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共謀罪の行方に関心を寄せるすべての方へ
1 今日の情勢と与党の再修正案
昨日から今日の情勢については、東京新聞の朝刊が正確にまとめています。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sei/20060511/mng_____sei_____002.shtml
「十日に開かれた与野党国対委員長会談の結果、与党は当初想定していた週内の委 員会採決を見送る見通しとなった。」とされています。確かにこの通りですが、これはあくまで、教育基本法の趣旨説明を来週水曜日に行う ことなどと引き替えに、採決をのばしたというにすぎず、与党が法案の強行成立を断 念したわけではありません。現在与党側が提示している修正案は、昨日の読売新聞と今日の東京新聞など各紙を総 合すれば、
1)適用対象は組織的な犯罪集団の行為であることを明記すること
2)犯罪の「実行に資する行為」を「犯罪の実行に必要な行為」とする。
3)労働組合の正当な活動を除外する
というもののようです。しかし、注意すべきことは、この案はあくまで民主党に提示 されただけであり、国会に提案されている法案が修正されたわけではなく、協議が決 裂したときは現在のままの法案での採決を与党は考えていると見るべきでしょう。 この与党案にも一定の歯止めを掛けようとする意図と姿勢は伺えますが、民主党案 が求めているように、これ以上の限定が可能であり、不可欠です。
2 民主党案と与党再修正案との隔たり
民主党案と与党案との隔たりは大きいものが残っています。対象犯罪は与党案で は、政府案の「四年以上の懲役・禁固」の部分は変わらず600以上の犯罪が対象と なっていますが、民主党は対象犯罪があまりにも多すぎるして、「五年超の懲役・禁 固」に限定し、これを300余りに限定しました。
また、犯罪の国境を超える性質を要件とした点は、与党側はこのような限定をする ことは国連条約の解釈として認められず、条約の留保をしても不可能であるとしてい ます。
そこで、この国連条約を批准する際に、越境性を要件とすること、対象犯罪を長期 5年超の刑期を定める犯罪に限定することが、認められるかどうかについて述べてみ たいと思います。
3 条約の留保についての政府答弁の恣意的な変更
一般に、条約は、その条約に明記されていない場合には、その条約の趣旨目的に反 しない限り、留保することができます。日本政府は最も権威のあるとされる国際人権 規約の批准などに当たっても、いくつかの条項について留保を行っています。 この点については、去年の特別国会における審議の際には民主党の平岡議員は、次 のように、条約留保の可能性について質したのに対して小野寺政務官は次のように答 弁していました。
「外交官経験もありますし、また法の専門家であります平岡委員の御指摘のとお り、ウィーン条約におきましては留保するということが可能になっています。 多国間 条約について、ある国が条約の一部の規定に関して問題を有する場合には、当該規定 に拘束されずに条約に参加し得るように、留保を付して締結することが一般的に認め られております。TOC条約(注:国際(越境)組織犯罪防止条約)では、第三十五 条3、国際司法裁判所への紛争付託の拒絶を除き、 留保に関する特段の規定は存在し ておりませんが、交渉過程において、本条約への留保については、ウィーン条約法条 約の留保に関する規定が適用されることが確認されています。したがって、ウィーン 条約法条約第十九条に従い、条約の趣旨及び目的を損なわない限度であれば、本条約 に対し留保を付すことは、御指摘 のとおり、可能であります。
しかし、本条約については、既に平成十五年の通常国会におきまして、留保を付 さずに締結することにつき国会の承認をいただいております。行政府としては、本条 約につき、このような形で国会の承認をいただいている以上、当然、留保を付さずに 締結することとしており、その前提での国内担保法の審議をお願いしているところで あります。」
このように、この条約についても趣旨目的を損なわなければ留保は可能としつつ、 むしろ国内的な事情の方を根拠に留保はできないと述べていたのである。しかし、国 会承認の際に留保していなくても、政府が批准書を寄託するまではいつでも留保は可 能である。そこで、政府は、この国会での答弁の中では、「そもそも留保はできない のだ」「民主党の主張するような留保は条約の趣旨と目的に反している」と答弁を変 更してきました。しかし、このような答弁には以下に述べるように、根拠がないと考 えます。
4 条約の審議の経過でも、重大犯罪の定義は最も困難な審議事項のひとつだった
まず、重大犯罪についてどのように定義するかは、条約審議における長い論争の対 象でありました。この重大犯罪を刑期で定義するのか、犯罪の種類で定義するのか、 大きな問題となりました。国連の事務局から重大犯罪のリストが示されたこともあり ました。
日本の刑法は非常に刑期の幅が広く、刑期を基準にすると対象犯罪は非常に広範な ものとなることが予測され、日本政府はリスト方式を支持していたのです。結局重大 犯罪の定義として条約が刑期をメルクマールとした規定を設けたことは事実ですが、 この点は加盟国間に対立のあった事柄です。この条約の趣旨と目的は「国境を超える 組織犯罪集団による重大犯罪の防止」にあります。ですから、日本政府が条約の批准 に当たり、留保ないし解釈宣言を行った上で、重大犯罪の定義として別の基準を定立 することは、条約の趣旨・目的に反するものとはいえません。
