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流言飛語の取締り (2)  【太平洋戦争下の労働運動】 法政大学大原社会問題研究所
http://www.asyura2.com/0601/senkyo21/msg/504.html
投稿者 愚民党 日時 2006 年 5 月 01 日 20:47:24: ogcGl0q1DMbpk
 

(回答先: 治維法・特高・憲兵による弾圧 流言飛語の取締り(1)  【太平洋戦争下の労働運動】 法政大学大原社会問題研究所 投稿者 愚民党 日時 2006 年 5 月 01 日 20:43:18)

日本労働年鑑 特集版 太平洋戦争下の労働運動
The Labour Year Book of Japan special ed.
第四編 治安維持法と政治運動
第一章 治維法・特高・憲兵による弾圧

http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/rn/senji2/rnsenji2-126.html

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第二節 流言飛語の取締り(つづき)

 敗戦が近づくにつれて、国民のあいだには、生活の苦しみにもとづく終戦の要望、徴兵・徴用・供出などにたいする反対、心理的サボタージュ、官僚・軍部・天皇家にたいする抗議・攻撃などを内容とする「不穏言動」はいっそう拡まり、たとえ小さなものであっても戦時下で相当の勇気を要するこれらの言動は、支配階級にとって最も危険な抵抗の表現として受け取られた。憲兵司令部の資料によれば、一九四四年の一年間に全国の憲兵隊があつかった「造言」の数は、六、二三二件にのぼり、うち大阪六二五件、京都四六四件、仙台四一二件、東京三四七件となっている。また内務省警保局の資料(後出)によれば、一九四四年四月から一九四五年三月までの一年間に「不敬、反戦反軍、その他不穏にわたる言辞、投書、落書」の件数は、六〇七件となっている(南博「流言飛語にあらわれた民衆の抵抗意識」、文学、一九六二年四月号)。同じ警保局資料によると、一九四五年一月から五月までの反戦反軍的言動は一三五件、不敬言動は四〇件となっている(内務省警保局保安課第一係「最近に於ける不敬、反戦反軍、其他不穏言動の状況」、一九四五年八月――林茂編「日本終戦史」上巻による)。(以下は両資料による)

 警保局は、このうち反戦反軍的言辞の内容を分類してつぎのように述べている――「(イ)生活逼迫を訴えて戦争停止を希ふもの、(ロ)無条件降伏を為すも責任を問はるるのは戦争指導者のみにして下層国民の生活に現実以上の悲惨は齎されずと為し敗戦和平を希ふもの、(ハ)上層軍人の特権的生活に露骨なる憎悪感を示すもの、(ニ)戦禍の悲惨を訴へて降伏を希ふもの、(ホ)軍部は自らの無能無定見を陰蔽し只管敗戦の責任を国民に転嫁しつつありとするもの、(ヘ)我国の敗戦必至なりとして即時和平の交渉を希ふもの、等が圧倒的に多く、特に従来は(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の内容のものが多かったのであるが、極最近に於てはそれに加へ(ニ)(ホ)(ヘ)の内容のものが相当増加しつつある。何れも軍部官僚等の特権階級は自ら戦争圏外の特等席に位置し乍ら無意味なる抗戦の犠牲を国民に強ひつつありとする階級的感情の自然発生と結合し居るものの多いことは注目を要する動向と思料されるのである。」また、各種の不穏な言動を検討した上で、その動機などについてつぎのように述べている――「先づその動機に於ては従来の如き一部性格異常者、不穏思想抱持者等の悪戯及び思想的動機に出たるものに加へて最近に於ては大衆一般の戦局悪化に伴う厭戦敗戦感と戦時生活の逼迫から自然発せる苦痛の中に根源を持つ具体的生活的動機のものが著しく増加して居る。従ってその内容に於ても極めて切実なものが多い。而かも何れも反戦反軍乃至厭戦敗戦的思想感情が斯種言動を一貫して居るといふ点にその特徴を窺ふことが出来るのである。特に極最近に至っては所謂其他不穏言動が愛国乃至憂国的動機より出たるもの、又は、施策に対する不満より政府或は官僚を誹謗せる類の内容のものから漸次厭敗戦色調の濃厚なるものに移りつつあると謂ふ実情は頽廃的自暴自棄に亘る歌詞歌謡の流行等と相俟って正に反戦反軍的思想感情の広汎なる〔ウン〕醸地を準備するものとして注目に値する傾向である。………之等は何れも言動として表面化し視察取締りの線に触れたる偶然のものに過ぎず、その根源には猶戦時下特有の政治的社会的重圧の下に沈黙を余儀なくされたる大衆の広汎なる不安動揺の存在を推測し得るといふところに事態の重要性があるものと思料されるのである。………意識的計画的なる態様のものが最近僅か乍らも増加の傾向にあり、又極めて素朴なる形なるも宣伝、煽動的意図に出でたる態様のものすら萌芽しつつあるといふことは、当面国民心理の不安動揺といふ客観的条件が存在するだけに厳重警戒を要するところである。」以下に若干の具体的事例を掲げる。


