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特報
2006.05.02
『共謀罪』 与党修正案を検証する
「相談罪」とも呼ばれる「共謀罪」創設法案。法律違反せずとも、話し合えば逮捕できる同法案(政府原案と与党修正案)には野党、弁護士、NGO、左右の論客から「密告社会をつくる希代の悪法」との批判が強く、民主党が修正案を出した。しかし、自公両党は五月九日の衆院法務委参考人質疑ののち間を置かず、与党案を強行採決の意向だ。大詰めの法案を検証する。 (市川隆太)
きっかけは国連の国際組織犯罪防止条約だ。法務省は同条約で義務が生じた組織犯罪対策の一環として共謀罪の新設が必要だと主張している。一方、国連での審議を見守ってきた日弁連は「国連といっても、各国の担当者は捜査機関だった。それに日本政府は当初、共謀罪は日本の法体系になじまないと反論していた」と指摘する。
「日本の法体系」とは、どういう意味だろう。犯罪を思いついてから罪を犯すまでの流れは「共謀」(犯罪の相談。単独犯なら「決意」)→「予備」(武器などの準備)→未遂→既遂という順だが、日弁連は「日本は近代刑法にのっとり、一部の重大犯罪だけ予備段階で罰するが、残りは被害発生の場合のみ罰する法体系。共謀罪新設は近代刑法の否定だ」と指摘する。
どんなことを話し合うと共謀罪で捕まるのか。識者の意見をもとにまとめた。
▼ケース1 希少生物の生息する森にマンション建設が強行されると分かり、町内会と環境保護NGOが「建設会社ロビーで座り込み運動をしよう」と決めた。この場合、合意したメンバーは実行しなくても「威力業務妨害罪」の共謀罪。
▼ケース2 議員選挙の陣営で「アルバイトに金を払って有権者への電話作戦を展開しよう」と決めた。実際に支払わなくても、公職選挙法の「買収罪」の共謀罪となる。
▼ケース3 脱税をもくろむ会社社長が顧問税理士に「経費水増しの帳簿操作をしたい」ともちかけた。税理士は、実行するつもりはなかったが、「いいですよ」と言って、その場をやり過ごした。この場合、二人とも「法人税法違反罪」の共謀罪となる。
▼ケース4 新商品開発会議でライバル社の売れ筋商品そっくりの品物を販売しようとの意見が出て、出席者は合意した。社長のダメ出しにより、この案はボツとなったが、それでも出席者には「商標法違反罪」の共謀罪が成立する。
▼ケース5 ゼネコン社長が国会議員に「来年、五千万円、持って行きます」とわいろ提供を持ちかけた。議員はクリーンな性格で、そのうち断るつもりだったが、場の雰囲気を壊したくないので「ありがとうございます」と頭を下げた。これは「収賄罪」の共謀罪となる(現行法では社長にわいろ申し込み罪が成立するだけ)。
こうした指摘に対し、法務省は「まじめな一般市民を適用対象にすることはない。対象は暴力団、詐欺組織など」と強調してきたが、過去の国会審議で与党からも不備が指摘され、法案は二回も廃案になった。そして、今国会、与党が修正案を提出した。
■与党も不備指摘 過去2度の廃案
「警察はちょっと抜けている方がいい。でないと、喫茶店でお茶飲んでるだけでしょっ引かれる」。戦中、戦後を新聞記者として生きた大学の恩師の口癖だ。治安維持法を武器に思想、言論を取り締まった特高警察の怖さを見てきた実感だろう。「銭湯の冗談も筒抜け」といわれた監視網。こんな世になるのか。 (鈴)
与党は「一定の犯罪を行うことを共同の目的とする団体によるものに限定する」という条文により、適用対象を狭めたとする。しかし、日弁連や野党は「これでは、過去に犯罪を遂行した団体とは限らず、NGOなどにも適用可能」と批判。この意見を参考に、民主党は組織犯罪集団に限定する「犯罪実行が目的で、あらかじめ任務分担がある継続的な結合体」との表現を盛り込んだ修正案を先月二十七日、国会に提出した。
また「共謀罪の対象となる罪が六百十九種類にも及ぶことが、一般市民の摘発につながる」との批判も強い。これは、政府原案や与党修正案が「懲役四年以上の罪」を対象罪種としたため。民主党修正案は「懲役五年超の罪」とすることで、対象罪種を約三百に絞った上、「国際的な犯罪」しか共謀罪は適用できないようにした。
このほか、「共謀」がどの時点で成り立つのかをめぐっても、野党や法律家から「あいまいで意図的な運用が行われる危険がある」との指摘が出ている。犯罪をもちかけられた時に、「うん、やろう」と具体的に答えなくとも、捜査当局や裁判所が共謀と見なすのではないか、との不安だ。
昨年十月の衆院法務委で、保坂展人委員(社民)から「言語なし、目くばせでも共謀罪は成立するのか」と問われた法務省は「目くばせでも十分、成立する場合はある」と認めた。
「そうであれば、本当は犯罪に反対だけど、場の雰囲気で一応、賛成のふりをした人まで共謀罪になるのか」というのが法律家などの指摘だ。「気が弱くて、つい、うなずいてしまった人も逮捕されるのか」という疑問も出されている。
こうしたことから、与党修正案は「合意」だけでなく「犯罪の実行に資する行為」を適用条件とした。しかし、さまざまなNGOなどから「資する、では寄付した市民や『頑張ってね』と激励した人まで含まれてしまうのではないか」との強い懸念が出ており、日弁連も「歯止めにならない」と話す。
政府原案では共謀に参加しても、捜査当局に自首した者は刑が減免されることになっているため、「戦時中のような密告社会に逆戻りする」との不安も指摘されている。日弁連は「この点は、与党修正案でも削除されなかった。わざと共謀に加わって自首し、相手を陥れることも可能になる」と批判する。
■「中止犯」の問題 放置されたまま
昨年十月の衆院法務委などで、柴山昌彦委員(自民)などからも集中砲火を浴びた「中止犯」の問題も放置されている。中止犯は「犯罪を思いついても思いとどまった人には刑を減免しなければならない」という刑法四三条の規定だ。「共謀後に『やめよう』と言っても共謀罪になってしまうではないか。あいまいだ」と矛盾をつく柴山氏に、法務省は「予備罪や準備罪にも中止規定は適用されない」と答弁したが、法律家らは「殺人・強盗などが対象の予備罪と、都市計画法や道路交通法まで対象の共謀罪を同一に語るのは、むちゃくちゃな話」と批判する。「誰でもいけないことを思ったり口に出すが、中止犯という“黄金の橋”があるから実行せずに戻ってくる。橋をはずしてしまってよいのか」(日弁連)とも。
この問題に詳しい弁護士らは共謀罪を施行済みの米国の事例を危惧(きぐ)する。「イラク戦争に抗議して、兵士募集ポスターに自分たちの血を塗るパフォーマンスを行ったキリスト教徒らが器物損壊容疑で逮捕され無罪となったが、次に、共謀容疑にあたるとして逮捕された」
一連の状況を見て、ジャーナリストの櫻井よしこ氏も言う。「共謀罪は暗黒社会の到来を意味する。住基ネットと合わせて、権力者が市民を監視する独裁国家になる。一体、誰が何の目的でこんな悪法を通そうとしているのか。市民の自由を守るため、思想信条の違いを超えて、共謀罪成立を阻止しなければならない」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060502/mng_____tokuho__000.shtml
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