留保は可能です。
5 条約の求める犯罪化の範囲について越境性を要件とするかどうかは、条約審議の 最後の局面における最重要討議の焦点であった
条約の適用範囲を定める条約3条には条約は越境性のある犯罪を適用対象とするこ とが明記されています。条約の34条1項にはこの条約は各国が国内法の原則にした がって実施すればよいことを明言しています。
この条約は越境性のある組織犯罪を防止するための条約であり、越境性については 3条に定義がなされています。この定義自体が刑事法規における定義規定になりうる ように厳密に規定されています。条約の審議を通じて越境性の定義が大きな問題とな りましたが、それは条約の求める犯罪化の範囲を画するものという意識があったから です。
確かに条約の34条2項には、共謀罪などは「国際的な性質とは関係なく定める」 という規定があります。これが政府与党の錦の御旗なのですが、条約の適用範囲を画 するはずの越境性と無関係に共謀罪の規定をする義務がある等と言うことは本来はあ り得ない解釈です。
この条項は、条約審議の最終会期の幕切れの時点で、フランス政府の提案を修正 する形で取り入れられました。しかし、条約の「公的記録のための解釈的注 (travaux prepatoires この文書は条約と一体となって国連が作成した文書です)」 の第34条2項の解釈をみても、政府解釈には無理があることがわかります。
この国連による注釈によれば、この条項は「条約の適用範囲を変更したものではな く、越境性が国内法化の本質的な要素ではないことを明確化したものである」とし、 この条項は、各国は国内法化の際に越境性を要素とする「必要はない」ことを示して いるとされているのです。
したがって、国内法化をする際に、条約第5条については「越境性」の要素を、国 内法に含む「必要はない」ことを示しているだけと解釈することができるのです。
少なくとも、この点についてはアメリカやフランス、イギリス、日本などが越境性 を要素とするべきでないと主張したのは事実ですが、G77諸国と呼ばれる発展途上 国は越境性は国内法化の要素とするべきであると強く主張し続けていたのです。そし て、両者の妥協としてまとめられたのが、現在の条約なのです。
フランス政府の当初の提案文書と外務省が国会の求めで公開した公電によるこのフ ランス提案に関する審議経過によれば、34条2項の趣旨は国連機関がまとめた公的 解釈と完全に合致しているといえます。
問題は、フランス提案の書き直しの過程で、条文の文意が変えられ、選択的だっ た文言が義務的な文言に代えられたにもかかわらず、そのことにもともとフランス提 案に批判的であったG77諸国も自覚的でないままに、深夜の疲れ切った審議の中 で、フランス案の修正案は採択されるに至ったものと考えられます。
この経過で、このことを報ずる日本政府の本国への公電の内、非公式協議の部分が 削除されています。34条2項の制定に至る先進国政府だけの非公式協議の内容であ り、国会審議の中でも開示が求められましたが、いまだに公開されていません。 このようにいうと、「国連の条約がそんないい加減な形で決められるなんて」とい われる方もいるかもしれませんが、日本政府を代表して警察庁から審議に参加してい た今井勝典氏は、第10回会期の最後の段階の状況について、警察学論集53巻9号 に掲載された「国連国際(越境)組織犯罪防止条約の実質採択」という論文の中で次 のように述べていることからも裏付けられます。
「同年秋の第55会期国連総会に向けた事実上の審議のための最後の会期とされ、 これまで先送りにされてきた草案2条の条約の適用範囲についても最終決着が図られ なければならなかった。こうした時間的制約の中で、同会期の審議は「ナイト・セッ ション」を設定したり、非公式協議を多用するなど、「体力勝負」となった(今井論文 56頁)」
日本政府が錦の御旗とする34条2項は条約審議の終盤に、このように本当にばた ばたと決められたものにすぎません。これが条約の趣旨目的の重要な構成要素と見る ことはできません。
6 結論 条約を一部留保して民主党案に基づく修正を行うことは可能である。
結局私が言いたいことは、共謀罪の対象となる重大犯罪の範囲を限定することや越 境性を共謀罪の要件とすることは条約の解釈としても成り立つ余地のある見解です し、仮に条約の文言の解釈として難しいとしても、以上のような審議経過に照らせ ば、少なくとも条約の趣旨にも目的にも反しないものであることは明らかですから、 条約の34条2項を留保すれば疑いの余地なく可能であるということです。
7 金曜日の院内集会は午後5時30分から
金曜日の院内集会は時間が変わりました。午後5時半からになります。
昼間は会場が確保できなかったためです。ご了承下さい。
12日の夕方には民主党独自の集会も企画されているようですが、超党派国会議員 の呼びかけの集会も予定通り開催する予定です。
市民世論の空前の盛り上がりによって、与党内部に強行採決はしたくないという気 分が生じていることも事実ですが、教育基本法の審議入りがなされ、与野党の修正協 議が決裂すれば、やはり来週の半ば以降は与党は数で押し切ろうとしてくる可能性が あると考えておく必要があります。
■ ■ ビラの引用開始
「共謀罪」の強行採決に反対する!
