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憲法記念日 情熱をどう取り戻すか [毎日新聞・社説]
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投稿者 white 日時 2006 年 5 月 03 日 11:56:48: QYBiAyr6jr5Ac
 

□憲法記念日 情熱をどう取り戻すか [毎日新聞・社説]

 http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/shasetsu/

憲法記念日 情熱をどう取り戻すか
 憲法記念日を迎えた。日本は憲法にかかわるさまざまな難題を抱えたまま、今年も政治の世界で改正のエネルギーは散逸し凝縮することはないだろう。
 2年以上経過したイラク・サマワの自衛隊は、復興支援も行き詰まり、本当に必要な治安維持活動はできない中途半端な存在で、帰国のきっかけも失い戸惑っている。憲法と日米同盟関係両方の制約の板ばさみで致し方ないとはいえ、妥協と場当たり戦法のしわよせを現場に押し付ける政治の怠慢と無責任さは歴然だ。
日本の位置取り再確認を 世界規模の米軍再編でも、テロとの戦いに協力を約束した日本政府が3兆円の資金負担を要求されている。国民の心の中でそれを是とする準備は明らかにない。その旨の説明を受けた記憶もない。この負担問題で日本国政府は何を根拠にどちらを向いて誰をどう説得するのか。前代未聞の国内にいる外国軍の再編費用の大半をこちらで持つ最終的な根拠は憲法におかなければいけない。小泉流ですき間や常識的付き合いに根拠を置く手法は禍根ばかりたまる。
 靖国参拝にしても中国や韓国からの非難もさることながら、政教分離の憲法上の疑義を軽視している。事実先行、公人の私的行為を世界が公式に見ているおかしな形態のまま慣れで対応している。
 年に一度の憲法記念日特有の憲法的視点で見直すとあちこちにゆがみが見える。そのゆがみはそろそろ限界の印かもしれないし、限界をはるかに超えてしまったゆえの現象かもしれない。
 中国、韓国の2大隣国との政治的関係が、思わしくない状況を通り越して悪化の一途をたどっているのは、憲法が抱える矛盾を放置ないしごまかしているからでもある。政教分離をうたいながら首相が靖国神社に参拝し分離を厳格に守らないことにも起因する。自衛隊の憲法上の位置づけが、そもそもから全面的に解釈で成り立っていることも、外から見て日本全体が透明性に欠け、ある種の不信感をぬぐいきれない元になっているかもしれない。
 おかげで人類史を変えるほどの成長盛り、一番大切な時期の中国との対話ができずに5年を無駄にした。百年に一度もやってこないプラス方向での日中連携の絶好機を逃したかもしれない。気がつけば追い越され、アジアでの主導権ははるか向こう、手の届かないところにいってしまいそうだ。欧州並みの共同体形成に今後30年、50年の夢を見てみようとした東アジア共同体構想も日本は決してその中心にいない。
 それだけではない。そうした日本の国際的位置取りの結果、国連安保理常任理事国入りの話も完全に頓挫してしまった。常任理事国入りは現在の平和憲法が本質的に目指す60年の願いだったにもかかわらず、かなわなかった。
 一方で日本は沖縄の海兵隊移転を含む米軍再編費用の大半を負担するよう求められた。日本の安全保障の値段だから金額の大きさだけで不当かどうかは直ちに判断できないが、少なくとも納得ずくでなければいけない。憲法上、日本国政府は国土と国民を外からの攻撃に対し米軍なしでは守れないので、米海兵隊がグアムにいることなどが必要なのだ、したがってこれだけ出すことにしたと、ちゃんとした憲法に基づく説明で国民の合意を取り付けることが最低限必要であろう。
 憲法が現行のような憲法でなければこの費用負担はない代わりに、自衛のためどれだけの費用がもっとかかるか、あるいは案外少なくてすむかの説明もするのが、責任感ある立派な民主的近代政府であろう。
 自民党結党50周年でやるはずだった憲法改正は、示された改正案の中身が説得的でなく、国民的な盛り上がりに欠けたまま放置されている。初めから満点の改正案は誰も期待していない。しかし、よしこれなら今の憲法より魅力的で、日本がより立派な国になれるかもしれないという期待感を抱かせるものではなかった。
 無機質な前文は現行憲法の前文が持つ行間を含めた熱情の前では、試験に通るためだけの味気ない模範解答にしか見えない。自衛軍など大きく変える部分も、他の条文に比してそこだけがやけに突出して言い訳がましくバランスが変だ。これでは百年の大計を目指して国の基本を変えようという人々の情熱を呼び起こさない。
肩すかしでよかったか 憲法改正は理屈だけでは到底動かない。変えたい人間の情熱を呼び起こさなければ絶対にできない大事業だ。そのためには政治の中心にいる首相そのものにその情熱がなければできない。そもそもそこが欠けている。もし憲法に起因する諸矛盾を解消し、目的をはっきり持った日本国を再建しようとするならそこから、つまり首相から選び直さないとできないことは今回何よりもはっきりした。
 前例がないほどの巨大連立与党を実現し、民主党も憲法改正にやぶさかではない時期を共有しながら、結局そうならなかったのは時の首相の選択である。
 憲法改正という日本ではおそらく政治的に最大の難事が必要になるであろう現実は、集団的自衛権の行使と自衛隊の海外派遣がどうしても必要になる時と見られていた。ところが小泉純一郎首相はその特有の直感がもたらす大ざっぱさで特別立法し、サマワに自衛隊を送り込んで現実的処理をし、憲法改正の切羽詰まった必要性をとりあえず解消してしまった。
 それが長い目で果たしてよかったかどうかは歴史の判断だが、憲法というものが秘め持つあるべき何か崇高なものを追い求めたい心にとっては、ひどいめくらましとごまかしであった。大きな機会は必要性と情熱両方の消失によって失われたのである。
毎日新聞 2006年5月3日 0時05分

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