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組織的な犯罪に関する共謀罪の創設の是非(上)
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組織的に犯罪を謀議すると、実際に犯行に着手していなくても罪に問える「共謀罪」を創設する組織犯罪処罰法改正案について、連休明けから衆院法務委員会での修正協議が本格化し、与党は早期採決を目指していると、報道されています(日経新聞のHP・平成18年5月1日付)。
この「共謀罪」創設の是非について、朝日新聞(平成18年4月27日付)における「私の視点」で松宮孝明・立命館大法科大学院教授(刑事法)の論説がありましたので、引用して検討してみたいと思います。
1.朝日新聞(平成18年4月27日付14面)によると、
「私の視点 ◆『共謀罪』創設案 現行法で十分、再考を
『共謀罪』の創設を持ち込んだ組織的犯罪処罰法などの改正案の審議が、衆院法務委員会で始まった。与党側は修正案を提出し、週内の採決を目指しているが、再考すべきだ。日本の法体系に、矛盾と混乱をもたらすだけで、改正しなくても、現行法で十分に対応できるからである。
改正案の提出には、00年に国連総会で採択された国際組織犯罪防止条約を批准するため、国内法を整備するという狙いがある。政府の説明は、国際的な組織犯罪を防ぐには、計画や準備段階での共謀を処罰の対象にすることが効果的で、犯罪者が日本に逃亡しても引き渡せる、というものだ。
◆ ◆
共謀罪は懲役か禁固4年以上科すことができる犯罪を、3人以上の組織や団体の構成員の2人以上が共謀すれば対象になる。実行しなくても処罰されるのだ。
条約で『4年以上』とされたのは、マフィアの麻薬取引など国境を超えた犯罪組織の資金源を断つため、広く網を打ったからだ。
だが、副作用は甚大だ。対象になる犯罪が、日本では600を超える。ひったくりを目的とする仲良し3人組が犯行計画を相談したり、『カギのかかっていない自転車を盗もう』と話したりしても、該当する。
公務員の裏金作りは業務上横領なので、打ち合わせだけでもダメだ。国会議員の秘書給与の流用も詐欺なので、相談は御法度だ。
犯罪を通報した場合、刑を免れるという規定は、『密告の勧め』である。人を陥れることを奨励するようなものだ。共謀の真偽は、どちらの話がより信用できるかということになる。派閥の1人を寝返らせれば、政党の派閥抗争にも使える。
こうした批判を考慮し、与党側が修正案を出した。<1>犯罪組織と言えるような団体に限り、労働組合や民間団体には共謀罪は成立しない<2>実行に向けて『資する行為』があった場合――に限定すると説明しているが、実質は変わらない。
特定の団体が対象になるかどうかや『資する行為』の判断は法解釈に委ねられる。裏金作りを恒常化している部局は犯罪組織に当たり、記録する出納帳の購入は『資する行為』だろう。
◆ ◆
本気で限定するなら、実行を待てばいい。現行法で対応でき法改正も不要だ。
2年以下の懲役になる殺人予備罪の共同正犯も限定的にしか適用されないが、共謀罪が適用されると5年以下。団体の場合、殺人予備罪の意味はなくなる。
日本では共謀共同正犯の判例が重なり、判例理論として確立している。共謀罪より刑も重い。共謀罪の導入は日本の法体系を崩す。
政府は外国に『法改正しなくても、日本は対応できる』と主張すればよかった。ただ、過去2回廃棄になり、昨秋の特別国会でも継続審議になったので、対外的な発言力の低下を懸念したのかもしれない。
成立すれば『現代版治安維持法』だ。政治が問題点を認識しながら、法改正を強行するのなら、それは責任ある態度とは言えない。」
2.まず、問題となっている共謀罪(政府案と与党案)の部分を引用します(共謀罪―Wikipediaより)。
(1) 犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案【政府案】
(組織的な犯罪の共謀)
第六条の二 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者は、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。
一 死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪 五年以下の懲役又は禁錮
二 長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められている罪 二年以下の懲役又は禁錮
2 前項各号に掲げる罪に当たる行為で、第三条第二項に規定する目的で行われるものの遂行を共謀した者も、前項と同様とする。
(2) 修正案【与党案】(太字は政府案からの修正点)
(組織的な犯罪の共謀)
第六条の二 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、団体の活動(その共同の目的がこれらの罪又は別表第一に掲げる罪を実行することにある団体に係るものに限る。)として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者は、その共謀をした者のいずれかによりその共謀に係る犯罪の実行に資する行為が行われた場合において、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。
一 死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪 五年以下の懲役又は禁錮
二 長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められている罪 二年以下の懲役又は禁錮
2 前項各号に掲げる罪に当たる行為で、第三条第二項に規定する目的で行われるものの遂行を共謀した者も 、前項と同様とする。
3 前二項の規定の適用に当たっては、思想及び良心の自由を侵すようなことがあってはならず、かつ、団体の正当な活動を制限するようなことがあってはならない。
3.この共謀罪創設の是非を検討する前提として、次の点に注意しておく必要があります。
(1)まず、この国際組織防止条約は、国際的な組織犯罪を防止することを目的とするのですから、この目的に沿った国内法規定である必要があります。
(2) また、一般論としても法律を制定する場合、法律は一般市民の権利義務にかかわるなど、社会的に影響を与えるのですから、法律を制定・改正する場合には、その制定・改正条項には必要性・合理性が要求されます。
そして、刑罰という制裁は強力で、劇薬のような副作用(資格制限や犯罪者としての烙印)を伴うのですから、本当に刑罰をもって抑止する必要の行為のみを刑罰の対象としなければなりません。刑罰というのは、人間の規範違反的行為をコントロールするための「最後の手段」なのです(西田典之「刑法総論」(平成18年)31頁)。
そうすると、刑罰規定を創設する場合には、他の法律よりも必要性・合理性は厳格に判断しなければならないことになります。
(3)さらに、このような多国間条約に加入する場合、条約と国内法との矛盾対立が条約の一部の条項にあって、日本が国内法の原則を変更したくないと考える場合には、問題となる条項について「留保」または「解釈宣言」を付した上で条約に加入することになります。
「留保」とは、多国間条約に加入するにあたって、国が一部の特定の条項の自国への適用に関してその法的効力を否定し、または変更するために国が単独で行う意思表示をいい(条約に関するウィーン条約2条1(d)参照)、「解釈宣言」とは、加入国が条約の規定の解釈を確認するためにする宣言をいいます(戸波「憲法」513頁〜参照)。このような「留保」や「解釈宣言」は実際上、かなり行われているとされています。
具体的な検討は、「組織的な犯罪に関する共謀罪の創設の是非(下)」で行いたいと思います。
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