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義務教育費国庫負担金に見る三位一体改革の実像
つくられた「地方の意見」
三位一体改革とは何だったのか。昨年11月政府・与党で決着してから話題にならないが、関連法案などの国会審議が今大詰めだ。小泉首相は、最大の焦点だった義務教育費国庫負担金=メモ=の廃止と税源移譲を巡って「地方案を尊重する」と繰り返し、文部科学省を「抵抗勢力」とする地方分権のための闘いを演出した。しかし、市町村議会の過半は文科省にくみしていた。「地方案」は一皮むけば政府主導の歳出削減の道具だった。(高谷秀男)
おなじみの「地方にできることは地方に」というフレーズとともに小泉首相が昨年、何度も尊重すると述べた「地方の意見」「地方案」とは地方6団体=図=から04年8月下旬に受け取った=写真=改革案のことだ。麻生太郎総務相(当時)の発案で、政府が2カ月半前の6月上旬、とりまとめを要請していた。
だから、もともとシナリオは政府作。「地方案」を見ると06年度までの第1期は税源移譲3兆円と補助金・国庫負担金見直し4兆円が柱で、すでに政府が発表していた骨太の方針と変わらなかった。
地方がやったのは税源移譲と引き換えに廃止する補助金・負担金の列挙だ。そこに義務教育費国庫負担金のうち中学校教職員給与分8500億円の廃止が並んだ。最後は小学校分も含めた負担率の引き下げで決着したが、図の税源移譲3兆94億円の元をたどると、合計1兆3000億円の同負担金が全体の43%を占める。
ところが、04年4月から決着直前までの文科省の集計では全市区町村議会の64%にあたる1393議会が同負担金の堅持を求める意見書を採択していた。なのになぜ地方6団体は同負担金を「地方案」に盛り込んだのか。
東京都の武蔵野市長を22年務めた土屋正忠衆院議員が解説する。「市長会は全部で700人以上の組織。全員で討論なんてできないから、限られた人数の役員で事実上決めている。リードするのは総務省OBの事務総長。市長全員で多数決をとったら、反対だったでしょう」
全国市長会は政府の要請を受けてプロジェクトチームを立ち上げたが、同負担金については都道府県への補助金であることを理由に「知事会に対応を任せた」(市長会事務局)という。04年7月、250人ほどの理事・評議員合同会議で「改革案に関する基本的考え方」を了承して組織決定とし、同負担金削減の賛否を問うことも、総会に諮ることもなかった。
町村会や三つの議長会もほぼ同様に、役員会で会長一任などの了解をとって、知事会の議論に任せた。町村の全国組織は都道府県ごとの会長の集まりであるため末端の声が直接には届かない。
知事会は8月、賛成40反対7で同負担金の削減を盛った案を決めた。ただ、6団体として提出した「地方案」には東京の石原慎太郎氏、鳥取の片山善博氏、大分の広瀬勝貞氏ら同負担金の削減に反対か慎重な13知事の意見が付された。知事会さえ割れていた。
一方、総務省は翌05年6月、当時の香山充弘事務次官が記者会見で「何が何でも義務教育の国庫負担金についての一般財源化(=廃止・削減と税源移譲)を実現していきたい」と語った。三位一体改革担当の同省自治財政局幹部は05年2月から同負担金の議論を始めた中央教育審議会部会の傍聴に20回は足を運ぶ熱の入れようだった。
この幹部は市区町村議会の7割近くが決議したことについて「事実は認めるが、文科省や日教組に不安をあおられ、みな誤解している」と話した。さすがに同負担金の廃止・削減が「地方の意見だ」とは言えないようだ。
■市民に結局しわ寄せ
反対・慎重論が根強いのは補助金・負担金の減少額よりも税源移譲額が少ない自治体が多いからだ。そんな状態で教育の重要性と憲法の定めを考えると判断は難しい。
01年度の県民所得をもとにした文科省の試算では、個人住民税への移譲額が同負担金を上回るのは東京、愛知、神奈川、千葉、静岡、大阪、埼玉の7都府県だけだった。総務省や財務省は同様の試算を公表していないが、自治財政局は「3分の2くらいはマイナスだろう」と話した。
総務省は都道府県の格差をならすため、法人事業税の配分を変えたり、税源移譲の方法を田舎に有利にしたりした。さらに地方交付税などにより「必要な財源は確保すると閣議決定している」と強調する。だから、同負担金がなくなると大変だと心配するのは「誤解」だと説明する。
しかし、交付税総額は、景気回復で地方税収が増えた要因もあるが、ピークの00年度から5兆円余り減らされ、来年度は15兆9000億円。竹中平蔵総務相は今年1月、交付税の抜本的な見直しを検討する懇談会を立ち上げた。地方が心配するのは無理もない。
大阪府堺市は昨年4月から就学援助の対象基準を厳しくした。05年度の援助実績は前年度より444人、率にして3%減った。三位一体改革で05年度から図の準要保護児童生徒援助費134億円が廃止されたのがきっかけだ。
就学援助は貧困家庭の小中学生のために学用品や給食、修学旅行などの費用を支給する制度。堺市の担当者は「従来通り続けられるよう折衝したが、だめだった」とこぼす。国庫補助の代わりに税源移譲と交付税があっても、セーフティーネットは縮んでしまった。他の予算が優先されたためだ。
大阪府では、府立高校の授業料減免制度も来年度から変わる。減免の生徒は03年度に22%いたが、15〜16%に減る見通しだ。
鹿児島県は現在83の公立高校を65校に減らそうとしている。04年を最後に入学を打ち切った県立長島高校の地元からは片道39キロのバスで阿久根市の高校に通わなければならなくなった。通学定期は3カ月5万2160円。生徒減少でやむを得ない面もあるが、県民へのしわ寄せは大きい。
「義務教育の国庫負担が減れば県の持ち出しが増える。高校にも大きな影響が出るのは明らかだ」。鹿児島県高等学校教職員組合の向井尊麿書記長はこう断言する。
メモ 憲法26条の義務教育無償の原則に基づき、国は法律によって公立小中学校の教職員給与などを負担している。従来、負担は国と都道府県が半分ずつだったが、来年度からは国3分の1に改める。国庫負担金は来年度当初予算案で1兆6763億円。奨励的な補助金と違って、国は全都道府県に支給する義務を負う。
http://www.be.asahi.com/20060325/W13/20060315TBEH0010A.html
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