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【共謀罪】 資料/国際的組織犯罪条約逐条批判
【共同行動オンライン】http://hanchian.org/index.html
国際的組織犯罪条約逐条批判
http://hanchian.org/kyoubou/kokusaijouyaku-hihan.html
↑上記URLから転載
はじめに−国際的組織犯罪条約とは?
国際的組織犯罪条約は、2000年11月の国連総会で採択され、同年12月12日イタリアで開催された会議で約120カ国が署名した。40カ国の批准で発行すると決められており、2002年12月12日まで署名が開放されている。日本政府は荒木外務副大臣(公明党)が調印、法務省は条約批准とセットで国内法整備を行う意向を示し、密室作業を進めている。「本条約の批准のためには、重大犯罪の共謀又は組織的犯罪集団の活動への参加罪などの新設を含む国内法の整備が必要となる」(『研修』'01年3月、高嶋刑事局付検事)と法務省自ら認めるように、組織的犯罪対策3法改悪を含む全面的な団体取締り法制定が、今、狙われているのだ。
アメリカ中枢同時爆破事件を契機に、ブッシュ政権は同盟国を駆りたててアフガニスタンを手始めとした「報復戦争」に突入、同時に、国際的な治安弾圧体制の強化へ突き進んでいる。「新しい戦争」の中味は、大量別件・微罪逮捕、事情聴取のためだけの身柄拘束、出入国規制強化、組織の資産凍結、支援者の資金提供禁止、盗聴権限の飛躍的拡大、司法・捜査共助強化など、国際的組織犯罪条約を前倒し実行するものである。それのみならずアメリカは「『手段のいかんを問わず、致死あるいは身体、経済的に障害を与えることを目的とし、公共機関などの破壊を狙った行為』をすべて対象とし、テログループを組織したりアドバイスを与えた者も取り締まりの対象」とする「包括的テロ対策条約」の締結すら狙っている。
世界的な政治・経済危機進行の中で噴出する労働者民衆の異議申立てと反撃を、アメリカ・EU・日本など世界の警察・諜報機関が一体となって弾圧水準を高め、監視・管理・圧殺せんとする国際的組織犯罪条約の発効を阻止し、労働者民衆の国際的に連帯する力で治安弾圧体制強化策動を打ち破らなければならない。
以下、国際的組織犯罪条約の狙いを、逐条的に暴いてみる。
(1)条約の概要
条約は「国際組織犯罪をより効果的に防止し及びこれに対処するための協力を促進することにある」[第1条]とその目的をうたい、全41条から成っている。内容は、@共謀罪・参加罪、援助・相談罪の新設[第5条]、Aマネー・ロンダリング(不法資金洗浄)規制拡大[第6・7・12・13条]B汚職の犯罪化[第8・9・10条]、Cコントロールド・デリバリー(泳がせ捜査)・覆面捜査・電子的監視など特別な捜査手法の導入[第20条]、D司法妨害罪、刑事免責・司法取引導入[第23・26条]、E証人保護、被害者援助[第24・26条]、F国際的司法共助強化[第15・16・18条]など多岐に渡っており、その多くは近代的な刑事司法の原則を侵食し、脅かし、転換させるものである。
第5条「組織犯罪集団への参加の犯罪化」、第6条「犯罪収益洗浄の犯罪化」、第8条「汚職の犯罪化」、第23条「司法妨害の犯罪化」は国内法整備が義務づけられている。なお本体条約には、@銃器等の規制、A女性・子供の不法な取引、B移住労働者の不法な取引に関する三つの議定書が付属され、本体条約批准とセットでのみ締結しうると規定されている[第37条]。
(2)条約の適用対象〔第2条・第3条・第34条2〕
条約が対象とする犯罪は、@原則的に、国際性を有し、かつ組織犯罪集団が関与するA第5条、第6条、第8条、第23条の犯罪、及びB「その最長において4年以上自由を剥奪する刑に処し得る犯罪(以下、条約に沿って「重大犯罪」と言う)」である。
名称からしてこの条約の適用対象はすべからく「国際性」と「組織的」という二つの特徴をあわせもった犯罪にすえられているようにみえる。しかし実はそうではない。すべての「重大犯罪」が対象とされ、全世界の治安管理社会化・密告社会化が狙われているのだ。
イ.「国際的組織犯罪」が取り締まり対象との仮装の下で…
条約の審議過程でも多くの政府から、適用対象は国際性と組織性を明確に兼ね備えたものに限定すべきだとの主張がなされ、紛糾したが、結局、この主張は退けられ、「柔軟かつ広範なアプローチ」を採るということにされたことである。「条約の理念上、犯罪構成要件該当行為が必然的に国境を跨ぐもののみを取り上げるとの論もあったが」「犯罪化の文脈では、国際的要件を各国国内法の構成要件に求めるものではないことが合意された」(『警察学論集』’00年9月号)のであり、条約第34条2[条約の実施]は、共謀・参加罪、援助・相談罪、マネロン罪、汚職罪、司法妨害罪は「犯罪の国際性又は組織犯罪集団の関与との関係を離れて規定する。ただし第5条が組織犯罪集団の関与を求める場合を除く」としている。「国際的組織犯罪」「越境犯罪」のみを対象としているかのような名称・解説は全くのデマであり、たとえ一国内で活動する小さなグループ、諸個人であっても、たとえ事件に国際的性質がなくても、監視・管理・弾圧の網の目から逃れることは出来ない。
ロ.「組織犯罪集団」が対象との仮装の下で…
条約第2条[用語の定義](a)は、『組織犯罪集団』とは@「一定期間存続する3人以上の者からなる系統的集団」でA「直接又は間接に資金上その他の物質上の利益を獲得するため」B「重大犯罪又はこの条約の規定に従って定められる犯罪を一又は二以上犯す目的で協力して行動するもの」をいうとしている。
