみると、 ジョンソンの友人で弁護士、文人法律家として知られるジェイムズ・ボズウェル (James Boswell, 1740-1795)が日記風に記したジョンソンの伝記である。

 ところが、引用句辞典が指示した第一巻のその頁には、何度読んでも問題の発言が出てこない。どうやら版が異なっているらしいのだ。

 なにしろ、古文書というほどではないが、問題の発言がなされたのは一九七五年、 つまり、二百年以上も前のことだ。私が見たのは引用句辞典に記された通りのオックスフォード版だが、「III edition(第3版)」となっていた。いささかがっくりきたが、それでも「乗りかかった船」である。仕方なしに苦労してその前後を読み、やっ と問題発言の箇所を発見した。

 時は一七七五年四月七日、金曜日とまで正確に記録されているが、場所は「a Tavern」(ある居酒屋、または酒場)と記されるのみ。前後の文章から判断すると、 ロンドン市内ではあるらしい。とにもかくにも、いわゆる「ディナー」の席上である。

 サミュエル・ジョンソンは当時の有名人を会員とする「文学クラプ」を設立しており、「対談家」としても評価されている。伝記にはしょっちゆう「ディナー」での談話の場面が出てくる。場所は名前が明記された友人宅だったり、ただの酒場だったりする。

 その日も談話の「仲間は沢山いた」とある。発言者名が「Mr. Gibbon」と記されているのは、大著『ローマ帝国衰亡史』全六巻の著者として不滅の名を残すエドワード・ギポン(Edward Gibbon, 1737-1794)のことであろう。

 話題は次々と変わる。そして… 「愛国心が我々の話題の一つになっていた時、ジョンソンは突然、力強く決意に満ち た調子で、皆が飛ぴ上がるような警句を発した・…『愛国心はならずものの奥の手だ』、と。

 しかし、彼が意味していたものは、我が国への真実で寛容な愛のことではなく、すべての時代と国々において、いかにも多く見られたような、あの、個人的利益のための口実として使われた偽りの愛国心を指していたと考えるべきであろう。

 私は、必ずしもすべての愛国者がならずものだとはいえないだろう、と主張した。 (ジョンソンからではなかったが)例外を一人挙げるようにうながされて、私は、我々皆が大いにほめていた高名な人物の名を挙げた。

 ジョンソンいわく、 『私は彼が正直で"ない"(原文はイタリック体)とはいわない。しかし我々は、彼の 政治的行為から、彼が正直で"ある"という結論を下すべき理由を見出すことはできない。

 もし彼が現内間から地位を提供されて受けたとしたら、彼は、現在彼が保持している人格のあの堅実さを失い、一年を経ずしてその地位から追われるかもしれない。現 内閣は安定してもおらず、ロバート・ウォルポール卿がそうだったように、友人達への恩義に厚くもないから、彼は、彼の党派が政権の座につく機会をとらえる方が彼の利益になると考えるかもしれない』、と」

 なぜか「高名な人物」の名は記されていないのだが、引き合いに出された「ロバー ト・ウォルポール卿」(Sir Robert Walpole, 1678-1745)はイギリスで「最初の 〈首相〉」(大蔵卿で閣内の第一人者)といわれ、二十二年間もの長期政権を維持し、伯爵の位を与えられて退任した。海軍財務長官時代に収賄罪で罷免、投獄された前歴もあり、財政手腕を買われてはいたが、反対派の政権からの追放や選挙での買収、政府批判の言論封殺など、権力保持のためにあらゆる手段を駆使した。いわば、議会政治における権謀術数の元祖、いわゆる民主主義的大衆政治の悪徳の象徴といってもいい人物だ。

 つまり、ポズウェルが「ならずもの」ではない「愛国者」の「例外」として名を挙げた人物に関しても、ジョンソンは、その人物がウォルポール流の実力者が支配する政界の泥にまみれた場合には、自分なり自分の党派の利益を優先する可能性があるという趣旨の見解を語ったわけである。

 イギリス流議会政治の是非は別として、とにもかくにも、この政治方式が現在の大 国では主流となっている。経済的な社会構成から見れば、資本主義の時代の政治方式である。だが、もしくは、だからといった方が適切なのかもしれないが、その出発点からして利権がらみの政争に明け暮れてきたのである。

 引用文中の「口実」の原語は 「cloak」(原意はマント、比喩的に「仮面」または「口実」)である。日本史でいえば、平清盛がョロイの上に僧衣をまとった故事と通ずる表面上のごまかし、の意である。

「利権」とそれをおおい隠す「口実」または「逃げ場」の真相暴露こそは、言論もしくはジャーナリズムの真価が最も問われるところであろう。私はこの「愛国心」に関するジョンソンの警句と、それが語られた文脈、時代背景に、その典型を見る思いがする。
 ジョンソンがこの警句を放った一七七五年の翌年、一七七六年にはアメリカが独立している。四年後の一七七九年にはフランス革命が起きているのだ。

 時代の流れの真相を見極め、その核心的事実を大衆的に暴露することによって歴史に一石を投ずる。これこそが(民衆の側に立つ)ジャーナリズムの精神でなければならない。その精神がPKO国会をめぐる大手メディアの報道には、まったく欠けていた。特に問題なのは、大手メディアがそのような時代の流れの真相を知らなかったわけではないという事実である。だから、消極的姿勢とはいえ、まさに大衆に対する裏切り的な情報隠しであり、愚民政治への荷担行為なのである。
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