超党派国会議員と市民の緊急院内集会
ご存じのとおり、「共謀罪」の審議が風雲急を告げております。 今週にも共謀罪を含 む刑法などの改正案が、衆議院法務委員会で強行採決される可能性が出ています。
共謀罪は、600以上の主要犯罪について、犯罪が実行される前に単に合意したと 言うだけで、犯罪を成立させてしまう極端な内容のものであり、現代版治安維持法と も、思想処罰法ともいわれる稀代の悪法です。また、共謀罪の捜査のためには盗聴捜 査の拡大が計画されることは必至です。
現在、国会内では与野党間で修正案をめぐる攻防が繰り広げられていますが、共謀 罪が人権侵害につながる深刻な危険性をはらんでいることを、超党派の国会議員と市 民が一緒になって訴える集会を開催します。共謀罪に反対し、廃案に追い込むべく、 院内外の力をここに結集していきましょう。ぜひ、ご出席、取材のほど、よろしくお願いします。
◆緊急院内集会◆
時 2006年5月12日 (金) 午後5時半〜
場所 衆議院第二議員会館 第1会議室
(地下鉄永田町駅・国会議事堂駅下車、会館入り口で通行証をお配り いたします)
発言 超党派国会議員・日弁連・市民団体 ほか
8 また、次の強行採決の焦点となりそうな5月17日にも緊急集会が設定されまし たので、お知らせします。呼びかけは同じく超党派国会議員の方々です。
◆緊急集会◆
時 2006年5月17日 (水) 午後6時半〜
場所 星陵会館 <千代田区永田町2-16-2 TEL 03−3581−5650 > 場所は国会裏手の日比谷高校内です。
地下鉄有楽町線、半蔵門線、南北線 永田町駅下車6番出口 徒 歩3分地下鉄千代田線 国会議事堂前駅下車5番出口 徒 歩5分地下鉄南北線 溜池山王駅下車(国会議事堂前駅5番出口) 徒歩5分地下鉄銀座線、丸の内線 赤坂見附駅下車 徒 歩7分
発言 超党派国会議員・日弁連・刑事法学者・法律家・文化人・ グリーンピース・アムネスティ・30日メーデーデモにおける逮捕者(プレカリアート) ほか
【 呼びかけ人 】
糸数慶子(無所属・参議院議員)
石井郁子(共産党・衆議院議員)
井上哲士(共産党・参議院議員)
枝野幸男(民主党・衆議院議員・法務委員)
江田五月(民主党・参議院議員・法務委員)
小川敏夫 (民主党・参議院議員)
河村たかし(民主党・衆議院議員・法務委員)
近藤正道(社民党・参議院議員)
千葉景子(民主党・参議院議員・法務委員)
仁比聡平(共産党・参議院議員・法務委員)
平岡秀夫(民主党・衆議院議員・法務委員)
福島みずほ(社民党・参議院議員)
保坂展人(社民党・衆議院議員・法務委員)
松岡 徹(民主党・参議院議員・法務委員)
円より子(民主党・参議院議員)
問い合わせ先 = 平岡秀夫事務所3508-7091 保坂展人事務所3508-7070 仁比 聡平事務所3508-8333
■ ■ ビラの引用終わり
厳しい状況が続きますが、あきらめないでがんばりましょう。
海渡 雄一
http://www.labornetjp.org/news/2006/1147386269795staff01
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