@はあたかも上意下達の強固な組織性をもつ暴力団やマフィア、テロ組織を対象としているかのようだが、これも仮装である。第2条(c)が、わざわざ「『系統的集団』とは、その構成員に対して正式に定められた役割、その構成員の継続性又は発達した系統を有することは要しない」と注記しているように、「犯罪を直ちに行うために無作為に組織されたものではない集団」全てが対象なのである。犯行時に偶然関わった者はともかく、数時間あるいは1日前に知りあった仲間との協力は「組織犯罪集団」だと見なされる。職場や学園のサークルであれ、地域の○○の会であれ、インターネット上のメル友であれ、全てが「組織犯罪集団」とされるのだ。
Aに労働組合は勿論含まれるが、平和運動などの政治活動や言論・表現活動あるいは環境保護や反差別の社会運動・市民運動も、「直接又は間接に資金上その他の利益を獲得する」目的をもつと見なされる。自分たちの、あるいは直接的な物質的利益のための活動ではなくても、「間接」的に利益を得るとされるのである。
アメリカ連邦最高裁は、中絶クリニック爆破事件に条約と同趣旨の規定をもつRICO法を適用するにあたって「アメリカの経済秩序を脅かした」−要するに「間接的に物質上の利益を獲得する」ためであるとの判決を下している。「政治団体やテロ集団」「過激で熱心な政治的集団(たとえば中絶反対活動家、動物の権利の主張組織、グリーン・ピースのような戦闘的な環境保護グループ)」「黒人独立革命グループ、クロアチア独立主義者…」(『警察学論集』’99年5月号)など、全ての集団活動が対象なのである。
ハ.「重大犯罪」処罰の仮装の下で…
B「国際的組織犯罪」「重大犯罪」のレッテルが貼られると、極悪なイメージが浮かばせられる。しかし、少年グループがコンビニで万引しても「重大犯罪」なのである。条約第2条(b)は、「重大犯罪」とは「その最長において4年以上自由を剥奪する刑に処しうる犯罪」と規定している。万引の場合、刑法第235条窃盗罪は10年以下の刑を定めているから当然重大犯罪となる(傷害、詐欺…10年以下。逮捕監禁…3月以上5年など)。数えている余裕はないので「長期5年以上」をめどにマネロン罪の前提犯罪として列挙された組対法別表を参考にされたいが、その数は膨大、「長期4年」となれば更に対象犯罪は増える。なお威力業務妨害罪や強要罪(いずれも刑法では3年以下)は組織的犯罪処罰法第3条(刑の加重)で5年以下となっているため団体活動と見なされれば「重大犯罪」となろう。
(3)「組織犯罪集団への参加の犯罪化」〔第5条、第10条、第11条3・4、第31条d〕
ブッシュ大統領は9月25日、米連邦捜査局(FBI)の捜査員を前に「邪悪な者、それを隠まう者、養う者、励ます者すべてを裁くのだ。がんばってくれ。国家が君たちを頼りにしている」と演説した。諜報組織を頼りにする「自由と民主主義」国家!?宗教的・道徳的非難(邪悪な者)で、罪を超えて人を裁き報復するという、近代刑法以前の感覚と戦争による殲滅の論理は、国際的組織犯罪条約にも貫かれている。
イ.「共謀罪」・「参加罪」・「援助・相談罪」新設とは?〔第5条1〕
条約の大きな目玉は、「組織犯罪集団への参加」それ自体を「犯罪化」することにあるとされる。しかし、ai)共謀罪は必ずしも組織犯罪集団の関与を前提としていない[第5条3]。また第5条は「犯罪行為の未遂又は既遂に含まれるものとは別個に成立する犯罪」として共謀罪・参加罪の新設を義務づけている。実行行為のない「犯罪」を裁くというのである。
具体的には、第5条ai)「重大犯罪の実行を合意すること」(合意を準備することも含まれる)=共謀罪、ai)「組織犯罪集団の目的及び犯罪活動一般…を認識している者」が、組織犯罪集団の@「犯罪活動」(重大犯罪に限定されていないことに注意)、A「その他の活動で、当該者の参加が犯罪目的の達成に資することを認識しているもの」に参加すること=参加罪の、一方、または両方が犯罪とされる。諸個人の重大犯罪合意、犯罪集団の活動全てとそれを支援する者がその対象である。集団の中の2〜3人が共謀罪に問われ、他の構成員が参加罪とされることもありうる。
「共謀罪」とは、夫婦喧嘩や友人間のトラブルで「あいつ、ぶっ殺してやりたい」と友達に電話、「そうだ、そうだ、やっちゃえ」と相づちをうったら殺人罪の「実行を合意」したとされ、処罰するというもの。「参加罪」とは、労働組合の組合員が、上は何をやってるのかわからないなと思いながらも組合費を集めたり集会に参加すること、あるいは構成員でなくても集会に賛同したりカンパをすることを処罰するというもの。
更に恐るべきことに第5条bは、「組織犯罪集団が関与する重大犯罪の実行を組織し、指示し、ほう助し、教唆し若しくは援助し、又はこれについて相談すること」と団体活動取り締まりの処罰対象を、組織の外部に無限に拡大していることである。bは、aが実行行為がない場合であるのに対して、「実行を組織し」たことを前提にし、犯罪に関わると見なした支援者ら周辺に広く網をかける規定である。悪名高い「ほう助」「教唆」処罰は破防法第4条にあるが、条約はなんと「援助」「相談すること」にまで広げている。「援助・相談罪」の新設であり、救援カンパをすることももちろん罪とされる。
ロ.司法・捜査当局の判断次第で適用可能〔第5条2〕
第5条2は、1犯罪化の認定に関する規定であり、「1に規定する認識、故意、目的又は合意は、客観的な事実の状況により推認することができる」とされている。要するに、本人や団体が何といおうと司法・捜査当局が「客観的な事実の状況から、犯意がある、もしくは集団を支援しようとしている」と見なせば弾圧できるとしているのだ。犯意などの立証責任を捜査当局から被告に転換させることも狙われている。事実認定が「推認」でかまわないというのだから、権力に一度目を付けられたら逃れようもない。人権をまったく無視した規定といわざるを得ない。
