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□米軍再編、最終合意 軍事が突出する危うさ [朝日新聞・社説]
http://www.asahi.com/paper/editorial.html
【社説】2006年05月03日(水曜日)付
米軍再編、最終合意 軍事が突出する危うさ
軍事面での協力ばかりが突出して進んだのではないか。負担軽減というが、日本が背負うことになった新たな負担の方が重大ではないのか――。米軍再編をめぐる日米の最終合意を読んで、こんな疑問や心配を抱かずにはいられない。
3年半にわたって続いていた米国との協議の結論は、単なる米軍基地の移転や再配置にとどまらない。日米同盟の協力は「新しい段階に入る」と政府が言うように、同盟のかたちを質的に変えようとするものだ。
米軍と自衛隊の司令部が同じ基地に併設されるなど双方の一体化を進める。日本は米戦略により深く組み込まれることになるが、その一方で沖縄などの基地負担は軽減される。今回の再編を大まかに言うと、こんな構図になる。
●負担の実像を示せ
全国の米軍基地のうち4分の3を引き受けている沖縄の荷が軽くなる。その見通しが開けてきたことは評価したい。
ただし、新たな負担が山のように並んでいる。
まず、米軍を引き受けることになる「基地の町」の重荷だ。政府は普天間飛行場が移設される名護市とは折り合ったものの、沖縄県は反対の姿勢を崩していない。山口県岩国市や神奈川県座間市も「ノー」を突きつけている。
地元住民らへの説明は一貫して後回しにされてきた。なし崩しで、あれよあれよという間に基地機能が移ってきたり、軍事協力が進んだりすることになってしまった。こんな印象を抱く人は少なくないだろう。これで本当に基地の再編が進むのか、深刻な疑問を感じざるをえない。
費用の負担もすっきりしない。米領土であるグアムにつくる基地の経費を、今回の合意のように日本が7千億円も負担すべきなのだろうか。そのうえ米国防総省の高官からは、再編にかかわる日本の総負担額は「3兆円」という数字が飛び出した。
政府は「途方もない額」(安倍官房長官)と首をすくめているが、否定するわけでもない。自国の納税者に説明しようとしない異常な事態だ。
小泉首相は、費用負担についての関連法案を次の国会に先送りする方針だ。米国への約束を優先し、肝心の国民への説明や説得はポスト小泉の政権に丸投げする。これではあまりに無責任だ。
●歯止めはあるのか
今回の最終合意では、日米同盟を「グローバルな課題」に対するものと位置づけた。民主主義や人権などの価値を共有する国として、共通の戦略目標を追求するとの原則は分かる。
だが、日米の国益がいつも重なるとは限らない。文化も歴史も、取り巻く国際環境も違う。きょう59歳を迎えた日本国憲法の理念もある。日米で戦略的な優先順位が異なることはあって当然だ。
昨年2月の協議では、共通の戦略目標として具体的に中国や台湾海峡、朝鮮半島、ロシア、東南アジアなどに触れた。テロの根絶といった「世界の戦略目標」も掲げられた。
確かに共通の関心地域、関心事項ではある。だが、この目標のもとに日米の軍事協力が位置づけられ、自衛隊や米軍基地の新しい役割が描かれるとなると、よほどきちんとした歯止めが必要だ。
ましてイラク戦争をはじめ、ブッシュ政権の単独行動主義的な戦略には危うさがある。共通戦略を掲げたからといって、どこまでも付き合うわけではないことを明確にする必要がある。
日米同盟の「新しい段階」とは具体的に何を意味するのか。どんな負担が新たに生じるのか。政府はきちんと説明しなければならない。
最終報告をまとめたワシントンでの日米閣僚安保協議では、中国の軍事力への懸念が示された。中国の軍拡の不透明さに関心が向くのは当然である。
ただし忘れてはならないことがある。軍事面での協力はあくまで両国の総合的な対外戦略の一部であり、もしもの事態に備えた、いわば保険のような話ということだ。
米国の対中戦略は、中国を責任ある国際社会のパートナーに誘導していくことにある。そのために外交や経済、文化などの政策手段を動員し、軍事はその一つを担うにすぎない。
いまの日本は、首相の靖国参拝など歴史問題のこじれから、外交がほとんど機能していない。戦略としてはまったくバランスを欠いている。
●求められる外交戦略
今回の協議では、防衛庁と国防総省の存在感が極めて大きかった。外交は後景に退き、軍事面での協力ばかりが前面に出ることになった。
近隣国の懸念を解くためにも、国民の納得を得るためにも、「もしも」を防ぐための外交戦略をセットで示す必要がある。これが欠けている限り、軍事同盟でどのような協力の姿を描いたところで、きな臭く、相手を刺激するばかりにもなりかねない。
軍事のない同盟は存在しないが、軍事が先走りする同盟は危険だ。日米同盟はもっと広い政治的な文脈の中において考える必要がある。
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