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街の名は「ぶらぶら歩く」が由来ともいわれる。しかし、今は歩く人よりも自転車で通りすぎる人の方が多く見える。和歌山市中心部の「ぶらくり丁」には八百屋も酒屋もない。市郊外や大阪府南部の大型店に客を奪われ、5年前に老舗百貨店が倒産したことで衰退が加速した。
大型店の出店を規制する大規模小売店舗法(大店法)は00年に廃止され、大型店で買い物しやすくなった一方、全国でシャッター商店街が増え続けた。
市内で薬局を経営する岩本研さん(55)は「彼の進める規制緩和が100パーセント正しいとは思わない」と言う。高校の同級生で選挙の応援もした竹中平蔵総務相のことだ。
竹中氏は履物商を営む家に生まれ、高校までこの街で暮らした。95年、雑誌への寄稿で大店法を「悪名高い」と批判し、24時間営業も少なくない米国の大型スーパーについてこう触れている。「好きなときに欲しいものが買えるような社会。これこそが自由の国アメリカの真髄である」
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97年夏。大店法の見直しを検討する国の合同会議の委員3人は欧州各国を視察した。結果を報告する「委員限り」の資料が残っていた。
パリのフランス建設省。大型店の出店を規制するロワイエ法について委員が「競争の自由を害しないか」と尋ねると担当者は「近隣に小売業がなくなるのは困る」と答えた。「消費者は安い方が良いだろうが価格だけの問題ではない。大型店は都市中心部から離れ、自動車や大型の冷蔵庫を持つ必要があり、街の高齢者には不便だ」
フランスは規制緩和どころか、96年にはロワイエ法を強化したラファラン法を制定している。
やはり郊外への大規模店の出店を規制するドイツのベルリン市。「食料品は自動車なしで買い物ができるようにすべきと考えている」
合同会議は欧州の実情を重く見た。ではなぜ現実は逆に向かったのか。97年12月、合同会議は最後の4回の議事録を非公開にした。毎日新聞が入手した議事録にはこんなやりとりがある。
「大店法という船から新しい船に乗り換えよう。冷たい海に飛び込むのではなく、新しい船を用意している」(議長の故田島義博・学習院長)
「なぜ年内の結論にこだわならければいけないのか。生活がかかっている中小商業者に、姿が見えない船へ飛び乗れといっても説得不可能だ」(谷村昭一・日本商工会議所参与)
大店法は米国が日本に撤廃を求め、96年にWTOに提訴した。政府は97年5月「法的措置を含めた抜本的な検討を行い、12月までに結論を得る」と閣議決定していた。合同会議の複数の委員は「大店法廃止の結論ありきだった」と証言する。
谷村参与は今、後悔する。「泥舟とまでは言わなくても、不完全な船に乗せられてしまった」
この10年、海外の流れとは逆に規制を緩和した日本。「消費者のために」と大店法が廃止された後、何が起きたのか。大型店同士の競争が激化し、経済産業省によると、04年6月までの2年間に全国で大型店の1割にあたる1561店が撤退した。
自分たちの街を守ろうとする動きも出ている。福島県は昨年10月、売場面積6000平方メートル以上の大型店出店を事実上規制する「商業まちづくり推進条例」を全国で初めて制定した。竹中氏と親しい本間正明・大阪大教授ら、経済財政諮問会議の民間4議員はこうした動きをけん制する意見を表明した。
「民間に対する規制を強化し、構造改革に逆行することになるのではないかと懸念している」
和歌山市の商店街「ぶらくり丁」。パンを買いにきた阪部登志代さん(84)は「昔はこの辺りを歩けば何でもそろったもんだが。ほんま年寄りには不便な街になってしまった」と嘆いた。
竹中氏は故郷の現状をどう見ているのか。取材に「ぶらくり丁の人は消費者の嗜好の変化に対応策を取れなかった。創意工夫の問題だ」と答えた。
=つづく
(毎日新聞) - 4月5日19時38分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060405-00000056-mai-soci
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