更に「組織犯罪集団」の認定の方法が規定されていない。警察が組対法のように勝手に認定することになりかねない。破防法や団体規制法には公安審査委員会、暴力団対策法には公安委員会(警察の隠れ蓑であることは明らかだが)と、「暴力主義的破壊活動を行った団体」「暴力的不法行為をする恐れがある集団」の認定の期間・手続きが曲がりなりにも定められていたが、これだけ団体を規制する条約にも関わらずそれがないのが大きな特徴である。
ハ.「加担する法人の責任」追及と個人の活動制限〔第10条、第11条3・4、第31条2(d)〕
第10条[法人の責任]は、重大犯罪などに「加担する法人の責任」を「刑事上、民事上又は行政上のものとすることができる」とする。「加担する法人」は組織犯罪集団でなくてもかまわないから当該団体あるいは関係すると見なされた団体全てがその対象となる。
更に条約では簡単に「刑事上、民事上又は行政上の」責任追及と表現されているだけだが、この規定は恐るべき団体破壊の手段となりうる。アメリカRICO法で労働組合を破壊するのにもっとも威力を発揮したのが、刑事面とあわせた民事・行政責任の追及であったとFBI自身が総括し、ニッポン警察に教訓化を勧めている(『警察学論集』’99年5月号)。大量かつ恒常的な刑事弾圧(洋書センター闘争や関西生コン支部・全金港合同弾圧!)と巨額の損害賠償(関西生コン支部世界産業闘争への2億6千万余円の損賠判決!)は既に現実であり、行政規制(オウム真理教の法人格剥奪。アメリカでは、組合執行部を辞任させて管財人の管理下におき、多数の組合員を追放する「民主化」が合衆国最大の労組チームスターにかけられた!)を加えたトータルな組織の攻略が画策されているのである。
団体に対してのみならず、当該個人に対しても規制が強化される。第11条[訴追、裁判、制裁]3・4は、被告人の釈放について「出頭を確保する必要性を考慮に入れること」、有罪判決を受けた者について「仮釈放の可否を検討するに当たり、このような犯罪の重大性に留意する」こと、更に第31条[防止](d)で「組織犯罪集団による法人の悪用を防止する」一環として、有罪判決を受けた者に対して全ての「法人の役員として活動する資格を合理的な期間において剥奪する可能性の導入」を求めている。組織犯罪に関わった者は、長期に社会から隔離し、社会復帰後もその資格を剥奪し、活動を制限するなど、息の根をとめるという厳罰主義が貫かれている。
ニ.治安維持法・破防法も顔負けの稀代の悪法−近代刑法原理の破壊
日本の刑事司法の基本は、行われた犯罪を罰するという規定になっている。未遂罪はあるが、何らかの実行行為が伴わなくてはならない。この原則の一部を崩したのが、まだ行われていない「犯罪」を予防盗聴・別件盗聴する盗聴法だが、それでもしばりがかけられていた。しかし条約の「組織犯罪集団への参加の犯罪化」、具体的には「共謀罪」「参加罪」は日本の現行法に全くないどころか、実行行為の処罰という原則を根底からくつがえすものである。
稀代の悪法とされる戦前の治安維持法、戦後の破壊活動防止法と比べてみても、「参加の犯罪化」が如何にすさまじいものかがわかる。
治安維持法は、国体変革と私有財産制度の否定を目的にする者をことごとく弾圧する治安法であった。それ故、治安維持法を拡大して労働団体・宗教団体、市民グループに拡大適用する場合、その目的を曲がりなりにもデッチ上げる必要があった(横浜事件など)。また破防法は「暴力主義的破壊活動を行った」団体への規制であり、団体規制法(第2破防法)も同じである。しかし「共謀罪」「参加罪」は、集団の目的を問わず、実行行為も前提にしていない。オールマイティーなのである。権力ににらまれたら終わり、権力ににらまれていると思われる集団に近づいたら終わり、というものであり、日本国憲法が保障する思想及び良心の自由(第19条)信教の自由(第20条)集会・結社・表現の自由(第21条)勤労者の団結権・団体交渉権その他団体行動権(第28条)を文字通り破壊しつくすものである。
「援助・相談罪」は破防法ですら「実行」「未遂」「予備」「陰謀」「教唆」「せん動」にとどめ、内乱罪・外患誘致及び援助罪に関わる「文書活動」「通信」のみ処罰対象としていたものを大きく踏み越えるものであり、計り知れない人権侵害を引き起こすこと必至である。それは改悪治安維持法第1条「情を知りて…結社の目的遂行のためにする行為」を復活し、破防法第8条「団体のためにする行為」、要するに何を犯罪とするかを捜査当局に全て委ねる白地刑法を創りだす以外の何者でもない。
(4)「犯罪収益洗浄の犯罪化」〔第6条、第7条、第10条、第12条、第13条、第14条、第29条、第30条、第31条〕
条約第6条[犯罪収益洗浄の犯罪化]第7条[資金洗浄と戦う方法]などは、いわゆるマネーロンダリング(資金洗浄−犯罪収益の不正な起源を隠匿し若しくは偽装する目的で収益を処理すること)の禁止と監視、没収・押収を規定している。「犯罪収益等隠匿罪」[第6条(a)]「犯罪収益等収受罪」[第6条(b)i]など、組対法とほぼ同じ内容だが、看過することの出来ない拡大が狙われている。
ひとつは、組対法の場合、「犯罪収益等隠匿罪」(第4条)の予備の処罰にとどまっていたのが、「隠匿罪」「収受罪」とも「参加し、共謀し、これに係る未遂の罪を犯し、これをほう助し、教唆し若しくは援助し又はこれについて相談すること」が犯罪化されていることである。
もうひとつは、「疑わしい取引の届出義務」を金融機関から「弁護士・公証人・税理士及び会計士」にまで広げていることである[第31条防止2(b)]。
刑事法の基本原則を侵食しかねないが故に麻薬取締りに限定されて導入され('91年麻薬特例法)、組対法によって極めて広範な一般犯罪にまで広げられたマネロン罪の導入の狙いが、単に「犯罪による収益が組織的な犯罪を助長すること」の防止のためではなく、市民社会の経済活動全般を監視・管理し、支配者が必要と考えればいつでも「犯罪化」=弾圧出来る体制を創り出すことにあったことが明らかになってきたのである。
