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週のはじめに考える
『平等』を問い直そう
「格差は必ずしも悪くない」と小泉首相は言いましたが、激しい競争社会が招くのは、一握りの強者と多数の弱者です。「平等」は普遍的な価値であるはずです。
卓球の愛ちゃんも、ゴルフの藍ちゃんも有名人ですが、天才チンパンジーのアイちゃんもそれに劣らず“有名人”です。
愛知県犬山市にある京都大学霊長類研究所に、アイちゃんを訪ねたことがあります。人間とは何か。それをチンパンジー研究者・松沢哲郎教授に聞いてみたかったからです。
■人間とは共感する動物
人間とは直立二足歩行し、文字や火、道具を使う動物だと、習った覚えがありました。喜怒哀楽のあるのが、人間だとも…。
ところが、アイちゃんを知れば知るほど、人間の定義そのものが怪しくなってきました。何しろ、アイちゃんは0から9までの数字やその大小関係をちゃんと理解しています。モノの名前や色を表す漢字など百以上もの語彙(ごい)を持っているのです。
「チンパンジーは“チンパン人”」と松沢教授は言いました。
「言語を理解し、道具も使います。ほとんど人と変わりません。まさに『進化の隣人』といえます」
では、人間とは…、ますます分からなくなります。松沢教授はこんな回答をくれました。
「介護が必要になった者などに手をさしのべる行動は、チンパンジーには、ヒトほどのものはありません。ヒトは相互に助け合うように進化してきたのだと思います。人間とは、他者の立場に立って思いやる『共感する動物』といえるでしょう」
助け合い、お互いを思いやるのが人間の本性である…、それが取材で感じられた結論でした。
さて、市場原理主義が闊歩(かっぽ)する世の中です。米国式の弱肉強食主義や能力主義がはびこり、まるで競争に勝てばすべてという時代です。
■「一億総中流」はどこに
何百億ものお金を手にするIT長者の現実を目の当たりにする一方で、貧困の問題も見過ごせません。
一九九五年に六十万だった生活保護世帯は、もはや百万を突破しました。連合総合生活開発研究所の今春の調査では、収入格差の拡大を実感する人が六割強にのぼりました。
「一億総中流」は見る影もありませんね。小泉首相は「格差が出るのは悪くない」と国会で答弁し、こう続けました。
「成功者をねたむ風潮、能力ある者の足を引っ張る風潮を慎んでいかないと社会の発展はない」
ねたんでも、足を引っ張ってもいけませんが、むしろ問題は富者はどんどん富み、貧者はますます貧しく…という風潮です。市場原理主義は「一人勝ち」を許します。勝ち組は一握りにすぎず、大半は負け組という冷厳な事態を生みます。「平等」という価値観について、問い直していいときではないでしょうか。
古代ギリシャの哲学者・プラトンの時代から、「平等」については論じられてきました。当時はこんなことわざがあったようです。
《平等は友情を生む》
プラトンの著書「法律」(岩波文庫)にそれが記述されています。
「奴隷と主人とでは、友情はけっして生まれない」としつつ、「くだらない人間と優れた人間とが、等しい評価を受ける場合も、やはり友情は生まれない」と書いてあります。そして、古いことわざは真実だと、プラトンは評価しているのです。
たしかに米国のように、社長と社員の年収格差が百倍も千倍もあるような社会では、まるで主人と奴隷のような関係で「友情」などは生まれないでしょう。では、「くだらない人間と優れた人間」とは、どの程度の差が適当なのでしょうか。
いわゆる「結果の平等」の問題です。でも、いくら有能といっても、米国のように収入が、百倍も千倍も違うというのは、ちょっと行き過ぎでしょう。血の通う人間同士にそれほどの隔たりがあるとは、とても思えません。
従来の日本社会では、社長と社員の年収格差は、四倍程度といわれてきました。これこそが、戦後日本がつくり出した「一億総中流」という平等社会だったわけです。終身雇用や年功序列などの“セーフティーネット”に守られて、それなりに安定した社会でした。
ヒトの全遺伝情報が解読され、チンパンジーのそれも、解読が終わりました。その結果、塩基配列の実に98・77%が同じでした。残る1・23%の部分に、人類の人類たるゆえんがあるはずです。
■「1・23%」の自覚を
果たして、その1・23%とは何でしょう。「弱い者へ手をさしのべる」のが人間の本性ならば、今こそ、それを自覚したいものです。格差が固定し、教育や就業の機会が奪われてもなりません。「機会の平等」は何としても死守すべきです。
それにしても、プラトンの時代のことわざは、ちょっと心にとどめておきたい言葉ですね。
《平等は友情を生む》
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sha/20060521/col_____sha_____001.shtml
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