 福島・農業・四二才――「米もすっかり持って行かれ百姓は酷いものだ。戦争なんか勝っても負けても同じ事で百姓には関係がないそうだ。」(一九四三年一二月、隣人三名に流布、憲兵隊審理中)
 呉・無職女性・二八才位――「町内会でも疎開者として勧奨しておった某実業家の二号は旦那が策動して疎開せずに済むことに決ったそうな。疎開にも闇中情実があるらしい。」(一九四四年五月、巷間聞知したる憲兵に洩らす、憲兵諭示、他言を禁ず)

 京都・鋳掛職――「大体政府は二合七勺位の米で腹がふくれると思っているのだろうか。こんなひもじい目をするのなら戦争は勝っても負けてもどうでもよい。」(一九四四年六月、常会席上または自宅において知人等十数名に洩らす、警察検挙、送致)

 京都・大工・一八才――「徴用検査の通知は死んだものにでも来るのだから行っても行かなくてもよい。検査の時は番号を呼んで行って居らんものは赤線を引いて消すだけで、検査に行けば徴用が来るが、行かなかったら徴用にも行かなくともよい。」(一九四四年七月、知人数名に流布、聞知せる二名は徴用当日不参、警察検挙、送致)

 茨城・農業・五一才――「十俵の収穫しかない者に、二十五俵の割当があった場合にも完納するのか。完納するとすれば盗んで来るより仕方ない。こんなに無理を強いられるなら、米英の世話になった方が良いと思う。」(一九四四年八月、供麦常会に居合せた二九名に流布、反響大、警察検挙、送致)

 埼玉・農業・女性・四七才――「神社のお告げだ。今年海軍に志願すれば戦死する。」(一九四四年九〜一〇月、近郷町村一帯に流布、著しく海軍志願兵を消磨させ、特にH村は割当九名に対し志願者皆無、憲兵検挙、送致)

 東京・陸軍航空工廠工員・二九才――「軍はやられたり負けた事等はいつも発表しない。だから新聞等では解らない。」(一九四五年二月、電車内で同僚四名に流布、憲兵隊で厳諭始末書)

 埼玉・農業・五一才――「あんなに東京を焼いて了って天皇陛下も糞もない。戦に勝つから我慢しろと言やがって、百姓はとった米も自由にならぬ。骨が折れる丈だ。」(一九四五年三月、自宅付近で流布、憲兵検挙、事件送致)

 埼玉・村会議員――「沖縄も近く玉砕だ。この分では日本は負けだ。負け戦に貯金だ供出だと云うが馬鹿馬鹿しいことだ。」(一九四五年五月、部落常会席上で近隣約三〇名に洩らす、警察検挙取調)

 大分・農業・四九才――「敵が上陸したら国旗を出して歓迎する。」(一九四四年九月)
 不明――「日本が負けて天皇陛下はどうなるやろう。」「天皇陛下は淡路島でも貰うやろう。」「そんなことはない。どこか南洋か外国へ連れて行かれるのやないかと思うな。」(一九四五年、警察検挙)

水戸連隊区司令官あて――「軍人諸君特に陸軍の軍人諸君は民衆の忠誠を認識せず、徒に威丈高に叱責これを咎むるのみ急にして敗戦の責任の己自身に存することを誤魔化さんとする傾向日を追うて顕著なり。……」


日本労働年鑑 特集版 太平洋戦争下の労働運動
発行 1965年10月30日
編著 法政大学大原社会問題研究所
発行所 労働旬報社
2000年2月22日公開開始


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