イ.組対法マネロン罪の拡大A−前提犯罪の拡大
条約は「最も広範囲の前提犯罪」への適用を求めている。組対法自体ドイツやフランスより広汎だが、条約は、更に@共謀・参加・援助・相談罪、資金洗浄罪、汚職罪、司法妨害罪、A重大犯罪(組対法の前提犯罪長期5年を長期4年に拡大)に広げている。
泥棒は窃盗罪で罰せられる。'99年まではこれで済んだ。組対法が成立したことで、遊興に使ってしまえば罰せられないが、屋根裏に隠したり銀行送金すれば「犯罪収益隠匿罪」「収受罪」成立という常識では説明のつかない事態となっている。条約は更にどこに金を置くか相談を受けたことまでも処罰しようというのである。
ロ.組対法マネロン罪の拡大B − 弁護士・税理士などの規制
組対法では「疑わしい取引の届出義務」は金融機関だけに限られていた。条約は「犯罪集団が犯罪収益をもって合法市場に参入する現在及び将来の機会を減ずるよう努める」とし、「公的及び関連する私的団体の廉潔性を保障するために」「関連する職業(特に弁護士、公証人、税理士及び会計士)の行動規約の発展を奨励する」[第31条]とし、既に弁護士・会計士などに新たに通報義務を課そうとする動きが'99年10月モスクワ国際組織犯罪対策G8閣僚級会合以降、世界的に強まっている(いわゆるゲートキーパー《門番》問題)。
金融機関の場合、取引の中味はわからないので、怪しいと思ったら当局へ通報する。弁護士の場合、相手は自分の依頼者である。当局に通報すれば依頼者との信義・守秘義務を破ることになる。しかし弁護士は疑わしい取引を通報しなければ懲戒になったり、弁護士報酬を受け取ったとして犯罪収益収受罪を適用される。
アメリカでは、マネーロンダリング罪で毎年数百人の弁護士が逮捕されている。マフィアから弁護料を受け取るとマネロンの共犯として逮捕されるので、マフィアは私選弁護人をつけるのが困難となり、ほとんどが国選弁護人となっている。ゲートキーパー問題とは、防御権を奪い、弁護士を支配の枠にはめ込む策動なのである。
ハ.テロ資金供与防止条約− 資金提供者の処罰など−新たな策動
マネロン罪創設・拡大の狙いが、麻薬などの犯罪行為を取り締まるというよりも、如何なる質のものであれ、現存支配秩序を脅かしかねない集団を資金面から封じ込め、解体するものであることは、アメリカ中枢同時爆破事件に対して、米・EU・日本などが採った措置で明らかである。「包括的な国内の規制及び監視の体制」の下で「国内的に及び国際的に協力し情報交換を行う」[第7条]ことで、「没収及び押収」[第12条・13条]の前段として、アルカイド関連資産と見なされた銀行口座・資産の凍結が進められている。「犯罪」と「戦争」の区別が曖昧化されているのである。
包括資金規制を目指す米大統領令(9月24日)は、「まず計27のテロ組織、関連団体を対象に在米資産を凍結、さらに外銀にもテロ組織との関係根絶を求め、これに反する場合は、その在米資産を凍結する」(『日経』)とする戦時法発動である。
また日本政府が批准を強行しようとする「テロ資金供与防止条約」('99年)は、テロの共犯者でない場合でも、広く資金提供者を処罰するものである。日本政府は、「組織的犯罪処罰法の見直しか、新法を作るか」を検討していると報じられているが、組対法を超えてさらに憲法・刑法の根本原則を揺るがし、自由と団結の基礎を破壊しようとするものであり決して許されない。
(5)「汚職(外務省訳では腐敗!)の犯罪化」〔第8条、第9条〕
イ. 今更、汚職取り締まり?
条約第8条は、公務員が、公務の遂行に関して行動しまたは行動を控えることを目的として、贈・収賄することを禁じている。国際的組織犯罪条約にわざわざ「汚職の犯罪化」が規定されているのは、汚職そのものを真剣に根絶しようということではない。組織犯罪集団の資金源を絶つためと、国際競争のためである('97年、国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約)。従って条約は、国家そのものが組織的犯罪を犯しつづけているということを全く規制していない。「国家は国法の中に、権力濫用の追放・禁止を組み込むこと、及びこのような権力濫用の犠牲者への救済措置を規定することを重視しなければならない。」「必要なら、政治的・経済的な権力の重大な濫用を構成する行為を行う権限を剥奪する立法を行い、実施」すべきであるとの「犯罪と公権力濫用の被害者の為の司法についての基本原則宣言」('85年国連第40回総会決議)すら反故にされているのである。
しかし逆に言えば国際条約でわざわざ「犯罪化」する必要があるほどに、各国政府の腐敗がすさまじいということである。外務省・財務省・警察庁・厚生労働省など日本でも文字通り国家中枢の組織的・構造的腐敗が露呈している。しかし日本の政治家・官僚の厚顔極まりない回答は「個人の不祥事」であり「教育」が全てであるとされる。日本には、汚職公務員の政治責任や行政責任を追及する十分な法制度がなく、全てが刑法の収賄罪・贈賄罪(刑法第197〜198条)で対処されている。また処罰が末端公務員に集中、政治家・高級官僚が関わりやすい賄賂行為が「職務との関連性」「請託の有無」などの限定的な解釈の下で見逃され、免罪されているのが実情である。もちろん、組織的犯罪対策法には、「汚職の犯罪化」は欠落している。
ロ.「汚職の犯罪化」と「おとり捜査」が結びつくと
条約は「おとり捜査」「司法取引」という「特別な捜査手法」を勧めている。「おとり捜査」自体の危険性は(6)で検討するが、この手法が公務員腐敗摘発に使われた時の危険性には十分な警戒が払われるべきである。
