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2006.04.12
第3回「歪になった報道」
この二ヵ月ほど耐震データ偽装事件の取材にかかりきりだった。その結果は4月1日発売の『月刊現代』に書いたので、興味がおありの方は読んでみてください。
ヒューザーや木村建設の関係者、それに耐震工学の専門家らに話を聞いてみて痛感したのは、この事件に関する一連の報道の不正確さ、歪(いびつ)さだった。マスコミも世論も国交省の誘導で見当違いの方向に突っ走ってしまったなというのが、今の私の正直な感想だ。
例えば昨年11月、事件が発覚した当初の新聞やテレビの報道を思い起こしていただきたい。姉歯秀次・元一級建築士が構造計算書を偽造したマンションやホテルのなかで耐震強度0.5以下のものは「震度5強の地震で倒壊の恐れがある」と国交省が発表した。
震度5といえばそれほど珍しい地震ではない。まかり間違えば明日にも建物が倒壊するかもしれないという情報が日本列島を駆けめぐり、一種のパニック状態をつくりだした。某紙に至っては「偽装マンション」のうち「二棟は自壊の恐れ」という見出しの記事を大きく掲げて騒動を加速させた。
しかし、冷静に考えてみてほしい。昨年7月、東京の足立区で震度5強、首都圏全域で震度5弱を計測した地震があった。「震度5強で倒壊の恐れ」が事実なら、震度5弱の地域の偽装マンションやホテルは倒壊しないまでも壁にひび割れぐらい入っていたはずだ。
ところがそんな報告はなかった。ということは、国交省の発表がかなりオーバーだったという結論になる。子供でも分かる理屈なのだが、新聞やテレビはそれを無視してセンセーショナルな報道に終始した。その結果、耐震強度0.5以下の建物に対する国交省の事実上の「取り壊し命令」が何の疑いもなく受け入れられてしまった。
構造設計の専門家たちによると、耐震強度の数値そのものが、同じ建物でも計算する人間や方法によって0.3になったり、0.6になったりする、あやふやなものだ。建て替えせずに耐震補強できるかどうかの判断もこの数値だけでは一律に決められない。ビジネスホテルの場合だと、0.5以下でもロビーやホールのある一階の柱に鉄板を巻いて補強すれば十分に使えるものが多いという。
ではなぜ、国交省はこんな過剰反応をしてしまったのか。理由の一つは、緊急事態に冷静に対処できる役人がいなかったということだろう。もともと中央官庁の役人はみんな頭脳明晰のように思われているが、本当に優秀な人間はごく一握りしかいない。最近の国交省では、その一握りの者すらいなくなったということだろう。
もう一つ理由があるとすれば、役人たちの責任逃れである。国交省は偽装物件の危険性を誇張することで、偽装を見逃したイーホームズの杜撰さや、ヒューザー・木村建設の悪質さを際立たせた。これは世論の怒りの矛先を彼らに向かわせ、本来なら行政が負うべき責任を転嫁しようという作戦だったのではないか。そう勘ぐりたくなるほど国交省の対応は不自然で、お粗末だった。
一連の報道でヒューザーや木村建設、総研が結託して姉歯氏に偽装させたという疑惑の構図が作られた。だが、私の見るところではこの構図は成り立たない。詳しくは『月刊現代』を読んでいただきたいのだが、この事件は、木村建設が姉歯氏の本当の力量を見極められず、彼を「経済設計のできる腕利き設計士」と誤信したところから始まっている。
姉歯氏が「腕利き」を装うことができたのは、彼の構造計算が7年も建築確認をパスし続けたからだ。これは近年の構造計算のコンピューター化や技術の進歩に対応できる者が審査側にほとんどいなくなったため起きたことだ。つまり建物の安全性を支える建築確認システムはすでに破綻しているのである。
いま報道に求められているのは、こうした事態を冷静に見極めることだ。国交省の思惑に乗せられて「悪人」をでっち上げ、彼らを捜査当局に逮捕させることではない。
http://web.chokugen.jp/uozumi/2006/04/post_e174.html
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