おとり捜査は、麻薬犯罪などでさまざまな国が使っているが、賄賂などの公務員犯罪の刑事訴追で多用しているのはアメリカである。司法取引制度もアメリカの刑事司法の特色のひとつで、公務員汚職の捜査・訴追で多用されている。アメリカの連邦最高裁人事が極めて政治色の濃いものであることはマスコミで報じられている通りであるが、独立検察官も含め連邦検察も例外ではなく、「政治主導型の刑事規制手続き」と特徴づけられている(王 雲海『賄賂の刑事規制』)。政敵を追い落とすために、覆面捜査官が罠を使って政治家・公務員を贈収賄に引きずり込み、法廷で虚偽の証言をして消えるという映画まがいの事態が生じうるのである。
(6)「特別な捜査手法」A−泳がせ捜査・おとり捜査〔第20条〕
第20条は、@「監視付移転」A「電子的監視その他の形態の監視」B「覆面捜査等」の「特別な捜査手法の利用」を定めている。
イ.泳がせ捜査の危険性
@「監視付移転」(コントロールド・デリバリー)とは、例えば麻薬の小包を配送途中で警察・税関が発見した場合、その場で差し押さえないで、受取人をつきとめて逮捕することである(泳がせ捜査)。麻薬特例法第11条で日本にも導入された。B「覆面捜査」とは警官が身分を隠して対象組織に潜入、内部から情報を入手したり、ある場合は、罠をかけて犯罪の実行に誘い込んだうえで逮捕する(おとり捜査)ことである。
@は、犯罪に嫌疑あるものの常時の尾行と監視の公認をもたらすものであり、日弁連は麻薬特例法制定時に、「捜査における適正手続の保障や処罰規定における罪刑法定主義など、刑事法制の諸原則を大幅に破る恐れがある」とし、「麻薬等の取り締まり目的に厳格に限定される事が保障される場合に限り」との条件をつけて支持した曰く付きの手法を一般化しようとするものである。しかし、水際作戦・薬物追及などの従来の方針を転換させ、薬物や所持者を入国させ背後の大物を逮捕し密売組織を一網打尽にするとの麻薬特例法施行以降10年の結果は、国内での麻薬の蔓延であった。
ロ.おとり捜査は冤罪を大量生産
Bは、麻薬特例法・銃刀法で銃などを譲り受ける形でのおとり捜査は合法化されたが、原則的には認められていない。「捜査機関が罠を使って、執拗に、人々を犯罪行為にはめ込んだ上で、または、犯罪の潜在者を犯罪の実行に誘い込んだうえで、検挙する」のはいわゆる「司法の廉潔性*14・誠実性」を脅かし、憲法第31条法定手続きの保障に違反する。
アメリカのハンプトン事件でおとり捜査の実態と違法性をみてみる。事件は、ハンプトンが金が必要だとおとり捜査官に相談→捜査官が麻薬販売の計画を提案し合意→捜査官が麻薬を提供→他の連邦捜査官に売りに連れていって現行犯逮捕という経緯であり、捜査官自身が犯罪を作り出したようなものだが、おとり捜査が合法化されているので有罪とされた(1976年)。
日本では有名な菅生事件(1952年)がこの典型であり、駐在所爆破に深く関与した潜入警官戸高公徳は後に出世、今も謀略機関(日本リスクコントロール社)にいる。近くは、’95年銃刀法改悪以降、警察庁が潜入捜査を指示、「情報を得るためには手段を選ぶな」「殺し以外は面倒をみてやるから」などと国営暴力団らしい姿をさらけだしている(『手記 潜入捜査官』)。違法捜査は必ず組織の構造的腐敗を深めるのだ。
注意しなければならないのは、こうした「特別な捜査手法」が「組織犯罪集団」捜査として行われ、捜査当局が集団にスパイを送り込む場合の事後措置が条約第26条[法執行当局に対する協力拡大の為の措置]で規定されていることである。集団の構成員をスパイに仕立て上げたりした場合も同様だが、潜入捜査官がある重大犯罪を提案、「よし、やろう」となった場合、共謀罪が成立、しかし潜入捜査官も同じ罪に問われるから、ちゃんとその救済措置を「処罰を緩和」「訴追の免除」「保護」として準備している。
民衆を誘惑し犯罪を行わせる、警察が自ら犯罪を行い民衆を共犯者に引き込む「特別な捜査手法」は刑事訴訟法の前提となるデュープロセスの破壊であり、日本のスパイ社会化、相互監視と密告社会化である。冤罪が大量生産されることは目にみえている。
(7)「特別な捜査手法」B−電子的又はその他の形態の監視〔第20条〕
イ.急速に進む電子的監視
A「電子的監視」とは電話(携帯電話も含む)盗聴やインターネット監視のことであり、アメリカでは、小型マイク利用による自宅・クラブ・自動車内の会話の盗聴も含まれる。その他の形態の監視とは、街頭・店内カメラやNシステム、あるいは「顔紋」照合などハイテクを駆使した社会監視のことである。電子的又はその他の形態の監視は、2000年8月(’01年9月最高裁が合憲判決)に盗聴法が施行され、本年末までには歌舞伎町24時間監視カメラ作動やNシステム合憲判決など日本でも着々と進行している。
警察の盗聴がプライヴァシーを侵害し、様々な民衆運動の組織的解体を狙うものであることは改めて言うまでもないが、それは、従来の捜査の概念を根底から覆し、未だ犯罪が発生していない段階での予防的な強制捜査権限を与えたという点でも極めて攻撃的なものであった。
条約そのものは電子的監視の内容を定めていない(条約審議の中でも電子メール盗聴が含まれるかどうかは結論がでていない)が、この間進められている@サイバー犯罪条約の内容、A「反テロ国際包囲網」を口実としたアメリカ・イギリスなどでの盗聴権限拡大の動きからして、組対法三法反対運動の高揚の結果、警察にとって「使いにくい」とされる盗聴法の改悪攻撃は必至の状況に入っている。
ロ.「サイバー犯罪条約」の危険性
アメリカ・イギリスなど英語圏五カ国の大規模な国際的盗聴網(エシュロン)が、軍事・外交・商業・個人通信を監視していることが暴かれた。EUは国際協定違反と抗議する一方、自らの主導権で「サイバー犯罪条約」の締結を目指している。
サイバー犯罪条約は、'97年頃から欧州評議会で制定作業が進められてきたが、今秋にも採択され、コンピュータ犯罪に関する初の国際条約として発効しようとしている。ちなみにアメリカ・カナダ・メキシコ・日本も起草段階から参加している。この条約は、その技術的・方法的性格において、従来の「物」を対象とした捜査・押収の概念を「記憶データ」という新たな領域に拡大させることを通して、強制捜査における令状主義の原則を緩和し、警察のグローバル化・権限の強化を飛躍的に進めるものとなっている。
条約の内容は、違法アクセス、違法傍受、データ妨害、システム妨害、コンピュータ関連偽造、同詐欺、児童ポルノ関連犯罪、著作権等侵害犯罪を新たな犯罪類型とし、手続き法については、コンピュータ・データの緊急保全、個人に対するデータ提出命令、プロバイダーへの加入者情報の提出命令、捜索・押収、トラフィックデータ(受・発信地、経路、日時、サイズなど)及びコンテント・データ(通信内容)のリアルタイム盗聴などについて各国が法整備するよう求めるものである。
実体法部分については日本では既に不正アクセス禁止法、刑法のコンピュータ犯罪規定、児童ポルノ禁止法などが法制化されているが、サイバー犯罪条約が手続き法として求めているコンピュータ情報等に対する捜査については全く規定が設けられていない。条約の求めるコンピュータ・データの捜索・押収は有体物を対象とする刑訴法では認められていない(ガサ入れの現場ではハードディスク、フロッピーディスクなどの媒体を有体物とし押収している)。
また日本の盗聴法の前提犯罪は4犯罪だが、条約は、トラフィック・データについてはコンピュータを使う犯罪であれば全て、コンテント・データについては「重大犯罪」といずれもゆるやかで、広範な盗聴を認めている。その他にも通信業者や管理者を警察の手先とする、双罰性を問わないなど、極めて危険な内容の代物となっている。日本がこの条約に調印・批准するとすれば盗聴法改悪は必至となる。
ハ.盗聴法改悪攻撃は必至
「反テロ国際包囲網」を情報面から検討してみる。現在進行形であり、全容が明らかにされていないことを前提にしても、すさまじい限りの暴走であり、市民団体などからの「自由を脅かす」との反対・懸念の声が強まっている。
独自の偵察衛星で地上通信を盗聴、超大型コンピュータで暗号を解読、英語に翻訳する、あるいは電子テレスコープで地上の動きを追尾するシステムを誇ってきたNSA(米国家安全保障局)も「カーニボー」で盗聴するFBI(連邦捜査局)CIA(中央情報局)も今回のハイジャックを探知できなかったことに衝撃を受けたブッシュ政権は、盗聴を全社会に押し広げようとしている。
狙っているのは、特定の電話番号に限られていたのを不審者が利用する全ての電話に拡大、州や裁判所の許可がなくても捜査当局が自由に盗聴できる、インターネット上の暗号利用規制、外国情報機関の盗聴情報が憲法修正4条(不当な逮捕・捜索・押収の禁止)に違反していても捜査に使用できる、など文字通り捜査機関にフリーハンドを与えることである。更に個人情報取得を簡単にできるようにするなど、「テロ対策」に名を借りた治安立法が目白押しとなっている。イギリスでも、電子メールの監視権、盗聴記録の公判での証拠採用など盗聴権限拡大や全ての国民にIDカード(身分証明書)所持を義務づける法案などが画策されている。
事件以前から様々に策動されていた治安管理強化策だが、あまりの暴走に、リベラルから保守まで150以上の人権擁護団体や宗教団体、法律家団体などが、「自由の防衛」と題した声明を発表するなど、プライヴァシー侵害をくいとめる反撃が強まっている。
アメリカ・イギリスなどの盗聴権限強化は、条約が「ループ・ホール理論」(抜け穴を防ぐ)に則っている以上、日本が追従すること必至である。
(8)「司法妨害の犯罪化」〔第23条〕と「証人の保護」「被害者への援助及びその保護」〔第24条、第25条、第26条4〕
見てきたような新たな大量の犯罪類型創出と人権侵害多発必至の特別な捜査手法導入は、それを実行する司法・捜査機関を絶対化することなしには不可能である。「司法妨害の犯罪化」によって司法を絶対不可侵の聖域と化し、その庇護の下に「証人の保護」や「司法取引・刑事免責」の手法を使って「組織犯罪集団」を切り崩し解体するというのである。
第23条(a)「虚偽の証言をさせ又は証言若しくは証拠の提出を妨害するため、暴力、威迫若しくは脅迫を用い又は不当な利益の供与を約束し、申し込み若しくは供与すること」は証人威迫罪(刑法第105条の2)と、(b)「司法機関又は法執行機関職員の公務を妨害するため、暴力、威迫又は脅迫を用いること」は公務執行妨害罪(同第95条)と同趣旨であり、前者は、組対法によって法定刑が1年以下から3年以下に引き上げられた(第7条)。そしてこれとセットになって第24条[証人の保護]が定められている。
特徴は証人威迫罪のように「面会を強請し、又は強談威迫」と実行行為が曖昧であれ明文化されるのではなく「潜在的な」報復又は脅迫からの保護とされていることである。潜在的な報復とは何のことかと思うが、恐らくは、刑訴法改悪が、「加害等の防止を図る」に留まらず「証人等の不安を軽減、除去するため」に行われたのと同じ流れの中にある。従って、主観的でもある証人(被害者、目撃者、捜査・訴追に協力した犯罪関与者など)の不安を除去するためには、「被告人の権利を害さない範囲で」とあえて注記せざる得ないほど徹底した措置が求められる。
具体的には@住居の移転、A人定及び所在に関する情報の非公開又は制限、Bビデオリンク等を通じた証言であり、刑訴法改悪でABの一部が法制化され、証拠開示が厳しくなる、傍聴席や被告席から証人を見えなくする衝立裁判が行われるなどが既に強行されている。裁判の大原則である直接主義がモニターを通じることで損なわれ、防御権・弁護権が侵害されてきているのである。
モデルとされていると思われるアメリカの「証人保護プログラム」では、証人等は、氏名を変え、遠く離れた土地に住居を与えられ、職業を斡旋される。氏名や住所の変更に伴って生じる社会保障番号、運転免許証等の変更も行われる。又、生活が軌道に乗るまでの間、一定の金額が支給され、司法省関係者が定期的に訪問する。
ここまで来れば、捜査当局が、身の安全も含めて証人を長期間コントロール下に置くことが、刑事裁判による真実の発見にとって、はたして意義があることだろうかという当然の疑問が湧いてくる。証人保護を口実にした反対尋問権の制限や身元の非公開、ビデオリンク方式は、匿名証言や覆面証言という暗黒裁判に道を開きかねない危険を秘めているといわざるを得ない。
(9)「司法取引・刑事免責」の導入〔第26条〕
イ.「司法取引」は証言強制の別名
第26条[法執行当局に対する協力拡大のための措置]は、「組織犯罪集団に参加している者又は参加した者」に対し、情報提供と犯罪収益剥奪への協力を呼びかけ、「実質的な協力を行う被告人に対する処罰を緩和する可能性」「実質的協力を行う者に対し訴追の免除を付与する可能性」を規定することを考慮するよう求めている。
「司法取引」とは「訴追裁量権の取引的行使」と定義され、要するに「犯罪者」に対して減刑あるいは免罪を餌にして警察・司法当局の捜査に協力させるというものである。@被告の有罪答弁と引きかえにした訴因縮小や求刑引き下げ、A被告の有罪答弁プラス捜査協力と引きかえにした隍訴因縮小や求刑引き下げ隘不起訴(免責の合意)など様々な形がありうる。B「刑事免責」は同じく訴追裁量だが、免責を一方的に付与することで自己負罪拒否特権*24を失わせて供述を強制し、その供述を他の者の有罪を立証する証拠とする制度である。取り引きではなく、証言強制であり、拒否すれば新たに処罰される。B刑事免責(供述強制)には隍行為免責(証言をした人に関しては一切起訴しない)と隘使用免責(証言した内容をその人の刑事事件の証拠として使わない)という二つの類型があり、アメリカでは後者が主流となっている。
ロ.「司法改革」攻撃とセットで進行
法務省が1997年に最初に出した組対法案(刑事局案)では、B刑事免責隘(使用免責)の導入がうたわれていたが、刑法学会などでの議論が不充分であり時期尚早として、法制審諮問の際に外された。しかし今、条約批准策動と「司法改革」策動の煮詰まりの中で、「刑事免責制度等の新たな捜査手法の導入」が叫ばれている。
司法制度改革審議会意見書は、「争いのある事件とない事件を区別し、捜査・公判手続の合理化・効率化を図る」ための有罪答弁制度、「組織的犯罪等への有効な対処」としての刑事免責制度、「捜査段階における参考人の出頭強制制度」(任意出頭の強制化!)を検討課題としている。「効率化」と「組織犯罪への有効な対処」を旨としている以上、有罪答弁にしても司法取引の要素は薄く、むしろ捜査から公判までの全過程での、証言のみならず証拠提出強制を含む、刑事免責(使用免責)制度導入を主眼に画策されているように思われる。
'97年の法務省刑事局案は、@捜査段階での証人尋問請求又は公判での証人尋問で、A供述を拒否している証人(捜査段階では虚偽供述の疑いがある場合を含む)に対して、B使用免責(本人に不利益な証拠として扱わない)を与え、C証言を拒んだ者は六月以下の懲役もしくは五十万以下の罰金(併科も)に処するとしていた。また弁護人の在席は支障がない場合に許容とされていた。自己負罪拒否特権・黙秘権を侵害し、弁護人の援助を受ける権利を奪い、司法・捜査機関の都合のみ優先させた新たな供述強制制度の導入を許すわけにはいかない。
ハ. 運動と人格破壊を目指す卑劣な手法
ロッキード事件最高裁判決は、「刑事免責の制度は、自己負罪拒否特権に基づく証言拒否権の行使により犯罪事実の立証に必要な供述を獲得することが出来ないという事態に対処するため、共犯等の関係のある者のうちの一部の者に対して刑事免責を付与することによって自己負罪拒否特権を失わせて供述を強制し、その供述を他の者の有罪を立証しようとする制度」であるとする。供述強制制度の(慎重なという但し書きつきとはいえ)立法を現憲法化で容認する判決への批判は別にするとして、この判決は、集団犯罪に関して、供述強制制度を導入するということは、仲間を裏切らせて自白した者を軽く処罰し、それ以外の関係者が否認していようが有罪にして、重く処罰することになることを意味するとあけすけに認めている。それ故に「これを必要とする事情の有無、公正な刑事手続の観点からの当否、国民の法感情からみて公正感に合致するかどうかなどの事情を慎重に考慮」すべきだとしている。司法審意見書も同じ立場である。しかしその場合に、自分の罪を軽くする為に他人に責任を転化する者が現れないとも限らないし、更に、本当は罪を犯していない関係者を罪に陥れるために国家権力が、ある者に偽証させることも考えられる。そして、国家権力が「スパイ」を組織に入れておいた場合に最終的な「救済措置」として機能することをも意味する。
人質司法の下での「お前は許してやる。全てあいつが悪いんだ。本当のことを話せ」という警察=悪魔のささやきは、厳しい獄中の闘いを強いられている者にとってある程度力を発揮する。しかし人間の弱さにつけ込む刑罰制度とは卑劣である。供述強制制度は、団結、という以上に人間相互の信頼関係を解体し、供述した者も含め人格をずたずたに引き裂くのである。ましてや供述が真実とは限らない。冤罪を助長する制度といわざるを得ない。
(10)「防止」〔第31条、第28条〕―「組織犯罪対策」への翼賛と動員
条約は、司法・捜査当局の「組織犯罪壊滅作戦」であると同時に、もうひとつ組織犯罪対策への市民社会の翼賛と動員を狙っている。企業・団体など市民社会のあらゆる要素を、守るべき国家への翼賛・動員を通じて一体化させ、市民社会の中に「市民対非市民」の新たな対立と排除を作り出すことが狙われている。
この間、日本でも急速に進んでいる「市民的治安法」(ストーカー法など)の制定や弁護士会の刑事弁護ガイドライン策定などがその現われである。
第31条[Prevention]は、外務省・警察庁訳では[防止]とされているが、内容からしても日弁連訳[予防]が正しい。意図的に、事件発生以前からの監視・管理・統制を狙っていることを隠そうとしているのである。予防の焦点は、@司法・捜査・税関など国家権力と私的団体との相互協力、A公的・私的団体の廉潔性を保障するための基準及び弁護士・税理士などの行動規約の作成、B公的機関の入札・商業活動からの排除、C組織犯罪集団による法人の悪用の防止((・)公的記録、(・)有罪者の役員資格剥奪とリストアップなど)Dマスメディアを使った組織犯罪への民衆の認識の促進などに据えられている。企業・労働組合・各種NGOの動員、今まで権力から独立していた弁護士などの包摂・規制、そして組織犯罪集団及び有罪者の社会からの排除・抹殺をすすめ、マスコミなどを通じて組織犯罪との闘いに民衆の自発的参加を促すというのである。
「社会的底辺集団が国際的組織犯罪の活動により影響を受けやすくしている状況を緩和する」(警察庁訳では「国際組織犯罪の活動にさらされる」と意図的誤訳)などという規定は、帝国主義的な政治・経済秩序の世界化(グロバリゼーション)に反対する労働者・民衆、民族の解放闘争などを「組織犯罪」として抑圧する傾向を感じさせる。
(11)「法律上の相互援助」「刑事手続きの移管」「犯罪経歴の立証」「共同捜査」「法執行協力」「訓練及び技術援助」「その他の措置:経済成長及び技術援助を通じた条約の実施」〔第18条、第19条、第21条、第22条、第27条、第29条、第30条など〕
条約はいたるところに捜査・訴追及び司法手続きの相互協力を規定し、世界的な監視・管理・弾圧体制のレベルアップと標準化を狙っている。
捜査の為の情報・技術及び人的交流の飛躍的強化は、二以上の国による「共同捜査班」の設置にまで具体化されている。ある場合には、捜査を日本警察とCIAが共同して行うというのである。既に反基地運動などの警察情報はアメリカに提供されている。もっとも、この条約では、「双方可罰性の不存在を理由として…相互援助を与えることを拒否することが出来る」としており、「サイバー犯罪条約」とは異なる。サイバー犯罪条約では、事件が二国間にまたがる時、一国(例えばアメリカ)においては犯罪だが、他の国(日本)では合法の場合でも、日本に対しての捜査協力を求めうるとの踏み込んだ規定となっている。
現在カナダ捜査当局が、ケベックでのWTO反対運動関係のサイトへのアクセスログの提供を米国シアトル警察に要請しデータが提供されるという事態に対し「米国憲法に違反する」という訴訟が争われている。双罰性が欠如していても「裁量的に決定する範囲内において援助を与えることが出来る」とする本条約、あるいは「サイバー犯罪条約」が批准されてしまえば、こうした当局の行為は合法化され、逆に日本の「歴史教科書」への批判の一環として韓国民衆が呼びかけたサイバーデモなどは、サイトへのアクセスを妨害する行為として、犯罪化される恐れがある。
既にEUでは、1999年以降ヨーロッパ刑事警察機構が国境を超えた活動を始めており、タスクフォース(特殊任務を持つ機動部隊)の枠内で各国の捜査支援を行っている。日本も韓国・中国などと治安協定を結び、「KOBAN」など日本警察システムのアジアへの輸出が進められ、アジア太平洋地域の国際会議・セミナーが頻繁に開かれている。条約はこうした全世界的な「治安共同体」を構築する為に没収した資金の一定割合を国連に設ける基金に拠出し、「開発途上国」への「資金上のまたは物質上の援助を拡大する」とまでしているのである。
まとめにかえて
条約が狙っているのは、裁判所・検察・警察の飛躍的な権限強化と、組織犯罪対策を口実にした労働者民衆の国家・社会防衛への翼賛・動員であり、世界大での「治安共同体」(エドウィン・クーベ前ドイツ連邦刑事警察庁)を創り出すことにある。CIA、MI6、旧KGB、モサド、ニッポン警察など世界の諜報・捜査機関が結びつく。
条約が目指しているのは、あらゆる活動はもちろん心の中まで国家によって監視・管理・動員される極めて息苦しい社会である。スパイと密告、相互監視がはびこり、一切の反抗・異議申立ては封じ込められ、声をあげれば弾圧される。それはジョージ・オーウェルが描いた『1984年』社会のハイテク版・世界版である。
しかし「治安共同体」などを掲げざるを得ないのは、支配が総体として危機に陥っているからでもある。世界恐慌の足音が高まる中での、アフガニスタン戦争の開始は、21世紀前半の世界を激動に突入させる。いわゆる「反テロ国際包囲網」によって労働者民衆の反撃が圧殺し得るものでないことは、RICO法適用によって弾圧された労働組合チームスターが97年大規模なストライキでパート労働者の権利を勝ち取ったことで証明されており、反グローバリゼーションの闘いは世界各地で進んでいる。民衆の結びつき、団結と連帯を国家の暴力によって根絶しうると考えるのは、権力の思い上がりである。
私達は全力で、国際的組織犯罪条約の批准阻止に向けて立ち上がる。前倒し実施と対決し、全面的な団体取締り法の国会上程を阻止する。その攻防の中から、グローバルな警察・法執行権力の形成に対し、国民国家への私達自身の呪縛を払い、その枠を超えた労働者民衆の解放運動のありようを模索する。正念場に一挙に突入した今、強靭かつ広範なスクラムを創りだし、一歩踏みだして、ともに闘おう。
http://hanchian.org/kyoubou/kokusaijouyaku-hihan.html
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